ドバイマラソン男子展望:タミラト・トラが2010年優勝のハイレ・ゲブレセラシエ以来の連覇を狙う

2010年にハイレ・ゲブレセラシエがこのドバイマラソンを3連覇して以来、このレースでは若手のエチオピアの選手によるマラソンの登竜門(優勝賞金世界一の約2200万円、$1=110円換算)として認知されてきた。

ドバイマラソンでは男子で過去7年間に7人の異なる王者が誕生した(連覇したものはいない)。そのうち2人(2013年覇者のレリサ・デシサと2015年王者レミ・ベルハヌ)が、ドバイでの勝利をきっかけにしてその後のボストンマラソンの優勝に繋げた。 しかし、昨年のドバイの王者のタミラト・トラは、マラソン選手としてはほとんど知られていなかった。

彼は昨年のレース前にすでに2014年のドバイでマークした2:06:17の自己記録を持っていたが、リオオリンピックでの10000mで銅メダルを獲得し、その勢いで昨年のドバイでは2:04:11の大会新記録を樹立し優勝した。トラは、去年のロンドン世界選手権のマラソンで銀メダルを獲得し、2018年のドバイに戻って、8年前にゲブレセラシエが3連覇した時以来の、ドバイマラソンの連覇を目指している。

しかし、2018年のドバイマラソンの男子招待選手の顔ぶれはいつにもなく豪華なことから、トラの2連覇は保証されておらず厳しい戦いとなるだろう。2015年の東京マラソンの覇者であるエンデショー・ネゲッセ(自己記録2:04:52)、 2:05:16を持つシセイ・レマ、ハーフ59:11を持ち、2017年のベルリンマラソン3位のモジネット・ゲレメウを含んだ、5人以上のマラソンサブ2:07の選手に加えて、4人の強力な初マラソンを迎える選手がいる。

エネウ・アラミレウ(トラック5000m12:48 / 10000m27:19)、ビルハヌ・レゲセ(11月のデリーハーフで59:20)、レウル・ゲブレシラセ(ハーフ59:18)、フィカドゥ・ハフトゥ(ハーフ59:22) 。それらのメンバーは、すでに我々が知っている実績十分の選手である。ドバイマラソンは今後を担うマラソンスターの登竜門として有名なマラソンレースである。

今年のレースにはいくつかの変更点があり、新コースとなる。基本的には一直線上の海辺沿いのコースに変わりないが、旧コースと同じく後半にループを2回繰り返す。よって、180°のターンが前回よりも2回増えた6回となり、そこでスピードを少々落としてしまう。

また、昨年は一般の走者と招待選手は同時スタートであったが、ケネニサ・ベケレのスタート時の転倒によって、後続の一般ランナーに踏みつけられてしまったため、今回は招待選手のレースは、一般のレースの1時間前に開催されるという方針に変わった。

優勝候補

Embed from Getty Images

・タミラト・トラ — エチオピア、26歳、自己記録2:04:11(2017年ドバイマラソン)、ハーフ59:37、この2年のマラソン成績:2017年ドバイ優勝(2:04:11)、2017年ロンドン世界選手権銀メダル(2:09:49)

トラは2017年は、3回しかレースを走っていない。しかし、その全てのレースで素晴らしい走りをした。2017年最初のレースは、このドバイマラソンだった。2位と2:35差の独走の2:04:11で優勝し、序盤のハイペース(ハーフマラソン通過61:33)を、大きくペースを落とさずに走ったのは彼だけであった。

その3カ月後、プラハハーフマラソンに出場し、またもやライバル選手が多いレース(ゲーレン・ラップも出場していた)を59:37で優勝した(2位とは61秒差)。そして、ロンドン世界選手権で、ジョフリー・キルイに次ぐ2位でゴールした。トラが2017年の調子のまま、今回のドバイマラソンに参戦するのであれば、彼は優勝するだろう。

トラの自己記録を見ても、彼が優勝する可能性は高い。ハーフマラソンが59:37、マラソンが2:04:11(ドバイ出場選手で最速)。それがなぜ重要か? なぜならば、ドバイマラソンは、毎年同じようなハイペースの展開が繰り広げられるからだ。優勝するためのカギは、自殺行為に近いハイペースとなる前半戦を、どう生き残れるかというところだ。過去4年間のドバイマラソンにおける、中間地点までのスプリット(左)を見てみよう(中央半後半のスプリット、右は優勝記録)。

