ロンドンマラソン男子記者会見:歴史に名を残すマラソンとなるか?キプチョゲ vs ベケレ計り知れないポテンシャルを持つ2人の史上最強をかけた争い

(※2018ロンドンマラソンは、4月22日(日)日本時間17:15に女子レースがスタート、18:00に男子レースがスタートの予定)

 

エリウド・キプチョゲケネニサ・ベケレは、トラックで歴史に残るような戦いをしてきた。2003年パリ世界選手権で、当時18歳だったキプチョゲベケレヒチャム・エルゲルージをやぶり、歴史的勝利を果たした。その5年後の北京オリンピックで、今度はベケレが5000mで素晴らしい走りをして雪辱を果たした。

しかし、この2人のマラソンでの対決で、“歴史的”と呼べるものは、まだない。2人が直接対決をした3つのレースでは、どれもキプチョゲが勝利を収めている。2014年シカゴマラソンでは1:40差でベケレをくだし、2016年ロンドンマラソンでは3:31差、1番最近の2017年ベルリンマラソンではキプチョゲは2:03:32の記録で優勝、ベケレは途中棄権に終わった。

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キプチョゲは、これまでにマラソンで素晴らしい成績を残してきた。出場した10レースのうち9回優勝し、ロンドンマラソンでの大会記録(2:03:05)や、人類最速のマラソン記録を出したBreaking2(2:00:25)も含まれる。

しかし、公式な自己記録が速いのはベケレの方である(2016年ベルリンマラソンの2:03:03)。速い自己記録を持ちながらも、ベケレはこれまでのマラソンで思ったほど成績を残せていない。しかし、それでもキプチョゲに挑戦できる数少ないマラソン選手が、ベケレであることは確かだ。

ベケレのキャンプは日曜日のレースに関して楽観的見方をしている

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今回のベケレキプチョゲの直接対決で、マラソンの世界記録が望まれてはいるが、昨年のベルリンのように(ロンドンやシカゴも同様だが)、2人の選手が同じ日にエンジン全開の走りができるとは限らない。もしくは、こう言い換えなければならないかもしれない。これまで3回の直接対決の全てで、キプチョゲは良い走りをしている。ベケレにとって、マラソンを全開で走りきるのは難しいともいえる。

今日ベケレと話をして、パリマラソン(2014年)とベルリンマラソン(2016年)での優勝は、“体調が万全であることがかなり重要な要素だった”と強調していた。

「体調が万全であることはかなり重要だ。パリマラソンとベルリンマラソンへ向けた準備期間中は、体調がかなり良かった。他のレースの時は、故障に悩まされていたりで、100%万全の状態ではなかった。故障を抱えてマラソンを走るのは、かなりの挑戦だ」

たしかに、ベケレの持って生まれた才能は素晴らしいものだ。彼が万全の状態でマラソンを走ることができれば、素晴らしい結果が生まれるだろう。今回の記者会見で、“どんなテクノロジーの発達がこれまで自身のキャリアに大きな影響を与えてきたか?”と問われた各選手。ベケレが答える順番に来ると、質問について少しの間考えた後、彼が言った答えは、靴でもギアでもトレーニング施設でもなかった。

「才能だ」

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ベケレのキャリア、特にマラソンにおいて、彼の才能というのは1番大きな要素である。彼はこれまで、自分の才能で、思ったよりも良い走りをしてきた。

ベケレ自身、“これまでうまくいったマラソンレースは2レース(優勝したレース)しかないと感じている”と今日話していたが、それでも自分自身を長距離界において最強の選手だと自負している。そこには、優勝以外は受け入れられない世界である。しかし、彼の素晴らしい才能のおかげで、完璧な準備は積めなかったとしても、マラソンで何回かそれなりのパフォーマンスを残している。

特に注目すべきは、過去2回のロンドンマラソンである。2016年に出場した時は、ふくらはぎの故障により前年の2015年シーズンをほとんど棒に振った状態での挑戦だった。それにも関わらず、2:06:36というタイムで3位に入った。

昨年は、1月に行われたドバイマラソンでの転倒による怪我が長引き、練習プランを短縮しなければならなかったが、2:05:57というタイムで2位に入った。ベケレの以前のコーチであり、ドバイマラソンへ向けたトレーニングプランを作っていたレナート・カノーバは、ベケレが行っていたトレーニングは、“本来ならば2:10切りもできないようなトレーニングだった”と明かした。また、“ベケレには世界のトップに立てる力がまだあること、そして5か月間のしっかりとした練習を積み、コンディションが良ければ、2:01近くで走れるだろう”とも話していた。

おのずと、今回1番気になるのは、“ベケレの状態が良いかどうか”、ということだろう。これまでのマラソンでは、ベケレは、“練習は理想通りにはいっていない”と語っていた。2016年ロンドンマラソン前には、“90%の出来だ”と言っていたし、2016年ベルリンマラソン前には“80%だ”と言っていた(2:03:03で走ったことを考えれば、80%というのは低くすぎたと思うが)。

