男子1500m北京オリンピック優勝・世界選手権3回優勝のアスベル・キプロプ(ケニア)の検体からEPOの陽性反応:それは何を意味するのか?5つのポイントとキプロプの公式声明

現在1500m最強のランナーとされ、2008年オリンピック金メダリストであり、2011年、2013年、2015年世界選手権金メダリストであるケニアのアスベル・キプロプが、EPOとされる禁止薬物検査で陽性反応が出たと、複数のメディアが報じた。最初に報じたのは、デイリー・メールのマット・ロートンだった。

ケニア陸連や反ドーピング機関はまだ、今回の陽性反応報道に関して確認をしていないが、ロイター社によるとキプロプがケニア陸連に対してWhatsAppで次のメッセージを送ったと報道した。

「自分のドーピング疑惑についての報道は読んだ。アスリートとして、ケニアのドーピング問題に最前線で関わってきた。ドーピング撲滅を信じ、サポートしてきた。2007年に初めて国際レースに出てからずっと関わってきたことを、無駄にしたくない。自分がクリーンなアスリートだということを証明できると願っている」

現段階においては、キプロプはまだ禁止薬物による罰則を受けていないこと、また、すべてのアスリートは反ドーピング機関がA、Bサンプルの両方を陽性反応と断言するまでは無実であるということを、記さなければならない。

Bサンプルは、Aサンプルの結果を確証しない場合もあるし(バーナード・ラガトのEPOの件のように)、反ドーピング機関が発見された禁止物質の摂取理由を受け入れるという事例もある(アジ・ウィルソンがゼラノールの陽性反応を出したときは、腐った牛肉が原因だった)。

そうは言っても、多くの場合において、このようなドーピング陽性反応のニュースが出ると、アスリートはドーピング違反として罰せられる。

2016年リオオリンピック女子マラソンで1着に入線したケニアのジェミマ・スムゴングは、EPOのドーピングが発覚した際に、“子宮外妊娠の治療だった”と主張したが、彼女が治療していた病院がそれを否定したため、彼女は4年間の出場停止処分を受けた。

我々が考える今回のドーピングスキャンダルについての5つのポイントは以下の通りである。

1) 陸上界にとっては暗いニュースである

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2008年北京オリンピック男子1500m決勝:2着に入線するキプロプ(先頭のラムジはその後金メダルを剥奪される)

キプロプが仮にクリーンであったとしても、これは陸上界にとっては暗いニュースである。1500mで最強の選手が、禁止薬物に手を出したかもしれない。多くの人を興奮させた彼のこれまでのパフォーマンスは禁止薬物によって生み出された可能性がある。

仮にキプロプがドーピングをしていなかったとしても、彼にはこれまで以上に疑いの目は強くなるだろう。2014年にレッツランが行った「シロかクロか?」というアンケートにおいて、読者の26.8%がキプロプは“クロだと思う”と回答している。我々が読者に聞いた選手の中では真ん中の順位であったが、男子1500mという競技は歴史的に見ても評判が悪いので、これは驚く結果ではない。

男子1500mの世界王者のリストをここで見ておこう。その中の何人の選手が“クロ”の選手だと思うだろうか?2014年のレッツラン「シロかクロか?」のアンケートにおいて、56.83%もの読者が世界記録保持者で4度の世界王者に輝いた、ヒチャム・エル・ゲルージ(モロッコ)が“クロ”であると思うと回答した。

1500mの前世界記録保持者のサイド・アウィータ(モロッコ)は、オーストラリア人選手にドーピングをするように圧力をかけたとして告発され、また、2005年の世界王者のラシド・ラムジは既に資格停止処分を受けている。

長い目で見ると、スター選手が禁止薬物の陽性反応(Positive)を出したとき、それはその競技全体にとっては良い兆候(Positive)であると我々は考えている。なぜなら、反ドーピング機関が検査を隠蔽(いんぺい)することなく、更に厳重な反ドーピングのシステムを構築し、それが機能しているということを示しているからである。

