【LRCJオリジナルインタビュー記事】サム・ハイド-スミス(2019年U20NZ選手権800m, 1500m, 3000m王者)

セルフマネジメント ~大学・仕事・ランニング~

「自分のランナーとしての長所は、メンタルコントロールがうまいところ」

だとサムはいう。

「自分に足りない能力に対して、それを向上させるためにその欠点だけに集中するのではなく、全体的にみてどのようにバランスを取れば競技力が向上するかということを考えている」

そう話すサムのセルフマネジメントは、競技の場面だけでなくサムの生活のリズムにも活きている。彼は普段はヴィクトリア大学に通っているが、フルタイムの学生ではなくパートタイムで講義を受講している。

また、仕事もウェリントンのナイキストアで週に20時間ほど働いている。そうした生活のなかで、自分のランニングを集中して高める時間を確保している。ランニングに関してだけでなく生活に関して最も重要なことは≪バランス≫だと話す。

レースの経験(国内・海外)

2016年からランニングを本格的に始めたサムであるが、すでにニュージーランド国内だけでなく、オーストラリア、ベルギー、イギリスといった場所でのレース経験がある。

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左から3番目がサム(オセアニア選手権:U20男子800m3位)

そして2019年6月にはニュージーランドのU20世代を代表してオーストラリアで行われたオセアニア選手権に出場している。

彼のこれまでのキャリアでステップアップとなったレースを挙げてくれた。

 

【2017年3月 U18ニュージーランド選手権:800m3位、1500m3位】

「2017年に初めて国内選手権でメダルを手にしたときは非常に感慨深かった」

とサムは話す。それまでランニングはただのソーシャライズだったが、国内選手権で3位になったことは走ることに対してのサムの今までのモチベーションをさらに高いものへと変えるきっかけになった。

そのレースでサムは自分自身の思ったようなレース運びができた。結果的に3位となったが、その時の1位、2位の選手に対しては“彼らのほうがが強かった”と敬意を表するとともに、3位という自分の結果にとても自信が持てたという。

 

【2018年12月 ザトペック10・U20 3000m(メルボルン):途中棄権】

2018年にはエヴァン、ジェームスと共にヨーロッパ遠征に行ったりオーストラリア選手権に出場したりと海外レースの経験を増やす年となった。そのなかでも2018年12月のザトペック10・U20 3000mは学ぶことが多かったレースとして、サムにとって競技に対する姿勢を見つめ直すきっかけとなった。

(1000mを2:51、2000mを5:40で通過し、2300m付近で倒れてしまい途中棄権)

ザトペック10・U20 3000mは毎年オーストラリア中距離の速い選手たちが出場するレース。思い通りにレースを進められないことに対するフラストレーションがたまるだけでなく、悔しさがこみ上げたという。

しかしこのレースで≪なぜうまく走れなかったのか≫ということを今までのトレーニングの構造から分析し(現時点まででどのような能力を獲得できたのか、開発が足りなかったのか、期間の長短、量の過不足など)、“ただの力不足”という言い訳に終わってしまうことがなかった。

そこでの経験を生かし、2019年にはU20ニュージーランド選手権の3冠(800m、1500m、3000m)とニュージーランド代表としてオセアニア選手権に出場することに繋がっていったという。

「レースシーズンになればいつも記録(自己ベスト)を狙っているから、速いペースでレースが進んでくれることを望んでいるけれど、選手権レースでの“勝利”を目指すための戦略的なレースは本当に楽しい」

とサムは嬉しそうに話す。

また、自分以外のレースで影響を受けたレースとして2016年リオオリンピック男子1500m決勝のレースを挙げた。

マシュー・セントロウィッツがレースの最初から最後まで先頭を譲らずに優勝した姿には本当に感動した。他の選手に横に並ばれてもインコースでペースをコントロールして完璧に集団と周りの選手を支配したレースだった。マシュー・セントロウィッツは自分の好きな陸上選手でもあるから、彼が優勝して嬉しかったしね」

 

【2019年1月  U20ニュージーランド選手権3000m:優勝】

それから2年半後、サムもU20ニュージーランド選手権3000mで同じようなレースを展開する。ニュージーランドはシニア・ユースのどちらのカテゴリーでも毎年3000mの選手権が開催されている。

3000mでは1500mの速い選手が活躍する傾向が強く出るが、800mや5000mを中心に行っている選手や、10000m~ロードランナーも参加し、様々なレース展開が生まれ、走っている選手だけでなく、声援を送る観衆もとても楽しめるレースである。

2018 / 2019年シーズンのU20ニュージーランド選手権3000mは、2019年1月のワンガヌイでのクックス・クラシックの1500mと同日に開催された。サムと同世代で最も速い※サムエル・タナーは、ニック・ウィリスをペーサーとして自己記録を狙うために1500mにエントリーしていた。

(※)Samuel Tanner:ニュージーランド初の高校生サブ4マイラー。2019年3月に3:58.41を記録。6月には1500m3:38.74で走り、2019年秋季よりアメリカのワシントン大学に入学

そのため、U20 3000mは出場選手の実力が非常に拮抗し、だれが勝つかわからないメンバーとなっていた。そうした選手の集団は自然にスローペースの展開になることは必然である。2000mの通過が5分56秒となったところでサムが少しずつ集団のペースを上げる。

