【LRCJオリジナルインタビュー記事】ハーミッシュ・カールソン(リオオリンピック男子1500mNZ代表)その2

トレーニング拠点、レース拠点について

トレーニング拠点ニュージーランド・レース拠点アメリカ・欧州

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©2017 SushiMan Photography ホノルルでのカラカウアメリーマイル

『レースを海外ですること』これは、ニュージーランドに住んでいながら世界のトップレベルになるために必須となることである。ニュージーランドではレースの数が非常に少なく、そしてオリンピックの参加標準記録を切れるような展開になるレースは、ほぼ無い。そのため世界大会に出る第一歩として海外のレースに参戦することとなる。

しかしここでも一つ問題が発生する。スポンサーやエージェントを持たないでどのように海外遠征をするのか

アメリカの大学で結果を出して(NCAAで活躍して)競技を続けていればスポンサーの獲得は簡単である。アメリカには大きなスポーツ市場がある。そういった意味でもアメリカの大学推薦システムは、ランナーにとって非常に素晴らしいものとなっている。逆にそういったコネクションを持っていない選手は、一流のランナーとして成功することが非常に難しくなる。

(※日本のスポーツ市場の広さは、日本の多くの長距離ランナーの快適な競技生活をサポートしていると感じる。日本の大学推薦システム・実業団システムは、アメリカの大学やスポンサー企業契約に非常に似ているところがある)

ハーミッシュは自らがニュージーランドの大学で競技を続けることを選択したために、こういった繋がりを持っていなかった。ハーミッシュにとっての海外遠征とは、まずは海外で出る大会を決め、自分で遠征計画を作り、自費でレースを回っていくことなのである。その間は仕事も休むため収入も減る。(※つまり、プロ選手ではなく市民ランナー)

「それでもレースを続けてこれたことは周りの人たちのサポートがあったからこそ」

ハーミッシュは話す。そしてその不自由とも思えるキャリアスタイルは、結果的に自分自身の計画に『自由』と『強さ』をもたらす。チームに所属していれば『チーム』として行動しなければならない。それは練習だけでなく、宿泊場所・時間・食事、その他多くのことである。

チームで動くのであれば、おおよその場合は自分で航空券や宿泊施設、外国の食事などを検討しなくてよいが、周りのことをよく知らない分、遠征中の行動範囲は意外と狭くあまり自由がない。周りの雑音が入らなくてよいという利点もあるが、逆に周りの様子に対応できなくなるという側面も持っている。

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©2017 SushiMan Photography

ニック・ウィリス(手前)とハーミッシュ(左奥)は良い信頼関係を築いている

「個人で遠征計画を練っていると、飛行機は自分がいいと思うプランで選べばいいし、宿泊では友人を頼ったり、最も難しいレースへのエントリーはニックと連絡を取り合って大会主催者に繋げてもらうとスムーズにエントリーが可能になる。」

ハーミッシュは話す。そして、一つ一つのことを自分自身でこなしていくと、身の回りの世界(世間)はとても大きなものになっていて、海外のレースでも慣れている場所と同じように走ることができる。

どこに行っても『いつもと同じように走れる』これは世界大会で活躍するためには最も大切である能力であるが、簡単には手に入れられない能力である。その能力をハーミッシュは『遠征を自分自身で作る』ことで養っていったのである。

自分に合った練習

海外に行くと様々な練習を見ることができる。アメリカの選手であれば持久的アプローチからスピードまでを。ヨーロッパの選手はトラックでのピュアスピードを重視。また、800mのスピードを中心として1500mの練習も併用するスピードランナーや、5000mの持久力ベースでスピードを開発し1500mに臨むランナー、といった具合に多種多様である。ハーミッシュ自身もそういった練習を見ていく中で、

「何度か練習計画を変えてみたことがある」

と話す。練習計画を変えても調子が良くなってくるが、最終的にはピークに達する前に調子が落ち始めてしまうことがよくあったようである。その中で気づいたことは

『すべての人に合う練習はない』

ということである。ハーミッシュ2014年~2015年のシーズンはあまり結果が出なかった、と前述した。その中でそれを乗り切れたのは『モチベーションを保てたこと』を要因に挙げているが、もう一つの重要な要素として挙げることは『分析すること』である。

