エチオピアのトラック王者の復活:番狂せの男子5000mでムクター・エドリスが世界選手権2連覇を決める

エチオピアのムクター・エドリスは、2年前にモー・ファラーに競り勝って5000mの世界タイトルを獲得して世界を驚かせた。そして、彼はそれをまたしても成し遂げた。 前回王者のエドリスはドーハ世界選手権に参加し、男子5000mのブックメイカーのオッズで単勝8.5倍と、本命候補ではなかった。

そして、今季はこれといった成績を収めていなかったが(彼の今シーズン最高記録は13:29)、彼はラスト1周で5人を抜いて55.07で走り(ラスト1マイルは3:59.63 – 64.62、60.84 、58.99、55.07)、12:58.85で再び金メダルを獲得した 。

エドリスの仲間で、昨シーズンに12:43で走ったセレモン・バレガが12:59.70で銀メダルを獲得。バウワーマントラッククラブのモー・アーメドが自信に満ちた走りで3800mから2周を先頭で引っ張って最後は3位に入り、それは世界選手権 / オリンピックにおいてカナダ勢で初めて1500m以上の距離の種目での歴史的なメダル獲得だった。

17th IAAF World Athletics Championships Doha 2019 - Day Four
©︎ 2019 Alexander Hassenstein

史上最年少で1マイルサブ4を達成したノルウェーの10代のスターであり、今回のレースで優勝候補だった19歳のヤコブ・インゲブリクトセンは、1972年ミュンへンオリンピック男子5000m決勝でのスティーブ・プリフォンテンの4位を思い出させる、13:02.29の5位に終わった。インゲブリクトセンは金メダルを目指して大胆なラスト1周からのスパートをかけ、ラスト100mまで先頭を走っていたが、最後の100mで17.17秒かかるほどの失速で順位を落とした。

ヤコブの2人の兄もこのレースに参加し、 フィリップは残り600mでは優勝したエドリスの前を走っていたが、レース中に体の異変を感じていていたことから、前回の2017年に銅メダルを獲得しているメインの1500mに影響が出ないように、残り550m地点でレーンの内側に入って途中棄権した。ヘンリクはレースの早い段階で先頭集団から離れ、13:36.25の13位に終わった。

リオオリンピックとロンドン世界選手権でメダルを獲得していたアメリカのポール・チェリモは4番手でラスト1周を迎えたが、13:05.27の7位に終わった。

レース展開

エドリスはレースが始まって最初の2周で先頭に立ち、最初の200mを29.9、400mを61.52で通過した。しかし、2周目はペースを落として、この種目で今季最高記録を出しており、今回4位に入ったテラフン・ベケレが800mを2:07.41で通過して先頭に出た。

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ベケレはそこから2周ほど先頭で引っ張り、1600mを4:13.14で通過し、そこからはバレガがその流れを引き継いで次の1周を61.50で走り、2000mを5:14.81(2:39.07 – 2:35.74)で通過。ペースが上がったことで先頭集団はバラけて、ヤコブフィリップは位置を下げてペースが落ち着くのを待った。そして、2700mで彼らは先頭集団に追いつき、3000mを7:53.04(2:38.23)で通過。

インゲブリクトセンは安定した走りをみせながら3200m(8:25.80)を通過し、先頭のチェリモは65秒前後のペースで引っ張る。残り3周となったところで、2人の1500m3:30台の選手がいる中でラスト勝負に持ち込まれたくないカナダのアーメドが意を決してペースを上げて60.71で先頭を引っ張った。残り600mで先頭集団には10人の選手がいたが、そこでペースが上がって先頭争いはアーメド、ヤコブ、チェリモ、バレガの4人に絞られたかにみえたが、ベケレエドリスが前を追った。

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残り530m付近の様子

そこでフィリップはレーンの内側に入って途中棄権した(フィリップは右から5番目で、その時のエドリスは7番手にいた)。

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残り420m付近でエドリスは6番手

ヤコブはラスト350mから先頭を奪い、後続にわずかの差を開けたが、ラスト200mでは2番手と3番手のバレガエドリスが競り合いながらその差を縮め、最終コーナーの終わりで2人は失速しかかっていたヤコブを捉えた。バレガは最後の直線では数秒先頭に立ったが、最終的にラスト200mを27.29で走ったエドリスに軍配が上がった。

