シカゴマラソンで直接対決へ:かつての練習パートナー 、モー・ファラーとゲーレン・ラップの歴史を振り返る

6年前、モー・ファラーゲーレン・ラップは世界のトップに君臨していた。

2012年8月4日、ロンドンオリンピックの陸上競技2日目の夜に(イギリスの陸上ファンの間ではスーパーサタデーとして永遠に語り継がれている日)、ファラーラップは10000m決勝でワンツーフィニッシュを果たした。この結果は、この2年前なら誰も予想できない結果だったといえる。

2011年より以前は、ファラーラップは世界トップからは程遠い選手だった。その頃のファラーの1番良い成績は、2009年ベルリン世界選手権5000mで7位、ラップは同大会の10000mで8位と、それぞれがそれまでのキャリアで最高順位でフィニッシュした。長い間、男子10000mは1つの大陸の選手が独占していた。

1992年から2008年までのオリンピックにおいて5大会連続でアフリカ勢がメダルを独占した。しかし、ロンドンオリンピックでイギリスのファラー(アフリカ生まれではあるが)とラップが、そのアフリカ勢の独占時代に終止符を打ったのだ。

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2011年始めにファラーはオレゴン州ポートランドに移り住み、ナイキオレゴンプロジェクトのアルベルト・サラザールのもとで練習していたラップと共に練習を開始した。ロンドンオリンピックでのファラーの金メダルとラップの銀メダルは、明らかにその成果だった。この2人の選手を世界トップレベルへ押し上げるためのパートナーシップだった。そして、それ以来2人は世界トップクラスに君臨し続けている。

現在35歳のファラーは、トラック長距離史上最も成功した選手である。オリンピックと世界選手権で10個の金メダルと2つの銀メダルを獲得した。32歳のラップは、マラソンで素晴らしい成績を残した。2016年のリオオリンピックでオリンピックでの2個目のメダルとなる銅メダルを獲得し、昨年のシカゴマラソンでは優勝。

この日曜日のシカゴマラソンで、この2人がマラソンで直接対決をする。彼らのマラソンでの直接対決は初めてであり、2016年リオオリンピック男子10000mで対戦して以来、初めての直接対決となる(そのレースではファラーは優勝、ラップは5位)。全米ナンバーワンの長距離選手が全英最高の長距離選手と直接対決をする。かつてのトレーニングパートナーが26.2マイルを共に戦うのである。

2人の関係性は未だ不透明である。2017年10月にオレゴンプロジェクトを去ったファラーラップは疎遠になっているのは確かであるし、お互いがお互いについてどのように考えているかはわからない。お互いを嫌っているのか?今でも話をするのか?一緒に練習をすることはないのでお互いのことは思いつつも、そこまで近い存在ではないのか?

ラップはプライバシーを大事にしているためSNSを全くやっておらず、インタビューでもプライバシーを守っている。その一方でファラーはメディアの前でも社交的だが、直接ラップについて聞かれることは滅多にない。メディアはファラーと、2015年以降※ USADAの捜査下にあるサラザールの関係に焦点を当てる傾向が強いからだ。

(※)USADA:アメリカアンチ・ドーピング機構

我々が知りたがっているのはそこなのである。今週金曜日に行われるシカゴマラソン前の記者会見で、お互いの関係性について、ラップファラーに聞こうと思っている。しかしその準備として、我々がこの2人について知っていることをおさらいしたい。

2011 〜 2012年:良好な関係性

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2011年以前、ファラーラップはすでに良い選手ではあったが、2012年ロンドンオリンピックでメダルを獲るだろうとは誰も思っていなかった。ファラーは当時25歳で挑んだ2008年北京オリンピックの5000mでは、決勝に残ることができなかった。それから2年で着実に力をつけていった。5000mでは、2009年ベルリン世界選手権で7位、2010年欧州選手権では2連覇を果たし、自己記録を12:57まで更新した。しかし、まだ彼の本当のポテンシャルには到達していなかった。

