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バレンシアハーフマラソンのレースディレクターのフアン・マニュエル・ボッテラは近年のレースには誇りを持っている。2017年10月、ジョイシリン・ジェプコスゲイがバレンシアハーフで64:51という女子ハーフマラソンの世界新記録を樹立した。2018年3月には、バレンシアで開催された世界ハーフマラソン選手権の総合ディレクターも務め、そこでジョフリー・カムウォロルが15 〜 20kmを13:01というものすごい速さで走って優勝した。
このレースの女子では、ネサネット・グデタが66:11で走って、女子のみのレース(= 男子ペーサーなし)としてハーフマラソンの世界最高記録を出した。しかし、この日曜日のバレンシアでの結果は、この2つをも凌駕するものだった。今回3人の男子選手がサブ59:00を達成したが、1つのレースでそれが達成されたのは歴代でたった3回しかない。そして10人もの選手がサブ60:00を達成した(その内9人はサブ59:30)が、これは歴代でも初めてのことだった。
この歴史的速さで走っていたのは世界新記録を樹立したキプタムだけではなかった。エチオピアのジェマール・イェマー・メコネンも58:33でフィニッシュし、サムエル・ワンジルと並んで世界歴代3位の記録を出した。
ボッテラは真剣に仕事に取り組んでいる。彼がそう言っていたからだ。今年の1月に話はさかのぼるが、レッツラン共同設立者のロバート・ジョンソンと私(ジョナサン・ガルト)は、ドバイマラソンのレース展望を書いた。その展望に、2017年のバレンシアハーフで59:22の自己記録を出したエチオピアのフィカドゥ・ハフトゥのことについて触れた。
「59:22という記録はハフトゥにとって大幅すぎる自己記録の更新なので、誰かバレンシアハーフの距離が正しいかどうか確認するべきだ」
と我々は記した。その夜に、ボッテラからレッツランの受信Boxにメールが届いた。そのメールのタイトルは、
“もちろん、バレンシアは13.1マイルだ”
「君たちのドバイマラソンのレース展望の皮肉な言葉を読んで、傷ついたよ」
そうボッテラは書いていた。
「私のレースの距離に関して疑惑のコメントを書いていて、すごく残念だったし悲しい気持ちになった。我々のレースは、IAAFゴールドラベルのレースであり、AIMSとIAAFのプロの方々によって正しく距離計測されている。2017年にジョイシリン・ジェプコスゲイが世界記録を出したことにより、数週間以内に距離が承認されなければならない。それにより、君たちもバレンシアの距離が正確であると信じざるを得ないと思うが」
「ジョークを言ったり、バレンシアハーフの距離に関して推測したりしないでください。我々についてジョークを言う前に、我々のことを知ってください。我々は公正なスポーツをしている。不公平なスポーツはしていない。記録が欲しいということは決してない。正直で誠実さがなければ、我々は何もいらない」
キプタムが日曜日に世界記録を出した後、私はボッテラにメールをして、なぜ世界記録が更新されたのか彼の考えを聞いてみた。彼の返事はこうだった。
「なぜかって?コース(3月の世界ハーフマラソン選手権と95%同じコースだった = ゴール地点が違う)は高速コースでフラットだったし、バレンシアの天気はマラソンを走るには完璧だった。前の日の夜に大きな嵐があったせいで、空気も澄んでいて綺麗だった」
しかし、ボッテラはスポーツを知っている人だ。信じられないような良い記録が出た時に、その記録が正しく出た記録なのか疑う人が出てくることも承知している。ボッテラはそのような人に対して解答を出している。
「※1 世界記録がここで破られる度に、IAAFによってその都度距離計測がされて正式にそれらの記録が承認されている。世界ハーフマラソン選手権の際は、※2 アスレチックス・インテグリティ・ユニット(AIU)に5万ドル支払ったし、今回のレースでは、16人のドーピング検査員を招集した(土曜日には、招待選手を対象に抜き打ちでさらに11人の検査員を動員)。陽性反応が出た選手は、2度とレースは走れない。我々は競技を愛している。不正は好きじゃないし、不正で生まれた記録はいらない」
(※1)2017 〜 2018年の間に3回、ハーフマラソンの世界記録がバレンシアで更新された
① 64:51(ジョイシリン・ジェプコスゲイ, 2017年バレンシアハーフ)
② 66:11(ネサネット・グデタ, 2018年世界ハーフマラソン選手権)※ 女子単独レースでの世界最高記録
③ 58:18(アブラハム・キプタム, 2018年バレンシアハーフ)
(※2)AIU:IAAFが2017年4月に設立した反ドーピング機関。IAAFからは独立して機能しており、現在多くの陸上選手の血液サンプルを管理している。陸上競技における世界のあらゆるドーピング選手の情報はここから閲覧できる
「我々にはこれまでの経験がある。陸上界には不正やドーピングがあるという事は知っている。しかし、大会主催者として、そのようなことには反対している。悪いことをする選手と我々を混同しないでください。もし、ドーピング陽性の選手が出たら、我々はその選手を拒否する。そして、もしIAAFによる距離計測で1mでも少ない距離が出れば、今日参加してくれた13,800人のランナーひとりひとりに謝罪をし、そのことを恥じるだろう」
ボッテラは自らのレースの評判についてかなりコミットしている。レッツランからバレンシアへ誰か派遣して“実際のコースを見てほしい”というオファーまでくれた。そしてその費用も負担してくれると。彼はこのように締めくくった。
「ようこそバレンシアへ。ランニングを愛し、公正明大を愛する街へ」
見過ごしてはならないもう1つの要素がある。キプタムはヴェイパーフライ4%フライニットを履いて優勝したようだ。ニューヨークタイムズ紙の研究によって支持されたスポーツパフォーマンスコミュニティにおいて最近信じられていることであるが、今年ロードで出ている好記録は、このナイキのシューズのおかげであると信じられている。
「彼は何のシューズを履いていたか?」
スポーツ科学者のロス・タッカー氏がレース後Twitterで書いた。
「疑問リストに追加された質問だ。もう1つ、彼はドーピング検査を受けたのか?」
そのシューズにどれほどの価値があるかは正確には知らないが、多くの変化が生じているというデータが出続けている。彼がクリーンかどうかは知ることができないが、キプタムだけがその答えを知っている。我々が知っていること。キプタムが日曜日のバレンシアハーフマラソンで58:18で走った。また、彼のこの世界新記録は、そう遠くない未来に破られるだろう。2018年には5人の選手が58:45を切っている。
そして、バレンシアのおかげで、我々はもう1つの事を知っている。アブラハム・キプタムという名前である。
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