(過去投稿)レナート・カノーバ、日本式マラソントレーニングについて語る

カノーバとモーエン

先日、福岡国際マラソンで優勝したソンドレ・モーエンを指導するレナート・カノーバコーチのコメントが朝日新聞デジタルに掲載され、ちょっとした話題になりました。

マラソン練習について同コーチは「以前は瀬古(利彦)がやっていたように週に280キロも走り込むやり方に主眼が置かれていたが、今は違う」と断言。高地トレーニングの重要性を指摘した上で「いかに高いスピードを維持して練習を積むかが重要だ」とし、距離重視の練習法を否定した。

「爆走」生み出す名伯楽、マラソン界に新風
http://www.asahi.com/articles/ASKD84S6ZKD8TIPE01J.html

カノーバは日本のメディア向けに挑発的なコメントをしたわけではなく、世界中の中長距離ファンが見ているレッツランの掲示板でも以前から何度も日本式マラソントレーニングに対する自身の考えを書き込んでいました。

今回は、2008年北京五輪選考レースの名古屋国際女子マラソン前、朝30km、午後40kmといった高橋尚子選手のトレーニング記事を見て驚愕したレッツラン読者が立てたスレッド”Naoko Takahashi’s workouts “にレナート・カノーバコーチ本人が2008年3月3日に書き込んだ内容を紹介します。

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まず、普段の練習において、マラソンの距離より長く走ってはいけない理由はない。ジェリンド・ボルディン(ソウル五輪マラソン金メダリスト)は狙ったマラソンの前に高地で50~52kmを走ることを好んでいた。
ルシアーノ・ジリオッティ(当時のイタリア陸連ナショナルコーチ。アテネ五輪マラソン金メダリストのステファノ・バルディーニも指導した)と私にとってはこのような超長距離走は、すでにレースでは役に立たないかもしれないという、懐疑的なトレーニングとなっていた。

彼になぜ3時間走 (52km)をしたいのかと尋ねた所、「長い距離を走った後、私は自然と自信をつけることができた」と答えた。

また、シャミは、ジムでの練習に集中した期間(例えば、10月、11月、12月の半ば、週に9回ジムに行き、朝と午後のセッションで4日間)、毎週1回45km、最大50kmまで適度なペース (約3:40/km、最後の30分を速く)で走った。

しかし個人的には、日本の選手はロング走の範囲を超えてしまっていて、選手のキャリアの後半にかけて身体的な問題を抱えていると思っている。

瀬古利彦の練習には「メンタライゼーション」と呼ばれる100km走があった。
瀬古とその時代のトップランナー (伊藤、宗兄弟、児玉)は走行距離約480kmの”特別な週“を持っていたようだ。
女子選手の場合、1度に走る最大距離は70kmで、1998~2000年の間に高橋は何度もそれを行った。

また私は、サンモリッツで野口みずきが毎日3回走っているのを見た。さらに、いつも彼女は何かを買うために店まで走っているのを見た!

ここに日本のマラソンランナーの活躍が長く続かない理由がある。

日本のトップレベルの女子選手は、機械的な視点みたときに、非常に若い段階から、体を酷使している=自分の肉体を破壊しているので、だいたいは2〜3年でキャリアのピークを迎えて、その後、姿を消す。

 

簡単な質問:高橋のようなキロ3分18分ペースで42kmを走れる選手は、4分​​10秒で40または50km走をできるか? (=間違いなくこなす事ができるであろう)

一方、彼女はそのトレーニングに約50,000歩をかけて走っている。体の構造に問題がある場合(彼女は過去6年間に多くのけがをした)、さらに負担は増す。

だから、キャリアを長く続けたい選手に対する私の意見は、身体構造を破壊せずに、保存していくために、基本的な走行距離を減らして、身体に新しい刺激を与えるための “レースペース特有の走行距離”の量を増やすことが重要であるということである。

例えば、ある選手が5km×4本をMP(マラソンペース)の102%MP、リカバリー1kmをMP95%でこなせた場合、それから10年間において、5km×5本、あるいは5km×5本の最後の1本のラスト3kmを全力で走るという、より質の高いトレーニングに行きつかないといけない。(=質を維持したまま量を増やすor質も量も増やす)

