(過去記事)IAAFが2020年東京五輪の参加標準記録を発表:世界ランキング制度の導入と運用について

(※以下は、2019年3月10日のLRC記事の日本語訳での振り返り記事です)

IAAF(現World Athletics:WA)はドーハでの協議会後、2020年東京五輪の陸上競技での新基準を発表した。前年から大きな変更があったそのシステムは、IAAFは出場基準として『世界ランキング制を採用する』というものだった。

これまでのように、選手は参加標準記録を突破することでオリンピックに出場できる。しかし、その参加標準記録が2016年リオ五輪と比較すると相当厳しい標準記録となっている。例えば男子長距離を見てみると、

・1500m:3:36.20 → 3:35.00(日本記録以上)
・3000mSC:8:30.00 → 8:22.00(日本歴代4位相当)
・5000m:13:15.00 → 13:13.50(日本歴代5位相当)
・10000m:28:00.00 → 27:28.00(日本記録以上)
・マラソン:2:19:00 → 2:11:30

へと参加標準記録の水準が大幅に引き上げられている。また、女子は以下である。

・1500m:4:07.00 → 4:04.20(日本記録以上)
・3000mSC:9:45.00 → 9:30.00(日本記録以上)
・5000m:15:24.00 → 15:10.00(日本歴代9位相当)
・10000m:32:15.00 → 31:25.00
・マラソン:2:45:00 → 2:29:30

IAAFがこのような厳しい参加標準記録を定めた背景には、世界ランキング制を選手自身が今後重要視して、選手が重要な大会(カテゴリーランクが高い大会:つまり選手権やグランプリやDL…etc)で結果を出すように促す狙いもある(別の見方としてはドーピングを抑制する狙いもある)。

世界ランキング制は、過去のオリンピックや世界選手権の出場選手を決めるのに使用されていた、シーズンの記録順の暫定ランキングリストにとって代わるものである。IAAFはエントリー基準を満たす全ての選手を東京五輪の陸上競技に受け入れ、2020年7月1日以降の世界ランキングに基づいてに残りの枠を埋める予定である。各種目のターゲットナンバーに到達するまで、ランキング上位の選手を選出していく(各種目で特定の基準がある)。

「このプロセスは、各種目のターゲットナンバーの約50%を参加標準記録突破者となるように設計されており、残りの50%は世界ランキング制に基づいて選出する」と、IAAFはプレスリリースで記載している。

各種目の出場資格は以下の通りである。

・マラソン・50km競歩:資格期間は2019年1月1日 〜 2020年5月31日まで
・10000m・20km競歩・混成種目:資格期間は2019年1月1日 〜 2020年6月29日まで
・その他の競技:資格期間は2019年5月1日 〜 2020年6月29日まで

全種目の参加資格に関しては、こちら(WA記事)を参照。現在の世界ランキングに関してはWA(国際陸連)のこちらのページを参照。

以下にいくつかの参加標準記録をリストアップした。2020年東京五輪、2019年ドーハ世界選手権と2016年リオ五輪とで比較した。

加えて、2019年ドーハ世界選手権マラソンの男女トップ10は、東京五輪マラソンの参加標準を満たし、2019年1月1日 〜 2020年5月31日に開催されるゴールラベルレースのマラソン上位5名と、WMMのトップ10の選手も同様に参加標準を満たす。

【男子】(※日本記録以上)

東京五輪 ドーハ世界選手権 リオ五輪
100m 10.05 10.10 10.16
200m 20.24 20.40 20.50
400m 44.90 45.30 45.40
800m 1:45.20 ※ 1:45.80 1:46.00
1500m 3:35.00 ※ 3:36.00 ※
(1マイル3:53.10 ※)
3:36.20 ※
5000m 13:13.50 13:22.50 13:25.00
10000m 27:28.00 ※ 27:40.00 28:00.00
マラソン 2:11:30 2:16:00 2:19:00
3000mSC 8:22.00 8:29.00 8:30.00
110mH 13.32 13.46 13.47
400mH 48.90 49.30 49.40
走高跳 2.33m 2.30m 2.29m
棒高跳 5.80m 5.71m 5.70m
走幅跳 8.22m 8.17m 8.15m
三段跳 17.14m 16.95m 16.85m
砲丸投 21.10m ※ 20.70m ※ 20.50m ※
円盤投 66.00m ※ 65.00m ※ 65.00m ※
ハンマー投 77.50m 76.00m 77.00m
やり投 85.00m 83.00m 83.00m
十種競技 8350点 ※ 8200点 8100点
20km競歩 1:21:00 1:22:30 1:24:00
50km競歩 3:50:00 3:59:00 4:06:00

【女子】(※日本記録以上)

東京オリンピック ドーハ世界選手権 リオオリンピック
100m 11.15 ※ 11.24 11.32
200m 22.80 ※ 23.02 23.20
400m 51.35 ※ 51.80 52.20
800m 1:59.50 ※ 2:00.60 2:01.50
1500m 4:04.20 ※ 4:06.50 ※
(1マイル4:25.20 ※)
4:07.00 ※
5000m 15:10.00 15:22.00 15:24.00
10000m 31:25.00 31:50.00 32:15.00
マラソン 2:29:30 2:37:00 2:45:00
3000mSC 9:30.00 ※ 9:40.00 9:45.00
100mH 12.84 12.98 13.00
400mH 55.40 56.00 56.20
走高跳 1.96m 1.94m 1.93m
棒高跳 4.70m ※ 4.56m ※ 4.50m ※
走幅跳 6.82m 6.72m 6.70m
三段跳 14.32m ※ 14.20m ※ 14.15m ※
砲丸投 18.50m ※ 18.00m 17.75m
円盤投 63.50m ※ 61.20m ※ 61.00m ※
ハンマー投 72.50m ※ 71.00m ※ 71.00m ※
やり投 64.00m 61.50m 62.00m
七種競技 6420点 ※ 6300点 ※ 6200点 ※
20km競歩 1:31:00 1:33:30 1:36:00