2) ロサ&アッソシアティがマネジメントしている選手からまた陽性反応

ちょうど1年前、ジェミマ・スムゴングがEPO陽性反応が出たことについて、ガブリエル・ロサとフェデリコ・ロサに話を聞いたインタビューを公開した。そのインタビューの中で、スムゴングのドーピングには一切関わっていないとし、彼らの選手は「シロでなければならない」と述べ、「常にドーピング問題と戦っている」とも話した。

2016年のニューヨークシティマラソンでリタ・ジェプトゥーが薬物陽性反応を出した時、ガブリエル・ロサと話したが、その時の彼らの立ち位置と似ていた。2017年に入り、ガブリエル・ロサは「我々はシロである」と述べ、ジェプトゥーのドーピングには一切関わっていないという立場を示した。彼は、次のようなアドバイスも提供した。

「私の提案は…。選手に従うなら、選手と一緒にいない時でも彼らが何をしているかを理解しなければならない。この意味がわかりますか。選手が何をしているかを把握するのは重要なことだ」

しかし、キプロプは2012年以降にロサ&アッソシアティにマネジメントされている(つまり、フェデリコ・ロサの管理下にある)選手として、禁止薬物の陽性反応を出した5人目の選手である。

ジェプトゥー、スムゴング、マシュー・キソリオ、アガサ・ジェルト、が他の4人である。去年の東京マラソンで2:19という大幅な自己記録で走った、それまでは無名の選手だった(急激に記録を伸ばした)32歳のサラ・チェプチルチルはこのリストには含まれていない。

ロサは、“昨年にチェプチルチルを出場停止処分にした”と主張している。彼女は10月のリスボンマラソンで優勝したが、それ以降はレースに出場していない。昨年のプレフォンテーン・クラシックで、ロサについてキプロプに聞いたことがある。キプロプは彼らを弁護し、“彼らはドーピングに関して寛容ではない”とも述べていた。

「2008年の北京オリンピックで喪失感に苦しんだ(優勝したラムジがドーピングで金メダルを剥奪されたので)。だから、ドーピングは許されることではない。ロサはクリーンな会社だということを知っている」

ロサに関しての我々の考えは、スムゴングに陽性反応が出た時と同じである。彼らの選手からこんなにも多く陽性反応が出ているという事実は、

  • 彼らが無能である
  • ドーピングや禁止薬物に関しての知識がない
  • ロサが選手にドーピングをするよう働きかけている

のいずれかだ。いずれにせよ、どれも良くない。

(※これらに関しては1年前のこちらの記事の “4)” で以下のように述べている)

i) ロサは無能である

彼らのもとから4人の選手から陽性反応が出ている。本当にロサが関わっていないのならば、彼らは選手を管理するという重要な仕事を放棄していたということになる。もし彼らがキソリオジェプトゥーのドーピングが発覚して以降、管理体制などを変えていたとするならば、それ以降も選手のドーピングが発覚していることから、それが全く機能していなかったと思われる。

ii) ロサはドーピングに関して無関心である

ロサが選手の行動を見張っていたり、選手がドーピングしているか、していないか、について関心を持っていなかった可能性がある。

iii) ロサはドーピングに関わっている

これは、明らかに一番やっかいな状況である。この場合、ロサが何度も嘘をついていたことになる。もっと悪いことに、ロサは多くの有名選手を抱えている。アスベル・キプロプ、ビダン・カロキ、ディクソン・チュンバ、ポール・タヌイ、そしてスタンリー・ビウォットなどであり、彼らはごく最近の選手たちにすぎない。過去には、ポール・テルガトサムエル・ワンジルもいた。もしロサが選手たちのドーピングの手助けをしていたのならば、彼らのもとにいる選手たちに一気に疑惑の目が向けられることになる。

おかしなことに、スムゴングの元コーチであるクラウディオ・ベラルデリだけがこの件に関して関係ないようだ。彼はキソリオジェプトゥーのコーチでもあったが、ドーピングへの関与を否定した。これについてどう考えるべきかはわからないが、ベラルデリは明らかにドーピング問題の主要人物ではない。

ガブリエル・ロサとフェデリコ・ロサ、真実を話す時が来た。選手たちがドーピングをしている間に居眠りしていたのか、もしくはドーピングを促していたのか、どちからを認めるべきだ。

