2020年東京五輪に向けてトラックに復帰するモー・ファラーに関する3つの考察

モー・ファラーは、東京五輪において五輪男子10000mのディフェンディングチャンピオンとして走ることとなる。現在36歳のファラーは、マラソンに専念するために、2017年シーズンを終えてトラックを離れたが、5000mと10000mでの五輪2大会連続2冠達成者としていつかはトラックに復帰する可能性もささやかれていた。

2019年ドーハ世界選手権男子10000mへの出場を示唆したものの、ファラーは最終的にはシカゴマラソン出場を選択した。しかし、結果は悲惨なものとなった。自身5回目のマラソンだったが、その中で最も遅い2:09:58の記録で8位に終わった。

それから1か月後、ファラーは2020年にはトラックに復帰し、東京五輪で10000mを走る予定であると発表した。

① ファラーは良いマラソン選手であるが、やや間違った方向に進んでしまった

ファラーのトラックからマラソンへの移行は、スムーズに進んだ。彼は2018年に世界的にみてもレベルの高いロンドンマラソンで3位に入り、その秋にシカゴマラソンでは2:05:11の欧州新記録で優勝した。 これらのパフォーマンスは周囲の期待を超え、ファラーは“多額”の出場招待料(アピアランスフィー)を稼いだ。

とはいえ、男子マラソンの公認の世界記録が2:01台で、しかもナイキヴェイパーフライが席巻している時代に、ファラーの2:05:11は、(これまでの彼の実績を考えると)それほど印象的ではない。

その記録は2018年では15番目の記録であり、2019年の彼の記録(ロンドン:2:05:39)は18番目の記録となっている。もちろん、昨年のシカゴは勝負重視で最後まで溜めていて記録が伸びなかったが、3人が2:03:16よりも速く走った今年のロンドンで、ファラーは自己記録を更新できなかった。

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ファラーの2018年の結果を2019年を比較してみよう。

2018年ロンドン:2:06:21, 3位(自己新)
2019年ロンドン:2:05:39, 5位

2018年シカゴ:2:05:11, 優勝(欧州新)
2019年シカゴ:2:09:58, 8位

東京五輪でのファラーの目標は“金メダル”であり、マラソンで金メダルを獲得するためにはエリウド・キプチョゲに勝たなくてはならない。 ファラーはキプチョゲとの差を2019年シーズンで埋めたかったが、逆にその差が広がってしまった。

もう1つのポイントは、ファラーのマラソン成績はトラックよりもはるかに良くない。ファラーは2011〜2017年にトラックで60戦48勝(勝率80%)。その60戦で1番悪い成績が5位でその種目は専門外の1500mだった。一方、2018年以降の彼の4回のマラソンで優勝は1回のみで、そのうち2回が5位と8位に終わっている。

② 彼にどれぐらいの金メダル(またはメダル獲得)の可能性が残されているだろうか

五輪のマラソンは波乱が起きる。夏開催で暑く、自己記録や実績順にすんなりと表彰台の3人が決まるわけではない(前マラソン世界記録保持者のポーラ・ラドクリフは五輪マラソンでメダルを獲得していない)。しかし、10000mでは比較的順当にメダル候補がそのままメダルを獲得する。

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したがって、ファラーが10000mで以前の競技力に戻すことができれば彼はメダルを獲得するか、3連覇することができる。しかし、彼がそれを実現させる可能性はどれぐらいだろうか?

ファラーがリオ五輪で2大会連続の2冠を達成した時、33歳のファラーは五輪10000mにおいて歴代で2番目の年齢の高さでありながらも優勝した。今回は2シーズンもトラックから離れているうえに、来年五輪3連覇を達成した場合、37歳での優勝は歴代最年長優勝となる。

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©︎2017 SushimanPhotography (London WC)

とはいえ、マラソン練習のなかでもトラック練習でそれなりのスピードでメニューを消化していたとファラーは話している。五輪で4回優勝しているファラーが(=勝ち方を知っている)、東京でメダルの可能性が無いと考えているなら引退することもできたが、このタイミングでトラックに矛先を向けるということは、まだメダルを取れる可能性があることを示唆している。

【五輪男子10000m覇者の優勝時の年齢】

覇者 年齢
1912年 ハンネス・コーレマイネン 22歳
1920年 パーヴォ・ヌルミ 23歳
1924年 ビレ・リトラ 28歳
1928年 パーヴォ・ヌルミ 31歳
1932年 ヤヌス・クソチンスキー 25歳
1936年 イルマリ・サルミネン 33歳
1948年 エミール・ザトペック 25歳
1952年 エミール・ザトペック 29歳
1956年 ウラジミール・クーツ 29歳
1960年 ピョートル・ボロトニコフ 30歳
1964年 ビリー・ミルズ 26歳
1968年 ナフタリ・テム 23歳
1972年 ラッセ・ビレン 23歳
1976年 ラッセ・ビレン 27歳
1980年 ミルツ・イフター 36歳
1984年 アルベルト・コバ 25歳
1988年 ブラヒム・ブタイブ 21歳
1992年 ハリド・スカー 25歳
1996年 ハイレ・ゲブレセラシエ 23歳
2000年 ハイレ・ゲブレセラシエ 27歳
2004年 ケネニサ・ベケレ 22歳
2008年 ケネニサ・ベケレ 26歳
2012年 モー・ファラー 29歳
2016年 モー・ファラー 33歳

1980年:ビレンは31歳で3連覇を目指して5位
2004年:ゲブレセラシエは31歳で3連覇を目指して5位
2012年:ベケレは30歳で3連覇を目指して4位
2020年:ファラーは37歳で3連覇を目指して?位

③ 東京五輪でファラーが金メダルを獲得すれば偉業となるが、彼にとってこれまでで最も金メダルへの難易度が高いレースとなるだろう

五輪男子10000mで3回優勝した選手は過去にいない。ファラーに3連覇の可能性が残されているが、それは彼のこれまでの五輪金メダルへの挑戦で最も難易度の高いレースとなるだろう。その理由は、ウガンダのジョシュア・チェプテゲイが、2012年ロンドン五輪、2016年リオ五輪でファラーが破った選手たちよりも優れた競技力を持っているからである。

とはいえ、ファラーは2012年ロンドン五輪でケネニサ・ベケレを倒したが、ベケレのトラックでの全盛期はすでに過ぎていた。そこでベケレを破って銀メダルを獲得したゲーレン・ラップは、それ以前も、それ以降も五輪や世界選手権では10000mでメダルを獲得していない。

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©︎2019 Andy Lyons (Getty Images for IAAF)

チェプテゲイは、ファラーの最後のトラックでの世界タイトルとなった2017年ロンドン世界選手権で対決し(ファラーとのこれまでの最後の直接対決)、銀メダルに終わったが、それ以来チェプテゲイは競技力を向上させている。

チェプテゲイにとって2019年は、キャリアでは最も良い成績を収めている。彼はドーハ世界選手権10000m金メダル、DLファイナル5000m優勝、5000m自己新(12:57)と10000m自己新(26:48)、そして世界クロカン金メダル。  来年の五輪で37歳のファラーが、来年五輪で23歳のチェプテゲイを破ったとすると、それはファラーにとって最高の実績の1つとなるだろう。

 

レッツラン記事

Three Thoughts on Mo Farah’s Return to the Track for the 2020 Olympics

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