アメリカで最も良い陸上競技大会である五輪全米選考会をなくさない方がいい

IAAFは、この世界ランキング制が今後の陸上競技においてのマーケティングにはとても重要だと考えており、それによって多くの選手が選手権(総じてカテゴリー上位のレース)を走ることになるだろうと、IAAFが考えているのは明らかだ。我々はこの変更に反対ではない。

そうは言っても、この世界ランキング制をオリンピックの場で最初に試すことは疑問符がつく。当初の予定では、今年のドーハ世界選手権で五輪前のリハーサルを行うはずだったのだが…

また、IAAFが過去に遡ってここ数年間の世界ランキング(ポイント制)を出してくれることを願っている。世界ランキング制が過去にどのようになっていたのか提示してほしい。過去のランキングを知らずして、このシステムを分析することは困難である。

我々の1番の懸念は、北米No.1の陸上競技大会である五輪全米選考会の重要性をどのようにして守るかということにある

我々が常に感じていることは、ある種目の出場資格を満たしている選手が3人以上いるなら、(それほどのレベルにある選手権においてはたとえ参加標準を持っていない選手がトップ3に入った時などにも)上位3人をそのまま五輪に送り出すのを許可すべきだということである。

新星の大学スター選手や、怪我から復活したプロ選手などが全米選考会でトップ3に入れば、3人の出場資格選手がアメリカにいる限り、そして彼らの世界ランキングに関わらず、五輪に行くべきである。仮に選考会の800m以上の種目で決勝レースが戦略的なレースになって、トップ3でゴールしても新星の選手が代表に選ばれない可能性がある(その時点で参加標準を持っていなくて、世界ランキング上位でもない)。

例えば、2016年にポール・チェリモの自己記録が13:21.61(2016年8月リオ五輪までの自己記録)であっても全米代表になれただろうか?彼は後にリオ五輪で銀メダルを獲ったからそうであると願いたい。

(2019年3月11日追記)この記事を出してから計算をしてみたが、チェリモは世界ランキング制のもとでも五輪出場資格を満たしていた。リオ五輪全米選考会5000m3位と、その年の全米室内選手権3000m7:39.00で2位、世界室内選手権3000m7位という成績をもとに、チェリモは1176.67ポイントを獲得する計算である。それは、2020年では男子5000mで25位にランクインすることになる(45位までが五輪に出場できる。ケニア、エチオピアなどの選手を4番目以降の選手を除いた状態で)。

2016年に、クレイトン・マーフィーは2020年東京五輪参加標準を1度もクリアしていなかったが、2016年リオ五輪全米選考会を1:44.76で優勝した。その後、リオ五輪では銅メダルを獲得した。もしリオ五輪全米選考会の天候が悪く、マーフィーが仮に0.45秒遅い記録で優勝していたら、全米選考会で優勝し、当時プロ選手なりたてだった(2016年大学3年の6月にナイキとプロ契約)彼は果たして全米代表になれただろうか?

2015年、エミリー・インフェルドのようにその前年までに10000mを走ったことがなく、自己記録も31:38.71だった選手は果たして全米代表になれただろうか?彼女は北京世界選手権で銅メダルを獲得したのだから、そうであると願いたい!

2008年の全米学生王者で、2012年ロンドン五輪で銀メダルを獲得したレオ・マンザノは、当時の自己記録が3:35.29だったが、この世界ランキング制のもとで全米代表になれただろうか?

1996年、何年にも及んだ故障の後に2:29:54で五輪マラソン全米選考会で優勝したジェニー・スパングラーは、全米代表になれていただろうか?

我々には分からない。

彼らが五輪選考会に出場して全米代表になれる可能性があるかどうか、そのような期待感が五輪全米選考会をアメリカにおいて人気の大会という地位にさせていた。世界屈指の素晴らしい大会であり、これは消滅させるのではなく、もっともっと大会の価値を向上させるべきなのである。

他の国にも同じような問題があるかもしれない。高地で行われるケニア選考会で新人のケニア人選手が5000m13:20で走ったらどうなるか?この世界ランキング制に基づいて、彼らはケニア代表になれるだろうか?

世界ランニング制に関しての1番大きな問題は、全ての国内選手権を同じ大会の価値(カテゴリー)であるとカウントしているようだということだ。例えば、強豪選手揃いの全米選手権で勝ったとしても、例えばイスラエル選手権で勝った選手より多いカテゴリーポイントを付与されるわけではない。

我々は世界ランキング制が過去に適用されていたらどうなるか、遡って見てみたいと思っている。

五輪選考会(そして、他国の選手権)の尊厳を守るための1つのシンプルな解決策は、五輪の出場資格を3人以上出場する場合はその種目のトップ3には五輪代表になれるだけのカテゴリーポイントを付与すべきだということ。若手の選手やこれから成功が見込める選手にとって五輪出場の可能性の扉を開くことができるからである。

 

レッツラン記事

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