【男子レース】
気温が高いレース当日に、フラットだった最初の1マイルを4:22(2:42.8/km=マラソン1:54:30ペース)、その後の下りを含んだ最初の5kmを13:48(2:45.6/km=マラソン1:56:26ペース)という驚くべきスピードで走ったのにも関わらず、キプチョゲは最後まで持ちこたえ、ローママラソンとフランクフルトマラソンで優勝した21歳のシュラ・キタタの追走を振り切り、2:04:17の記録で見事に優勝を果たした。
33歳のキプチョゲは、これでマラソン9連勝(Breaking2を含んで)。キタタは、自己記録を1分更新する2:04:49の2位でフィニッシュした。
モー・ファラーは自己記録をちょうど2分更新する2:06:21の3位でフィニッシュし、33年間もの間破られていなかったスティーブ・ジョーンズの2:07:13のイギリス記録を更新した。
レースは信じられないスピードで始まった
レース前のテクニカルミーティングで、先頭集団は中間地点通過を61:00で走り、第2集団は61:45で通過するという計画があり、ペーサーもそれぞれ用意されていた。しかし、実際のレースになると第2集団は形成されず、9人の選手とペーサーが、最初の5kmを13:48という驚くべきスピードで通過した。
最初の5kmは約30m下っているので、仮に18秒足したとしても(3m下るごとに1.8秒速くなるという基準に基づくと)、それでも14:06で走ったことになる。それは、マラソン1:58:59ペースである。
集団は次の5kmでも崩れず、次の5kmは14:31(28:19)という速さで通過したが、それ以降の5kmのラップは全て※世界記録ペースより遅いペースとなってしまった。14:47と14:48で15kmと20kmを通過し、中間地点は1:01:00で通過。このタイムはキプチョゲの希望通りのペースであった(Breaking2を除くと、これまでのマラソンの中で一番速い中間点の通過記録だった)。
(※デニス・キメットのマラソン世界記録ペースは5km平均14:34.3、最初の5kmが14:42、10kmが29:24)
中間点で、アムステルダムマラソンとホノルルマラソンの大会記録保持者のローレンス・チェロノと、初マラソン世界最高記録2:03:46を持つグエ・アドラが先頭集団から脱落。集団の一番後ろで中間点を1:01:03で通過したのは、モー・ファラーだった。
20~25kmの5kmは14:44で、5000mと10000mの世界記録保持者のケネニサ・ベケレにとっては少し速かったようだ。すぐに先頭集団は、キプチョゲ、ファラー、キタタに絞られ、最後まで付いていたビダン・カロキも先頭集団から離れた。この3人はゴールまでずっとトップ3を維持した。30km手前でファラーが遅れ始め、キプチョゲはキタタを引っ張り、ここで初めて世界記録ペースから遅れ始めた。
キプチョゲのゴールへ向けたスパート
30kmを過ぎると、さすがのキプチョゲにも、スタートからの高速レースの疲労がみえはじめる。19マイルは4:51(3:00.9/km)、この地点でこのレースで1番遅いラップタイムを記録。キプチョゲは、この地点でもキタタを引っ張っていた。20マイルは4:45、21マイルは4:56、22マイルは4:55で通過。キプチョゲは23マイルで5:00(3:06.5/km)までペースが落ちるが、キタタも史上最強の選手キプチョゲについていこうと踏ん張る。両者とも疲労困憊であった。
キプチョゲはここで、ラストスパートをかけ、ブラックフライアーズでキタタを振り落す。24マイルを4:44(2:56.5/km)で走ったキプチョゲは、40km地点でキタタから11秒のリードを奪う。ここからフィニッシュまでの2マイル、マイル5:00(3:06.5/km)切りペースで走り、キタタに32秒差をつけてキプチョゲはゴールテープを切った。
