もしロンドンマラソンを走っていたら…
ドバイマラソン男子優勝のモジネット・ゲレメウ
先週の2018スタンダードチャータード・ドバイマラソンは、男子も女子もセンセーショナルな結果だった。
レース後、シセイ・レマが前回までの大会記録だった2:04:11を更新する2:04:08の5位に入ったのにも関わらず、彼が獲得した賞金はたった$13,000(約143万円)だったことを嘆いた。
(※$1=110円換算で計算)
もしシセイ・レマが、アボット・ワールドマラソンメジャーズの6大会を走り、2:04:08の5位に入った場合、一体どのぐらいの賞金を獲得できるか調べてみた。アボット・ワールドマラソンメジャーズは出場料(アピアランスフィー)を選手に支払うため、賞金に加え出場料も獲得できることを忘れてはならない。ドバイマラソンは、出場料ではなく賞金に重きを置いている。
【6大メジャーマラソンでの5位の賞金※タイムボーナスを除いた金額】
- シカゴ – $25,000(約275万円)
- ニューヨーク– $15,000(約165万円)
- ボストン – $15,000(約165万円)
- ベルリン – $12,403(=€10,000)
- ロンドン – $10,000(約110万円)
- 東京 – $6,892(約75万円)
【6大メジャーマラソンで2:04:08の5位に入った場合の賞金総額】
- ロンドン – $110,000※1(約1210万円)
- ニューヨーク– $60,000※2(約660万円)
- シカゴ – $25,000※3(約275万円)
- ボストン $15,000※4(約165万円)
- ベルリン – $12,403(=€10,000)※5
- 東京 – $6,892(約75万円)※6
(※1:ロンドンマラソンの5位の賞金は$10,000で、ドバイマラソンの$13,000より少ない。しかし、2:05を切ったすべての選手には$100,000のボーナスが与えられる(サブ2:06には$75,000、サブ2:07には$50,000)
(※2:厳しいアップダウンがある難コースのニューヨークシティマラソンを2:04で走ったとすると、サブ2:05:30には$50,000のボーナスが与えられる。しかし、2人以上の該当者がいる場合は、$5000少なくなる。ニューヨークシティマラソンの5位の賞金は$15,000である)
(※3:ドバイマラソンで2:04:15で6位に入ったベルハヌ・レゲセがそのタイムと順位でシカゴマラソンを走ったとしても、賞金は0だ。シカゴマラソンは上位5位までしか賞金を出さず、大会記録を出す以外にタイムボーナスは与えられない)
(※4:これがボストンマラソンで5位に支払われる賞金。2:03:02の大会記録を更新しないとタイムボーナスは支払われない)
(※5:ベルリンマラソンは、サブ2:05達成者から速い順の2人にタイムボーナスが与えられる)
(※6:東京マラソンの5位の賞金は75万円。タイムボーナスがある可能性があるが、メディアガイドに記載がなかった。知っている人がいれば是非教えていただきたい)
このリサーチをして、人生は不平等だと思った(これは、どんな人においても当てはまる。例えば、インドのマクドナルドでは時給50セントなのに対して、デンマークでは時給21ドルなのだ)。そして、ロンドンマラソンのタイムボーナスは非現実的(奮発しすぎている)である。
もちろん、これとは正反対に、いとも簡単に賞金を獲得できる大会もある。先週開催されたFitBitマイアミマラソンだ。そこで、ヒラリー・トゥーが男子マラソンを2:23:03で優勝して$4,500(約49.5万円)を獲得した。女子は、46歳のリュボイ・デニソヴァが2:40:54で優勝し賞$5,000(約55万円)を獲得した。
ナイキ・ヴェイパーフライ4%のメジャーマラソンでの表彰台の独占は続く
ドバイマラソンの前に、レッツランの掲示板に興味深い投稿があった。ナイキのヴェイパーフライ4%は、6大メジャーマラソンの全てで優勝しているのか?というものだった。掲示板⇒VF4%は、非VF4%にひとつでも負けているのか?