「2010年は自分にとっては最高の1年だった。世界選手権か2012年のロンドンオリンピックでメダルに近づくためには、もう少し変化が必要だ」

2011年2月、ガーディアン紙にファラーはこう語っていた。その変化というものがサラザールだった。ファラーは、メダルに近づくために1〜2%の変化をつくることができると信じていた。2011年の始めにファラーはポートランドに移住し、ナイキオレゴンプロジェクトに参加した。

そこには、高校生の時からサラザールの指導を受けていたラップがいた。2009年ベルリン世界選手権の10000mで8位に入っていたラップは、まだアフリカ勢と互角に戦えるほどではなかったが、着実に力をつけ始め、2010年には5000mと10000mの自己記録を13:30 から13:07、27:33から27:10へとそれぞれ更新した。ラップは最初はファラーの加入には懐疑的だったという。

「はじめは懐疑的だった。アルベルトの指導とナイキのリソースで、世界ナンバーワンのトレーニングプログラムが揃っていると考えている。そしてライバル選手が今参加しようとしている。なぜ彼を入れるのですか?とアルベルトに尋ねたんだ」

ラップ2012年にスポーツイラストレイテッドのティム・レイデンにこのように話していた

しかし、ラップファラーはすぐに友達になった。

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ファラーは、まるで大学の友達のようだった」とラップは2012年2月のスポーツイラストレイテッドに話している。

「意気投合したよ」と、ファラーも同じ記事で話していた。

「ランニングについては話したことがない。ランニングはもう十分やっているからね」

トラック外で友情を育んでいき、2人は共に速くなっていった。ファラーは2011年に世界最高の選手になった。5000m(12:53)と10000m(26:46)の自己記録を大幅に更新し、大邱世界選手権5000mで金メダル、10000mで銀メダルを獲得した。

ラップは大邱世界選手権男子10000mで7位に入り、ブリュッセルDLでは26:48の全米記録を出した。翌年はもっと良い年となった。ファラーは地元イギリスで開催されたロンドンオリンピックで5000mと10000mで金メダルを獲得。ラップは5000mで初めて13:00を切り、ロンドンオリンピックでは、1964年のビリー・ミルズ以降のアメリカ男子選手として10000mの種目で48年ぶりにメダルを獲得した。

お似合いの2人のようであり、彼らの友情関係については多くの記事になった。

2015 〜 2017年:2人の関係が複雑になっていく

2015年5月26日にオレゴニアン紙がユタ州パークシティでのNOPのキャンプについての記事を出した。これまでの4年間と大きく変わったことはないように思えた。ラップファラーがトレーニングに取り組み、練習後の休息時間にテレビでサッカーゲームを笑いながらやっていた。

その8日後にプロパブリカがNOPに関する独自記事を発表した。この記事は好ましいものではなかった。元NOPだった複数名の選手が、ドーピング規約違反でサラザールを告訴したのである(ドーピング違反で処罰を受けたことのないファラーについては言及されていなかった)。

その2週間のうちにテレグラフ紙が、ファラーが自らでフランスに行き、フォン・ロムー(フランス南部のピレネー山脈中央部の高地トレーニングのメッカ)で練習としていると独自記事を公開した(サラザールは仲違いについては否定ファラーは他の選手と違った練習メニューをしていると説明した)。当時ファラーサラザールを公に擁護しており、昨年NOPを去った後もその姿勢は変わっていない。

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「ドーピング疑惑があったからナイキオレゴンプロジェクトとサラザールのもとを去るのではない」

ファラーがサラザールと離れると発表した2017年10月ザ・サン紙にファラーはこのように話した

「子どもたちにはイギリスで育ってほしかった。それは家族のためには正しい選択さ。でも、ナイキオレゴンプロジェクトとアルベルトはアメリカを拠点としている。ロンドンにいながら彼らとの関係を続けるのは不可能になっただけだ」

しかし、ファラーは、サラザールとの関係についてのイギリスのマスコミの執拗な質問にイラついてもいた。

「何度も繰り返す壊れたレコードみたいだ」

ガーディアン紙にファラーはこう話した

「もし自分が一線を越えていたら、アルベルトが一線を越えていたら、毎年毎年その話題を持ち出しニュースにする。僕は自分がこれまでやってきたことを成し遂げただけだ。マスコミはそれを潰そうとしている」