Embed from Getty Images注目すべきは、上位8位までに入った男子の選手のすべてが、最初の5kmを13:48で通過した選手たちだった。その中の7人は中間地点を61:00~61:03で通過している。第2集団(第3ペーサーと選手)は中間点を1:03:56で通過したが、その後ペースダウンし、第2集団の中で1番トップでゴールしたのはエチオピアのアマニュエル・メセルで2:11:52の9位だった。アメリカのサム・チェランガはレース前に中間点を62:30で通過したいと話していたが、実際には64:41で通過し、後半も苦戦し2:21:17の15位に終わった。
【ロンドンマラソン男子結果】
1 | エリウド・キプチョゲ | ケニア | |||
2 | トラ・シュラ・キタタ | エチオピア | +00:32 | 2:04:49 | |
3 | モー・ファラー | イギリス | +02:04 | 2:06:21 | |
4 | アベル・キルイ | ケニア | +02:40 | 2:07:07 | |
5 | ビダン・カロキ | ケニア | +04:07 | 2:08:34 | |
6 | ケネニサ・ベケレ | エチオピア | +04:26 | 2:08:53 | |
7 | ローレンス・チェロノ | ケニア | +04:58 | 2:09:25 | |
8 | ダニエル・ワンジル | ケニア | +06:08 | 2:10:35 | |
9 | アマニュエル・メセル | エリトリア | +07:25 | 2:11:52 | |
10 | ヨハネス・ゲブレゲルギシュ | エリトリア | +07:42 | 2:12:09 |
マイル4:22ペース(2:43.8/km)5km13:48というのはマラソンでは考えられないペース
今大会では9人もの選手が5km地点を13:48~13:50で通過した。13:48というのはマラソン1:56:26ペースで、ハーフ58:13ペースである。ハーフの世界記録から10秒も速い。下りを含んでいた5kmだとしても13:48というタイムは速すぎる。デニス・キメットの世界記録のレースの入りの5kmは14:42である。そういうことを考慮すると、理想的な最初の5kmは14:20~14:45だったといえるだろう。
ロンドンマラソンの最初の1マイルはわずかに上っているが(コース図)、彼らは4:22で走った。第1集団のペーサーの設定の、1マイル4:39ペース(ハーフ1:01:00ペース)よりもかなり速いペースである。ロンドンはここまでエリート選手にフォーカスしている大会であるのに、正確なラップで走らないペーサーを雇うことにいささか憤りを覚える。
ペーサーが正しいペースで走らないのなら、なぜ世界の超エリート選手ばかりを集めて世界記録に挑戦させるようなことをするのか…?
何人かの選手と話したが、彼らの説明によると“最初の5kmは序盤なのでペースが速くても体が動いてしまう”ということだそうだ。
「最初の5kmは身体もフレッシュな状態だし、軽く走れてしまう」
8位でフィニッシュしたダニエル・ワンジルはそう答えた。キプチョゲは、
「才能ある選手が揃うと、ペース判断も難しくなる」
と語った。加えて、ペーサーは第1グループ(中間点61:00)のペーサーたちと、第2グループ(中間点61:45)のペーサーたちの2つのグループがあるはずだった。しかし、実際には2つのグループは形成されず、1つに合体してしまった。
ケネニサ・ベケレは61:45ペースでいくつもりでいた選手の1人だった。しかし、ペーサーたちが1つのグループに固まった、速いペースで走ることしかできなかった。
「ペースはきちんとしていなかったね」
と、レース後にベケレは語った。
モー・ファラーは、ベケレのように選択の余地もなく、先頭集団についていくしかなかった。
「誰が61:00ペースでいくか様子を見て、そこからどのペースのグループで走るか判断しようと思っていた。いざレースがスタートすると、みんな一斉に行ってしまった。誰も第2集団のペースに付いていかなかった。周りを見渡しても誰もいなかった。だから、この速いペーサーと一緒に走って、どうなるか様子を見ようと思った。それでダメになるときは、それまでだってことだ」
そうファラーも語っていた。
キプチョゲがまたやってくれた