ロング走が30 → 32 → 34 → 36kmのビルドアップで、MPの92/94%、ラストは100%で終了する場合は、今度は35 → 38 → 40kmを98%の均等なペースで、それを交互に行うことができる。

MPの85/90%で40km走ができた場合は、ハーフマラソンペースで2km × 4 ~ 5を含めることができる。このような練習によってグリコーゲンを再利用して使う割合を高め、エンジンを通常のディーゼルからターボディーゼルに変えていく。

来週(2008年当時)の日曜日の名古屋女子マラソンで、高橋がトップレベルに戻ってくるのは正直考えられないだろう。もし、彼女が五輪代表の資格を得ることができれば、私は彼女の競技に対する情熱や積極性は世界のランナーにとっての良い見本だと思うので、個人的にはその結果には満足するだろう。アスリートが厳しいトレーニングの末、ベストを尽くせる事をいつも願っている。

 

※解説: 高橋直子はそのレースで2:44:18の27位に終わり、その年に引退を発表した。

キャリアのなかで年を重ねつつ、コンスタントに結果を残し続けるのは簡単なことではない。トラックではモハメド・ファラーニック・ウィリスがベテランとなっても活躍し、マラソンではキプチョゲ、キプサング、ケイタニー、ディババらがベテランとなっても活躍し続けている。

高橋尚子が2000年のシドニーオリンピックで金メダル、2001年のベルリンマラソンで世界記録を出し、野口みずきが2004年のアテネオリンピックで金メダルをとり、女子マラソンは世界のトップにいた。

しかし、それ以降彼女たちを越える選手は日本からは現れず、その間にケニアとエチオピアの選手が着実にステップアップして実力をつけていった。

女子マラソンの日本記録を持つ野口みずきの自己記録を上回った選手は、ポーラ・ラドクリフ、メアリー・ケイタニー、ティルネッシュ・ディババ、キャサリン・ヌデレバ、ティキ・ゲラナ、そして2018年のロンドンマラソンを優勝したヴィヴィアン・チェリヨットの6人(ドーピング違反で記録が抹消された選手を除く)。

そのほとんどがベテランとなってもマラソンで結果を残した(今も残している)選手である。これは何を意味しているのか?

カノーバがアドバイスを送ることもあるメアリー・ケイタニーは、キャリアのなかで大きな故障は少なく、35歳となったロンドンマラソンで女子のみのレース(男子ペーサーなしの)の世界新記録である2:17:01で走った。

ケイタニーはロンドンマラソンを3勝、ニューヨークシティも3勝しており、キャリアのなかで非常に安定した成績を残している。それは日々のトレーニング内容と、トレーニング計画に基づいている。年齢を重ねるにつれて、力をつけてきている好例である。

同じように、カノーバが時折アドバイスするウィルソン・キプサングも同様に、年齢を重ねるごとに、30代半ばになるにつれてマラソンのタイムを伸ばしている。キプサングは34歳で自己記録を更新(2:03:13)しているが、今でもキプサングが月間に800km以上走ることはあまりない。

東アフリカ選手たちのマラソンが強くなった要因の一つに、優秀なコーチたちによる素晴らしいコーチングの成果があげられる。2000年代にマラソンを勝つために求められていたことと、2010年代にマラソンを勝つために求められていることは変化を遂げた。

その流れに沿ってトレーニング計画をアレンジして作成し、そのトレーニングを継続的に高いレベルで行ってきた選手が、現在のマラソン界で勝ち残ってきた、ということである。

 

【原文】

Naoko Takahashi’s workouts 2008年3月3日
http://www.letsrun.com/forum/flat_read.php?thread=2382243

 

◎参考:ソンドレ・モーエンのトレーニングその①【ハーフ59:48】

◎参考:ソンドレ・モーエンのトレーニングその②【練習メニュー詳細】

◎参考:ソンドレ・モーエンのトレーニングその③【補足の説明について】

◎参考:ソンドレ・モーエンのトレーニングその④【バレンシアハーフ(59:48)後から福岡国際マラソン(2:05:48)までの6週間のトレーニングメニュー】

◎参考:福岡国際マラソン:ノルウェーのソンドレ・モーエンが欧州新記録の2:05:48で優勝し、非アフリカ系ランナー初の2:05台に突入

◎参考:コーチ・カノーバ:福岡国際マラソンのソンドレ・モーエンに関するコメントについて

 

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