【LRCJオリジナルインタビュー記事】スティーブ・ウィリス(NZ中長距離代表コーチ)のコーチング哲学その2

※以下は、ニュージーランド・ウェリントン在住の谷本啓剛氏(ランニングガイド・RunZ:ラン・ニュージーランド代表)による現地レポートで、レッツランジャパン(LetsRun.com Japan=LRCJ)オリジナルコンテンツのインタビュー記事です。


スティーブ・ウィリス

〜NZ中長距離代表コーチ〜

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ウェリントン(Wellington)のASBスポーツセンターで、ニュージーランド中長距離代表コーチと面会する時間を頂けたので『ニュージーランド(スティーブ・ウィリス)のコーチング』『走ることへの思い』を伺ってきました。

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スティーブ・ウィリス(Steve Willis)

出身地:ローワーハット・ウェリントン(ニュージーランド)

生年月日:1975年4月24日

自己記録:800m 1:48.24   1500m 3:40.10   1マイル 3:59.0

出身大学:アメリカ・コロラド大学

役職:ニュージーランド中長距離代表コーチ

ニック・ウィリスの8歳年上の兄

その1はこちらから。


コーチング哲学とルール

自分が走ることとコーチング

「ここ5年ほどは膝が良くないのであまり走っていない。しかしできることなら走りたい」

と、スティーブは話す。若いアスリートをコーチングすることに情熱を注いでいるため、自分のランニングについてはあまり考えていない。しかし走ることは好きで、できることなら若いアスリートとは一緒に走りたい。というのも一緒に走っていると、お互いに気持ちが通じ、椅子に座って話をしているよりもいろんなことを話すことができる。こうやって選手の言葉を聞き出せる機会は一緒に走ることが1番である。膝が悪く走れないときはマウンテンバイクで一緒に走ったりする。

(※私自身の経験としても、自転車通勤中のスティーブから声をかけられて一緒に走ったりする。落ち着いていて冷静な表情をいつも持っているが、その内心は人の心にある言葉をくみ取る非常に心豊かなコーチングスタイルであることは、そういった経験からもうかがえる)

『選手は1人1人が全く違う』『誰が自分の前なのか』

これはスティーブが選手によく言う言葉。トレーニングを積んでいると、『あの選手は毎週200㎞走っている。』『スピード練習を追求した方が良い。』といったような言葉が聞かれるが、こういった横からの情報をそのまま自分のトレーニングとして取り入れようとすることはあまりよくない。

選手には一人一人違う能力があり、特性がある。それは筋肉や骨格や遺伝的なものである。そういったことを無視して、別の一つの成功例を実施しようとすることは選手としては避けるべきであり、それを選手にやらせることもいいコーチングではない。

選手は自分自身の『できる量』『できる質』を分析すべきであり、コーチは選手のこれらの要素に応じて段階的に少しずつ練習を引き上げていくことが必要である。練習の方法に関しても全員同じでなく、選手ごとに違った練習に取り組む必要がある。

ひとり1人の適性に合ったコーチングをする中で、一緒に走って選手の話を聞くということはスティーブのコーチングにとってとても重要な要素になっている。

コーチングルール『A back pack (1つのかばん)』

「選手はみんな一つのバッグを持っている。中に荷物を入れたら、別の何かを出さなければいけない」

と、スティーブは話す。

練習ではスピード練習を行うのか、スタミナアップを狙うのか、レースペースの練習を多く行うのか、といったような要素がたくさんある。そういった一つ一つの要素は一つずつしかバッグに入らない。もし無理に2つ入れようとしても入らない。練習はかばんに入る一つの要素だけ入れるようにする。

スティーブはコーチングに関してこう話す。

『選手は一人一人別々』

である。

同じ練習をできたからといって同じように強くなるわけではない。最も大切なことは選手一人ひとりの個人に合う練習をするかどうかである。実際にこの点に関して勘違いをしている選手は多い。こういった間違いを調整し適切な方向へ導くためにコーチが存在する。トレーニングのコピーを選手に当てはめることがコーチの仕事ではない。

大切なことは、

『何が自分のためにいいのか(どの練習があっているか)』『今日(今週・時期)に何の能力を獲得するのか』『今日(今週・時期)の練習の目的は何か』

ということをスタート前に選手と話すこと、だという。

選手が理解をしないまま練習を行ったり、無理に強い負荷をかけたりすることは、危険を冒すだけである。自分にとって必要なこと(練習)をコーチと話し、明確な目的のもとにトレーニングを積んでいく必要がある。

『距離は重要ではない』

多くの選手が競いたがるところが、週間走行距離である。

(※日本だと月間走行距離といわれることが多い)