ロサとドーピングの関係性については、ドイツの有力紙Süddeutsche Zeitungが昨年7月に出したこの記事を見てほしい。マラソン選手のマシュー・シゲイがドイツのTV番組で、“ロサは定期的に選手(彼自身も含め)にドーピングをさせていた”と告白した、と報じた。

3) キプロプが優勝した4つのレースでキプロプの後ろでゴールした選手たち

2008年北京オリンピック
1. アスベル・キプロプ(ケニア)3:33.11
2. ニック・ウィリス(ニュージーランド)3:34.16
3. メディー・バアラ(フランス)3:34.21
4. フアン・カルロス(スペイン)3:34.44

(このレースでキプロプは2着で入線している。しかし、バーレーンのラシド・ラムジがEPOの進化版のCERAの陽性反応により、2009年に金メダルを剥奪されている)

2011年大邱世界選手権
1. アスベル・キプロプ(ケニア)3:35.69
2. サイラス・キプラガト(ケニア)3:35.92
3. マシュー・セントロウィッツ(アメリカ)3:36.08
4. マヌエル・オルメド(スペイン)3:36.33

2013年モスクワ世界選手権
1. アスベル・キプロプ(ケニア)3:36.28
2. マシュー・セントロウィッツ(アメリカ)3:36.78
3. ヨハン・クロンジェ(南アフリカ)3:36.83
4. ニクソン・チェプセバ(ケニア)3:36.87

2015年北京世界選手権
1. アスベル・キプロプ(ケニア)3:34.40
2. エリジャ・マナンゴイ(ケニア)3:34.63
3. アブデラティ・イギデール(モロッコ)3:34.67
4. タウフィク・マクルフィ(アルジェリア)3:34.76

報道されているキプロプの陽性反応が、2017年後半の競技外のドーピング検査によるものだとすると、これらのキプロプの金メダルが剥奪される可能性はない。しかし、今回の陽性反応によりキプロプが罰せられるとなると、本当の2008年北京オリンピックの王者はニック・ウィリスということになる。彼は実際には3着で入線した選手であった。

4) そうなると現在マシュー・セントロウィッツが現代の最強の1500m選手といえるか?

キプロプを除外して考えると、セントロウィッツのこれまでの戦績は2016年リオオリンピック金メダル、2013年モスクワ世界選手権金メダル、2011年大邱世界選手権銀メダル、そして2016年ポートランド世界室内選手権金メダル、となる。

タウフィク・マクルフィの戦績もまたすごいものとなる(キプロプを除外すると、2012年ロンドンオリンピック金メダル、2016年リオオリンピック銀メダル、2015年北京世界選手権銅メダル)。マクルフィの自己記録(3:28.75)は、セントロウィッツの自己記録(3:30.40)よりも速い。

サイラス・キプラガトの自己記録はこの2人よりも速く(3:27.64)、戦歴も優れている。キプラガトはダイヤモンドリーグの1500m / 1マイルで11回も優勝している。マクルフィは1回、セントロウィッツは優勝無し。しかし、キプロプを除外してもキプラガトの世界大会での金メダルは1回(2011年大邱世界選手権)だけである。

我々の考えもそうであるが、(ダイヤモンドリーグの戦績ではなく)オリンピックと世界選手権を評価の基準とするならば、セントロウィッツが現代最強の男子1500mの選手となる。

5) 他の選手たちの反応は?苛立ち

キプロプのニュースに対する、エリート選手たちの反応をいくつかまとめてみた。

アイシャ・プロート(ジャマイカ、2018年コモンウェルスゲーム3000mSC金メダル)

ラムジキプロプの姿を写真から消してみる。ニック・ウィリスがGOAT(史上最強)」

チャールズP.-T.(Philibert-Thiboutot(カナダ、1500m3:34.23)

「怒りを覚えた。ケニア人選手と全部同じと考えたくはないが、彼らのドーピング管理には懸念事項があると聞いてきた。厳密な調査が必要だ」

ガイ・リアモンス(イギリス、800m1:45.10)