自殺行為的に速い序盤のペースには不安にさせられたが、レースの全体像を忘れてはならない。キプチョゲはマラソンで9連勝を成し遂げた(8つのマラソン+Breaking2)。これは、本当に凄いことだ。
これまでマラソンで9連勝した人間がいたのだろうか。キプチョゲは今やそれを成し遂げ、更にそのうちの7つはメジャーマラソンである。2016年のリオオリンピック優勝ももちろん含まれている。2006年にアボット・ワールド・マラソン・メジャーズが誕生して以来、メジャーマラソンでの連続優勝記録は、3連勝であった。
ロバート・キプロティチ・チェリヨット、サムエル・ワンジル、そしてウィルソン・キプサングだである。序盤からとばしすぎた今回の女子レースでは、絶対的な優勝候補とされていた2人に何が起こったか、もうおわかりのはずだ。1人は5位に終わり、もう1人は途中棄権したのだから。
最後まで耐え抜いたキプチョゲ(タイムは劣るが、キタタもファラーも)、本当に素晴らしい走りだったといえよう。
【キプチョゲのスプリット・ラップ】
5km13:48
10km28:19 (14:31)
15km43:05 (14:46)
20km57:52 (14:47)
25km1:12:36 (14:44)
30km1:27:24 (14:48)
35km1:42:33 (15:09)
40km1:57:35 (15:02)
前半61:00 – 後半63:17 = 2:04:17
【キプチョゲのロンドンマラソン3勝の内容】
年 | 記録 | 前半 | 後半 | 最初の5km |
2015年 | 2:04:42 | 1:02:19 | 1:02:23 | 14:32 |
2016年 | 2:03:05 | 1:01:24 | 1:01:41 | 14:16 |
2018年 | 2:04:17 | 1:01:00 | 1:03:17 | 13:48 |
マラソンでの中間点の最速通過記録で7人の選手が中間点を通過した
今年のロンドンマラソンの前まで、マラソンにおけるハーフの最速記録(中間点の通過最速記録)は1:01:11であった(ベケレが2:03:03で走った2016年のベルリンマラソン)。それに次ぐのがデニス・キメットが世界記録を出した時の後半の1:01:12(30〜35km14:09を含む)という記録だった。
7人の選手(キプチョゲ、キタラ、カロキ、ベケレ、ダニエル・ワンジル、アベル・キルイ、ファラー)がその記録を塗り替えた。
前半を61:03で走り給水で失敗したもののファラーは2:06:21の3位で素晴らしい結果を残した
上で述べたように、ファラーは先頭集団についていくために前半61:03で走らざるをえず、それにより後半のリスクを重々承知はしていた。
「これまで一緒にやってきた選手で、ファラーほど肝が据わった選手はいないよ」
と、彼の代理人であるリッキー・シムズは語った。
また、ファラーは給水で何回かボトルを落とすなどの失敗をしている。彼が言うには、他の選手と同じ給水ボトルが、同じテーブルに置いてあったようだ。10kmの給水ポイントで、ファラーは別の選手のボトルを取ってしまい、スピードを落としてまで自分のボトルを探し出さなければならなかった。
その後、先導車に向かって自分の正しい給水ボトルを見せ、次回は間違えないようにとしていたが、20kmの給水ポイントでも失敗、5秒程ロスをしてしまった。
最初のマイルのラップタイムが4:22と知った時は“衝撃を受けた”とファラーは話した。
「ラップタイムを見て、嘘だろう?と思ったよ。しかしその後はペースも落ち着いた。でも、序盤のツケがそこから回ってくるんだ。そのままのスピードで走り続けることなんてできないよ」
最後にこんなに苦しんだレースは今までになかったが、パフォーマンスには満足している、とファラーは話した。
「これまでで1番苦しかった。でも、なんとか持ちこたえることができて、自己記録更新もできた。それ以上何も望めないよ」