これは距離を減らせばいい、増やせばいいという議論ではなく、最も大切な自分に合った適切な距離の中で練習を行うということである。

ピーター・スネル(東京オリンピック800m金メダリスト)はハイマイレージトレーニングをコーチであるアーサー・リディアードからコーチングされ、見事に金メダルを獲得した。この成功サンプルから、ニュージーランドでは多くのコーチ・選手がこの方法を導入しようとして失敗に終わる。

もし、ピーター・スネルがもう一人存在したならば成功していただろう。しかし、彼のようにナチュラルスピードもあり距離を踏むトレーニングの中でも、それが失われない選手というのは非常にまれである。さらにそういうタイプの選手が別にいたとしても、それは他人でピーター・スネルではない。常に選手は一人一人違っていて、違ったトレーニングプランを必要としている。その必要とされる適切なトレーニングプランを構築していくことがコーチの役目である。

中長距離の選手にとって『練習での走行距離』という考えは、切っても切れないところにある。コーチングをするうえでもやはり『距離』ということは考える。これは適切なトレーニングを見るための指標として使うためである。選手が成長していくと同時に少しずつトレーニングの量も増えてくるものである。

適切な負荷であれば選手は練習による負荷と回復を繰り返し強くなっていく。負荷が掛かりすぎると、回復が追い付かずにパフォーマンスは低下する。この低下という事態に陥らないように、少しずつ負荷を高めていく上での一つの指標として『距離』という考え方を持つようにする。

負荷を上げる要素というのは、インターバルのペースを上げたり、本数を増やしたり、などがあげられるため『負荷』と『オーバートレーニング』を一つの要因で決めることは難しい。そのため、練習を段階的に上げていく一つの要素として『距離』というものがある。

身体と精神

「身体的な能力(フィジカル)と精神的な強さ(メンタル)はトレーニングを行っていく中で天秤のようにバランスを取り合っているものである。これも選手一人ひとり違ったものなので、コーチは選手をコーチングする際に気を配らなければならないところである。ハードトレーニングは選手に精神的な自信と身体的発達をもたらし、その選手を強くする重要なポイントであることは間違いない」

「しかし、体に強い負荷を掛けすぎてしまえば、体が強くなっても、気持ちがついていかなくなることもある。逆にハードトレーニングによって精神的な自信を持ったとしても、体に何らかの不調を持ってしまい、走れない体になってしまってはトレーニングの意味がなくなってしまう。適切な負荷によって身体的にも精神的にも天秤のバランス保ちながら、少しずつハードなトレーニングを取り入れていくことが強くなるためには大切である」

トレーニングの根幹『レースペースの練習は控える』

「レースペースでのトレーニングを重視する選手やコーチは多い。しかし、レースペースの練習を行わなくても中距離の能力を伸ばすことは可能である。中距離はスタミナとスピードの両極端の能力をレース中に発揮することが求められる。そのためコーチングでは、持久力の基礎を作ること、スピードの基礎を作ることをまず時間をかけて行っていく。私の特に勧めるトレーニングはない。それは選手一人一人によって変わってくるものなのですべてのランナーに共通するというものはない」

【スティーブ流スタミナの作り方やスピードの作り方:ある1500mの選手の例】

  • ハーフマラソンのペースで持久力ベースのトレーニングをする
  • 15秒以下のスプリントでスピードベースを作ること

さらに次の段階で、

  • 自分の1500mの目標から必要な5000mや10000mのタイムで持久力を強化テスト
  • 400mや800mでスピードの強化テスト

この段階を経て、

「最終的に1500mのレースペースでの練習が可能になってくる、と考えてコーチングしている。こうした流れでトレーニングを行っていくと、レースペースでトレーニングを行う時期は非常に少ないものになるが、そうやって段階的にトレーニングを上げていくことが、毎年の自己ベストの更新や、ピークを作る方法に繋がってくる」

ひとりのアスリートは、一人のアスリート

「『何かをしてはいけない』ということが、教えるということには必ずついて回ること。一つしていけないことを挙げるとすれば『選手の意見を無視しない』ということである。何度も言うように選手は一人一人違う。その選手一人一人に寄り添い、理解し、選手が必要とすることを適切な方向へ導くことがコーチングの役割だと考えている。そういうことを考えれば、今まで好成績を収めてきた選手やコーチのやり方をそのまま目の前にいる選手に押し付けるようなことはなくなってくる」

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  2. ピンバック: 【LRCJオリジナルインタビュー記事】ハーミッシュ・カールソン(2018世界室内3000mニュージランド代表)その1:基本的なトレーニングとキャリアの振り返りについて – LetsRun.com Japan

  3. ピンバック: 【LRCJオリジナルインタビュー記事】ハーミッシュ・カールソン(2018世界室内3000mニュージーランド代表)その2:練習拠点とレース拠点等について – LetsRun.com Japan

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