そして、昨年のベルリンマラソン前には90%だった。“今回は故障もない”と話していた。“2017年ベルリンマラソンへ向けた練習と、今回の練習について、何か違いはあったか?”と問うと、彼は“調子は良い”という単語を4回も使い、“怪我がない”という単語を1回使った(加えて、今回は質の高い食事も心がけたそうだ)。

ベケレの代理人である、ヨス・ヘルメンスとも話す機会があり、彼も興奮気味にベケレの可能性について話してくれた(念のため言っておくが、ベケレヘルメンスの関係は良好である。昨年の10月に、ヘルメンスがLet’sRun.comに、ベケレはもっと“プロフェッショナル”にならないといけない」と語ったことで、一時関係がぎくしゃくしたと言われていたが、関係はうまくいっている)。

昨年のベルリンマラソン前、ベケレがベルリンに到着したのは金曜日だった。“日曜日にレースがあるのに、金曜日に現地に到着するのは理想ではなかった”とヘルメンスは語った。金曜日は時差にまず慣れなければならなく、土曜日には記者会見など報道対応がある。そして、レース前日は十分な睡眠をとれないことが多い。2014年シカゴマラソンの時も、同じようなことが起きていた。しかし、今回ベケレがロンドンに到着したのは火曜日だ。そして、報道関係の対応も木曜日で終了。レース本番まで丸2日、休養し睡眠をとる時間がある。

彼が経営するホテルやトレーニングセンター(モー・ファラーがロンドンマラソンへ向けたトレーニングをエチオピアでしている期間、使用したとのこと)などベケレが手掛けるビジネスに関しては、“うまくバランスが取れている”と語った。ビジネスの方は、1週間に3日ほど、2~3時間ほどで、フルタイムで働いているわけではないからだ(ちなみに、キプチョゲはビジネスをやってはいないが、ケニアに20頭の牛を飼っており、60エーカーもの広さの農場を所有している)。

実際にベケレの調子がどの程度なのか知ることは難しい。彼は、調整レースを走っていないし、トレーニングについて詳しく聞いてみたところ、“良いタイムでロングランをした”ぐらいしか教えてくれなかった。マラソンは全く予測のできないスポーツである。彼のこれまでのマラソン成績が安定していないことを考えれば、彼に100%のパフォーマンスを期待しないほうが賢明だろう。

そうは言っても、ベケレにとってすべては順調に進んでいるようだし、彼が十分な準備できないままにロンドンマラソンの過去2大会で、3位と2位に入っていることを考えれば、彼の身体が持ちこたえれば、マラソンにおいてキプチョゲにやっと挑戦できる可能性も十分にある。

エリウド・キプチョゲ:“日曜日のレースは「華麗な走り」をしたい”

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マラソンは長い戦いであり、それにかける準備も長い時間を要する。マラソンがスタートする前の選手の状態がどうなのかは、必ず出てくる疑問である。しかし、キプチョゲがマラソンを走る時、彼の状態はいつも安定している。彼はパトリック・サングの指導によって、マラソン時にピークを持ってくるシステムを築き上げた。

サングは、キプチョゲがレース当日にどんなパフォーマンスをするか正確に測定できるような練習結果に頼っていない。代わりに、それぞれの練習に特定のレベルや強度を設けている。この練習は60%、次の練習は90%と言った具合に。そして、レース当日にピークが来るようにする。本番でポテンシャルをすべて発揮できるように。

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「目標としている強度で練習を心地よく終えることができれば、正しいことをしているという目印になる。ひとつのセッションだけを見ているのではない。目標に向かって段階的に進んでいくんだ」

そうサングは語った。キプチョゲは、練習ですべての段階を踏み、日曜日の本番の準備は出来ていると感じている。また、2016年シカゴマラソンで優勝している35歳のアベル・キルイ(ここ1年、キプチョゲのトレーニンググループで練習を積んでいる)に関しても、“コンディションが良ければ2:05:04という自己記録を更新できるだろう”という見方を示した。

キルイは我々のトレーニングプログラムによく適応している。昨年のシカゴマラソン前には故障もしていたが、今回はよく出来上がっている」

キプチョゲに関しては、彼の経歴に1つだけ欠けているのが、マラソンの世界記録である。2016年ロンドンマラソンを走った際、たった8秒届かなかった世界記録だ。今大会で世界記録更新というのは、どのぐらい重要なことか、キプチョゲに尋ねてみた。

「日曜日は、華麗な走りをしたいと思っている。世界記録について何か考えを述べることはできないが、華麗な走りをしたいと思っている」

これは何を意味しているのだろうか?

「“ファンが満足するようなレース”という意味だ。自分自身も幸せになれるようなレース」

キプチョゲが考えるこれまでで1番華麗なレースはBreaking2だったという。そこで彼は“考えられない”走りをして2:00:25の記録を出した。大方の予想を大幅に上回るタイムだった。

華麗なレースと言えば、キプチョゲのトレーニングパートナーであるジョフリー・カムウォロルが先日バレンシアで開催された世界ハーフマラソン選手権で華麗な走りをしたばかりだ。キプチョゲカムウォロル、ハーフマラソンを走ったらどちらが勝つか?

