デイビット・ヘメリー・バレンタイン招待:エドワード・チェセレク(ケニア)が室内1マイル世界歴代2位の3:49.44の快挙!

2月9日(ボストン)エドワード・チェセレクは現在の国籍であるケニアを背負わないトラックの選手であり、それによって状況は少し複雑になっている。

トラックの選手というのは、大きな目標となるレースに向けて調整をしていくものである。例えば、全米選手権、世界選手権、オリンピック。しかし、ケニア人のチェセレクに、現在その道は開かれていない。彼は将来、アメリカに帰化して全米代表として走ることを望んでいるが、ケニアからの留学生として昨年オレゴン大学での4年間の競技を終えて、スケッチャーズのプロ選手となったばかりのチェセレクは、まだアメリカの市民権を手に入れていない。彼は現在、ケニア代表としては走る権利を持っているが、もしケニア代表になれば※IAAFの国籍変更規制の取締りの状況によっては、今後2度と全米代表になれない可能性がある。

(※IAAFはセバスチャン・コーが会長に変わってから①ドーピング根絶②国籍変更の厳格化=主にアフリカ系の中長距離選手が金銭目的で中東の国に国籍変更すること問題視したものやそれに付随する状況、などの取締りを強化している)

世界の舞台で走ることではなく、エドワード・チェセレクは今戦えるフィールドにある目の前のレースで勝つことに心に決めた。今夜、彼が狙った記録は室内1マイルのサブ3:50という数字だった。残り1周に入ったところで、ボストン大学の室内トラックに集まった何千もの大観衆の声援を受けて、エドワード・チェセレクは人類の歴史上、ボストン大学の室内トラックで唯一3:50を破った男となった。ラスト1周、このタイムに挑戦できるアスリートは彼しか残っていなかった。レースが終わって、彼の記録が3:49.44だったことがわかった瞬間、彼は室内1マイル史上、世界で2番目に速い男となった。そして室内1マイルでサブ3:50を達成した4人目の選手となった。

今夜は、エドワード・チェセレクが記録への挑戦を行い、見事に栄光を勝ち得た夜となった。

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レースが始まる前から観衆は興奮していた。そして、「※NCAAタイトル17冠!室内1マイル大学記録保持者、エドワード・チェセレク!」とスピーカーでアナウンスされると、会場の興奮は最高潮に。

(※チェセレクはオレゴン大学在学中の4年間で、全米大学クロスカントリー選手権:個人総合優勝3回、全米大学室内選手権:1マイル優勝1回、3000m優勝3回、5000m優勝3回、DMR=リレー優勝2回、全米大学屋外選手権:5000m優勝2回、10000m優勝3回=合計17冠、NCAA歴代最高タイトル保持者※歴代全種目含めて)

 

大学生の選手、コーチ、そしてそれ以上に一般のファンが多い。レース・リザルト・ウィークリーのデイビット・モンティ氏と共にボストン大学の室内トラックへ向かう途中、一人の女性がトラックの場所を聞くために声を掛けてきた。一緒に歩いていく間に、どうしてこの大会に来たのか聞いてみた。彼女は選手の親でも友達でもないという。彼女は、このような大会の観客の大多数を占める「ファン」だった。彼女のランニング仲間が、この大会のことを教えてくれて、金曜日の夜を過ごすのには面白いイベントだということで、やってきたらしい。

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©2018 LetsRun.com

選手たちがスタートラインに並ぶと、会場の期待は一気に高まる。しかし、トラックの様子は妙だった。チェセレクはネオングリーンにネイビーのスケッチャーズのシングレットを着ており、チェセレクの内側にはペーサーのドリュー・ピアッツァブラノン・キッダーが立っていた。選手は3人のみ、彼らだけだ。しかもそのうち2人はフィニッシュさえしないペーサーである。スタートリストは、大会のウェブサイトにさえ掲載されていなかった。

一人しかゴールしないレースというのは、スポーツとしてみたときにはあまりよくないかもしれない。しかし正直言うと、誰が今夜の彼を止められただろうか。

キッダーチェセレクと引っ張る形になり、最初の209mを31、409mを59で通過、ピアッツァはその後ろにつき、チェセレクは3番手を走っていた。チェセレクが809mを1:56で通過したとき、観客は悲鳴にも似たような声援を上げていた。サブ3:50が狙えるペースである。850m過ぎでキッダーがトラックを離れペーサーの役割を終える。その後はピアッツァチェセレクを引っ張りって1009mを2:24で通過。チェセレクがバックストレッチで少し戸惑った。先頭のピアッツァのペースが少し落ちたのだ。チェセレクピアッツァを抜くには外側に出るしかなく、サブ3:50の目標を達成するにはここでペースを落とすわけにはいかなかった。

