金曜日の夜に、2018年のダイヤモンドリーグシーズンがドーハで開幕した。キャスター・セメンヤの3分台、弱冠17歳のジョージ・マナンゴイの3:35.53、エマニュエル・コリルの勝利など競技を振り返っていく。
【女子1500m】
キャスター・セメンヤ:ダイヤモンドリーグでの初1500mで初の4:00切りを達成
IAAFが新規則の導入を発表したことにより、テストステロン値を下げなければ、キャスター・セメンヤが女子800mと女子1500mにおいてプロレベルで走れる最後とシーズンになる。そんなセメンヤは、ラスト100mでいとも簡単に他の選手を突き放し、自身初となる4:00切りの3:59.92というタイムで優勝した。
信じられないかもしれないが、彼女のキャリアにおいてダイヤモンドリーグでの初めての1500mとなった今回のレースで、彼女はすごく落ち着いているように見えた。ペースは安定せず、最初の400mの入りが62.6で、その後2:11.05(2周目68.4)までペースは落ち、1200m通過は3:14.35(3周目63.3)、この段階でセメンヤはまだ5番目を走っていた。
バックストレッチから先頭に出る動きを見せ、最終コーナーでネリー・ジェプコスゲイの後方から上がってきて、ラスト100mを持ち前のパワーで押し切った。2位のジェプコスゲイに1秒以上の差をつけて3:59.92で優勝した。ダイヤモンドリーグでの初めての1500mで素晴らしい走りをみせてくれた。レース後にオリンピックチャンネル放送のインタビューに、
「優勝できて良かった。4:00切りは常に夢見てきたこと。目標を達成できた」
と喜んで答えた。しかし、その後レポーターに
「もっといい記録を出したかったが、(2周目に)少しペースダウンしなければならない状況だった。ナショナルレコード=南アフリカ新記録を出して、自己記録を更新し続けることが、常に目標。今日はその目標を達成できたと思っている」
とも答えた。
1500 Metres - Women Pts 1 Semenya , Caster RSA 3:59.92 8 2 Jepkosgei , Nelly KEN 4:00.99 7 3 Alemu , Habitam ETH 4:01.41 6 4 Sado , Besu ETH 4:01.75 5 5 Samuel , Alemaz ETH 4:01.78 4 6 Tsegay , Gudaf ETH 4:01.81 3 7 Arafi , Rababe MAR 4:03.69 2 8 Kiyeng , Judith Jemutai KEN 4:03.87 1 9 Sum , Eunice Jepkoech KEN 4:05.38 10 Chebet , Winny KEN 4:05.76 11 Hall , Linden AUS 4:07.07 12 Buckman , Zoe AUS 4:07.25 Akkaoui , Malika MAR DNF Tuei , Emily Cherotich KEN DNF Yarigo , Noélie BEN DNF
2018年にセメンヤはダイヤモンドリーグで何勝できるだろうか?