 

2014年:61:39(62:53 / 2:04:32)
2015年:62:02(63:26 / 2:05:28)
2016年:61:39(62:45 / 2:04:24)
2017年:61:33(62:38 / 2:04:11)

 

去年は、9人の選手が世界記録ペースで15km地点を通過し、7人の選手が61:36かそれより速いタイムで中間地点を通過した。しかし、サブ2:06:30でゴールしたのはトラだけであった。他の選手は途中棄権したか、4分以上のポジティブスプリットになってしまった。それは驚くことではない。ほとんどの選手は2:04で走れる力がなかったし、超高速レースとなったドバイマラソンの天気は理想とはかけ離れているからだ。

今年のレース当日の気温は、最低約16℃、湿度54%の予報だ。レースが進むにつれ、気温も上がるだろう(レースが中盤を超える7:04amあたりまで、日は昇らないだろうが)。もちろん、他の選手が前半を61:30〜62:00で通過して、そのまま優勝することも可能であるが、トラの実績を考えれば、彼が一番の優勝候補だろう。

4人のマラソンデビューを迎える選手たち

ドバイマラソンは、エチオピアの選手のマラソンデビューの登竜門としても近年知られるようになった背景もあり、多くの選手がドバイマラソンでマラソンデビューをするのも頷ける。トラ以外の出場選手で実績のあるマラソン選手は、そんほど多くはないが、もしトラが優勝しなかったとしたら、ここでマラソンデビューを迎える選手が優勝する可能性がある。優勝の可能性が高い選手から順に、マラソンデビューの選手を紹介していく。

 

ビルハヌ・レゲセ、エチオピア、23歳、ハーフ59:20

レゲセは去年のドバイマラソンでデビューするはずであったが、レース直前に出場をやめた。2017年の彼のマラソン予想を楽しみにしていたのだが、一年経った今でもそれは変わっていない。なぜ彼のマラソンがそんなに楽しみなのか?レゲセはハーフマラソンの選手である。彼の自己記録は59:20と速い。

彼はこの3年間の間に、世界のハーフマラソンの大会で数々の優勝を積み上げてきた。ベルリンハーフ、RAK、そしてデリー(2回優勝)などだ。その中でもRAKハーフでの優勝は、一際目立つ。スタンリー・ビウォットウィルソン・キプサングに競り勝ち(2人はその後マラソンを2:03台で走っている)、過去RAKハーフマラソン で優勝している選手のその後の実績を見ても(サムエル・ワンジル、パトリック・マカウ、ジョフリー・ムタイ、デニス・キメット、ジョフリー・カムウォロル、そしてレリサ・デシサ)、レゲセの優勝は価値がある。

更に深い分析をすると、デリーハーフでの優勝も同じぐらい印象的だ。レゲセは、過去4年間のうち2回優勝している。他2回の優勝者はというと、グエ・アドラエリウド・キプチョゲだ。デリーハーフも強豪ひしめくレースだった。7人の選手(アメリカのレオナルド・コリル含む)が60:06かそれより速いタイムで走ったが、その中でも1番速くゴールしたのが59:46で優勝したレゲセだった。2015年は、7人の選手が59:40を切ったレースとなったが、彼の走りは素晴らしかった。そのレースで7位だったのが、ボストンと世界選手権で優勝したジョフリー・キルイだった。

ハーフマラソンでの成功が、そのままフルマラソンの成功に直結するわけではないが、レゲセは良いマラソンデビューを見せてくれるだろう。

 

・レウル・ゲブレシラセ、エチオピア、24歳、ハーフ59:18(※元東京国際大の選手)

ゲブレシラセのトラックでの自己記録は13:13(5000m)、27:19(10000m)であるが、トラックよりロードに適した選手のように思える。去年のオクペペ10km(ナイジェリア)とオタワで優勝している。そして、10月のバレンシアハーフでは59:18の自己新で走っており、今彼の調子はいい。59:18というタイムはハーフ世界歴代40位の良い記録である。

(※tilastopaja.orgによると彼のタイムは世界歴代40位にランクインするが、彼はこのレースでアブラハム・チェロベン(59:11)に負けていることをここに記さないといけない)

