ダイヤモンドリーグユージン大会1日目展望(男子800m、男子2マイル):キング・チェスがプロ選手としてヘイワードフィールドに凱旋

プリフォンテーンクラシックほど、アメリカのレースで多くの才能ある選手を魅了する大会はない。アメリカで開催される唯一のダイヤモンドリーグのため、レベルが高い大会になる。しかし、プリフォンテーンを世界でも屈指の大会にしているのは、非ダイヤモンドリーグ種目の競技だと言えるだろう。

バーミンガム世界室内王者のクリスチャン・コールマンと屋外王者のジャスティン・ガトリンの男子100m対決か?リオオリンピック王者(マシュー・セントロウィッツ)、ロンドン世界選手権王者(エリジャ・マナンゴイ)、バーミンガム世界室内王者(サムエル・テフェラ)の対決となるバウワーマンマイルか?

両種目ともダイヤモンドリーグのポイントには加算されないが、2018年プリフォンテーンクラシックの最も楽しみな種目といえるだろう。今大会は、ヘイワード・フィールドが解体されリニューアルされる前の最後のプリクラシックとなる。

今週はプリクラシック関連記事をたくさん出す予定で、木曜日にはユージーンに直接向かう。土曜日のレースの展望はこの後出すが、まずは金曜日に開催されるレースの展望をお届けする。男子800mと男子2マイルである。両種目とも強豪選手が集まっている(ナイジェル・アモス、エマニュエル・コリル、ドナヴァン・ブレイザー、ポール・チェリモ、エドワード・チェセレク、ムクター・エドリスなど)。

金曜日には男子800mと男子2マイルに加え、男子棒高跳(レナウド・ラヴィレニサム・ケンドリック、シアゴ・ブラッツ)や男子やり投も注目だ。男子やり投にはドイツから3選手、ヨハネス・フェッター、トーマス・レーラー、アンドレアス・ホフマンが出場するが3選手とも今年90m以上の記録を出している。加えて、女子800mと女子1500mも開催される。

男子800mと男子2マイルの展望をお届けする。

 

男子800m:コリル vs. アモス vs. ブレイジャー vs. クチョット!

選手 国籍 自己記録 今季最高記録
ハラン・アブダ アメリカ 1:45.55 1:48.18
ナイジェル・アモス ボツワナ 1:41.73 1:44.65
キピエゴン・ベット ケニア 1:43.76
ドナヴァン・ブレイジャー アメリカ 1:43.55
エマニュエル・コリル ケニア 1:43.10
アダム・クチョット ポーランド 1:43.30
カイル・ラングフォード イギリス 1:45.25 1:45.61
エリック・ソウィンスキ アメリカ 1:44.58

korir2-334x400男子800mは、世界室内選手権で誰もが見たかったであろう種目である。’18全米室内選手権王者のドナヴァン・ブレイジャーに加え、バーミンガム世界室内選手権王者アダム・クチョット、そしてエマニュエル・コリル(ミルローズゲームで出した1:44.21はここ17年間での室内800mの最高記録)、2017年世界No.1のナイジェル・アモス、そして2017年ロンドン世界選手権銅メダリストのキピエゴン・ベットらが出場する。

ブレイジャー(予選で失格)もコリル(ビザの発行が間に合わず)もバーミンガム世界室内選手権では決勝の舞台に立つことができず、室内のマエストロであるクチョットが優勝した。金曜日には、すべての選手がスタートラインに立てることを祈っている。いいレースになることは間違いない。

優勝候補はコリルだ。彼は5月4日のダイヤモンドリーグ・ドーハ大会でクチョットらを破って優勝した。コリルは今年に入って2レースしか走っていないので、彼の活躍を忘れてしまったファンがいても許してあげよう。簡単に彼の経歴を遡ってみよう。

 