スタートと同時に飛び出したファラーの決断は、彼がマラソンという競技を、トラックでのこれまでの栄光の延長としてではなく、しっかりと勝ちを取りにきているということがわかる。キプチョゲとの間にはまだ差はあるものの、それでもかなり健闘したと言える。今回の気温の高いなかで、理想のペースよりもはるかに速いペースで走り、それでも2:06:21という記録でフィニッシュした。これが完璧なコンディションだったなら、2:05を切ったとしてもなんら驚きはない。
さらに、ファラーがマラソンで優勝するためには、スタート直後からとばすことはベストな方法とは言えない。彼のベストな戦略は、トラックでの戦略と同じと言えるとだろう。集団の中で走り、最後にスパートをかける。ファラーが※選手権スタイルのマラソンで、今後どのようなパフォーマンスを見せてくれるか、すごく楽しみである。
(※ファラーからすれば今年の欧州選手権のマラソンが“選手権スタイル”のレースとなる。欧州選手権、コモンウェルスゲーム、世界選手権、オリンピックなど。ペーサーがおらずペースが比較的落ち着く)
もし、彼が真剣に東京オリンピックでメダルを狙っているのであれば、それまでに1回か2回のマラソンレースを走るのは理にかなっている。私がファラーだったら、(ペーサーのいない)シカゴかニューヨークシティを秋に走るだろう。もしキプチョゲが連覇と世界記録を狙いにベルリンに出るとすると、ベルリンは高速レースになる。なので、シカゴかニューヨークシティ。選手権スタイルの経験は得られないが、優勝できる可能性は大いにある。
ファラーが前半1:01:03で走ったレースでスティーブ・ジョーンズのイギリス記録がやぶられた
スティーブ・ジョーンズが1985年のシカゴマラソンで2:07:13で走った時、彼は前半1:01:42で入り、(最初の2.2マイル以外の)残り24マイルを1人で走った(つまり、ほぼ単独走)。印象深いレースの1つとして数えられる。ファラーも前半に速すぎたペースで入ってイギリス記録を塗り替えたというのは、ふさわしい記録更新だった。
トラ・シュラ・キタタの素晴らしい走り
Embed from Getty Imagesキタタのレース前のオッズは、50人に1人しか優勝する人がいないと予想するほどの倍率だった。しかし、キタタは自殺行為ともいえるほどのペースで序盤を走りながらも、キプチョゲに付いていき見事2位でゴールした。
キプチョゲが序盤のペースに耐えられたのは、1つにBreaking2の功績もあると考えている。しかし、キタタこそよくあのペースに耐えられたと思っている。
キプチョゲは史上最強のマラソン選手であり、(完璧なコンディションのハーフにおいて)60:00で走った経験があるが、キタタはそんなキプチョゲにほぼついていくことができた。2年前のキタタは2:10ほどの記録しか持っておらず、マラソンでは負けが多い選手だった。しかし、彼はまだ21歳で、昨年はローマ(2:07:28)とフランクフルト(2:05:50)の2つのレースで優勝している。今回のキタタの走りは、これまでの彼の走りとは全く違ったものだった。よくやった、キタタ。
ベケレは序盤のペースと暑い気温にやられてしまった
レース後、ベケレは準備は万全だったと再度断言したが、レース中に脱水になりペースや気温にも対応できなかったと明かした。
「(序盤の速いペースや)暑さが厳しく、難しいレースだった。途中までは調子は良かったが後半は疲労が溜まったよ」
2:08:53で6位という記録は、ベケレにとっては大失敗とまではいかないまでも、良いレースでもなかった。彼がもし前半を当初の予定通りの61:45でいっていたとしたら、どのような結果になったのか見てみたかった。しかし、成功するマラソン選手というのは、どんなコンディションであれ結果を残すこと、61:01で前半いったとしても、後半67:52より速く走りたかっただろう。マラソン選手としてのベケレは、まだ進化途中である。
【ロンドンマラソン女子結果】
1 | ヴィヴィアン・チェリヨット | ケニア | 2:18:31 | |
2 | ブリジット・コスゲイ | ケニア | +01:42 | 2:20:13 |
3 | タデレッチ・ベケレ | エチオピア | +03:09 | 2:21:40 |
4 | グラディス・チェロノ | ケニア | +05:39 | 2:24:10 |