サムの意識では100m毎にペースを少しずつ上げていくイメージで、ペースを段階的に引き上げていった。突然ではなく少しずつ、確実に周りの選手は苦しくなり仕掛けるポイントを見失っていく。ラスト1周の鐘が鳴るとさらにペースを引き上げていき、ラスト150mで完全に独走になるとそのまま他を引き離してのゴールとなった(優勝記録:8:35.88、2000m通過5:56)。

さらに3月にはU20ニュージーランド選手権800m、1500mで、同じような戦術的なレースで勝利すると、自分の走りやレースに対する自信はさらに深まったという。

(2019年3月:U20ニュージーランド選手権1500mで優勝)

「今季は800mは1:50のベストを出しているが、自分のランナーとしてのタイプを考えると1500mや3000mが適正距離だと思っている」

(2019年3月:ピータースネル招待男子800mでシニアの選手と競り合い1:50.52の自己新)

「800mではもっとスピードが必要なのは、多くの選手とレースをしてきて明らかにそう感じる。トレーニングパートナーのジェームスと競り合っていてもそう思う。ただ、1500mで今後上を目指すなら800mのスピードというのは必ず必要になってくる。これからも800~5000mまでのレースに取り組みながら1500mの走力を高めていこうと考えている」

とサムは言う。

1500mのレース中に考えていることは?という問いに対してのサムの返答はこうだった。

「リラックスするだけ」

これはレース前、スタートラインでも同じだという。

将来の展望

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先頭がサム

 

サムにとって2018 / 2019年シーズンは海外レースの経験を積み、国内選手権では勝負にこだわるというシーズンになった。 特に国内レースでは800~3000mのU20タイトルを獲得した。今後の目標としてサムは、国内外でのハイペースのレースに挑んでいくことを視野に入れている。

「初めてオーストラリア・シドニーのオリンピックスタジアムでレースをしたときの新鮮な気持ち、ニュージーランドの何倍もの大きさのスタジアム、何十倍もの観衆の会場の雰囲気は今でも強く心に残っている。そしてまた海外のレースに挑みたいという気持ちがレースシーズンに近づくにつれて強くなっていくのを感じる」

とサムは話す。

そして、海外レースに臨むにあたって重要なポイントを挙げてくれた。

「海外でレースをするときに最も気持ちを切り替えなければならないポイントは、周りの選手が非常にアグレッシブだということ。ぶつかり合いやスタート直後のハイスピードでのポジション取りは国内のレースとは全く違う。そういった走力以外のことで疲れないように今後海外での高速レースをさらに経験していくことは、自身がランナーとして成長するために非常に重要な要素であると考えている。国際レベルのランナーになれば、自己ベストを出すため、さらには世界大会の標準記録を切るために、海外で世界トップレベルのレースに出ることが必要になってくる」

「ニュージーランドのレースはかなりゆるいところがあるので、海外のレースでの時間をきっちり守るのにも慣れておかないといけないしね(笑)」

「海外のレースでタイムを出したいときには、どんな展開でも冷静に対応できるように練習しておく必要がある。≪もしペーサーが速すぎたら≫≪もし位置取りがうまくいかなかったら≫≪思っている感じと体の感覚が違ったら≫など、1回しかチャンスがないとしたらどんな時でもパニックにならずにその日のベストの走りができるように準備することが必要だと思う。そういった意味でも海外レースを昨年からシーズン終盤まで転戦してきた経験は、今後のレースのために必ず生きてくる。種目に関しても、レース期に800~5000mまでを組み合わせること、本番のレース前に800mのレースでスピード感覚とレースの入りをイメージしておくことは今のトレーニンググループの共通の認識である。そういった段階毎のトレーニング計画に取り組んでいる」

サムは今シーズンの目標を1500m3:45、そして3:40というタイムにできる限り近づけていくことを考え、新しいシーズンのトレーニングを開始したばかりである。

多くのニュージーランドの選手が将来の目標として≪オリンピック≫や≪世界選手権≫といった世界大会を走ることを夢見てアメリカの大学に留学するが、サムは自分自身の生まれ育ったウェリントンをトレーニングベースにして世界の舞台へ駆け上がる夢を描いている。

ニュージーランドは小さい島国でありながら、多くの世界レベルの中距離ランナーを輩出している。その選手たちは国内でできる最大の準備をして、海外レースでの少ないチャンスをものにしている。

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ゼッケン699がサム(ニュージーランドU20選手権:男子1500m優勝)

サムもまた国内で、できる限りの準備をして数少ないチャンスを自らの力で掴もうとしている。まだ芽が出たばかりの選手であるが、今までの競技生活以上にこれからの飛躍が期待されるニュージーランド人選手の1人である。

今後ともサムの活躍から目が離せない。

 

【筆者プロフィール:谷本啓剛】

ニュージーランド・ウェリントン在住

ランニングガイド・RunZ(ラン・ニュージーランド)代表、酒井根走遊会主宰

【RunZ(ラン・ニュージーランド)】https://runnewzealand.wordpress.com/

【酒井根走遊会(オンライン陸上部・駅伝部)】https://ameblo.jp/dashpiro

 

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