そして、このバレンシアで、ソンドレ・モーエンに30秒の差をつけて勝っている。モーエンはその後、福岡国際マラソンで欧州記録の2:05:48で走っている。

 

エネウ・アラミレウ、エチオピア、27歳

トラックの5000m12:48の選手がマラソンデビュー、とても興味深いではないか。

アラミレウはずっと3000m・5000mの選手であったので、ドバイマラソンでマラソンデビューを果たすのは驚きだ。彼はトラックで強い選手だった。2013年のダイヤモンドリーグで5000mの年間優勝を果たし、12:48という自己記録は5000mの世界歴代10位にランクインする。しかし、2013年以来は世界選手権、オリンピックでエチオピア代表には選ばれていない。

彼がもう走れないと言いたいわけではない。去年は5000mで13:06で走り、ダイヤモンドリーグのファイナルで6位に入っている。近年、トラックでエチオピア代表になるのはかなりの狭き門だ。ムクター・エドリス、ヨミフ・ケジェルチャ、セレモン・バレガ、これらの選手は彼よりも速く、そして若い。彼がマラソンに転向したい気持ちがわかる。

しかし、彼がいきなりマラソンに転向するのも奇妙な話しだ。アラミレウは、去年までトラックの10000mさえも走ったことがなかった。彼の長距離のレースといえば、昨年のオランダのナイメーヘンでの※セブンヒルズ10マイルが最長距離だ。

(※そのレースで東海大学の阪口竜平(6位)アラミレウ(4位)と競り合った)

そう、彼はハーフマラソンでさえ走ったことがないのだ。結果として、彼のマラソンデビューには楽観的な見方はしない。マラソンで成功するには経験が必要だというのは神話でしかないが、マラソンデビューで成功した選手のほとんどは、ハーフマラソンの経験はある。トラックから直接マラソンへ、これは興味深い実験のようなものだ。

彼がマラソンに適した選手であるのならば、少なくとももう少しトラックで※10000mを走っているはずだと思うので、その点においても彼のマラソンデビューには疑心暗鬼だ。

(※2017年のヘンゲロ=エチオピア選手による世界選手権選考会で、アラミレウは27:19.86で走って10000mデビューを果たした)

アメリカの陸上ファンは、素晴らしい5000m選手であるがマラソンで成功しなかった選手をたくさん知っているだろう。マット・テゲンカンプ(5000m12:58.56、マラソン2:12:39ボブ・ケネディ(5000m12:58.21、マラソンには出場せずなどがそうだ。

 

フィカドゥ・ハフトゥ、エチオピア、23歳、自己記録59:22

ハフトゥは2016年1月のヒューストンハーフ4位、10月のバレンシアハーフでは59:22の大幅自己新で2位に入った。

その他二人の有力選手は以下である。

・モジネット・ゲレメウ、エチオピア、25歳、自己記録2:06:12(2017年ベルリン)、ハーフ59:11、この2年のマラソン成績:2017年厦門マラソン2位(2:10:20)、2017年ベルリン3位(2:06:12)

ゲレメウは数年前まではハーフマラソンで有名な選手であった、2014年のデリーハーフで59:11で走り、2015年のRAKハーフで優勝。ハーフ60:00切りを4回、さらに61:00切りは合計8回。昨年マラソンに転向し、2:10:21で厦門マラソンで2位(優勝者のハイレ・レミは2:08:27)のマラソンデビュー、その後のベルリンでは、エリウド・キプチョゲとグエ・アドラには競り負けたものの3位。上々の結果を残した。これらのマラソン成績と、彼のハーフでの実績を考えると、ドバイのフラットな高速コースは彼の実力を発揮できるコースだろう。

・シセイ・レマ、エチオピア、27歳、自己記録2:05:16(2016年ドバイ)、ハーフ62:06 、この2年のマラソン成績:2016年ドバイ4位(2:05:16)、2016年ロンドン7位(2:10:45)、2016年ベルリン4位(2:06:56)、2017年ドバイ3位(2:08:04)、2017年ボストン途中棄権、2017年シカゴ4位(2:11:01)

