【ブログ】ケニア人選手の一般的なトレーニング方法と“持久力拡大のアプローチ”について

http://www.traininkenya.com/2017/07/06/kenyan-training-observation-speed-v-distance/

“The Kenya Experience”は、おもにランニングホリデー(休暇を使ってのケニアのイテンに短期〜中期のランニング留学)をする旅行客を対象としたツアーを企画したり、実際にイテンでアテンドをしています。私も2017年の1月にイテンを訪れた際に撮影した写真がThe Kenya Experienceに掲載(それはそれで名誉的なことなのですが)されたりしました。

この記事は、そのThe Kenya Experienceを主宰しているギャビンが書いた記事です。

ギャビンは2010年にイテンを訪れ、その後2011〜13年までイテンに滞在し、その間オランダのスポーツマネジメント会社であるグローバル・スポーツ・コミュニケーションズ(GSC)のマラソンチームのコーチとしてその役目を果たしています。また、レナート・カノーバのアシスタントコーチとしてアベル・キルイのサポートにも注力しています。

ギャビンが書いたこの記事では、ケニアでの一般的な練習方法と、その手法について書かれています。以下に要約を記載します。

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©2017 SushiMan Photography

練習メニューを全てこなせる適度なペースで練習をして、練習メニューすべてこなせるのがいいのか。それとも、練習メニューを全てこなせなくても、自分が目指すペースでできるところまで走るのがいいのか。ケニアでの※通常の練習方法は、先頭の選手達と一緒にできるだけ長く走る、という方法である。もうついていけないと思った段階で、練習をやめる。

(※マンツーマンで指導してくれるコーチがついているプロ選手でない限りにおいては)

ケニア人のトレーニンググループを見ていると、練習メニューのすべてが終了するまでに、多くのランナーがドロップアウトするのが普通である。この練習方法は、選手それぞれが与えられたペースで走って練習をすべてこなすという“従来の典型的な練習方法”の対局をいく。

ケニア人の練習を見ていると、練習のスタート時は大勢のランナーがいても(トラック、ファルトレク、ロングランであっても)、練習の終わりに残っているのは、数名の一番速いランナー達だけ、という光景がよくある。

【ケニアのクラシック・ファルトレクの動画】

(※1分間疾走+1分間リカバリー)× 30セット=60分間ファルトレク

©2018 RUN’IX

例えば、1000m×12本のトラック練習だと、スタート時には30人のランナーが2:50ペースで走り始める。

(※標高2000m前後の土トラック=平地のタータンで、おおよそ2:43ペース前後の負荷)

4本目か5本目ぐらいには、力のないランナーが脱落し始める。8本目ぐらいには最初30人いたランナーは10人程度に減っているだろう。最後の2、3本目をこなせるのは、トレーニンググループの中でも強い選手だけだ。

メジャーマラソンでも同じような光景を目にするだろう。そのなかにスター選手はあまり多くないとしても、多くのアフリカ人ランナーが参加するような規模の大きい大会だ。

中間地点ぐらいまでは時には15~20人のランナー達が世界記録ペースで走っている。コメンテーターもその状況に興奮するだろうが、次第に30~35kmぐらいになると、20人ほどいた集団は5人ぐらいに縮小し、ゴール地点では10位の選手はトップから4~5分遅れてゴールするだろう。中間地点でトップ集団に20人もいたのにも関わらずだ。

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©2017 SushiMan Photography

このことに顕著に気づいたのは、レナート・カノーバと一緒に指導しているときだった。トレーニンググループの中には、アベル・キルイ、ジョナサン・マイヨや、他の数人の選ばれし選手達の小さいトレーニンググループだった。その他にも多くの選手がいたが、ペースメーカーをするために集められたランナーもいたが、多くは“レナート・カノーバに注目してもらいたい”という願う地元のランナーがほとんどだった。

イテンにいるトップのマラソン選手がいつもそうしているように、このロングランのためにイテンからナンギリまで75~80分ほど車で移動した。この日のロングランは40km走。始まってから20分経過(平均3’20/kmペース)、最初に脱落したランナーが道路の脇に寄ってロングラン(彼にとっては、たったの7kmで終了)を終え、

「バスに乗せてくれ」

と、言ってきた。彼の名前は知らないが、このトレーニングのために朝4時に起きてナンギリまでに運転して6時からロングランを始めたが、たった20分で脱落し、残り2時間をバスの中で過ごし、そして家に帰るのに長い道のりを帰る。“きっと彼はがっかりしていることだろう”と想像した。

しかし、驚いたことに彼は全く落ち込んでなどいなかった。車に入ってくるなり笑顔で

わぉ、今日の練習はすごく良かった」

と、独り言を言った。

「たった20分しか走れてないけど、それがいい練習だったのかい?」

と、尋ねると

「ああ、すごく良かった。今日はアベルジョナサン達と20分間一緒に走れたんだ。来週は30分か40分は一緒に走れるだろう。そして、すぐに彼らのような強い選手たちとすべての練習を一緒にできるようになるだろう」

彼は、そう答えた。

これは、ケニア人選手によく見られる良い例の一つである。

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©2017 SushiMan Photography

他の国のランニング文化においては、練習すべてをこなせるだけのペースで走って“練習を完遂させること”が普通であろう。しかし、ケニア人は“練習をすべてこなすこと”に関してはあまり興味を持っていない。それよりは、自分にとって“正しいスピード”“より速いスピード”で走ることが大切なのだ。そのペースで走ることで、練習の半分もこなせなかったとしても、彼らにとってはそれはあまり重要ではないのだ。