詳細をよく知らない人は、ヴェイパーフライ4%が全てのレースを総ナメしていると思う人もいるかもしれないが、実はそうではない。例えば、世界最高の女子マラソンランナーのメアリー・ケイタニーだ。彼女は、アディダスの選手で、2017年のロンドンマラソンで優勝している、しかも※世界歴代2位のタイムで。
(※女子のみのマラソン世界新記録=ペーサーが男子でない)
2017年のメジャーマラソンの優勝者の写真を見て、彼らがどのシューズを履いていたが振り返ってみた。ゲーレン・ラップやエリウド・キプチョゲのような何人かの選手は2016年ぐらいからヴェイパーフライ4%のプロトタイプを履いていたが、ヴェイパーフライ4%は2017年前半まで正式にリリースされていなかった。だから、東京マラソンで優勝したウィルソン・キプサングと争った選手でVF4%を履いていた選手は“いたとしても”多くはなかったはずだ。ヴェイパーフライ4%は2017年7月20日まで発売されていないので、それ以降で見ると、ヴェイパーフライ4%は1回しか負けていない。
VF4% 発売後のメジャーマラソン優勝者のシューズ(VF4%着用率、9人 / 10人=90%) | ||
大会 | 男子 | 女子 |
ロンドン世界選手権 | ヴェイパーフライ4% | ヴェイパーフライ4% |
ベルリン | ヴェイパーフライ4% | アディダス |
シカゴ | ヴェイパーフライ4% | ヴェイパーフライ4% |
ニューヨーク | ヴェイパーフライ4% | ヴェイパーフライ4% |
ドバイ | ヴェイパーフライ4% | ヴェイパーフライ4% |
ヴェイパーフライ4%着用者 | 5人 / 5人中=100% | 4人 / 5人中=80% |
つまり、この新しいシューズは正式発売されてから90%の割合で勝っている。ヴェイパーフライ4%を履いたシャレーン・フラナガンがメアリー・ケイタニーに勝ったニューヨークシティマラソンも含まれている。
「そんなの不公平だ。シャレーンとゲーレン・ラップの優勝には注意書きを加えるべきだ」
と、思うかもしれないが、ナイキは多くの素晴らしい選手をスポンサードしている。少し前のメジャーマラソンで、ナイキの選手がどれだけ優勝しているか見てみよう。2016年はヴェイパーフライ4%のプロトタイプがすでに存在していたので、2015年の成績を見てみよう。ヴェイーパーフライ4%がこの世に存在する前の2015年、14のメジャーマラソンで11人がナイキの選手だった。78.6%の確率である。
2015年のWMM優勝者のシューズ(ナイキ着用率、11人 / 14人=78.6%) | ||
大会 | 男子 | 女子 |
東京 | ナイキ | ナイキ |
ボストン | ナイキ | ミズノ |
ロンドン | ナイキ | ナイキ |
北京世界選手権 | ナイキ | ナイキ |
ベルリン | ナイキ | アディダス |
シカゴ | ナイキ | ナイキ |
ニューユーク | ナイキ | アディダス |
ナイキ着用者 | 7人 / 7人中=100% | 4人 / 7人中=57% |
ヴェイパーフライ4%のおかげで、ナイキ所属の選手の勝率が78.6%から90%に上がった、と考えるのは可能か?可能である。しかし、例に挙げている大会の数が少ない(サンプル数が少ない)。例えば、ナイキが1つでも星を落とすと、全体のパーセンテージは10%ほど落ちてしまう。ひとつだけ言えることは、ナイキが世界の良い選手を多くスポンサードし続ける限り、彼らがどのシューズを履こうと、ナイキがメジャーマラソンで勝ち続けるということである。
(※つまり優勝する選手の要素はシューズの良し悪しが1番ではなく、単に選手に実力があるかが1番大切になってくる)
若手の日本の女子選手がみせた驚きの走り
先週の注目はドバイマラソンであったが、第37回大阪国際女子マラソンも無視できない素晴らしいレースだった。優勝したのは22歳の松田瑞生(ダイハツ)。昨年の日本選手権女子10000m優勝者の彼女は(10000m自己記録31:39、ロンドン世界選手権19位)、ほぼ完璧なマラソンデビューを果たした。
後半にペースアップするというネガティブスプリットで走り、2位とは64秒差の2:22:44(71:59 – 70:45)で優勝、ブレット・ラーナー氏によると、30〜35kmの5kmを16:19(そのペースはマラソン2:17:42ペース)で走った。2位でフィニッシュしたのは、松田と同じ大阪薫英女学院高校を卒業した松田の後輩に当たる21歳の前田穂南(天満屋)で、タイムは2:23:48だった。