今年、ダイヤモンドリーグのシーズンにおいて女子800mは6つ、1500mは5つのレースがあ理、2大会で800mと1500mが重複している。それらを除くと、合計で9つのダイヤモンドリーグのタイトルが獲れる可能性がある。
1タイトル=1位は$10,000なので、合計$90,000である。それに加えて、シーズン終盤に行なわれる2回(800mと1500m)のダイヤモンドリーグのファイナルには優勝賞金の$50,000が用意されている。それらを全て獲れるとすると、今年の優勝賞金の総額で$190,000獲得できる可能性がある。彼女が全てのレースに出場し、全てで優勝する見込みは少ないが、オリンピックも世界選手権もない今年なら、“挑戦しない訳がないでしょ?”と彼女なら言いそうだ。
【男子1500m】※ノングランプリ種目
17歳のジョージ・マナンゴイが3:35.53の快走
これはダイヤモンドリーグの種目ではない(ノングランプリ種目)が、弱冠17歳のジョージ・マナンゴイが最終ラップを55.5で走り、3:35.53という記録で2位に入り、レースをエキサイティングなものにしてくれた。
昨晩(ペイトン・ジョーダン招待で)17歳のヤコブ・インゲブリクトセンが最終ラップを55、3:39の自己新記録で優勝し大歓声を受けたことを考えれば、素晴らしい結果である。世界室内選手権3000mのメダリスト、ベスウェル・バーゲンだけがペーサーについていき、残り400m(2:37.7)でも20mほどのリードを保っていた。しかし、後方集団がバーゲンを吸収し、最終コーナーに入る。
ここでケニアのチャールズ・シモトゥーが先頭に出るも、残り200mの短い間で先頭が何度も入れ替わり、残り200m地点では優勝したタレサ・トロサはまだ5番目にいた。しかし、そこから巻き上げ3:35.07でフィニッシュ。残り200mで更にその後方にいた世界ユース選手権王者のマナンゴイ(ロンドン世界選手権金メダルのエリジャ・マナンゴイの弟)でこの時8位につけていたが、ラスト50mの猛烈な追い上げで、見事自己記録を更新した(以前の自己記録は3:36.20だった)。
1500 Metres - Men 1 Tolosa , Taresa ETH 3:35.07 2 Manangoi , George Meitamei KEN 3:35.53 3 Kiplagat , Justus Soget KEN 3:35.71 4 Simotwo , Charles Cheboi KEN 3:36.40 5 Birgen , Bethwell KEN 3:36.54 6 Iguider , Abdelaati MAR 3:36.59 7 Gregson , Ryan AUS 3:37.00 8 Cheboi , Collins KEN 3:37.83 9 Kibet , Vincent KEN 3:38.11 10 Williamsz , Jordan AUS 3:40.06 11 Elkaam , Fouad MAR 3:40.91 12 Bellemore , Corey CAN 3:41.34 13 Ali , Musaab Adam QAT 3:41.90 Kivuva , Jackson Mumbwa KEN DNF Rotich , Andrew Kiptoo KEN DNF
マナンゴイの走りはあまり話題にならなかった
マナンゴイのこの走りは、大きな話題にはならなかった。アスベル・キプロプのドーピング陽性反応問題が起こっており、ケニア出身の1500mの選手に関しては疑いの目が向けられているとい事情がある。また、ケニアでは年齢詐称が過去にも発生しており、マナンゴイが本当に17歳なのかと疑っている者もいるようだ。いずれにせよ、彼の出した今日のタイムと兄の活躍があることから、彼は将来のスター選手になりそうだ。
レース後にインタビューに応じたジョージは、
「自己記録を更新できて2位に入れてとても感謝している。僕の人生にとって大きな恵みだし、世界ジュニア選手権に向けて厳しい練習をしているので、その励みにもなった。兄の活躍も願っているよ。すぐこの後に彼は800mを走るんだ。サポートしてくれたコーチとチームメイトに感謝したい。彼らがいたから、今日ここに自分がいれるんだ」
その後に行われた男子800mで2位に入った兄のエリジャは、
「弟と自分がともに2位に入れて幸せだよ。トラックに入る前に、今日はうまくいくと弟に話したんだ。彼のことをすごく誇りに思うよ。今年の目標は、彼の後を追って1500mを走ることだ」
と述べた。
【女子3000m】
ジェニー・シンプソンは全米記録に及ばず。ハーフマラソン1:05の記録を持つキャロライン・キプキルイが優勝
ジェニー・シンプソンが8:30.83の4位という良い記録を出したが、薬物使用によるメアリー・スラニーの全米記録(8:25.83)は今日でも残り続けている。このレースの優勝はハーフマラソンで1:05:04の記録を持つキャロライン・キプキルイで8:29.05だった。