レマはドバイのような高速コースには適していない可能性があるが、この数年でのマラソン実績は堅実である。もし、彼が勝利を目指すのであれば、ハイペースの集団に位置せず、自分のペーサーを確保してまでもマイペースを貫けば、後半ペースを落とした選手を拾うことができるだろう。しかし、この数年間の優勝記録は2:04台であり、その記録に達することができなければ優勝は難しい。彼のマラソンでの最大の勝利は2015年のフランクフルト(2:06:26)であった。

 

その他の有力候補は以下である。

  1. エンドショー・ネゲッセ、エチオピア、29歳、自己記録2:04:52(2013年ドバイ)、この2年のマラソン成績:2017年びわ湖途中棄権
  2. ギルメイ・ビルハヌ、エチオピア、31歳、自己記録2:05:49(2014年ドバイ)、ハーフ61:08、この2年のマラソン成績:2017年北京マラソン2位(2:11:26)
  3. アセファ・メングストゥ、エチオピア、33歳、自己記録2:10:01
  4. セイファ・ツラ、エチオピア、20歳、自己記録2:09:26
  5. シセイ・ジサ、エチオピア、35歳、自己記録2:06:27、2017年ドバイ4位

 

【2018年ドバイマラソン男子招待選手】

選手 国籍 自己記録 備考
タミラト・トラ エチオピア 2:04:11 前回王者/ 大会記録(2:04:11)保持者
エンドショー・ネゲッセ エチオピア 2:04:52 2015年東京マラソン優勝、しかしその後1回しかマラソンを完走せず
シセイ・レマ エチオピア 2:05:16 2016年のドバイは自己新記録で走り4位、2017年は3位
ギルメイ・ビルハヌ エチオピア 2:05:49
2016年にメルドニウムの陽性反応。出場停止期間を経て競技復帰
モジネット・ゲレメウ エチオピア 2:06:12 2017年のベルリンマラソンでキプチョゲとアドラに負けて3位
シセイ・ジサ エチオピア 2:06:27 2017年のドバイで4位、この5年で唯一のサブテン
ロナルド・コリル ケニア 2:07:26 2017年のマドリードマラソン3位
アドゥナ・タケレ エチオピア 2:08:31 2017年の上海マラソン7位
アセファ・メングストゥ エチオピア 2:08:41 ロンドン世界選手権マラソン7位、その後の9月のケープタウン優勝
メクアント・アエネウ エチオピア 2:09:00 2016年北京マラソン優勝、2017年にプラハで自己新の2:09:00
ベルハヌ・テショメ エチオピア 2:09:03 マラソン2:09台で2回完走
セイフ・ツラ エチオピア 2:09:26 2017年のソウルマラソンでマラソンデビューし2位
ジョセフ・キプタム ケニア 2:09:56 2013年以来のマラソン
ヘルパッサ・ネガサ エチオピア 2:10:17 2015年のリオン、2016年のムンバイと連続して2:10:17

治郎丸 健一

日本 2:15:24 駒沢大→日清食品グループ→桜美林大学→ラフィネ
エネウ・アラミレウ エチオピア 初マラソン トラックでのキャリアは5000m12:48、10000m27:19、2013年ダイヤモンドリーグ5000m年間王者、ロードでは10マイル以上のレースは未経験
デララ・デサレン エチオピア 初マラソン 2017年上海でのハーフを自己新の61:45 で優勝
ビルハヌ・レゲセ エチオピア 初マラソン ハーフ59:20、2017年11月のデリーハーフ優勝
レウル・ゲブレシラセ エチオピア 初マラソン ヘンゲロでのリオ五輪エチオピア10000mトライアル6位、ハーフ59:18
フィカドゥ・ハフトゥ エチオピア 初マラソン 大幅自己新の59:22で2017年のバレンシアハーフ4位
クマ・テレチャ エチオピア 初マラソン ハーフ62:40
アーモン・ナプアト バヌアツ ??

 

レッツラン記事

http://www.letsrun.com/news/2018/01/2018-dubai-marathon-mens-preview/

 

〈 TOP 〉

広告

ドバイマラソン男子展望:タミラト・トラが2010年優勝のハイレ・ゲブレセラシエ以来の連覇を狙う」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: モジネット・ゲレメウとロザ・デレジェが2018ドバイマラソンを制する:マラソンの歴史上で最も衝撃的な7人のサブ2:05と4人のサブ2:20 – LetsRun.com Japan

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中