  • コリルのキャリアの始まりは400mの選手として始まり、800mに転向したのは2016年のことだった。それ以来、彼が負けた800mのレースは2回だけである。1回目は、2016年ケニア選手権。まだ20歳だったコリルは当時の自己記録1:46.94を出して8位に入った。Tilastopajaによると、このレースはコリルにとっては3回目の800mのレースだったようである。800mに取組んでから2シーズン目となった昨年はロンドン世界選手権に出場したが、予選で股関節屈筋を痛め決勝に進むことができなかった。
  • UTEP(テキサス大学エルパソ校)の1年生として迎えた昨年、全米学生室内選手権の3週間前のトラックレースの決勝を、足首の故障により欠場するも、それでも全米学生室内選手権で素晴らしい走りをみせて全米学生王者となった。
  • 2017年後半、コリルのダイヤモンドリーグデビューとなったモナコDLで、昨シーズン世界最高記録となる1:43.10のタイムを出す。
  • 彼は今年の室内で1:44.21のタイムを出している。室内800mにおいてこれより速いタイムで走ったことのある選手は、前世界記録保持者のウィルソン・キプケテルと2004年アテネオリンピック金メダルのユーリー・ボルザコフスキーの2選手だけである。

 

コリルのペースを落とさない後半の伸びと、驚くほど速い400mのスピード(自己記録44.53)は、デイビッド・ルディシャを彷彿とさせる。デイビッド・ルディシャコリルのようにケニアのイテンのセント・パトリック高校を卒業しブラザー・コルム・オコネルの指導を受けた(コリルは現在1988年ソウルオリンピック金メダリストのポール・エレングの指導を受けている)。ルディシャが達成してきた偉業にコリルが追いつくまでにはまだまだ時間はかかるが、コリルは特別な選手である(ちなみに、ルディシャの400mの自己ベストは45.50である)。

2017年の残念な出来事といえば、コリルと世界No.1のナイジェル・アモスとの直接対決がなかったことだ。しかし、その対決も金曜日に見ることができる。アモスはキャリアをスタートしてから多くのメダルを獲得してきたが(世界ジュニア選手権銀メダル、2012年ロンドンオリンピック銀メダル、2013年ユニバーシアード金メダル、2014年コモンウェルスゲーム、アフリカ選手権金メダル)、近年にメジャーな選手権では活躍できていない。

2015年北京世界選手権と2016年リオオリンピックでは決勝進出を逃しており、2017年ロンドン世界選手権では優勝候補であったがメダル争いに絡むことができなかった。2017年はメダルを獲得できなかったが、ユージンを拠点(オレゴントラッククラブ)にするアモスは、それでもレッツランとTFNが選ぶ現在の世界No.1の800m選手にランクインしている。

もっと最近では、オーストラリアで開催されたコモンウェルスゲームで最下位でゴールしている。しかし、ふくらはぎを故障していたのが原因のようだ。ポートランド・トリビューン紙によると、アモスは故障から3週間休養ととり、5月3日ごろに練習復帰をしたようだ。プリフォンテーンは復帰後初のレースとなるため、この強豪揃いのレースで彼に優勝を期待するのは、期待しすぎなのかもしれない。

出場選手の中で、ブレイジャーだけは今年の屋外レースを走っていない。しかし、彼の今年の室内での成績は素晴らしく、全米室内選手権を1:45.10で優勝しており、ジョニー・グレイがもつ全米室内記録の1:45.00に迫る走りを何度もしている。

ブレイジャーは昨年出場した3回のダイヤモンドリーグでは、好調な走りをみせた(ローマDL3位、ロンドンDL2位、ラバトDL3位)。しかし、今大会のこのレースで優勝すると、過去10年においてアメリカ人選手がプリフォンテーンクラシックの男子800mで優勝した3人目の選手となる(2009年ニック・シモンズ、2016年ボリス・ベリアン)。

レッツランの予想:アモスの調子が読めないのと、上海DL優勝のワイクリフ・キンヤマルが今回出場しないことを考慮すると、コリルが優勝候補である。もしコリルがペーサーについていけば、2014年大会でアモスが出した大会記録の1:43.63を破ることができるだろう。

男子2マイル:キング・チェスがプロ転向後初めてヘイワード・フィールドに戻ってきた。強者相手にどう走るか?