4マイルテンポ走(3’05/km)+ 1000m × 3(2’35 – 30)のトレーニングの様子

4マイルテンポ走(3’05/km)+ 1000m × 3(2’35 – 30)のトレーニングのスロー動画

どのような練習が自分に合っているのかを試行錯誤しながら、

どのようにして

  • 段階的に練習を引き上げていくのか
  • 適切な時期にピークを作るのか
  • 計画的な練習とそれに見合ったレース結果を作っていくのか

これらを、

「様々な練習と今までの練習経験によって確実に修正できたことが、2016年の1500mの自己ベストにつながった」

と、ハーミッシュは話す。『キャリアの中で最大の練習をするのではなく、現状に合った最高の練習を見極めること』、このポイントが最も大切である。そして、

「分析に必要な自分の練習ベースを持っていること。それをよく理解していることが確実にキャリアを伸ばしていく。それが、1500mという種目でシニアになってからも1秒・2秒を削り出していくポイント」

と話す。大きな前進ではなくても、小さな前進を繰り返していくことが目標達成につながる。また、海外に出ていく中で、練習で効果的なことは、

「高地トレーニングをできること」

と話す。練習計画は一人一人個人のものである。しかし高地トレーニングで得られる効果は練習が違ってもみな同じである。それはとても効果的でやりがいがある。しかし、そこに縛られることはない。どれだけ自分のことをよく知って、自分の練習・レースに集中できるかが重要である。

ニュージーランドで競技をする

ハーミッシュは高地トレーニングや記録を狙うための海外遠征を多く行っており、ニュージーランドから離れる期間が長くなることも多くなる。その生活を聞くと、あまりニュージーランドでの練習やレースに魅力を感じていないのか?と問うと、

「そうではない」と話す。そして2018年の目標に対しては、

2018年の目標はニュージーランドにいること』

と、ハーミッシュは話した。

彼はニュージーランドで生まれ、ニュージーランドで育ち、そのキャリアのほとんどをニュージーランドで築いてきた、という客観的な要因だけではない。ニュージーランドの自然の中を走っていると、心も体もリフレッシュして元気になる。ハーミッシュ・カールソンという中距離選手の心と根幹はニュージーランドの自然からできているのである。

「『2018年はニュージーランドで』『2019年はドーハ世界選手権・2020年は東京オリンピックで決勝を走ること』が目標」

と話してくれた。その言葉の中には行間があり、『2018年はニュージーランドで心と体を回復させて、力をつける準備をし、2019年のドーハ世界選手権・2020年の東京オリンピックでの決勝を戦う』という気持ちがあるのではないかと筆者の私は考えている。

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©2017 SushiMan Photography

レース後のハーミッシュ・カールソン(右)と話す筆者(赤いTシャツ)

 

走ることを初めたばかりの少年のような気持ちで、いつも走れるランナーは世界中探してもあまり見当たらない。私がとても印象に残っているのは、ニュージーランドのワナカという場所で一緒に練習をした際に、午前のスピードワークの後、午後の遊びに行く時間にとてもきれいな木々の自然なトンネルを発見したときのこと。

『ここは気持ちよさそうだから走りたい(Let’s run!!)』

そう言ったハーミッシュは車を止めて、急に走る準備をし始めた。そして『ニュージーランドの自然の中を走ると回復するということ』を目の前で体感することができた。

この記事を書いていてハーミッシュの走ることへの純粋な気持ちを知ることができたとともに、ランナーとしての強さを確認することができた。それは私にとって非常に感動的な出来事であった。

また、彼はオリンピックレベルの選手でありながら『ランナーはすべて友達』というぐらい誰に対してもとてもフレンドリーに接してくれる人間性を持っている。それは、競技力では表せない一人のランナーとしての魅力であり、誰からも応援されるランナーの模範であるとも感じている。

ニュージーランドの自然と人に愛され、ニュージーランドを愛する一人の中距離ランナーの走りで、また多くの人・ランナーが感動することをこの記事を書きながら確信している。

 

【筆者プロフィール:谷本啓剛】

ニュージーランド・ウェリントン在住

ランニングガイド・RunZ(ラン・ニュージーランド)代表、酒井根走遊会主宰

【RunZ(ラン・ニュージーランド)】https://runnewzealand.wordpress.com/

【酒井根走遊会(オンライン陸上部・駅伝部)】https://ameblo.jp/dashpiro

 

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