“史上最強”から“史上最速”に到達 – 2:01:39 – エリウド・キプチョゲが世界新記録でベルリンマラソン2連覇

“史上最高のマラソン選手が、マラソンで史上最高のパフォーマンスを魅せた”。

エリウド・キプチョゲのマラソンにおけるキャリアで何年もの間欠けていたもの、それは世界記録だった。しかし、それも今や過去の話。2018年BMWベルリンマラソンでの圧倒的な走りで、キプチョゲは2:01:39という人類初、今まで誰も成し遂げたことのないマラソン2:02の壁を破り、マラソンという競技を新たな次元へと引き上げてくれた。4年前にデニス・キメットが出したこれまでの世界記録から78秒も記録を縮めた。

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これまで見てきたどんなマラソンレースと比べても、比にならないほどの素晴らしいレースだった。いや、他のレースと比べること自体が間違っているのかもしれない。他の競技でこのすごさを例えると、NBAが誇る伝説のバスケットボール選手ウィルト・チェンバレンの1試合100得点や、※ウサイン・ボルトの100mでの世界記録更新と同じぐらいの快挙である。

(※ ボルトの100m:9.58の世界記録も2009年の世界選手権 = 今回と同じ場所 = ベルリンで記録された)

今回のレースでの前半61:06、後半60:33というキプチョゲのラップタイムはまるで漫画の話のようであるが、これは現実に起こったことである。

1967年にデレク・クレイトン(オーストラリア)が当時の男子マラソンの世界最高記録を※ 2:12:00から2:09:36に縮めた。1969年にクレイトンが自らの世界最高記録2:09:36を2:08:34に縮めて以来、男子マラソンのレースで世界最高記録(2004年以降から“世界新記録”と表記可能になった)が1分以上更新されたことは、これまでなかった。

(※ 1967年の福岡国際マラソンでそれまで重松森雄が持っていた世界最高記録を2分23秒6も更新する、2:09:36の世界最高記録を樹立した = 世界初のマラソンサブテン)

キプチョゲの“唯一無二”の成功

キプチョゲの記録はこれまでのマラソン界において大きな進歩である一方、33歳のこのケニア人選手は、ここ何年もの間、他の選手と比べて彼だけが“別次元”を維持し続けていた。今回の優勝は(Breaking2を除いて)彼の11回のマラソンのうち10回目の優勝となった(これは9連勝でもある)。現代のマラソン界において“唯一無二”の成功を成し遂げたのである。これまでも、キプチョゲがいつかキメットの2:02:57という世界記録を更新できるということは明白だったが、世界記録更新の条件が揃うことはこの日まではなかった

キプチョゲの過去2回のベルリンマラソンが、その事実を証明している。2015年、キプチョゲはシューズのインソールが外側に飛び出たままレースの大半を走って2:04:00の記録で優勝。2017年、雨が降って路面が滑りやすい状況で2:03:32で2度目の優勝。

そして、今年のベルリンマラソン。良い記録を出すための絶好のコンディションだった。気温はスタート時で約14℃、キプチョゲのフィニッシュ時は約18℃。風も少し吹いていたが時より涼しく感じる程度。世界記録が出るための最適な好条件をキプチョゲは最大限に利用したのである。

キプチョゲの後ろは、ケニアのアモス・キプルト(自己記録2:05:43、2017年ソウルマラソン優勝)が2:06:23で2位に入り、元世界記録保持者のウィルソン・キプサングは2:06:48で3位だった。日本の中村匠吾が2:08:16で走り、非アフリカ勢としては最高順位の4位に入った。ハーフマラソン世界記録保持者のゼルセナイ・タデッセ(エリトリア)が公認大会で初めてのサブテンを達成し、2:08:46の5位だった。

レース展開

レース前のプランは、3人のペーサー(サミー・キトワラ、バーナード・キプケモイ、ジョスファット・ボイト)が2:02:00ペース(ハーフ61:00)でキプチョゲを先導するプラン。第2グループはウィルソン・キプサングなどを2:03:00ペース(ハーフ61:30)で先導する、というものだった。

今年のロンドンマラソンと違って、このトップ集団2つのペースグループが混ざることはなく(ロンドンでは一緒になってしまった)、終始グループごとに離れてのレースとなった。1マイルもいかないうちにキプチョゲのグループが抜け出し、レースの序盤から独走体制を築いた。