「もっと速く!もっと速く行け!」

チェセレクピアッツァに向かって叫び、彼はそれに反応してペーサーの役割を終える前にもう一度ラストスパートをかけた。1209mを2:53で通過、ここからはチェセレク一人になった。

最終周の鐘がなった時点で3:21、ここから彼は全力を振り絞り走った。最後のカーブを曲がると、腕を思いっきり回した。観客の歓声と興奮は最高潮に達していた。チェセレクのラストスパートは、観客の応援を加熱させた。そして、ゴール後のタイムボードは3:49.44を示していた。電光掲示板のタイムを見たチェセレクは、最初驚きで数秒固まっていたが、もう一度タイムを確認すると自分の走りに喜びをあらわにしていた。

チェセレクが土曜日(レースの翌日)の朝に目覚めたとき、彼には代表する国がないのは変わらないだろう。彼のアメリカでの市民権が獲得できるまで、さらに次なる高い目標を見つけなければならない。しかし、会場の観客全員が彼に向かって大きな声援を送り、ラスト200mを飛ぶように駆け抜け、室内1マイルで世界歴代2位のタイムで走ったという事実がそこにある。

「素晴らしかったよ」

彼は会場の雰囲気について、こう語った。今夜のレースは、完璧な瞬間ではなかったかもしれないが、エドワード・チェセレクが今経験できる完璧のレースには、限りなく近かったであろう。

【3:49.44のフィニッシュシーンの様子】

【レース後の様子】

何という素晴らしい走り!

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高地(アルバカーキ)での1マイルで3:54で走り、その翌週、フラットのトラック(バンクのないコーナーがキツい)で1マイルを3:53で走った後、彼は

「サブ3:50は出せると思う」

と、語った。しかし、何気ない会話の中での話だったし、実際にそれを成し遂げるのとは話は別である。しかし、チェセレクは実際にそれをやり遂げた。そして今、彼の前にいるのは伝説のヒシャム・エルゲルージ(3:48.45)だけになった。3:49.44というタイムは文句なしに速い。チェセレクの1マイルの持ちタイムは、2016年オリンピックメダリストの誰よりも速いことになる。マシュー・セントロウィッツ、タウフィク・マフルーフィ。それが、チェセレクのタイムである。

そうは言っても、今夜のレースはチェセレクにとっては有利なものとなったのは確かだである2週連続でハードなマイルレースを走ったことにより、身体の状態はフレッシュではなかったが、彼のために完璧に設定されたペースが用意されていた。アメリカ国内で一番速いとされる室内トラックで走ったことも有利に働いたし、風もない完璧な天気のもとでのレースだった。

選手権スタイルでもなく(決勝前に燃え尽きることも心配なく)、彼はこの日のために最善の状態で全てのエネルギーを注ぎ込むことができた。対戦相手のいないレースで、位置取り争いのため、余計な距離を走る必要もなかった。

この分析は、チェセレクのこの記録の価値を下げるものではない。もう一度言うが、素晴らしい走りだった。我々が、選手がある距離を完璧なペースとコンディションのもと走った場合の記録を推測するとき、それはただ単に推測でしかすぎない。今夜、チェセレクはそれを試し、出した答えが3:49.44だった。

本当のレースとは言えないかもしれないが、それでも素晴らしい走りだった

昨年私が、チェセレクが1マイルの全米大学記録を更新できるかどうか見るためにボストン大学の室内トラックに来たときは、半信半疑だった。ホカ・ニューヨーク・ニュージャージー・トラック・クラブ(HOKA NJ*NY Track Club、カイル・マーバージョニー・グレゴリック)の強豪選手と一緒のレースだったが、速いレース展開になったとしても誰が優勝するのか、あまり誰も気にしていなかったように思える。グレゴリックだけが世界選手権標準記録を切れるかどうかという状態だったが、レースは最終コーナー過ぎから素晴らしい展開になった。チェセレクマーバーを抑え全米大学記録を更新した。見ていて面白いレースだった。

今夜、チェセレクしかレースを走らないと知った時、少し半信半疑になった。しかし、こう自分に言い聞かせた。結局、彼についていける選手は他にはいないということ。そして、観客は見入っている。1マイルのサブ3:50が達成されたとき、みんな興奮するだろう、ということだ。