5 | メアリー・ケイタニー | ケニア | +05:56 | 2:24:27 |
6 | ローズ・チェリモ | バーレーン | +07:32 | 2:26:03 |
7 | マレ・ディババ | エチオピア | +09:14 | 2:27:45 |
8 | パートリッジ・リリー | イギリス | +10:53 | 2:29:24 |
9 | トレイシー・バーロウ | イギリス | +13:38 | 2:32:09 |
10 | ステファニー・ブルース | アメリカ | +13:57 | 2:32:28 |
ヴィヴィアン・チェリヨットは脂の乗ったマラソン選手:今では2018ロンドンを制した
Embed from Getty Imagesレース前の予想によると、ケイタニーとディババは他の選手とは違って、スター選手のような期待をされていた。しかし、ヴィヴィアン・チェリヨットが今大会の優勝をもって、最高のマラソン選手の仲間入りを果たした。
それは、彼女がケイタニーとディババを破ったから、ただそれだけではない。彼女がどんな走りで2:18:31でフィニッシュし、女子マラソン世界歴代4位の記録を出せたのかが重要である(彼女より速い選手は、今やケイタニー、ディババ、ラドクリフしかいない)。しかも、タイムが出づらい“暑い日のレース”においてだ。
去年のレースとは全く別物だった。マラソンデビューとなった昨年のレースは、前半を67:42というスピードで入り、2:23:50の4位に食い込んだ。
彼女のコーチであり代理人でもあるリッキー・シムズは、
「去年は、最初の10マイルはケイタニーを追うかたちだった。ケイタニーに先をいかれ、気づいたときには引き離されていた。ヴィヴィアンは、今までのレースで先頭をカバーできなかったレースはなかったと言っていたよ。去年はレースの前に何度話しても、ケイタニーを前に出させる訳にはいかない、そんな感じだったんだ」
チェリヨットは昨年秋のフランクフルトで2:23:35で優勝したが、それでもシムズは変化が必要と感じていた。チェリヨットがトラックで活躍している間、シムズはチェリヨットと日々連絡を取り合っていたが、彼女がマラソンに転向してから変わった。
「彼女は、“マラソンだからたくさんロングランをしないと”って感じだった。前みたいにしょっちゅうコミュニケーションを取れなくなってしまった。フランクフルトの後、ゆっくり時間をとって彼女に言ったんだ。“連絡を毎日とろう”と。君のガーミンを使って、日々の練習を見るという風にね」
そう、シムズは語った。チェリヨット以外に、シムズはこれまでにマラソン選手のコーチングをしたことがなかった。そのようなこともあり、モナコで近くに住んでいるポーラ・ラドクリフにアドバイスを仰いだ。
ロンドンマラソンへの準備で変えた1つのことは、チェリヨットの走行距離を週110マイル(約176km)に伸ばした。彼女の過去2回のマラソン準備に比べれば、かなり距離を伸ばしたかたちになる。シムズが言うには、チェリヨットはまだトラック競技寄りの走行距離しか走ってなかったようだ。
今大会前、シムズはチェリヨットは2:18か2:19で走れる可能性があると感じていた。しかし、その記録で走るにはスマートな走りをしなければならない。そして、実際に彼女はほぼイーブンペースの68:56 – 69:35 でレースを走ったのである。
ケイタニーとディババが67:30ペースから外れたとき、チャンスだと思った。序盤のペースが速いほど、後半急激に落ちる可能性が高まる。チェリヨットには、ケイタニーとディババについていかないように指示し、彼女も去年のレースで自分の身に起きたことを覚えていたので、シムズの指示に従った。
「ヴィヴィアンは、トラックのキャリアの間、指示したことはその通りに実行してくれた。アスリートにこれ以上のことは望めないよ…。先頭集団についていっても意味がないと彼女に伝えた。先頭集団が落ちてくれば、後方集団の誰かが優勝できると。もし頭を使って走れば、優勝する誰かは、君の可能性もあると。できるだけ長く耐えたレースをしてほしかった」