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©︎2018 Sushiman Photography  キプチョゲ“専用”ペーサーとともに序盤から独走(写真:5.5km地点)

最初の1kmを2:43で入ったおかげで、5kmを※ 14:24で通過。キプサングや2:05台の記録を持つアモス・キプルトアベラ・クマに9秒の差をつける。キプチョゲは5 〜 10kmと10 〜 15kmの5kmをどちらも14:37で走り、世界記録ペースへの貯金を少し減らした。15kmからは、力強くリラックスした状態で走るキプチョゲではなく、ペーサーに大きな問題が起こった。

(※ 従来の世界記録の2:02:57は 2:54.8 / km = 5km14:34)

レース序盤から、キプチョゲはペーサーの後ろで風除けのためにペーサーのフォーメーションを絶えずチェックしていた。しかし、すぐに問題は起こった。自己記録でハーフ58:48とマラソン2:04:28を持つキトワラが、当初のプランではキプチョゲを30kmまで引っ張り、3人のなかでは最後まで(30kmまで)残るペーサーの予定だったが、30kmの半分も保つことができずに15km手前で突然抜けてしまったのだ。

15kmを過ぎてからは、今年ハーフで59:19の自己新を出したボイトを置いて、キプチョゲキプケモイと2人だけで走った。結局、キプケモイキプチョゲと1番長く一緒に走った唯一のペーサーとなった。キトワラキプケモイが抜けたことにより、何か有利なことがあったとするならば、キプチョゲが何も気にせず自由に走れるなったことだろう。15 〜 20kmの14:18は、今回のレース中で1番速かった。

その後61:06で中間点を通過した。これは4月のロンドンマラソンのキプチョゲの中間点の通過記録より6秒遅かったが、マラソンにおいては史上2番目に速い通過記録だった。20 〜 25kmを14:28で通過、とうとうボイトはこのペースについていけなくなってしまっていた。残り10マイル以上(16km以上)残しながら、キプチョゲは1人で“正真正銘”の独走体制を築いた。彼の唯一の対戦相手であり彼の前方を走る先導車は、キプチョゲのタイムを刻一刻と刻んでいた。

「残念ではあった」

ぺーサーによるペース作りの難しさについて、キプチョゲはこう話した。

「でも、ベルリンに向けて準備は整っていると自分を信じていた。自分でレースを進めなければならなかった」

ペーサーがいない状態で走るという恐怖を、キプチョゲはすぐに払拭した。25 〜 30kmを14:21で走り、ついに彼は未知の領域へと足を踏み入れた。30km通過を※ 1:26:45という速さで走った選手はこれまで誰もいない。

(※ Breaking2 を除く)

驚いたことに、キプチョゲはそこからさらにスピードを上げていた。30km地点でちょうど2:02:00ペースになっていた。キプチョゲの表情が時より歪んでいたものの、彼の脚は信じられないスピードでラップを刻んでいった。35kmの通過記録が出ると(1:41:03、30 〜 35kmが14:18)、キプチョゲは2:02を切るペース(2:01:49)になっていた。35 〜 40kmを14:30と僅かにペースを落とした(しかし、世界記録ペースは上回っており、2:02:00より少しだけ遅いペース。2:02:00ペースは14:27)。

その時点で世界記録は、ほぼキプチョゲのものになっていた。しかし、2:02を切れるかどうかは微妙なところだった。しかし、キプチョゲはおそらく、この後どんなペースで走ろうとも“世界記録をここで残せる”とわかっていたのだろう。そして、ラストスパートをかけた。

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©︎2018 Sushiman Photography  ラスト2.195kmを6:07でカバー(写真:40.5km地点)

キプチョゲは40kmからゴールまでの最後の2.195kmを6:07(2:47.2 / km=マラソン1:57:34ペース)で走った。集まった観客に敬意を表し、フィニッシュライン手前で胸を2回叩いた。歓喜とともに手を叩き、待ち構えていたキプチョゲのコーチであるパトリック・サングに駆け寄った。普段真面目なキプチョゲにとっては珍しい、しかし当然ともいえる、純粋な歓喜を表現した瞬間だった。

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