3位は23歳の安藤友香(スズキ浜松AC)で2:27:37であった。彼女は昨年の名古屋ウイメンズマラソン(当時22歳)で2:21:36で走っている。この大阪国際女子マラソンで2人、昨年は安藤友香、合計3人の日本の女子選手がこの2年のうちに、23歳になる前にマラソンのサブ2:24を達成したことになる。これはアメリカの女子選手のこれまでに記録と比べると驚くべきものだ。
25歳以下のアメリカの女子選手の全米最高記録は、キャシー・シロ・オブライエンが記録した2:29:38という記録だ。これは1991年、彼女が23歳の時にだした自己記録である。25歳になる前に2:30を切ったもう1人の選手はクララ・サントゥッチで、2011年に走ったマラソンデビューで2:29:54だった。
シロについてよく知らない方も多いと思う。彼女は、なんと16歳でマラソンデビューを果たしている。彼女はフットロッカーのクロスカントリー(全米高校クロスカントリー選手権)を優勝し、1984年に彼女が出したヴァン・コートランド・パーク5kmの大会記録は、今でも残っている。彼女の素晴らしいプロフィールについては、newhampshirecrosscountry.comを見てほしい。
25歳以下のアメリカの女子選手による記録があまり速くない理由の1つは、25歳よりも以前にマラソンに挑戦する選手自体が“ほとんどいない”ということである。Tilastopaja.orgのデータベースによると、歴代のアメリカ女子でマラソンサブ2:30を達成した39人の選手のうち、7人だけが25歳よりも以前にマラソンを走っている
(※1980年代のレースに関してはすべての記録があがっているわけではないので、この人数は少し多く出ていると思われる。もし間違いに気づいたら、メールで教えてください)。
【全米女子マラソン39傑=サブ2:30を達成したアメリカ人選手のマラソンデビューの年齢】
※太字は25歳未満でのマラソンデビューと25歳時の自己記録
- Deena Kastor – 28歳
- Jordan Hasay – 25歳
- Shalane Flanagan – 29歳
- Joan Benoit – 25歳
- Desi Linden – 24歳(25歳時の自己記録:2:37:50)
- Kara Goucher – 30歳
- Laura Thweatt – 26歳
- Magdalena Lewy Boulet – 27歳
- Julie Brown – 27歳
- Kim Jones – 30歳
- Serena Burla – 28歳
- Amy Cragg – 27歳
- Marla Runyan – 33歳
- Renee Baillie (Metivier) – 30歳
- Sara Hall – 31歳
- Francie Larrieu-Smith – 37歳
- Patti Catalano – 27歳
- Olga Appell – 29歳
- Colleen de Reuck – ※37歳でアメリカに帰化(南アフリカ出身)したので参考外
- Molly Huddle – 32歳
- Lisa Rainsberger – 26歳
- Christine McNamara – 30歳
- Annie Bersagel – 26歳
- Libbie Hickman – 33歳
- Kellyn Taylor – 28歳
- Lauren Kleppin – 24歳(25歳時の自己記録:2:42:17)
- Maria Trujillo – ※29歳でアメリカに帰化(メキシコ出身)したので参考外
- Deeja Youngquist – 26歳
- Kristy Johnston – 28歳
- Blake Russell – 28歳
- Lindsay Flanagan – 23歳(25歳時の自己記録:2:33:12)
- Jen Rhines – 28歳
- Stephanie Bruce – 24歳(25歳時の自己記録:2:40:07)
- Cathy O’Brien – 16歳(25歳時の自己記録:2:29:38)
- Allie Kieffer – 28歳
- Janet Bawcom – ※32歳でアメリカに帰化(ケニア出身)したので参考外
- Margaret Groos – 29歳
- Jenny Spangler – 19歳(25歳時の自己記録:2:33:52)
- Clara Santucci (Grandt) – 24歳(その24歳のボストンでのデビュー2:29:54が自己記録)