選手 国籍 備考
モー・アーメド カナダ ’18コモンウェルスゲーム5000m / 10000m銀メダル
ビルハヌ・バリュ バーレーン ’18上海DL5000m優勝
セレモン・バレガ エチオピア バーミンガム世界室内選手権3000m銀メダル
エマニュエル・ボア アメリカ 室内3000m自己記録7:44
ポール・チェリモ アメリカ ’18全米室内選手権1500m / 3000m優勝
エドワード・チェセレク ケニア 室内1マイル自己記録3:49
ムクター・エドリス エチオピア ロンドン世界選手権5000m金メダル
ライアン・ヒル アメリカ モスクワ、北京、ロンドン世界選手権全米代表
ヘンリック・インゲブリクトセン ノルウェー ペイトン・ジョーダン招待5000m優勝
エリック・ジェンキンス アメリカ ’17全米選手権5000m2位
シャドラック・キプチルチル アメリカ 10000m自己記録27:07
ジェイコブ・キプリモ ウガンダ ’17世界クロスカントリー選手権ジュニアの部優勝
ロペス・ロモン アメリカ オリンピック2回出場
ハッサン・ミード アメリカ ’17全米選手権10000m優勝
アルベルト・ロップ バーレーン 5000m自己記録12:51
アッバビヤ・シンバサ アメリカ ’17全米選手権10000m4位
ポール・タヌイ ケニア モスクワ、北京、ロンドン世界選手権10000m銅メダル、リオオリンピック10000m銀メダル
ベン・トゥルー アメリカ ’17ミルローズゲーム(室内)2マイル優勝
リチャード・キムニャン ケニア 日立物流所属の20歳。昨年日本で13:22の自己新記録

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男子2マイルを2018年プリクラシックの1番の注目の種目と呼べるかどうかはわからない。なぜならば、出場選手を見てみると、どの種目においても多くのスター選手がエントリーしているからだ。しかし、中長距離ファンとして、このレースは興味をそそられる種目であることは間違いない。

なぜならば、エドワード・チェセレクが世界の強豪選手らと競うレースを見ることのできる絶好の機会なのだから。

今年初め、チェセレクは室内1マイルにおいて世界歴代2位(3:49.44)を出し、その後室内3000mで7:38の記録を出して、リオオリンピック5000m銅メダリストのハゴス・ゲブリウェトを破った。

しかし、ご存知の通り、チェセレクはまだアメリカ市民権を得ていないし、ケニア代表として走ることでアメリカ市民権獲得の手続きを遅らせたくはないと思っている。ボストンで2日連続で勝ったレース以来、チェセレクは世界室内選手権を走っていない(あえてケニア代表として出場しない)ので、彼をトラックで見るのは今大会が初めてである。

今回チェセレクはスケチャーズのプロ選手となって初めて屋外のトラックレースに出場する。ヘイワード・フィールドほどそれにふさわしい場所はないだろう。ヘイワード・フィールドは、チェセレクのオレゴン大学時代のホームトラックであり、オレゴンダックスの一員として全米学生選手権で※5つのタイトルを獲得した。彼が初めてのプリフォンテーンクラシックでどのような走りをしてくれるか、誰もが楽しみにしている。

(※全米学生クロスカントリー選手権と、全米学生室内選手権を除く屋外レース=全米屋外学生選手権において5つのタイトル=10000m3連覇 + 5000m2連覇)

出場する選手は強豪揃いであるが、チェセレクには優勝できるチャンスがある。1マイル3:49という記録は彼の本気のスピードであるが、チェセレクの得意種目はおそらく3000〜5000mであろう。なので、今回の2マイルは彼にとってはベストな種目といえる。

チェセレクはアリゾナ州のフラッグスタッフで週100マイル(160km)の走り込みを行い、室内1マイルで素晴らしい記録を出した。彼が2月の時のように良い状態かどうかわからないが、彼が高地で行ってきた練習によって、彼を前回よりはさらに良い選手となるように仕上げているだろう。

しかし、チェセレクはもう大学生ではない。大学生だった彼は、どのレースを走っても負け知らずの選手だった。プロの世界では、そうはいかない。そう、ラストのスプリントは大切だが、世界でトップの選手になるには、最後のスプリントを出すまでに戦略を練る能力を持ち合わせていなければならない。

それは、大学ではチェセレクが必要としていなかった能力である。チェセレクは今年、プロレベルのレースでの戦い方を学び、世界大会で戦えることになった際にはすぐにメダル争いに絡むことができるようになる必要がある。それが、今年チェセレクに必要なことだ。

今回のレースは世界選手権やオリンピック決勝とは同じレベルとまではいかないが、それに近いレベルといえる。絶好調の選手も何人かいるので、このレースで優勝することは全く簡単なことではない。チェセレクが優勝する可能性もあるが、彼が対戦する強豪選手たちを忘れてはならない。