だから、このレースで誰が勝つか、というドラマは全くなかったが、私がこのトラックで聞いたどの歓声より大きい応援であふれていた(私はこのボストン大学での室内大会に数年間通っている。ゲーレン・ラップが2013年に1マイルで3:50で走った時も来ていた)。今年はオフイヤー(夏に屋外の世界大会はない)であり、この後ワナメーカーマイル(ミルローズゲームのメインイベント)が控えているとはいえ、チェセレクが勝てる他の室内レースは今シーズンない。今日集まった観客が、このスペクタクルレースを見られたことは、本当に幸運なことである。

チェセレクは高地でのレースを楽しんだが、まだ自分をマイル選手だとは思っていない

2017年、このトラックでチェセレクは3:52.01(全米学生新記録)で走り、その一年後に同じトラックに戻ってきて2秒ちょっとタイムを縮めた。3:52のマイル選手が2秒以上記録を縮めるなんて、ほとんど聞いたことがない。しかし、

「一つのレースに集中できたこと(NCAAの2連覇や3連覇ではなく)、そしてフラッグスタッフでの高地トレーニングが、彼を2018年にまた一つ上のレベルへと引き上げてくれた」

と、語ってくれた。

「トレーニングがすごく順調に進んでいるよ。オレゴン大学での競技を終えて、今はトレーニングに集中できている。今年に入るまで、高地で走ったことなんてなかった。高地(ケニアのリフトバレー州の標高2000m以上の田舎町)で生まれたが、フラッグスタッフに来るまで高地で真剣にトレーニングしたことはなかったよ」

自分を1マイルの選手(中距離選手)だと思いますか?レース後にチェセレクはそう聞かれた。

「いえ、そうは思わないよ。たぶん、これが最後の1マイルかな、誰も先のことはわからないけど」

(※今シーズンは走らないと言っているのか、今後一切走らないと言っているのかは、定かではないが、私は後者の方だと思う)

エルゲルージだけがチェセレクより速い室内1マイルの記録保持者=世界記録保持者であることを考えれば、彼がマイルの選手ではないと考えるのは、一見ばかげているように思えた。しかし、実際は違う。昨年、この同じトラックでチェセレクは3:52の全米大学記録で走り、NCAAでは※ジョシュ・カーに2秒以上の差をつけられて負けた。両選手にとっては、その日が初めての対戦だったが、チェセレクは前日に5000mを走っていた。

※ニューメキシコ大、当時1年のイギリス人=その後ロンドン世界選手権に1500mで出場

それに加えて、屋外1マイルでは歴代で40人以上の選手がチェセレクより速いタイムを持っている。しかも、今夜チェセレクが走ったような完璧なコンディションでのレースではない(風、天気、他の選手も出場するなど)。ゲーレン・ラップエリウド・キプチョゲは2人とも1マイル3:50で走っている(ラップは室内、キプチョゲは屋外)が、誰も彼らのことを“マイルの選手”とは呼ばない。

最後に、チェセレクが室内1マイル歴代2位だということを思い出してほしい。世界の強豪選手で1マイルを走る選手は多くなく、しかも多くは室内では1マイルを走ったことがない。そうは言っても、チェセレクの記録を室内1500mに換算したとき、彼のタイムは歴代記録の中でもかなり上位になる。1.0802の率で換算すれば、1500mのタイムは3:32.41になる。室内1500m歴代4位のタイムになる。

【室内1500m世界歴代トップ3】
① 3:31.18 ヒシャム・エルゲルージ (モロッコ)1997年2月02日
② 3:31.76 ハイレ・ゲブレセラシエ (エチオピア)1998年2月1日
③ 3:32.11 ラバン・ロッチ (ケニア) 1998年2月1日

そうそうたる顔ぶれである。

しかし、室内1500mより速いタイムが出る屋外1500mは、スタートして9m後にカーブがあり、毎年多くの選手が3:32を切ってくる。過去2年を見ても、少なくても12人の選手が屋外1500mで3:32を切っており、2015年には誰も“マイルの選手”と呼ばないであろうエヴァン・ジェイガーも屋外1500mで3:32を切っている。

チェセレクとは、珍しい才能の持ち主だ。生まれ持ったスピードと、持久的なトレーニングをやり遂げる能力に長けている(彼のコーチであるスティーブン・ハースが、“フラッグスタッフでのトレーニング中、週に100マイル以上は走っていた”と教えてくれた)。そして、これらは世界大会での5000mや10000mでメダルを獲るのに必要になってくる能力なのである。

 

レッツラン記事

http://www.letsrun.com/news/2018/02/edward-cheserek-blasts-349-44-move-2-time-world-indoor-list/

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