もう1つのニュースは若さではなく、ベテラン。42歳の尾崎まりが2:30:03の6位に入り、日本マスターズ記録を更新した。
2018年ボストンマラソンとロンドンマラソンの招待選手の比較
先週、2018年ヴァージンマネー・ロンドンマラソンの招待選手が、これまでにない新しい方法で発表された。毎日数名ずつ出場選手を発表し、なかなか全体像が見えないような仕組みになっていた。下記のその全体像を記した。
女子を見てみると、アメリカからはアリー・キエファー、ステファニー・ブルース、アリア・グレイ、そしてリズ・コステロが出場、もちろんメアリー・ケイタニーが注目選手。※男子のペースメーカーを味方につけ、ポーラ・ラドクリフのもつ2:15:25の世界記録に挑戦する。またティルネッシュ・ディババも出場する。
(※前回は女子のペースメーカーを途中で振り切ってしまった=女子のみのレースの世界記録を更新)
男子を見てみると、まるで夢のような選手がそろっている。前回王者のダニエル・ワンジル、エリウド・キプチョゲ、ケネニサ・ベケレ、そして、モー・ファラー。アメリカからは、サム・チェランガ、フェルナンド・カバダが参戦する。
ロンドンマラソンの男女招待選手の一覧は以下である。
2018年ロンドンマラソン女子招待選手
メアリー・ケイタニー、ケニア ティルネッシュ・ディババ、エチオピア グラディス・チェロノ、ケニア マレ・ディババ、エチオピア ブリジット・コスゲイ、ケニア ティギスト・ツファ、エチオピア タデレッチ・ベケレ、エチオピア ローズ・チェリモ、バーレーン ヴィヴィアン・チェリヨット、ケニア シャーロット・パドュー、イギリス ステファニー・ブルース、アメリカ アリソン・キエファー、アメリカ トレイシー・バーロウ、イギリス リリィー・パートリッジ、イギリス アナ・ホルム・ジョーゼンセン、デンマーク ティシュ・ジョーンズ、イギリス アリア・グレイ、アメリカ リズ・コステロ、アメリカ レベッカ・マーレイ、イギリス |
2018年ロンドンマラソン男子招待選手 ダニエル・ワンジル、ケニア ケネニサ・ベケレ、エチオピア エリウド・キプチョゲ、ケニア グエ・アドラ、エチオピア スタンリー・ビウォット、ケニア アベル・キルイ、ケニア ローレンス・チェロノ、ケニア トラ・シュラ・キタタ、エチオピア ビダン・カロキ、ケニア ギルメイ・ゲブレスラシエ、エリトリア アマニュエル・メセル、エリトリア モー・ファラー、イギリス アルフォンス・フェリックス・シンブ、タンザニア、25歳 | 自己記録:2:09:10 フェルナンド・カバダ、アメリカ イフォー・オレフリレンコ、ウクライナ ツェガイ・トゥエルデ、イギリス ジョニー・メラー、イギリス サムエル・チェランガ、アメリカ アーロン・スコット、イギリス タサー・ベロコルチ、モロッコ |
2018年ロンドンマラソンとボストンマラソンの出場選手を比較してみた。
ボストンは2017年トップ6のマラソン選手のうち3人が出場するが、それでもロンドンの方が強豪選手がそろっている。男子の比較表は次の通りだ。
【ボストンvsロンドン:男子招待選手】
2018年ボストン | 2018年ロンドン | 優劣 | |
サブ2:04 | 0人 | 4人 | ロンドン |
サブ2:06(累計) | 6人 | 8人 | ロンドン |
サブ2:08(累計) | 10人 | 10人 | 五分五分 |
WMM、ドバイマラソン、世界選手権、オリンピック勝者 | 5人 / 9人中 | 6人 / 13人中 | ロンドン |
2017年レッツランのマラソンランキングトップ10の選手 | 3人 | 5人 | ロンドン |
女子はというと、こちらもロンドンの方が強い。ロンドンには2017年トップ7の選手のうち5人が出場する。
【ボストンvsロンドン:女子招待選手】
2018年ボストン | 2018年ロンドン | 優劣 | |
サブ2:20 | 3人※ | 4人 | ロンドン |
サブ2:22(累計) | 7人 | 7人 | 五分五分 |
サブ2:24(累計) | 10人 | 9人 | ボストン |
WMM、ドバイマラソン、世界選手権、オリンピック勝者 | 5人 / 12人中 | 6人 / 13人中 | ロンドン |
2017年レッツランのマラソンランキングトップ10の選手 | 4人 | 5人 | ロンドン |
※ディーナ・カスター(アメリカ)は40歳以上のマスターズ選手(サブ2:20を達成しているが今はそのレベルにない)なのでカウント対象外としている
エチオピアの新たなる1500mのスター誕生?