例えば、ポール・チェリモだ。彼は今年の室内で素晴らしい成績を残しており、バーミンガム世界室内選手権の3000m予選で失格になっていなければ、優勝していた可能性もある。彼はまだ選手として発展途上の選手である。上海DLではラスト200mで12回後ろを振り返り、それで優勝をあと1歩のところで逃したが(チェセレクは大学時代もラストで後ろを振り返る癖があった)、それでも彼の調子が良いことが結果として表れている。

記録だけで見ると、1番のライバル選手はロンドン世界選手権金メダリストのムクター・エドリスである。しかし、彼は上海DLは5位、先週のアディダスブーストボストンゲームの3000mでは3位に終わっており、今大会で優勝を狙うには物足りない成績である。

彼以外には、他に2人の優勝候補がいると考えている。バーレーンのベルハヌ・バリュとエチオピアのセレモン・バレガだ。バリュは2週間前の上海DLでチェリモを破っており、バレガは昨年のロンドン世界選手権で5位、バーミンガム世界室内選手権ではケジェルチャの後ろで2位だった。

もし、チェセレクがアメリカ市民権を得た際には、彼が全米代表として世界トップクラスの選手たちを倒していくと考えている人もいると思うが、バレガはまだたった18歳である。チェセレクよりほぼ丸6歳若いことになる。

かつ、3000m(7:36 vs 7:38)と5000m(12:55 vs 13:18)においてチェセレクよりも良い自己記録を持っている。バレガの年齢を疑うのは止めてほしい、チェセレクも年齢に関しては不確かなこともあるからだ。それと、ハイレ・ゲブレセラシエが、バレガをエチオピアの次なるスター選手に選んだと、掲示板に情報があがっていた。

カナダのモー・アーメドも優勝候補に入れるべきだろう。彼は先月のコモンウェルスゲーム男子5000mと男子10000mで銀メダルを獲得しており、13:01と27:02の自己記録を持っている。しかし、1度も全米学生選手権で優勝したことがない選手が今大会で優勝できるとも思っていない。特に1500mの自己記録が3:40だと難しいだろう。

なぜならば、今回のレースは2マイルだからだ。時計から目を離してはいけない。ケニアのダニエル・コーメンだけが唯一8:00を切る記録を持っている(7:58.61)。もし金曜日にこの記録を切る選手がいたら、驚きだ。大会記録も素晴らしい記録が残っている。クレイグ・モットラムが2007年に8:03.50で走り、自分の勝利の要因を“肝っ玉の大きさ”と表現したことを覚えているだろうか。

 

【2007年プリクラシック男子2マイル動画】

 

それに近い記録としては、同じく2007年のマット・テゲンカンプの8:07.07の記録だ。チェリモはこの記録に挑戦できる力があるが、それは簡単なことではない。思い出してほしい、テゲンカンプは、この記録を出した年の大阪世界選手権でたった0.03秒差でメダルを逃している。それに、彼のタイムは、これまの素晴らしい選手たちが2マイルで出してきた記録よりも速かった。

 

プリクラシックでのこの5回の男子2マイルの優勝者(2012年以降は男子2マイルの種目は開催されていない)

優勝者 記録
2005年 エリウド・キプチョゲ 8:07.68
2006年 ベンジャミン・リモ 8:10.59
2007年 クレイグ・モットラム 8:03.50
2008年 バーナード・ラガト 8:12.45
2011年 バーナード・ラガト 8:13.62

このレースを土曜日の日中ではなく金曜日の夜に開催してくれるプリクラシックのオーガナイザーに感謝したい。なぜならば、金曜日の夜の方が断然コンディションが良いからである。

レッツランの予想:色んな見方があるとは思うが、チェセレクの最近の室内での活躍は、他の選手に比べれば断然良いと言える。それに、彼のプロとしての初屋外レースの優勝を、ヘイワードフィールドで見ることができたらどんなにクールなことか。我々は、チェセレクが8:08で優勝、チェリモがその僅か後ろでゴールする(しかし、全米記録は出せない)と予想する。
しかし、それはただの予想でしかない。彼らがどんな練習を積んできたかを知らないので、結果を言い当てることは不可能だ。チェセレクOxyにエントリーしながらも出場しなかったことに関しても、少し不安だと考えている。

 

レッツラン記事

http://www.letsrun.com/news/2018/05/2018-pre-classic-friday-night-preview-edward-cheserek/

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