そのインタビューで、ファラーはプロパブリカ紙の記事が出て以来、明らかになったことについて認めている。サラザールファラーに練習メニューを送ってはいたが、ファラーサラザールと前のように多くの時間を共に過ごさなくなっていた。

「今年、もしくは昨年、彼は何レース僕のために来てくれたと思う?」

ファラーは記者に質問した。

「彼は1回も来ていないね。アルベルトの指示でほぼ1人でレースに出ていたね」

ファラーラップとも一緒に練習を行っていなかった。ファラーのインスタグラムを見てみると、2016年はじめからたった2枚しか、2人で一緒に練習している写真はない(2016年12月に同じ練習をしている写真)。しかし、必ずしもプロパブリカの記事やその後のUSADAの捜査が原因ではないだろう。ファラーは過去にもラップ抜きで高地トレーニングをしており、2015年の数ヶ月をエチオピアで練習したこともあった。

「彼はいつも向こう(アフリカやヨーロッパ)へ行くよ」

ラップは2015年1月のNBCオリンピックトークでこう話している

「多分何も変えたくないんだろうと思う。過去もそれでうまくいっているから」

それに加え、2016年のはじめにはラップファラーは違うことにそれぞれ集中していた。2人とも10000mに出場していたものの、ラップはマラソンに重点を置きはじめていた。ファラーはトラックで5000mと兼ねて走った。理由はどうであれ、ファラーのNOPに在籍していた最後のあたりは、ラップとの関係が2012年ロンドンオリンピックの時のように近い存在のトレーニングパートナーではなかったことは明らかである。

忘れるなかれ、ラップはファラーの手中にある

ファラーラップの関係で、もう1つ見逃してはいけないことがある。ファラーラップの直接対決(ほとんどがトラック)ではをこれまでファラーラップに22戦21勝1敗と圧倒的にリードしている。その結果は次の通りである。

種目 レース ファラー ラップ
5000m 2010年7月10日:ゲーツヘッドDL 13:05.66 (7) 13:10.05 (9)
3000m 2010年8月13日:ロンドンDL 7:40.75 (2) 7:43.24 (5)
5000m 2010年8月19日:チューリヒDL 12:57.94 (5) 13:07.35 (12)
クロカン(8km) 2011年1月08日:エディンバラクロカン 25:41 (1) 25:50 (2)
5000m 2011年2月19日:バーミンガム室内 13:10.60 (1) 13:11.44 (2)
ハーフマラソン 2011年3月20日:ニューヨークシティハーフ 60:23 (1) 60:30 (3)
5000m 2011年7月10日:バーミンガムDL 13:06.14 (1) 13:06.86 (2)
5000m 2011年7月22日:モナコDL 12:53.11 (1) 途中棄権
10000m 2011年8月28日:大邱世界選手権 27:14.07 (2) 27:26.84 (7)
5000m 2011年9月04日:大邱世界選手権 13:23.36 (1) 13:28.64 (9)
1マイル 2012年2月04日:ボストン室内 3:57.92 (4) 3:57.10 (3)
1500m 2012年5月18日:USATF Oxy 3:34.66 (1) 3:34.75 (2)
5000m 2012年6月02日:ユージンDL 12:56.98 (1) 12:58.90 (3)
10000m 2012年8月04日:ロンドンオリンピック 27:30.42 (1) 27:30.90 (2)
5000m 2012年8月11日:ロンドンオリンピック 13:41.66 (1) 13:45.04 (7)
5000m 2013年5月17日:USATF Oxy 13:15.68 (1) 途中棄権
5000m 2013年6月01日:ユージンDL 13:05.88 (2) 13:08.69 (6)
10000m 2013年8月10日:モスクワ世界選手権 27:21.71 (1) 27:24.39 (4)
5000m 2013年8月16日:モスクワ世界選手権 13:26.98 (1) 13:29.87 (8)
10000m 2015年8月22日:北京世界選手権 27:01.13 (1) 27:08.91 (5)
5000m 2015年8月29日:北京世界選手権 13:50.38 (1) 13:53.90 (5)
10000m 2016年8月13日:リオオリンピック 27:05.17 (1) 27:08.92 (5)
勝利数 21勝 1勝