先週、特に印象深かったのは、日本人の女性選手だけではなかった。先週フランスで開催されたen Salle de l’Eure室内競技会で、エチオピアの18歳、サムエル・テフェラが3:36.05で走り室内1500mの世界ジュニア記録を更新し、ロンドンオリンピック1500m銅メダリストのアブデラティ・イギデールをやぶった。以前の室内1500mの世界ジュニア記録は3:36.28(2007年ベラル・マンソーの記録)だった。1500mはエチオピア勢がこれまで得意としなかった種目であるが、このテフェラによってその流れに変化が起きそうだ。
特筆すべきは、これが彼にとって初めての室内レースだったということだ。そして、そこで世界ジュニア記録を出した。昨年の夏、テフェラの調子はすこぶる良く、ヘンゲロで行われたエチオピア選手権を3:33.78で優勝、それが彼にとってエチオピア国外での初レースだった。しかし、彼の初の世界選手権はうまくいかなかった。ロンドン世界選手権では予選敗退を喫した。彼の走りは、そんなに悪かったわけではない。ただ、彼の出場した組が、“死の組”だったのだ。
Embed from Getty Images予選第1組には、のちにこの種目で金メダリストとなったのエライジャ・マナンゴイ、アスベル・キプロプ、イギデール、メキシ・ベナバド、アヤンレ・スレイマン、そしてマシュー・セントロウィッツがいた。テフェラはマナンゴイの0.29秒後にフィニッシュしたものの、予選通過はならなかった。しかし、テフェラは、リオオリンピック王者のセントロウィッツに2.12秒差で勝ち、NCAAチャンピオンであるジョシュ・カーにも1.13秒差で勝っていた。
モー・ファラー2世がやってくる – ヨミフ・ケジェルチャ –
ファラー2世の期待がかかるオレゴンプロジェクトのケジェルチャ(左)
先週、シカゴマラソン王者のゲーレン・ラップがワシントン大学(UW Indoor)での室内5000mに出場し、オレゴンプロジェクトに新加入したチームメイトで、エチオピアのヨミフ・ケジェルチャと先頭を交代しながら引っ張っていくレースを展開し、両者ともに最後は流して13:34でフィニッシュ。また、ケジェルチャは1マイルにも出場し、圧倒的なラストスパートによる3:56.95で優勝。
「ケジェルチャはモー・ファラー2世となるだろう」
USADA(全米アンチドーピング機構)の調査では、アルベルト・サラザールが指導する選手には※1 これまでに常にドーピングの疑いをかけられていきている。
(※1 しかし、それらは現在までに立証されていない)
ケジェルチャが今後、※2 ファラーのようにアルベルト・サラザールのもとで世界王者(それはおもにトラック)に君臨するとなると、オレゴンプロジェクトに入るまでには世界タイトルとは無縁だったファラーとは異なり、現在20歳のケジェルチャはこれまでの※3 世界タイトルに加えて“未来のスター”となることがほぼ約束されているようなものである。
(※2 ファラーとケジェルチャのこれまでのラップとの対戦成績)
- 22戦:ファラー21勝 – ラップ1勝
- 4戦:ケジェルチャ4勝 – ラップ0勝
(※3 ケジェルチャのこれまでの世界タイトル)
- 2013年(16歳):世界ユース選手権3000m優勝(※レース時は15歳)
- 2014年(17歳):世界ジュニア選手権5000m優勝、世界ユースオリンピック3000m優勝
- 2015年(18歳):北京世界選手権5000m4位、ダイヤモンドリーグ5000m3勝
- 2016年(19歳):世界室内選手権3000m優勝、ダイヤモンドリーグ5000m1勝
- 2017年(20歳):ロンドン世界選手権5000m4位
(ちなみにケジェルチャのエージェントは世界の中長距離選手を多く手がける世界一のエージェントであるオランダ人のヨス・ヘルメンス)
同じくUW室内競技会では、女子3000mでオレゴンプロジェクトのシファン・ハッサンが8:33.45、BTCのシャレーン・フラナガンが8:43.28で走った。現在、4月のボストンマラソンに向けて週に110マイル(176km前後)程度を走り込む36歳のフラナガンにとってこの※4 8:43.28はインパクトのある記録である。
(※4 彼女の室内3000mの自己記録は10年前の8:35.25)
レオ・マンザノに希望の光?