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彼らの背後でアーメドは金メダル争いにおいての急な消耗を逃れ、ラスト1周では失速することなく、58.00(28.83 – 29.17)でまとめて銅メダルを獲得した。そして、ヤコブはラスト400〜200mの200mを27.88と加速したが、最後の200mで31.82と失速してしまい(ラスト1周59.70)、かろうじて5位でフィニッシュした。

 

【レース結果】100mごとの通過記録
1 ムクター・エドリス エチオピア 12:58.85 今季自己最高, 2連覇
2 セレモン・バレガ エチオピア 12:59.70
3 モハメド・アーメド カナダ 13:01.11
4 テラフン・ベケレ エチオピア 13:02.29
5 ヤコブ・インゲブリクトセン ノルウェー 13:02.93
6 ジェイコブ・クロップ ケニア 13:03.08 自己新記録
7 ポール・チェリモ アメリカ 13:04.60 今季自己最高
8 ニコラス・キメリ ケニア 13:05.27
9 ビルハヌ・バリュ バーレーン 13:14.66
10 ジャスティン・ナイト カナダ 13:26.63
11 ハッサン・ミード アメリカ 13:27.05
12 スチュワート・マクスウェイン オーストラリア 13:30.41
13 ヘンリク・インゲブリクトセン ノルウェー  13:36.25
14 アイザック・キメリ ベルギー 13:44.29
フィリップ・インゲブリクトセン ノルウェー 途中棄権

エチオピア人選手は理想のレースを完璧に遂行した

エチオピア人選手は今年、ダイヤモンドリーグのレースを支配し、5大会のうち4回で優勝を飾った。彼らが負けたのはDLファイナルのみで、その優勝者のジョシュア・チェプテゲイはドーハ世界選手権で10000mのみに出場となった(エチオピア人選手はDLファイナルでは2位、4位、5位、6位)。

昨季はセレモン・バレガがシーズン最高記録を出したが、今季はテラフン・ベケレがシーズン最高記録を出した。しかし、どちらも昨年のU20世界選手権で表彰台にたつことができなかった。それは優勝記録が13:20のレースだった。

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彼らは自分たちが実力を出すためには高速レースこそが理想と知っていたので、エドリス、ベケレ、バレガが順番に先頭に立ってペースを作って、今回のレースをダイヤモンドリーグのような高速レースに変えた。その結果、優勝記録は12:58(2003年パリ世界選手権優勝のエリウド・キプチョゲの12:52以来最速)となり、エチオピア人選手の1 – 2 – 4位のフィニッシュとなった。

エドリスは、あらゆるタイプの選手権の決勝レースにおいて優勝できることを証明した。 2年前、エドリスは13:32でロンドン世界選手権で優勝した。この日のレースはそれよりも34秒速くなり、彼はまだチャンピオンのままだった。彼はいくつかの顔を持つ選手である。

エドリスのこの2年間の競技成績はどうだったか?

2017年、エドリスはそれまでの6年間で誰もできなかったことをやり遂げた。世界大会でその期間無敗だったモー・ファラーを破ったのだ。次の世界選手権に向けて、ディフェンディングチャンピオンはエドリスだった。しかし、昨年、エドリスはシーズンを通して好成績とはいえなかった(ユージンDL13位、その後の4回のDLでは5, 6, 2, 4位 – DLファイナルでは12:55で走った)。

今年、彼はダイヤモンドリーグサーキットに2回しか姿を現さなかった。5月のエチオピア選手権の10000mで途中棄権、6月のオスロDL3000mではアメリカのドリュー・ハンターベン・トゥルーなどに続いて11位に終わった。ローザンヌDL5000mでは18位で優勝者から30秒引き離され、さらに結果が悪くなった。

彼はドーハ世界選手権前にもう1回レース走り、前進した。7月のハンガリーでの3000mで7:39で2位だったが、その結果ではドーハ世界選手権のメダル候補として見なされなかった。ディフェンディングチャンピオンとしてのワイルドカード(出場権)がなければ、エチオピア代表になることすらできなかっただろう。

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エドリスはレース後に“過去2年間は自分にとって厳しい期間だった”と語った。彼は昨年アキレス腱の故障で苦しみ、今年は腹部の痛みに苦しんだ。ドーハに入ってからでも、エドリスは痛みを感じていると話した。彼は予選の後にも痛みを感じ、決勝前の最後の数日間は治療を受けていた。しかし、エドリスは彼の連覇のタイトルに向けて全力を尽くした。

