モー・ファラーは今回の快走をもって世界トップクラスのマラソン選手となった。
ファラーの最後の表情は苦しそうだった、ラスト400mはいつものスピードがなかったが、2018年シカゴマラソンは、我々が長い間トラックで見てきたファラーのゴールシーンにとても似ていた。ファラーは後続を引き離し、モボットポーズでゴールテープを切り、2:05:11の欧州新記録で優勝した。
しかし、トラックに似ていたのはゴールだけではなかった。ファラーはこれまでのように戦略的なレースを展開した。序盤は先頭集団の後方で落ち着いた走りをして(中間地点通過では63:06で12、13番手)集団の先頭を引っ張るのをできるだけ長く避けていた。
集団の先頭がペースを上げてその差が広がっても、ファラーがそれにすぐに反応することはなかった。しかし、23マイル(37km)に差し掛かったところでファラーが先頭集団で前に出る。完全に意図した仕掛けであった。ラスト4マイルは向かい風のなかで※ 4:41、4:42、 4:40、 4:47。それまで6人いた先頭集団が2人に絞られていった。
(※)1マイル4:40 〜 4:42 = 1km2:54 〜 2:55
最終的にはファラーと、今年のドバイマラソンを大会記録(2:04:00の自己記録)で優勝したモジネット・ゲレメウだけが残った。ラスト600m地点でファラーがマラソン初優勝に向けてラストスパートをかけ、ゲレメウはそのスパートに為す術もなく、次第に引き離されていった。
勝利という栄光はファラーの手に渡った。ゲレメウは2:05:24の2位に入った。しかし、この日1番の大金を稼いだのは3位に入ったナイキオレゴンプロジェクトの大迫傑だった。彼は日本新記録となる2:05:50で走り、前日本記録2:06:11を更新した選手に与えられる報奨金の1億円を手にした。今年のロッテルダムマラソン優勝のケニアのケネス・キプケモイが2:05:57の4位に入り、ゲーレン・ラップは2:06:21で5位に入りハリド・ハヌーシの全米記録2:05:38の更新はお預けとなった。
レース展開:冷静にレースを進めたファラーが32km過ぎから位置を押し上げ完勝
前半10kmはペーサーがいるレースとしてはそこまで速くなかったが(30:11)、そこから5kmは14:50を切るペースで進み20kmは59.48で通過し、中間地点は1:03:02で通過した。その時点で13人の選手が先頭から5秒以内に位置しており、初マラソンのオーガスティン・チョゲは中間点を前に途中棄権。

次の5kmはペースが落ち(15:30)、16マイル(25km過ぎ)まではペースは落ち着いたが、ジョフリー・キルイが集団を抜け出そうと仕掛ける。キルイはその2マイルを9:02(2:48/km)というスピードアップをしたがそれに対応でしたのはエチオピアのビルハヌ・レゲセ(今年のドバイマラソンで2:04:15)、キプケモイとゲレメウだけで、ラップが率いる後方集団に20mの差を開けた。
モー・ファラーは後続の集団を引っ張るラップよりもかなり後方に位置していたが、20マイル(32km)を過ぎてファラーは先頭集団に追いつくためにナイキオレゴンプロジェクトの元練習パートナー達(ラップと大迫)を引っ張るようになる。21マイルは4:40(2:54/km)というペースで進んで先頭に追いつき、その後レゲセが先頭集団から脱落し、先頭集団は6人に絞られる。
その後、ラップも35km地点で遅れはじめ、ジョフリー・キルイは依然としてスピードを上げていた。23マイル(37km)でファラーが先頭に出始め、キルイも遅れ始める。ファラーについていけたのはゲレメウだけだった。大迫も必死に喰らい付く。勝負はファラーとゲレメウの対決に。ファラーがラストスパートを仕掛けてからは、トラックで我々が見慣れてきたモー・ファラーの姿がそこにあった。
【ファラーのスプリットとラップ】2:05:11(前半63:06 + 後半62:05)※非公式
5km | 14:54 | 5km毎 14:54 |
10km毎 | 備考 |
10km | 30:12 | 15:18 | 30:12 | |
15km | 45:07 | 14:55 | ||
20km | 59:53 | 14:46 | 29:41 | |
中間点 | 1:03:06 | |||
25km | 1:15:20 | 15:27 | ||
30km | 1:29:46 | 14:26 | 29:53 | 25〜35km |
35km | 1:44:17 | 14:31 | 28:57 | |
40km | 1:58:46 | 14:29 | 29:00 | ラスト2.195km |
42.195km | 2:05:11 | 6:25 |
モー・ファラーはマラソンでも世界トップクラスの選手となったが彼のコーチにとっては当然のことだった
レース後にファラーの現在のコーチであるゲイリー・ラフに話を聞いた。彼はもちろんファラーの勝利に喜んでいたが、驚きはなかったという。ファラーはロンドン前も2:04台を出せる調子で、その状態を維持しつつ良い練習を継続してきたという。
「驚きではないよ。集中した時間をともに過ごしてきた。彼が日々の練習でやってきたことを見ると、彼の能力にはすごく自信があった」
ラフはこう話した。
Embed from Getty Imagesファラー自身、マラソン選手としてはまだ彼のポテンシャルに到達していないと感じているようだ。もっと※ コンディションが良ければ「2:04前半か2:03後半の記録が出せる」と話していた。
(※)気温はマラソンには適温であったが、湿度が90%を越えており、レース中に雨も降った。2.5 〜 7.5マイルの8kmと、23.5 〜 ゴールの4.3kmの間にかけては向かい風があった
ファラーの現在のコーチでもあり、女子マラソン世界記録保持者ポーラ・ラドクリフの夫でもある元中距離選手のラフは、ロンドンマラソン前とは少し違った調整をしてきたと話した。もっとチャレンジングな練習を追加したという。また※ 走行距離も伸ばした。
(※)ロンドンマラソン調整時は3000m弱の超高地のエチオピアにいたが、今回はそれよりも低い一般的な高地であるフラッグスタッフでの練習だったので距離も伸ばしやすかった
「世界トップクラスの選手に混じって、それなりの記録は出せると考えていた」
とファラーは語った。
「マラソンに強い選手が多くいるなかで、全英新記録と欧州新記録が出せた。もっと速く走れたとも思う」
ファラーは、今日のように最後に持ち味のスパートをかけられることから、ペースが比較的落ち着くマラソンのほうが得意だと信じていると語った。
「今日学んだことは、比較的ゆっくりなペースで入り、ラストスパートでスピードをあげる、というレース展開が得意だということだ。そのほうが自分にあっている。(そのようなことから)前半どのぐらいゆったりなペースで入れるかによる」
ラフによると、今後ファラーは来年のドーハ世界選手権を走る予定だという。マラソンでの出場かとは思うが、ラフはどの種目での出場かはまだ決まっていないとして、ドーハでファラーがトラックに戻ってくる可能性も残した状態となった。
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