※以下は、ニュージーランド・ウェリントン在住の谷本啓剛氏(ランニングガイド・RunZ:ラン・ニュージーランド代表)によるレポートで、レッツランジャパン(LetsRun.com Japan=LRCJ)オリジナルコンテンツのインタビュー記事です。
ハーミッシュ・カールソン
〜リオオリンピック男子1500mNZ代表〜
Embed from Getty Images3月のバーミンガム世界室内陸上選手権の男子3000mにニュージランド代表として出場予定で、現在はロンドンに滞在中の中距離ランナー、ハーミッシュ・カールソンにインタビュー。ニュージランドに生まれ育ち、トレーニング拠点をニュージーランド国内に置きながらも、国際大会に出るレベルに成長する選手は非常に少ない。また陸上競技の1500mという人気のある種目、スピード・持久力を向上させながら同一種目でキャリアを伸ばしていく選手は世界中でも非常にまれである。まさに『自己流』ともいえる競技キャリアを形成していった背景、そしてその強さについて伺った。
ハーミッシュ・カールソン:IAAF選手名鑑
Embed from Getty Images出身:ニュージーランド・ウェリントン
生年月日:1988年11月1日
自己記録:1500m 3:36.25 1マイル 3:56.72 3000m 7:47.22(室内)
大学:ヴィクトリア大学(ニュージーランド・ウェリントン)
クラブ:ウェリントン・スコティッシュ
コーチ:アーチ・ジェリー、ニック・ウィリス
ランニングとの出会い
クロスカントリースキーからランニングへ
ハーミッシュがまだ幼い時、その記憶にあるのは大自然、山、そして雪だった。幼いころにクロスカントリースキーをはじめ、それがハーミッシュにとっての最初のエンデュランススポーツ(持久系スポーツ)であった。クロスカントリースキーは『楽しい』だけではなく、自然のフィールドを力強く上り勢いよく滑走することは何よりも気持ちよかった。
彼は6歳~14歳までの期間、クロスカントリースキーだけでなく、フィールドホッケー、インライン(アイス)ホッケー、トライアスロン、ダウンヒルスキーと様々なスポーツを楽しんでいた。
ジュニア期のトレーニング
14歳の時にハーミッシュはウェリントンでランニングのトレーニンググループに所属する。ランニングのトレーニンググループではジュニアのコーチ(グライアム・ウェリントンハリアーズ)の指導でトレーニングを開始する。ジュニア期のトレーニングはいたってシンプル。週2回のスピードワーク(トラックでの練習)とその他4回の軽い練習というプログラムであった。
週2回のスピードワークの内、土曜日はレースになることが多く、レース以外の日のスピードワークで特に好きだったものは300mを8本、3分のリカバリーで行うというもの。その練習で最もハーミッシュ少年の心を楽しませたものは『競争すること』『45秒』を切ること。
『300m』というスピードをコントロールし勝つこと、そして『45秒』というタイムを目指すことは、1500mという中距離種目の中で最も必要な能力であり、その感性を走り始めた当初に磨けたこと。ハーミッシュのレースを見ていて彼の勝負強さやラスト300mのキレに繋がっていると強く、筆者の私に思わせる。
「ジュニア期のレースでは勝ったり負けたり多くの経験をしたが、『楽しい』という思い出が最も印象に残っている。」
と、ハーミッシュは嬉しそうに話す。そしてこう続ける。
「走り始めたころ(13歳~15歳頃)、そしてジュニア期を通して多くの選手が自分の前を走っていた。」
そんな中でも、無理に練習を引き上げなかったこと、『勝つこと』にこだわらなかったのは、ジュニア期に受けたコーチングによるところが大きいようである。ハーミッシュのコーチであったグライアムは多くの選手を国際レベルに引き上げたニュージーランドでは有名なコーチである。彼は選手とよく話すことを重要視し、紙面上のトレーニングプログラムだけに縛られていなかった。
そんな練習環境で、『走ること』を心から楽しめたようである。また前述した300mの練習はいつもハーミッシュ少年の『走ること』へのモチベーションを掻き立てていた。13歳~17歳までの期間はグライアムのコーチングのもと、走りを楽しむとともにランナーとしての基礎を築いていった。
メイントレーニングの開始と大学
ハーミッシュはジュニア期の途中で、現在のコーチであるアーチ・ジェリーと出会い、彼のコーチングを受け始める。今までと違ったトレーニングプログラムの中で、中距離ランナーとしての能力がひときわ磨かれることとなった。
多くのニュージーランド人の優秀な選手はアメリカへ奨学生として留学する中、彼はニュージーランドの大学へ進み、ニュージーランドの自然について研究する傍ら、ランニングキャリアを継続していったのである。なぜ留学しなかったのか?彼はそんな問いに笑いながらこう答える。
「ニュージーランドに住むことが好きだから。」
いたってシンプルな答えである。
彼が心から『走ること』が好きなことは話していても、練習やレースを見ていてもすぐにわかることである。そして彼の現在の仕事の『ボタニスト』=植物学者であることや、中距離選手にして森の中を2時間も毎週日曜日に走っていることを近くで見ていると『ニュージーランド』そして『ニュージーランドの自然』が好きということがよくわかる。
留学せずにニュージーランドで力をつけていくことは、国際水準の高速レースがほとんどないことやトレーニンググループが少ないことでとても不利になる。しかしハーミッシュはコーチとともに自らに合った練習方法を19歳のころから継続し、毎年力をつけていく。現在も続ける練習のベースは以下のようになっている。
【走行距離】
- 鍛錬期(冬~春):160㎞/週 ※持久能力を重視
- スピード期(春):120km~130km/週 ※スピード持久能力を重視
- レース期:100㎞以下/週 ※レースペースを重視
【例:週間スケジュール】
- 日曜日:ロングラン(不整地2時間)
- 月曜日:(2回練習)午前60分軽いラン、午後30分軽いラン+流し
- 火曜日:ワークアウト日(テンポ走もしくはヒルインターバルなど)
- 水曜日:(2回練習)各30~40分軽いラン
- 木曜日:90分程度の軽いラン(不整地)
- 金曜日:(2回練習)午前60分軽いラン、午後30分軽いラン+流し
- 土曜日:ワークアウト日(スピードワーク)
【好きなトレーニング】
- 森の中でのロングラン
- K-Parkでの練習
この練習の流れはここ10年ほど変わっていない。このトレーニングベースが、大学での研究を行う傍らで、シニア期に強くなる基礎を築き、大学卒業後のインターナショナルレベルへのステップアップへつながることになる。
いつも楽しく拝見しています。更新されるのがとても楽しみで待ち遠しいです。ニュージーランドの選手のごく余り知られない陸上競技を志した「動機付け」が興味深かったです。日本では駅伝や地元の有名高校に憧れて・・なのでしょうが、彼らはいろんなスポーツを経験した末にたどり着いた選択肢。ジュニアから限定されないオールマイテイーなスポーツ経験の中から中長距離に辿り着いた。という部分で大きな違いがあるような気がします。おそらくウォーカーも様々なスポーツを経験した末に辿り着いた選択肢だったのかもしれませんね。そういう選手のもつ運動能力や神経回路は、種目が早期に限定される国内と大きく異なるのでしょうね。そのような魅力的な風土や環境も非常に興味深いです。ぜひニュージーランドに行きたいです。
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コメントありがとうございます。陸上競技を子どもの時に取り組みながら、いまはオールブラックス(NZラグビー代表チーム)で活躍する選手もいたりと、小さい頃はマルチスポーツに取り組む文化です。これからもNZの情報を発信していきます。興味深い情報を発信できるよう、尽力致します。
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