モー・アーメドの歴史的なメダル獲得

アーメドはウィスコンシン大学マディソン校で全米学生タイトルを獲得したことはなかったが、今では世界選手権のメダルという偉大なものを手に入れた。カナダ勢にとっても、バウワーマントラッククラブにとっても大きなメダル獲得だった。今日までBTCでは、エヴァン・ジェイガーのみが屋外の世界選手権または、オリンピックでメダルを獲得した唯一の男子選手だった。 現在、アーメドはBTCでトレーニングしており、マシュー・セントロウィッツ(1500m)とロペス・ロモン(10000m)もドーハ世界選手権に出場するので、BTCのメダル獲得数が増える可能性がある。

ジェリー・シューマッカーコーチが彼らに課した「夏に欧州のレース(DLなど)に使わずに約2か月弱、ユタ州パークシティとサンモリッツでの高地合宿で仕上げる」という今年のスケジュールは、この混戦の5000mにおいて機能した。アーメドは3週間前のナイキ本社での12分台のレースのペーサーを務めた後、その調子を維持し、ドーハ世界選手権のメダルに繋げた。

ヤコブ・インゲブリクセンは“金”を獲りにいった

残り300mの地点からこのレースの映像を見た場合、おそらくインゲブリクトセンが優勝すると誰もが思っていただろう。彼は大きなストライドで後続との差を少しずつ開けようとしていたが、獣たちはすぐに彼の背後に飛びついた。

そこから何が起こったか? 彼らは、これまでの5000mのベストレースでの動きをそこで発揮しただけだった。今回のレースのスプリットは今年のロンドンDLのスプリットと非常に似ており、それよりもわずかに速くなった。

ヤコブ:ロンドンDL ヤコブ:ドーハ エドリス:ドーハ
1000m 2:40.4 2:40.4 2:39.4
2000m 5:17.6 5:16.9 5:15.4
3000m 7:57.1 7:53.9 7:53.8
4000m 10:36.2 10:34.2 10:34.6
5000m 13:02.03
(2:25.9)
13:02.93
(2:28.8)
12:58.85
(2:24.3)

ヤコブがもしロンドンDLのラスト1kmのスピード(2:25.9)でフィニッシュしていたとしても彼は13:00.1で3位だったので、何れにせよ金メダルを獲得できなかっただろう。

おそらく、彼が金メダルを獲りにいかずにスパートのタイミングを最後まで待っていたら銅メダルを獲得できたかもしれなかったが、ヤコブは金メダルを狙っていたことをレース後に明かした。

「本当に良いレースで、このレースに出場することに興奮した。とてつもなく速い選手たちを相手に金メダルを狙って全力を尽くしたが、最後には失速してしまった。兄弟3人で決勝のレースを走れて、新しい歴史を作って嬉しく思う」

と、ヤコブは話した。

シニアの世界大会での経験不足はヤコブにとって不利だったか?ラストスパートのタイミングが早かったか?

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レース後にヤコブのインタビューをする前に、彼の父親でコーチのイェトに話を聞くことができた。「ヤコブがレース終盤で積極的に仕掛けたのには少し驚いたが、この後に彼とそのことについての反省点を話すことになるよ(インタビュー動画)

レース前はヤコブは出場メンバーの中で最高の5000mの選手ではなかったが、最高の1500mの選手だった。彼はラスト1周の早い段階でスパートをかけたが、そこから逃げ切れる選手というのはおおよそ圧倒的に力が抜けている場合に限られる。

ペースの上げ下げがある生物のレースである選手権レースにおいて、ラストスパートのタイミングを正確に、かつ瞬時に判断するのは簡単なことではなく、ヤコブがスパートのタイミングを誤ったのは明確である。なぜ最後までスパートを我慢して、最後の100mでそれを解き放たなかったのだろうか。

それは彼のコーチがそう思っていたようにみえるが、19歳のノルウェーの1500mの選手がラスト250mから逃げ切ろうとしている姿は実に美しかった。

モー・ファラーが2011年大邱世界選手権の10000mで逃げ切ろうとしていたレースで、イブラヒム・ジェイランに差し切られたレースを忘れないように。ファラーはその敗北を糧にして、その後ロンドン世界選手権の5000mまで6年間世界選手権 / オリンピックで無敗を誇った。

 

レッツラン 記事

https://www.letsrun.com/news/2019/09/the-king-remains-on-the-thrown-muktar-edris-surprisingly-repeats-as-5000-world-champ/

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