ペースは序盤から速く、1000m通過が2:49(2:50でゴールタイム8:30ペースである)、2000,通過はペースダウンし5:42。レースは11人もの大集団で進み、ジェニー・シンプソンが我慢が切れたように残り2周で先頭に出る。
残り600m前付近でシンプソンは後方の選手に抜かれる。残り300mで再度巻き返したが、バックストレッチでアグネス・ティロプに抜かれ、後方の選手に次々に抜かれてしまう。ティロプがホームストレッチで先頭に立つも、キプキルイのスパートが決まってキプキルイが優勝。ティロプが外側のレーンに移動したためキプキルイは3レーンでゴールせざるを得なかったが、最終ラップを62.5でカバーした彼女が優勝した。
3000 Metres - Women Pts 1 Kipkirui , Caroline Chepkoech KEN 8:29.05 8 2 Tirop , Agnes Jebet KEN 8:29.09 7 3 Kiyeng , Hyvin KEN 8:30.51 6 4 Simpson , Jennifer USA 8:30.83 5 5 Gidey , Letesenbet ETH 8:30.96 4 6 Rengeruk , Lilian Kasait KEN 8:33.13 3 7 Mamo , Meskerem ETH 8:33.63 2 8 Degefa , Beyenu ETH 8:35.76 1 9 Can , Yasemin TUR 8:36.24 10 Jeruto , Norah KEN 8:37.09 11 Tesfay , Fotyen ETH 8:47.73 12 McColgan , Eilish GBR 8:48.03 13 Minsewo , Aberash ETH 8:51.93 14 Obiri , Hellen KEN 8:53.65 15 Tuei , Sandrafelis Chebet KEN 8:58.04 16 LaCaze , Genevieve AUS 9:31.14 Kuria , Mary Wangari KEN DNF Tverdostup , Tamara UKR DNF
マルチに活躍するキプキルイ
キプキルイは今年のRAKハーフマラソンで1:05:04で走ったが、女子のレベルが高くそれでも3位という順位だった。しかし、その走りにより彼女はかなりのスピードの持ち主であることがわかっていたが、これまでの3000mの自己記録は8:51であった。それでも今回の走りで3000m〜ハーフマラソンまで活躍できる大きな競技の幅を持った選手であることがわかった。昨年トラックの5000mで14:27の記録を出していたが、今回の走りのほうが更に印象的であった。
ヘレン・オビリの期待以下の走り
オビリはこのレースで14位に終わった。最終ラップで大きく後退した。しかし、彼女は今月始めのコモンウェルスゲームの5000mで優勝しているので、調子はいつも通りだったと思われる。
【男子800m】
昨季の世界最高記録を持つエマニュエル・コリルがロンドン世界選手権1500m王者のエリジャ・マナンゴイを抑えて優勝
男子800mは、ラスト100mのキック勝負の争いになった。ロンドン世界選手権1500m王者のエリジャ・マナンゴイが、2017年の男子800mで最も速かったエマニュエル・コリルを何とか倒そうとした。スタートからペースはかなり遅く、勝負の分かれ目は“ラスト200mを誰が一番速く走るか”だった。フィニッシュラインを最初に通過したのはコリルで1:45.21、次いでマナンゴイで1:45.60だった。
世界ジュニア銅メダリストであるケニアのニコラス・キプコエチが3位に入り、ケニア勢は上位3位を独占。バーミンガム世界室内選手権王者のアダム・クチョットは途中まで先頭を走っていたが4位まで順位を下げ、クレイトン・マーフィーは6位に終わった。
レース展開
Embed from Getty Images多くのハイレベルの中長距離レースと同じく、今回のレースもペーサーが前に飛び出したが、誰もそのペースに着いていかない状況で始まった。200mの時点でペーサーと選手の間には大きな差が開いており、ペーサーが51.76で400mを通過し、後方は53秒で通過、その差は広がるばかりだった。残り1周でクチョットが先頭に立ち、その右側にはコリル、その後方では多くの選手がひしめき合った。マーフィーは後方に位置していた。
600mを1:20.24で通過し、コリルとマナンゴイはクチョットを抜き、ゴールへ向かってラストスパート。クチョットは3位を死守しようと踏ん張る。残り50mでマナンゴイがコリルに追いつくかと思われたが、コリルにはラストの脚が残っており、0.39差でコリルが優勝した。その後ろでは、キプコエチがクチョットをとらえ1:46.51で3位に入線、クチョットは1:46.70の4位に入った。マーフィーは先頭争いに参加することはできなかったが、最後の直線で順位を上げ1:47.22で6位に入った。