“今はマラソンに集中している”ということで答えてくれなかったが、“いつの日か世界最強のマラソン選手という名を、弟子であるカムウォロルに授けたい”と言っていた。

ジョフリーには将来、マラソンで自分のようになってほしいと願っている」

キプチョゲの話を聞くのは、ただただ素晴らしい。キプチョゲは話す時、常に落ち着いており、思慮深く、賢い。彼の口から発せられる言葉一つひとつが、まるで額に入れられ壁に飾られるように感じる。今日のお気に入りのキプチョゲイズムは、彼がレース終盤の1番キツい時になぜ笑みを浮かべているのか、と聞かれた時の彼の答えだ。

「笑うことで、痛みを忘れることができ、気持ちに火がつく。それが、笑顔の美しさだよ」

前半61:00のレースが見られるか?

ペーサーがどのようなペースで走るのかまだわからないが、ホテルで色んな人から聞くと、“61:00”という答えが多かった。サングも、“理想的なコンディションであれば61:00というのは計画通りだ”と認めている。しかし、現在の天気予報によると、ゴール時間には気温は約20℃まで近づく予報で、理想的な気温(11℃前後)よりはかなり暖かい。

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金曜日時点のロンドンの日曜日の天気予報。女子は9:15、男子は10:00スタート

ピンとこない方に言うと、中間点の通過が61:00というのは速い。世界記録ペースよりも速く、これまでで1番速かったマラソンの中間点の通過(2016年ベルリン)よりも11秒速い(Breaking2は含まれていない)。しかし、キプチョゲがモンツァで2:00:25で走り、昨年のベルリンで気温が低く雨の中を2:03:32で走ったことを考えると、理想的なコンディションであればロンドンで2:02:00で走れると考えるのも、決して非合理的ではない。問題は、彼についていくだけの勇敢な選手がどのぐらいいるか、ということだ。

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※追記 男子の第1ペーサーは61:00、第2ペーサーは61:45、第3ペーサーは65:30

陽気なグエ・アドラ

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ベケレキプチョゲ以外にも注目すべき選手は多くおり、その中でも1番の選手がグエ・アドラだ。彼は、昨年のベルリンマラソンで初マラソン世界最高記録の2:03:46をたたきだした。残り5kmで一時はキプチョゲを引っ張った選手である。今年、アドラは調整レースで2レースに出場している。1月のヒューストンでは60:15の2位(優勝タイムは60:01)、2月25日に開催されたサウジアラビアのリヤドハーフマラソン(優勝賞金が$266,650=約2870万円=世界最高賞金レース)では62:07の4位(優勝タイム61:54)と、健闘している。

リヤドでタイムが落ちてた原因について暑さを挙げていたアドラだったが、レース時の最高気温は約23.8℃だった。アドラのこの説明をどう捉えるかは難しいところだ。アドラは、約26.6℃の今日のロンドンの天気を、“楽しんでいる”と言っていた。リヤドハーフマラソン時の天気によると、湿度が80%以上あったようなので、恐らく気温よりは高湿度が原因だったのであろう。

ベルリンマラソンの後、アドラは“ベルリンを走ることを4日前に知った”と語っていた。それは真実ではないが、それでも彼のトレーニングへのアプローチ方法は、即席のものがほとんどだという逸話があるぐらいだ。ロンドンマラソンでは早い段階から出場が決まっていたが(ベルリンマラソンでゴールした直後に、ロンドンマラソンのオーガナイザーに話しかけられた)、アドラは長期的な目標に縛られるのを嫌う。彼は、自分の身体に耳を傾ける選手なのだ。

そのようなこともあり、コーチのゲメドゥ・デデフォによると、“アドラがロンドンマラソンを走ると100%気持ちを固めたのは先月だったと”のことである。

グエは他の選手とは違うよ。自分の身体の様子を確認し、先月ロンドンマラソンを走ることを決めた。もし彼の身体がフルマラソンを走れると言えば、彼は走ると決めるんだよ」

デデフォはそう語った。つまり、アドラがここにいるということは、いい兆しなのである。デデフォによると、彼のトレーニングは昨年のベルリンマラソン時と同様に進んでいるとう。マラソン選手は、生まれながら自分を追い込むことに長けているが、アドラは違う。彼は誰にも劣らずに練習をするが、感覚に従ってトレーニングをしている。

アドラをトレーニングパートナー達(タミラト・トラレミ・ベルハヌ)と比較すると、グエは変わった男だ。馬鹿げたスピードで走ったりはしない。毎回、身体の声を聞くんだ。身体の調子をみて練習をする。私がこの練習をしなさいと言っても、もし彼の身体がその練習をしないと言ったら、彼は練習をしない。彼は、身体が言ったことをするんだ」

***

 

レッツラン記事

http://www.letsrun.com/news/2018/04/marathon-ages-london-eliud-kipchoge-vs-kenenisa-bekele-potential-timer-plus-mens-media-day/

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