ケニアで開催されるレースの、途中棄権者の割合が多い理由も、これで説明がつくだろう。ケニアでのレースを見ると、本当に多くのランナーが途中棄権をするのだ。レース序盤で途中棄権する選手も多くいる。多くの選手が先頭集団と同じ速さで走り、もしくは自分が目指している選手と同じ速さで序盤走りだす。そして、そのペースについていけなくなると、すぐにコースを外れ棄権する

(ケニア人のスタイルとそうでないスタイルの)どちらのアプローチが優れていて、どちらかはダメだと言っているわけではない。ただ、その考えの違いがすごく興味深いと思っている。しかし、このケニア流メソッドは、コーチ、レナート・カノーバの基本的原理である持久力トレーニング(Endurance Training)に一致するところがある。その原理というのは、持久力を拡大していく(Extension of Endurance)ということである。

大まかに言うと、レナートは、与えられたペースで長い間持続させるトレーニングを選手達にやらせる。基本的な考えとしては、すべての選手はすでに目標とするレースで、目標とするペースで走ることができる、ということにある。だから、スピード、それ自体は挑戦でもなんでもない。

彼らにとっての挑戦とは、そのペースでレースの距離への耐性や持久力を手に入れることである。レナートは、走りやすい短い距離から始め、レースが近づくにつれ、その距離を伸ばしていく。同じトレーニングを、※遅いスピードから始め徐々にスピードをあげていく練習法とは逆をいくトレーニングである。

(※例えばレースの1ヶ月前に1000m × 5のメニューを3:10ペースでやっていたのを、レース前の仕上げに入るにつれてレースペースを意識し、1000m × 5のメニューのペースを3:05などに引き上げるようなやり方)

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©2017 SushiMan Photography

トレーニング例:10kmを40:00で走りたいランナーがいるとする。

持久力拡大のアプローチ(The Extension of Endurance approach)は、下記のようなトレーニングを(1)から(5)まで日を追うごとに順に行うことを指す。

1) 500m × 20本 を2:00ペース(リカバリー60秒)
2) 800m × 12本 を3:12ペース(リカバリー60秒)
3) 1000m × 10本 を4:00ペース(リカバリー60秒)
4) 2000m × 5本 を8:00ペース(リカバリー60秒)
5) 3000m × 3本 を12:00ペース(リカバリー60秒)

(※リカバリーを除いた走行距離はほぼ等しく、ペースもほぼ等しい)

もちろんこの例は分かりやすく説明するためのものであるので、実際にはレベルに応じてトレーニングの方法を微調整する必要があるだろう。しかし、このトレーニングの考え方は、レースでの目標に対して“正しいペースで走り、そのペースで走れる距離を伸ばしていく”という考え方である。

(ある一定期間に)1000m × 10本のトレーニングを合計4、5回行うとして、最初は4:10~4:15で練習をこなし、次第にスピードをレースペースに上げていき、インターバルで走る距離自体は大きく変えないというトレーニングとは正反対のトレーニング方法といえる。

レナートのこのアプローチ(持久力の拡大アプローチ)は、ケニア人が本来持っている特性に対するアプローチ(目標とするスピードで走れるところまで走る)によく似ている。ケニア人は、彼らが思う正しいペースで走りたがり、そしてそのペースで少しでも長く走ろうとする

もし、レナートが彼らのトレーニングを直接指導していたら、“そんなに早い段階で脱落しないように”とアドバイスするのではないかと私は思う。そして、インターバルの距離を1000mから500mに減らして、彼らにとって正しいペースでトレーニングをできるように指導するだろう。やがて、500m、600m、700mと距離を伸ばしていって、選手が走りたいスピードで練習をすべて行うことができるようになる。

もしくは、この2つのシステムを組み合わせることもあるかもしれない。1週目はこのトレーニング方法で、翌週は適度なペースで全距離を走る、など。両方の考え方には重なり合う要素がある。もしあなたのトレーニンググループに、あなたより速く走るランナーがいるとしよう。このランナーにどれだけついていくことができるか、最初は60%ぐらいしかついていけないかもしれない。

次の練習では自分の適度なペースで練習すべてをこなし、3週目にもう1度速いグループに参加してみて、今度は65%~70%ぐらいついていけるか試してみるといい。ケニア人の練習方法を見習うと、自分自身の進化に驚くかもしれない

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©2017 SushiMan Photography

【補足】

本文にある“どちらのアプローチが優れていて、どちらかはダメだと言っているわけではない”というところは実に的を得ていますが、“この2つのシステムを組み合わせることもあるかもしれない”という部分に関しては一考の価値があるでしょう。

ソンドレ・モーエンロバートソン兄弟ジュリアン・ワンダーズのようにケニアでケニア人達と、非アフリカ系の選手がトレーニングを行うメリットの1つにメンタリティやマインドのリセットがあり、それによってレースにも幅がうまれ、マラソンやトラックレースのいかなる展開にも対応できるよう総合的に強い選手がうまれてくることでしょう。

 

レッツラン・ジャパン編集長:SUSHI MAN

 

参考:【ブログ】レッツラン・ケニアその1:ンゴング・ケンスウェド高校訪問 + 駿河台大1年生コンビ武者修行の様子など

 

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