800 Metres - Men Pts 1 Korir , Emmanuel Kipkurui KEN 1:45.21 8 2 Manangoi , Elijah Motonei KEN 1:45.60 7 3 Kipkoech , Nicholas Kiplangat KEN 1:46.51 6 4 Kszczot , Adam POL 1:46.70 5 5 Rotich , Ferguson Cheruiyot KEN 1:46.76 4 6 Murphy , Clayton USA 1:47.22 3 7 Gakeme , Antoine BDI 1:47.25 2 8 Hairane , Jamal QAT 1:47.62 1 9 Alzofairi , Ebrahim KUW 1:47.79 10 Bett , Kipyegon KEN 1:48.32 Som , Bram NED DNF
コリルがなぜ昨年世界で1番速い選手だったかを思い出させてくる
コリルほどの実力を持ってすれば、もっと世界大会でメダルを獲れているはずであるが、去年彼がNCAAを去ってからというもの、2回の大きなチャンピオンシップで不運に見舞われていた。全米大学選手権で優勝した後、ロンドン世界選手権のケニア選考会で優勝し、モナコDLでも優勝した。彼の活躍は約束されたかのように見えたが、世界選手権で故障し、決勝に進むことができなかった。
今年の室内シーズンにおいては、ミルローズゲームの800mで1:44.21のタイムを出し、過去17年間の間で最も速い記録をマークしたが、ビザの問題が発生しバーミンガム世界室内選手権に出場することができなかった。これらの不運にもめげず、彼は良い状態を維持し続け、今シーズン後半にはマイケル・サルニ(UTEPの元チームメイト)やドナヴァン・ブレイジャーらと共に肩を並べて戦う、100%の状態のコリルを見れることを祈っている。
レース後、コリルは次の様に語った。
「シーズン初めのレースだった。良い走りができてとても嬉しいよ!観客も素晴らしく、僕を応援してくれた。スタジアムでこのようにサポートしてもらえて嬉しいよ。2018年の目標は自己記録更新さ」
エリジャ・マナンゴイ:コモンウェルスゲームでシーズンインの後も好調続く
マナンゴイは1500mのスペシャリストである。しかし、今日は800mに距離を縮めた。そこでコリルは彼の自己3番目の記録で走った。マナンゴイは通常よりも早くシーズンインし、先月のコモンウェルスゲームで優勝したが、そのレースに向けた調整レースは走らなかったので、屋外シーズンの2レース目としては良い順位で走れたとみている。
クレイトン・マーフィーの期待以下の走りはまだ続く
屋外シーズンとしては2レース目の800mとなった今回。1レース目とほぼ同じ展開になった。先月のマウントサックでは、1周目を53秒ほどで入り、ゴールタイムも今回とほぼ同じ1:47.22だった。それから2週間が立っており、これがダイヤモンドリーグだということを考えると、マーフィーは自分の進化を見せるためにもっと良いタイムで走りたかったのだろうと思う。しかし、肯定的な見方をすれば、ホームストレッチで後方に消えてしまうのではなく、何人かの選手を抜きラストスパートをしたことは、評価できる。次のレースでは、最初の400mがここまでスローペースで進まず、彼ももっと良いタイムで走れることを祈っている。
【男子3000mSC】※ノングランプリ種目
3000 Metres Steeplechase - Men 1 Beyo , Chala ETH 8:13.71 2 Kipsang , Lawrence Kemboi KEN 8:15.07 3 Kiprono , Emmanuel KEN 8:16.24 4 Kipyego , Barnabas KEN 8:17.30 5 Deriba , Tesfaye ETH 8:17.51 6 Chemutai , Albert UGA 8:18.80 7 Amare , Hailemariyam ETH 8:21.21 8 Nurgi , Tolosa ETH 8:24.11 9 Tindouft , Mohamed MAR 8:24.80 10 Lagat , Justus KEN 8:26.17 11 Kemboi , Clement Kimutai KEN 8:31.02 12 Girma , Tesfaye ETH 8:38.70 13 Meyan , Cleophas Kandie KEN 8:43.87 14 Saifeldin , Muhand Khamis QAT 9:04.64 Nganga , Bernard Mbugua KEN DNF Yego , Hillary Kipsang KEN DNF
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