アスベル・キプロプのニュースに驚いたかい?いいや。ケニアでは事実上なんの検査も行われていない。本当に馬鹿馬鹿しい。彼は最強の選手だったが、EPOに染まってしまったのか。ドーピングをしている選手すべてを見つけてほしい」

ロス・マレー(イギリス、1500m3:34.76)

キプロプ。禁止薬物の使用を犯罪とするべきだ。詐欺だ。多額のお金が選手から搾取されてる。何も変わらないだろう。また同じようなことがすぐ起こるだろう」

ベン・トゥルー(アメリカ、5000m13:02.74)

「ある一定の人のもとで指導され、マネジメントされ、トレーニングしてきた選手を、いつ全面禁止を実施できるのか?手に負えない。選手たちよ。もし君がシロならば、疑いのある人と一緒にいるべきではない。自分のことは自分で守れ」


 

アスベル・キプロプのEPO陽性反応が奇妙な展開に

キプロプが、ケニアのジャーナリスト、サディーク・シャバンに向けて声明を発表し、自身はドーピングをしていないということ、そしてドーピング検査のプロセスに不正行為があったこと、またドーピング検査官に金銭を支払ったことなど、論争を巻き起こすであろう主張を出した。また、彼がドーピングを認めればIAAFの大使的役割をオファーされるという主張もしている。

IAAFも反ドーピング機関も、キプロプの主張に関しては何の反応を示していないが、デイリー・メールのマット・ロートンによると、Athletics Inetgrity Unitは今夜にも声明を発表する予定とのことだ。事実、反ドーピング機関はキプロプに陽性反応が出たということをまだ認めていないが、キプロプの競技外での検体サンプルで陽性反応が出たと複数のメディアが報じた。キプロプも昨日その報道を知り、身の潔白の声明を出した。

キプロプは、詳細の声明と共に身の潔白をシャバーンに主張。彼の声明すべてを読む価値があるが、彼の論争を巻き起こすであろう主張は、以下の通りである。

 

(1) 競技外でのドーピング検査を、1日前に前もって知らされた。これは、ドーピング検査のガイドライン違反行為であり、通常選手にとって有益になってしまう。ケニアで前もってドーピング検査の知らせがきたというのは、これが初めてではない。カナダのマラソン選手、リード・クールセットも2016年に“同じことが起こった”と証言している。

(2)ドーピング検査官がキプロプに金銭の支払いを要求。キプロプは、モバイル支払サービス(M-PESA)でお金を支払った。シャバーンはTwitterで、IAAFのAthletics Integrity Unitはこの2点について既に認めていると主張している。

(3)ドーピングしていると認めれば、反ドーピング機関のアンバサダーになれるというオファーを受けたと、キプロプは言っている。

 

アスベル・キプロプが、ジャーナリストのサディーク・シャバンに送った公式声明の全文
キプロプの主張は論争を巻き起こすものであり、ドーピング検査の弱い部分を露呈している。彼にEPOの陽性反応が示されたとしても、

(a) ドーピング検査官は選手に金銭の要求をするべきではない

(b) 選手は事前にドーピング検査実施について知らされるべきではない

 

キプロプの検体サンプルが妨害されたという証明はできない。キプロプに事前にドーピング検査の予告が入っており、彼がクロであればドーピング検査をスキップすることができたはずだ、だから彼の検体サンプルは妨害行為を受けている、というのがキプロプの声明文から読み取れる。

DNA検査と現代の科学技術により、この問題に関しては判断できるだろうと前向きに考えている。正義が暴かれ、キプロプがシロかクロなのか判明する日はやってくるだろう。キプロプによる情報と不正行為のリークは、彼がシロかクロかに関わらず、厄介な問題である。

(※反ドーピング機関がまだ断定的な声明を出していないため、我々が使う「陽性テスト」という簡単な言葉を使用した)

 

レッツラン記事

http://www.letsrun.com/news/2018/05/asbel-kiprop-reportedly-tested-positive-epo-mean-5-takeaways/

http://www.letsrun.com/news/2018/05/asbel-kiprop-releases-detailed-statement-innocence-explosive-allegations-breaches-testing-protocols/

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