いくつかの点で、3000mSCは2019年と比較してそこまで大きく変わらないかもしれない。ダイヤモンドリーグ指定のレース(いわゆるDLレース)であっても、そうでなくても世界大会以外のレースとしては最高レベルの競技性が維持されるだろう。
現在、ジェイガーと女子3000mSC北米記録保持者(9:00.85)のコートニー・フレリクス(ジェイガーのバウワーマントラッククラブのチームメイト)は、来年のこれらのレースのいくつかに参加する予定だと話す。
“賞金”はこれからも世界の強豪選手を参加させるほどの魅力的な要素であるが、DLファイナルでの大きな賞金が消滅したとはいえ、来年の秋の取り決めによっては2021年に3000mSCがDLファイナルに復活する可能性も無いとは言えないだろう。
何よりも、11月の来季のダイヤモンドリーグの日程についての発表は不確実性を生んだ。これはわずかな調整であったのだろうか、それとも陸上競技の種目を削りとるための最初のステップなのか?それは、まだ誰も知らない。
「(数年前にDLから姿を消した)10000mは、年間を通して大きな大会が開催されていなくても実際に種目自体は存続している」
と、ジェイガーは話す。
「10000mはまだ、世界選手権とオリンピックで開催されている。1つの種目に対してそんなに早くに状況が一変するとは思わないし、(ここ数年でみても)全く変わらないと思う。でも、正直言えば、これから5〜10年でその種目に何が起こるかなんで誰が知っているだろう?」
ジェイガーもフレリクスもレースの計画を立てる時に、賞金の高いレースに積極的に出るという選択はしていないが、どちらの選手も※ナイキと高額のプロ契約を結んでいる。もちろん。この種目のプロ選手全てがそのような高額な契約を結んでいるわけではない。
(※)参考記事:世界トップレベルの陸上選手の年俸について(← 少なくともジェイガーもフレリクスも年収1,000万以上クラスの選手であり、多くのレースに出場する必要はないかもしれない)
2018年にコモンウェルスゲーム1500mで銀メダル獲得、2017年と2019年に5000mでDLファイナルに出場した(2017年5位、2019年9位)、女子3000mSC世界記録保持者のベアトリス・チェプコエチは今後どの種目に出場するだろうか?
「ベアトリス、ヒヴィン・キーエン、ノラ・ジェルトなどの(メダル候補の)選手はそれでも五輪の3000mSCに出場するだろうし、彼女たちが五輪に駒を進められないことは無いと思う」
と、26歳のフレリクスは語る。
「でも、DLポイントが無くなったことで、3000mSCの別の機会が設けられたとしても(コンチネンタルツアー等)、彼女たちが3000mSCではなくフラットレース(1500m、3000m)を選択するのでは、と心配している。そもそも(彼女たちが)賞金体系をよく理解していないかもしれないし、3000mSCのレースの機会を喪失することを1番恐れている。この影響が今後広がらないことを望んでいるし、契約などに影響が出ないことを望んでいる。今後、(3000mSCが)DLでテレビ放映されることもなくなるかもしれないし」
もちろん、DLで3000mSCが開催されたとして、多くのプロ選手たちはそのレースに出場するだろう。ジェイガーとフレリクスはバウワーマントラッククラブの選手であり、出場レースを絞って高地合宿で仕上げていくという、徹底されたレーススケジュールを組むチームである(欧州で連戦して仕上げていくチームではない)。
特に故障をしていないにも関わらず、フレリクスは2019年にDLに1レースしか出場せず、ドーハ世界選手権への調整に当てるためDLファイナルも回避した。また、2012年から3000mSCでDLに参戦したジェイガーは、今年を除く2012〜2018年の7年間のうちの4シーズンで2レース以下しかDLに出場しなかった。
【DLレースへの出場数(フレリクスは2016年秋からプロ契約)】
ジェイガー | フレリクス | |
2019年 | 出場なし(故障) | 1レース |
2018年 | 3レース | 3レース |
2017年 | 2レース | 2レース |
2016年 | 1レース | — |
2015年 | 3レース | — |
2014年 | 3レース | — |
2013年 | 1レース | — |
2012年 | 1レース | — |
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少しの間だけでも真剣に考えてみよう。※陸上競技は(球技に比べれば)メジャースポーツでは無いと、時々そう思う。
(※)少なくとも駅伝・マラソン、100mなどの人気がある日本を除いて
そのため、スポーツを運営する団体は現状に不満を抱くと、変化を伴う改革を起こして違った結果を望む。ジェイガーとフレリクスは、なぜダイヤモンドリーグが今、改革をしているかを理解している。それでも、2人はその“やり方”に反対している。
Embed from Getty ImagesWA会長でDLの舵をとるセバスチャン・コーは、DLの目的について
「(競技間における)テンポの良い競技運営で(=よりコンパクトな)、よりエキサイティングでグローバルな競技会を陸上競技で見せること」
と、話す。
ジェイガーは、それが本当のDLが今後目指すべき姿であるなら、それを達成するための最も良い方法は、種目を削減することではなく、競技間の空き時間を再調整して、テレビ放送 / ライブ配信の放送を強化することにあると考えている。
「競技間の隙間の時間、競技のハイライトやリプレイの時間、番組の冒頭の部分を短縮すればいいのでは」
と、ジェイガーは話す。
「大会を(スムーズに行うために)バン!バン!バン!バン!バン!バン!(ピストルの音)と、競技間を詰めてコンパクトにする。 そうすれば、今までと同じ大会全体の長さでもより多くのエンターテイメントが提供できる」
フレリクスは、テレビ放映の時間を短縮しても何も解決しないと考えている。そして、ジェイガーも同じく、現在のDL種目の放映のされ方に問題があると話す。3000mSCがDLで削減される理由の1つに、“調査に基づいて最も人気のない種目”という結果が出たことにある。
ただし、すべての種目が同じように、その一部始終が放映されるわけではない。テレビ局は(3000m以上の)中長距離種目の放送の途中で、フィールド種目など他の種目に画面を切り替えるのが一般的である。また、円盤投のようなフィールド種目では数回しかテレビ放映されない場合もある。
「9分間のレース(3000mSC)のうち、3分間しか放映されないとき、レースの一部始終を見れないからその種目を完全に楽しむことはできないし、その種目について興味がない人がいることについても特に驚きはない」
と、フレリクスは話す。
「実際の競技に対しての“放映時間”の確保は大幅に改善できる点だと思う」