素晴らしいレースだった。
2019年のドバイマラソンを見終わった後に思い浮かんだ言葉である。無名の選手が速い記録を出すことで有名なドバイマラソンだが、今年ほどのレースはこれまでになかったであろう。
男子のレースでは5000mで12:59の記録を持つエチオピアのゲタネ・モッラが2:03:34で優勝した。初マラソンの記録としては歴代最速記録をマークした。この記録は大会新記録でもあり(ドバイマラソンではこの3年連続で大会新記録が出ている)、※1 男子マラソン歴代8位の記録ともなった。2位に入ったエチオピアのヘルパッサ・ネガサ(それまでの自己記録は2:09:14)に6秒差をつけた。ネガサは自己記録を5分以上更新したことで話題になっている。ネガサの今日の記録は※2 男子マラソン歴代10位の記録となった。
(※1)ジョフリー・ムタイとモーゼス・モソップの2011年のボストンマラソンでの非公認記録も含んでのランキング。その2人の記録を省く公式な記録では世界歴代6位
(※2)※1に同じく。その2人の記録を省く公式な記録では世界歴代8位
今年のドバイマラソンは、女子においては男子以上の好記録が出た。優勝したケニアのルース・チェプゲティチは11週間前のイスタンブールマラソンで自己記録を4分更新する2:18:35で優勝しており、今回のドバイマラソンで2:17:08で優勝、昨年の大会記録を2分以上更新して女子マラソン世界歴代3位にランクインした。ポーラ・ラドクリフ(2:15:25)とメアリー・ケイタニー(2:17:01)のみが彼女より速い記録で走ったことになる。2年前のドバイマラソンにおいて初マラソンで優勝した2位のワークネシュ・デゲファも素晴らしい記録を出した。2:17:41の好記録で世界歴代4位にランクインし、優勝できなかった記録としてはこれまでの最高記録となった。デゲファは自己記録を2分以上更新した。
気温は平年通りだったが(気温18℃で湿度86%)、朝の6時00分スタートという条件を最大限に活かしたといえる(2018年以前は6:30スタートだった)。男子だと中間地点までは陽は昇らない。もやがかかっていたこともあり、後半は直射日光を浴びずに済んだのも好記録が出た要因だろう。
【男子レース展開】
男子はぺーサーが中間点を61:30で走る予定だったが、61:43で通過してその時点で14人の大集団を形成していた(うち3人はぺーサー)。
高速ペースの代償で、後半に入ると集団から脱落する選手が現れはじめる。後半になってすぐに離れたのが2016年のボストンマラソン優勝のレミ・ベルハヌ。モッラが今回破るまでの初マラソン最高記録を持っていたグエ・アドラも27kmで離れる。この2人はその後に途中棄権した(2011年大邱世界選手権10000m金メダリストのイブラヒム・ジェイランはドバイでマラソンデビューの予定だったが欠場となった)。
35km(1:42:17)までに先頭はモッラとネガサの一騎討ちに絞られた。2人ともまだ2:03:19のペースで走っていた。しかし、これまでの高速ペースのダメージで36kmが3:06と、このレースで1番遅いペースとなった。昨年のドバイマラソンで4位だったアセファ・メングストゥがこの間に追い付くも、そこでのペースダウンは長くは続かなかった。この間の5kmはこのレースで1番遅い14:59であったが、モッラとネガサはそこからメングストゥを引き離すことに成功し、40kmを1:57:16で一緒に通過した。
そのまま終盤まで2人は並走し、その後モッラがネガサに差をつけ始める。モッラはそのまま差を広げ、6秒差をつけて優勝した。
【女子レース展開】
女子レースの高速ペースはは男子とは比べ物にならなかった。チェプゲティチ、デゲファ、エチオピアのワークネッシュ・エデサ(自己記録2:24:01)の3選手が中間地点を68:10という驚くべきペースで通過したのである(チェプンゲティチとほぼ一緒に走った男子のぺーサーは69:30で中間点を通過する予定だった)。
エデサは25~30kmで次第に遅れ始め、優勝争いはチェプゲティチとデゲファに絞られた。30kmでも2:17ペースで走っていて35kmまで並走。しかし、その後チェプゲティチが抜け出しそのまま独走した。
チェプゲティチは常にレースの主導権を握っていた。デゲファが遅れる前でさえも、チェプゲティチは先頭集団の前方で走っており、男子ぺーサーを尻目にペースを自ら作っていた。一方デゲファは後方で走っていた。チェプゲティチが唯一手こずったのは給水だった。給水地点で何度か苦戦した。給水での失敗がなければ、2:17を切って2:17を切った女子選手としてラドクリフの仲間入りをしていたかもしれない。
高速レースについていったにも関わらずエデサも3位に入り、自己記録を3分近く更新して2:21:05でフィニッシュした。
【男子結果】
【女子結果】
モッラは本物の選手だと感じており今後も強い選手で居続けるはずである
初マラソンで2:03:34の記録を残せば将来有望の選手といえるだろう。
ドバイマラソンでマラソンデビューを飾って好記録を出す選手が多いが、その後もスター選手になれる選手ばかりではない。2012年から2014年の間で、アエレ・アブシェロ、レリサ・デシサ、テスファエ・メコネンがドバイマラソンでマラソンデビューをして2:04台で優勝している。しかし、それ以降、それより速い記録で走った選手は誰もいない。
とはいえ、彼らはその後それなりに良い記録を出してはいる。3人のうち、デシサはメジャー大会で何度か優勝してるのでスター選手といえるだろう。メコネンは2年後のドバイマラソンで再度2:04台を出しており、アブシェロはロンドンマラソンで2回トップ5に入っている。2016年のドバイマラソン優勝のテスファエ・アベラは2016年に自己記録を5分更新しての2:04:24で優勝したが、2017年に走った2つのレースでは2:16と2:07に終わり、2018年はレースを走っていない。
我々の予想だと、モッラはデシサのようになるだろうと考えている。モッラはトラックでも良い成績を残しており(昨年に5000mで12:59)、2018年に走った5つのハーフマラソンのうち3つのレースで優勝しており、2位が1回、世界ハーフマラソン選手権では5位だった。マラソンが得意な選手で、5000mでサブ13:00を達成している選手はそう多くはいない。思い浮かぶ選手は、エリウド・キプチョゲ、モー・ファラー、ゲーレン・ラップである。彼らはずば抜けた選手でメジャーマラソンでも優勝している。モッラが次なるスター選手になる可能性もある。
モッラに関してもう1点。モッラの今回の優勝賞金の10万ドルは、彼のキャリアでは最高金額ではない。昨年の2月、リヤドマラソンのハーフ(男子のみのレース)で優勝賞金として26万6650ドルという大金を手にいれている。
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