「実は、彼女がメアリーを抜かした地点は、私が望んでいた地点よりも早かった。ラストでメアリーを抜かしていれば、1番嬉しいタイミングだったが、ヴィヴィアンは調子が良さそうだった」
このプランでチェリヨットが走ったとしても、ケイタニーは脅威だということをチェリヨットは認識していた。
「優勝するなんて思ってもいなかった。去年のことはすごく覚えていてメアリーは66:50ぐらいで走って2:17で優勝した。だから、彼女はすごく強い選手だし、彼女がダメになるなんて思ってもいなかった」
34歳のチェリヨットは、まだまだ進化する余地がある。彼女は今回の準備段階で、そこまで多くの“徐々にペースを上げていく長めのペース走”を取り入れていない。ペース走は、マラソントレーニングの重要な練習である。もし気温がもっと涼しければ、チェリヨットはもっといい記録を出していただろうと思う。
【チェリヨットのスプリット・ラップ】
5km16:15
10km32:53 (16:38)
15km49:18 (16:25)
20km1:05:32 (16:14)
25km1:21:59 (16:27)
30km1:38:23 (16:24)
35km1:54:52 (16:29)
40km2:11:12 (16:20)
前半68:56 – 後半69:35 = 2:18:31
【チェリヨットの昨年のロンドンマラソンとの比較】
年 | 記録 | 前半 | 後半 | 最初の5km |
2017年 | 2:23:50 | 1:07:54 | 1:15:56 | 15:41 |
2018年 | 2:18:31 | 1:08:56 | 1:09:35 | 16:15 |
メアリー・ケイタニーは恐れを知らない
Embed from Getty Imagesケイタニーは前半かなりのスピードで入り、ディババと同様にその代償を払うことになった。ケイタニーに起こったことを考えると、キプチョゲが前半の恐ろしい速さのペースからそのまま優勝したことが、いかに人間離れしているかがわかる。
ケイタニーと男子ペーサーが速く走りすぎたのはよくないが、彼女は昨年、男子ペーサーなしで更に速いペースで走っている。それで2:17:01で優勝したのだ。昨年と今年のスプリットは下記の通りだ。
ケイタニーのスプリットタイム(2017年のスプリット) | 5kmごとのラップタイム | |
5km | 15:46 (15:31) | 15:46 |
10km | 31:46 (31:16) | 16:00 |
15km | 47:46 (47:15) | 16:00 |
20km | 1:03:50 (1:03:25) | 16:04 |
中間点 | 1:07:16 (1:06:54) | |
25km | 1:20:24 (1:19:42) | 16:34 |
30km | 1:37:03 (1:36:05) | 16:39 |
35km | 1:54:36 (1:52:39) | 17:33 |
40km | 2:14:23 (2:09:37) | 19:47 |
フィニッシュ | 2:24:27 (2:17:01) |
ケイタニーは昨年ほど速いペースでは走っていないものの、後半行き詰まり後退してしまった。しかし、気温は今年の方がかなり高くそれが影響したのだろう。
「天気は理想的ではなかった。暑くて湿気もあった。それでもゴールできたこと、それは自分の中では重要なことです」
と、ケイタニーは語った。世界記録が出ないとわかった時点で、走るのをやめるのは簡単だったはずだ。ゴールするころにはきちんと走れていなかったが、それでも最後まで走った。明らかに痛みに苦しんでいた様子で、“これまでのマラソン経験の中で1番難しいレースだった”と彼女は語った。
彼女は過去にも失敗したレースから見事復活を果たしている。だから、彼女のこの頑張りが無駄になるとは考えないで欲しい。2011年のニューヨークシティで前半を1:07:56で走った後に失速し、2:23:38でゴールしたことがあった。
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