先週のマイケル・サルニの室内800m全米学歴代2位のパフォーマンス(1:45.19)の2つ後ろでフィニッシュしたレオ・マンザノの記録は注目に値する。
1. マイケル・サルニ(テキサス大エルパソ2年)1:45.19=室内800m全米学生歴代2位
2. ヴィンセント・クリスプ(テキサステック大3年) 1:48.01
3. レオ・マンザノ(ホカ・オネオネ)1:48.81=自己新
2012年のロンドンオリンピック銀メダリストのレオ・マンザノはサルニのスピードに圧倒されていたが、マンザノが1:48.81の室内800mの自己新記録で3位に入ったことは良いニュースであった。アメリカの現在の中距離界において室内800mの1:48.81は劇的に良い記録ではないが、マンザノににとっては起爆剤となるだろう。彼にとっての2017年は本当に苦労したシーズンだった。
(※クレイトン・マーフィー=リオオリンピック800m銅メダリスト、とロビー・アンドリュース=2017年全米選手権1500m優勝、が先日のニューヨークでの室内800mで1:50を破ることができなかった=室内シーズン良い始まりを飾れなかったたので、1:48.81の自己新はマンザノにとってはかなり良い室内シーズン始めの兆しである。現在マンザノが拠点を構えるテキサス州のオースティンには阿見AC所属の楠康成がマンザノのトレーニングパートナーとしてトレーニングしている)
Embed from Getty Images今週土曜日にノースカロライナ州のキャメルシティで開催されるキャメルシティ室内招待での1マイルで、33歳のマンザノの真価が問われる。
(※そのレースには、マイルレースで連勝中のエドワード・チェセレク、マイルの1時間前にある3000mに出場した後にマイルに出場するポール・チェリモ、地元ノースカロライナ州のレースに凱旋出場するクレイグ・エンジェルスなどが出場予定。エンジェルスは先週のニューヨークでのマイルレースに優勝したが世界室内の標準記録である3:55を切れなかったために急遽このレースへの出場を決めた)
マンザノは2016年の全米オリンピックトライアルの1500mで4位に終わってから苦戦していると言っても過言ではない。さらに、マンザノは昨年ほとんど何も実績を残せず、シーズンベストは3:41.68だった(彼の自己記録は3:30.98)。そして彼のマイルレースはさらに悪化の一途を辿っていた。マンザノは、2015年7月のレースから過去14回連続、1マイルのレースで4:00を切ることができていない。
(※2016年にニューヨークの5番街マイルで3:54.4で走っているが、それは下り勾配のコースなので参考外)
ロンドンオリンピック1500m銀メダリストが今ではこの成績であるというのはにわかに信じがたい。この14回のレースでは、今年のバーミンガムでの1月19日のレースでの4:12.06を含めて、6回も1マイル4:05を破ることができなかったので、マンザノはこの数年間、“壊れたオンボロカー”のような状態をさまよっていた。現在33歳のマンザノはニック・ウィリスよりも若いが、必ずしもウィリスのように長年活躍し続けるとは限らない。
追記:キャメルシティ室内招待1マイル結果(2月3日)
Finals 1 Cheserek, Edward Skechers 3:53.85$=バンクのないフラットコースでの室内世界歴代2位 30.019 (30.019) 57.687 (27.668) 1:26.301 (28.614) 1:55.524 (29.223) 2:24.502 (28.978) 2:54.130 (29.629) 3:24.248 (30.118) 2 Chelimo, Paul US Army 3:58.59! 1:27.303 (1:27.303) 1:57.142 (29.840) 2:27.402 (30.260) 2:58.646 (31.245) 3:30.129 (31.483) 3 Wynne, Henry Brooks Beasts 3:58.80! 1:28.107 (1:28.107) 1:58.590 (30.484) 2:29.594 (31.004) 3:00.431 (30.838) 3:31.014 (30.583) 4 Engels, Craig Nike Oregon Project 3:58.81! 57.902 (57.902) 1:26.550 (28.648) 1:55.997 (29.448) 2:27.159 (31.162) 2:58.861 (31.703) 3:30.319 (31.458) 5 Ciattei, Vincent SR Virginia Tech 3:59.57! 6 Joseph, Patrick SR Virginia Tech 3:59.59! 7 Gourley, Neil SR Virginia Tech 4:00.21! 8 Manzano, Leo Hoka One One 4:03.10 9 Zarate, Diego SO Virginia Tech 4:03.55 10 Erassa, Kirubel Amer Dist Projec 4:11.40 11 Ponder, Cameron Unattached 4:11.57 12 Hoenig, Tim JR Queens (N.C.) 4:15.02 -- Laari, Sampson Unattached DNF -- Jones, Adam Salem TC DNF
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