※カッコ内は順位

ファラーが1回だけラップに敗れたのは、2012年のニューバランスボストン室内グランプリで、ファラーが1周目で転倒した時のことである。起き上がった時には先頭集団から5m離れていたが、それでもファラーは3:57.92でフィニッシュした。これが、ファラーが過去1回だけラップに負けたレースである。

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ラップの身になって考えてみよう。ファラーが後から自分のチームに加入してきた。自分は世界でも最高の選手の1人として活躍していたが、後から入ってきたファラーに毎回負けるようになる。ファラーが、自分と世界、オリンピックの間にはばかる壁となった。誰よりも勝ちたい相手とともに練習したいと思うだろうか?

ファラーの身になって考えてみよう。世界最高の選手になったが、自分の練習パートナーが1番のライバル選手となる。自分を表彰台から落とすことを1番の目標としている選手と一緒に練習が続けられるだろうか?

このようなことは、世界トップで戦う選手の中では珍しいことではない。ロンガイアスレチッククラブ(RAC)のエリジャ・マナンゴイティモシー・チェリヨットはここ2年間世界最高の1500m選手であるが、1番のライバル同士の彼らが、ラップファラーのように離れることになっても、大きな驚きはないであろう。

ラップはシカゴマラソンでファラーから“本当の勝利”を勝ち取れるだろうか?

これは今週1番の疑問である。

1勝21敗という数字は、ラップが勝てないことを示しているが、マラソンに関してはファラーに比べてラップの方が有利な点がある。ラップの自己記録(2:06:07)はファラー(2:06:21)よりも速く、ラップの方がマラソン経験が多い(ラップの6回に対して、ファラーは2回)。そして、ラップの方が良い成績を残している(シカゴマラソン、プラハマラソンで優勝、リオオリンピック銅メダル)。ラップファラーに勝つとしたら、それはマラソンになるだろう。

同時に、ファラーにも良い点は多くある。今春のロンドンマラソン、気温が高かったレース当日、前半を61:00という驚異的スピードで入ったにも関わらず、2:06:21でフィニッシュしている。コンディションがもっと良ければ、そしてペース設定も上手くいけば、もっと良い記録で走っていただろう(プラハでのラップは、63:00 / 63:07という驚異的なイーブンペースで走った)。

1500mの自己記録が3:28のファラーにはマラソンはベストな種目ではないと考える人もいるかもしれない。ハーフマラソンに関しては、ファラーの方がラップより良い戦歴を持っている。ファラーの自己記録は59:22で、60:00を4回切っている。ラップの60:00切りは1回だけ(59:47)である。そしてシカゴマラソンへ向けての調整中にアキレス腱の故障に悩まされたラップとは違って、ファラーは非常に調子が良さそうで、先月のグレートノースランを59:27で走って5連覇を果たした。

しかし、ラップは高速でペーサーがいるレースを走る機会にあまり恵まれてこなかった(今年のシカゴマラソンからペーサーが復活したため、ラップファラーはそれぞれ欧州記録の2:05:48と全米記録の2:05:38を目標とすることになる)。ペーサーがいたレースというのはラップにとってはプラハマラソンだけで、それはボストンマラソンを途中棄権したたった20日後のレースだった。

前半62:00 〜 62:30で入るだろうと予想している今年のシカゴマラソン。どの選手が最高の走りをみせるのか、確かなことは誰にもわからない。ラップファラーは自身の歴史にまた新たな1ページを刻むのであるが、1番注目されるのは何故彼らが一緒に練習するのをやめてしまったのか、彼らが今どのぐらい近しい存在なのか、ということでは決してない。

知りたいのはシンプルにこれだ。「どちらが優れたマラソン選手なのか?」である。

 

備考:レッツランはラップファラーの代理人であるリッキー・シムズに接触し、彼らの関係について聞いた(ラップファラーからコメントが欲しいともリクエストした)。まだシムズから返事は来ていない。

 

レッツラン記事

http://www.letsrun.com/news/2018/10/prepare-face-off-chicago-marathon-look-history-former-training-partners-mo-farah-galen-rupp/

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