プロ陸上選手と他のスポーツのプロ選手との1番大きな違いの1つは、“金銭”に関することである。プロ陸上選手よりも、プロフットボール(アメフトとサッカーの両方)の選手のほうが潤沢な資金があることは誰でもわかるだろう。しかし、正確にはいくらあるのか?
Spotrac.comというウェブサイトがNFL、MLB、NBA、そしてNHLの全チームの登録選手の給料を一覧表にして掲載した。NBAのMVP選手、ジェームス・ハーデンが2018 – 2019年シーズン中にいくら稼いだかを知りたければ、ヒューストンロケッツのページをクリックすればすぐに見つけることができる。答えは3042万1854ドルである。
Spotrac.comには陸上競技のページがない。それもそのはず、NFLやNBAの方が陸上よりも人気のあるスポーツであるだけではなく、各チームはサラリーキャップ(年俸総額の上限)内で金額を調整しているので、年俸は非常に重要な情報なのである。しかし仮に陸上競技のページがあったとしても、そこに掲載できることはそこまで多くないだろう。考えてみて欲しい。陸上系のブランドや選手が契約内容を公開したことが、これまで何度あっただろうか?

2015年にアンドレ・ドグラスがプーマと契約した際、トロントスター紙が契約金を総額で1125万ドルの価値があると報じた。しかし、それでもその詳細は曖昧だった。記事によると、保証金は400万ドルであるが、※1 減額の可能性については言及しておらず、※2 ボーナスを入れて契約は3000万ドルの価値があると書いてあった。
(※1)故障でシーズンを棒にふる…etc
(※2)世界記録を更新する…etc
また、もう1つの詳細も抜けていた。※3 契約期間である。おそらく、もっとも語られている話はドグラス本人から語られたものである。彼はプロ陸上選手として稼げるお金を知ってから、所属していたUSC(南カリフォルニア大学)を去ると決め、早い段階でプロ転向を決めた。
(※3)プロ野球でいう☆年★億円の“☆”の部分
「お金のことを知る前は、USCに残ってNCAA(アメリカの大学陸上界)で競技する方が価値あることだと考えていた。しかし今は、いくら自分が稼げるかがわかって、NCAAでも多くの実績を残しきたので、プロ選手に転向するのにはちょうどいい時期だと考えたんだ」
ドグラスはスター紙にこう話した。
このトロントスター紙の記事に関して注目に値するのは、その詳細が欠けていたことではなく、契約の大まかな内容を含んでいたことにある。プロ陸上選手の契約発表の推定金額が記事として世に出ることが、そもそもレアなケースだからである。2013年のウサイン・ボルトとプーマとの契約で、プーマが彼に1000万ドル支払ったとCNBCが報道した。しかし、一般的には陸上競技においてのプロ契約に関する詳細が出るのはごく稀なことである。
そもそも、選手が契約をスポーツメーカーとしているかどうかさえ知るのも、難しいことがある。今年の序盤、マシュー・セントロウィッツについて記事を書いていた時には、セントロウィッツのナイキとの契約が2017年シーズンで切れる(= 契約更新の時期)ということを確認するために、彼の代理人であるリッキー・シムズに質問をしたことがあった。シムズは「一般的にはこのようなことは公表しないので」ということで、回答を辞退したのである。
プロ陸上選手の契約に関する洞察は2016年にあった。レッツランがアメリカの800m選手ボリス・ベリアンのニューバランスとの契約内容を公表した時である。この契約は、スポンサーシップ権に関してナイキがベリアンを訴えなかったら、このニューバランスとの契約が公になることはなかっただろう。この出来事から我々が学んだ1番のことは、プロ陸上選手でさえも、※ 他のプロ陸上選手がいくら稼いでいるかどうかを知らないということだ
(※ つまり、プロ野球のようにデータベースで“可視化”されていないということである)。
(ベリアンと同じくアメリカの元ナイキのプロ選手だった)※1 カラ・ガウチャーは、ベリアンの契約を「1年で3.5万ドル 〜 4万ドルの価値があるだろう」と推測した。ベリアンと同じく元ナイキのプロの800m選手だった※2 ニック・シモンズは7.5万ドルと推定した。このベリアンの契約の実際の年俸とは?それは※3 “12.5万ドル”である。
(※1)カラ・ガウチャー:2007年大阪世界選手権の女子10000m銀メダリスト
(※2)ニック・シモンズ:2013年モスクワ世界選手権の男子800m銀メダリスト
(※3)実際のニューバランスの契約書 →PDF 765KB
レッツランの根本的な目標は、陸上競技の知識を広めることにある。選手のプロ契約に関して、陸上というスポーツの財政状況の現実について公にすることは、※ 選手にとってもファンにとっても大切なことであると感じている。
(※ これからプロ陸上選手として成功したいと願っている未来のスター候補の若者にとっても)
そこで我々は、プロ契約の詳細について交渉を取りまとめる人々のところへ辿り着いた。つまり、陸上競技の代理人である。8月初旬、レッツランは何人かの陸上競技の代理人に連絡をとり、39人のプロ陸上選手の2018年の年俸の調査、さらに2018年ボストンマラソンの招待選手のアピアランスフィー(出場招待料)のついてのアンケートへの協力を依頼した。アンケートへの回答を拒否する代理人もいたが、5人の代理人からアンケートへの回答を得た。
ピンバック: プロ陸上選手の年俸:彼らはどれぐらい稼いでいるか?陸上界の謎を解く – その2 – LetsRun.com Japan