(以下は2019年11月8日の記事)
IAAF(現World Athletics)が、2020年ダイヤモンドリーグシーズンでDLファイナルの開催種目を16 → 12に削減すると2019年3月に発表した時、エヴァン・ジェイガーは自分の種目が削減されることを悟っていた。
「均等に考えてフィールド種目2つと、トラック種目2つがそれぞれ削減されるだろう」
と、3000mSCの北米記録保持者(8:00.45)であり、リオ五輪銀メダリストのジェイガーは語った。
「(2020年のDLの)最長種目が3000mであることを考えると、それは3000mなのか、もしくは3000mSCなのか?IAAFの観点からみて、3000mSCよりも3000mのほうが有名で速い選手を出場させることができるはずなので、私は3000mSCが削減されるだろうと思った」
そのため、来年のDLから男女3000mSC、200m、三段跳、円盤投を削減するという最近の発表に、ジェイガーは全く驚かなかった。しかし、ある意味彼は状況を俯瞰していた。 30歳のジェイガーが意欲のある若手の3000mSCの選手と会うと、彼は未来のスターに向かって同じような考えを伝えるのだ。
WA(世界陸連)はダイヤモンドリーグをうまく運営したいと考えているのではなく、見栄えを重視している。確かにジェイガーはこのような見立てを持っているが、彼はダイヤモンドリーグの以下の種目が削減されるという危機を直視している。
【ダイヤモンドリーグにおける2020年実施種目の変更点】
種目 | 2019年DL | 2020年DL | 備考 |
---|---|---|---|
200m | 7大会開催 | 5大会開催 | DL決勝戦なし |
3000mSC | 5大会開催 | 5大会開催 | DL決勝戦なし |
三段跳 | 5大会開催 | 1大会のみの開催 | DL決勝戦なし |
円盤投 | 5大会開催 | 1大会のみの開催 | DL決勝戦なし |
5000m | 5大会開催 | 3000mに短縮して7大会開催 | 決勝戦も開催 |

「少なくとも(3000mSCは)退屈な種目ではない」
と、ジェイガーは話す。
「トラック7周半の間に、とても多くの出来事がある。障害飛越、水濠飛越などはレースの劇的なクライマックスにも影響する。レース中に選手が転倒をすることは珍しくない。これは明らかにエキサイティングなことで、レースはときに劇的に変化する」
Embed from Getty Images確かに、2015年のパリDLでジェイガーは転倒した。その後、彼はすぐに立ち上がって北米記録を更新した(8:00.45)。2015年ダイヤモンドリーグの最も印象的な瞬間だっただろう。
昨年のチューリッヒでのDLファイナルでのコンセスラス・キプルトの裸足での優勝のたった1回のレースは、10年のダイヤモンドリーグにおいて、歴史的かつ衝撃的なレースの1つだった(キプルトは3000mSCのレースの500m過ぎでシューズが脱げて、最後まで片足裸足で優勝した)。
ただし、ダイヤモンドリーグで3000mSCが完全には削除されたわけではない。この種目は2020年には男女それぞれ5大会で開催される。しかし、選手はそこで上位に入ってもDLポイントを付与されず、賞金が総額3万ドルから10万ドルに増額されるDLファイナルでもこの種目は開催されない。
【2020年DLとDLファイナルの賞金一覧:男女各種目】

DLでは通常、各ダイヤモンドリーグ種目に総額3万ドルの賞金がある。3000mSCは男女今年4大会ずつ開催され、DLファイナルも開催されたので、3万ドル×4+10万ドル=総額22万ドルの予算が配分されていた(実際には男女開催されるのでその2倍の予算)。
しかし、来年は3000mSCが男女5大会ずつの開催で、3万ドル×5=総額15万ドルの予算。DLにおける200m、3000mSCは前年から31.8%の予算の削減となる。
それは最悪の事態を想定していた人から見れば不幸中の幸いだったようだ。
オランダのOne4One Sports Marketing & Managementのマネージャーで、3000mSCでは3大会連続で世界大会を制しているコンセスラス・キプルトの代理人を務めるミシェル・ボーティングは、当初3000mSCはダイヤモンドリーグから「完全に消滅する」と考えていた。彼はドーハ世界選手権3000mSC7位のアブラハム・キビウォット、9位のレオナルド・ベットの代理人でもある。
Embed from Getty Images「全体的に私はそれほど失望していない」
と、ボーティングは話す。
「私はここ(年に1度ボストンで行われる代理人会議)で、代理人の※ダヴォル・シャビヤの助言に合意点を見出した」
(※)ケニアのイカイカスポーツ(Ikaika Sports)のディレクター。日本には富士通、中電工、旭化成などにケニア人選手を送り出している。
「“それは理想的ではないけど、悪くもない。その案を来年試してみよう”ほとんどの代理人はそう言った。もちろん(本来の姿と比較すると、DLから4種目+αが削減されたこの状況は)選手にとっても関係者にとっても理想的ではないが、3000mSCと200mにとっては悲観するようなことではない」
【種目別の主要トラック大会の開催数】
「あなたが円盤投や三段跳の選手であれば、この状況が悲惨なのは理解できる。14大会あるDLでわずか1大会のみの開催…?とはいえ、コンチネンタルツアーでも賞金を得ることはできるけど、それでも(円盤投や三段跳は)事実上の降格扱いだね…」
【2020年コンチネンタルツアー大会の賞金一覧】

「少なくとも、私がマネジメントする中長距離選手にとって、この状況はこれまで想定していた状況よりかはマシ。 いつまでもこの状況を悲観すべきか…?今後も大会を盛り上げられるか、そして今でも5000mのDLファイナルの開催を望んでいる。でも、我々(代理人)にはそれを要求する権力はない」
「それでも、選手が声を上げれば良い流れを作ることはできるだろう。 私がマネジメントする選手たちはまだ満員のスタジアムで走れる可能性があるし、今後も最高の舞台を求めることができる」

11月24日追記:WAは2020年にコンチネンタルツアーとしてゴールドレベルの大会を世界10都市で開催する。日本・東京の5月10日のセイコーグランプリを皮切りに合計10大会行われるが、大会はそれぞれが新設されるものではなく、元々あったIAAFワールドミーティングを再編してリーグ化した形。10大会目の開催場所は未定。WAは2021年からコンチネンタルツアーの規模を拡大する予定である。