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ノルウェーのソンドレ・モーエンは、日曜日に開催された福岡国際マラソンに出場し、2:05:48という欧州新記録をたたき出して優勝した。公認コースで2:06の壁をやぶった最初の非アフリカ人選手となった。
アメリカのライアン・ホールが、ボストンマラソンで2:04:58で走っているが、その時は片道コースでの追い風のアシストがあり、かつ下りコースということもあり非公認コースとなっている。
前回の非アフリカ人選手が公認コースで出した記録は、1998年にロナルド・ダ・コスタが当時の世界記録を出したベルリンマラソンの2:06:05が最速であった。
2012年のロンドンオリンピックのマラソン金メダリストでウガンダのスティーブン・キプロティチは2:07:10の2位に終わり、ナイキ・オレゴン・プロジェクト所属の大迫傑は自己記録を大幅に更新し、2:07:19で3位に入った。
レース展開
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レース序盤は、中間地点を63:19で通過するという、1km3:00ペースでほぼ予定通りに進んだ。30km地点(1:30:07)、モーエンとカロキはほぼ横並びに走っており、先頭集団にはまだ6人の選手が残っていた。モーエンは、9月に10kmを27:55で走り、10月のハーフマラソンを59:48の記録を出し、福岡に向けて万全の状態で望んできた。
31kmまでにカロキがペースを2:55に上げ、モーエンもそのペースに反応し付いていく。カロキとモーエンは、30km~35kmの5kmを14:38で走り、35km地点(1:44:44)では、2:06:16ペースで走っていた。このとき大迫は18秒の差をつけられていた。
しかし、すぐにモーエンは独走体制に入る。Japan Running Newsのブレット・ラーナー氏によると、モーエンは37kmを2:53ペースで走ったという (1マイル4:38ペース、5kmだど14:25ペース、マラソン2:01:40ペースだ)。
モーエンは1:59:22で40kmを通過 (2:05:55ペース)、35km~40kmを14:38で走ったことになる。モーエンは、通常マラソンを走る我々が経験する”後半の落ち込み”をせずに走りきった。40km~ゴールまで、彼は5km14:38ペースを維持し続けた (1マイル4:43ペース、5km14:39ペース)。そして、欧州新記録とサブ2:06を達成した。
カロキは4位に順位を下げ (2:08:44)、オリンピック金メダリストのキプロティチが大迫を抜かして2位に入った。
【第71回福岡国際マラソン結果】
1位 ソンドレ・モーエン(ノルウェー):2:05:48=欧州新記録
2位 スティーブン・キプロティチ(ウガンダ):2:07:10
3位 大迫 傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト):2:07:19(MGC出場権獲得)
4位 ビダン・カロキ(ケニア、DeNA):2:08:44
5位 アマヌエル・メセル(エリトリア):2:09:21
6位 上門 大祐(大塚製薬):2:09:27(MGC出場権獲得)
7位 竹ノ内 佳樹(NTT西日本):2:10:01(MGC出場権獲得)
8位 ギザエ・マイケル(ケニア、スズキ浜松AC):2:10:46
9位 川内 優輝(埼玉県庁):2:10:53
10位 深津 卓也(旭化成):2:12:04
【非アフリカ系ランナーマラソン歴代記録(非公認コースを除く)】
- 2:05:48 ソンドレ・モーエン, ノルウェー 2017年 福岡
- 2:06:05 ロナルド・ダ・コスタ, ブラジル 1998年 ベルリン
- 2:06:16 高岡 寿成, 日本 2002年 シカゴ
- 2:06:17 ライアン・ホール, アメリカ 2008年 ロンドン
- 2:06:34 マリルソン・ゴメス・ドス・サントス, ブラジル 2011年 ロンドン
※それまでの欧州記録はトルコのカーン・キゲン・オズビレンの2:06:10 (別名マイク・キゲン:ケニアから帰化)
モーエンの今季の素晴らしい飛躍
これは、モーエンにとって4回目のマラソンであった。2015年11月のフローレンスマラソンで初マラソン経験し、その時は2:12:54で4位に入った。そしてリオオリンピックにノルウェー代表として出場し、2:14:17の19位でゴールしている。今年は4月に、ドイツのハノーファーで自己記録を2分更新し2:10:07で3位入賞を果たし、福岡でさらに4分19秒も自己記録を更新してきた。
また、彼のハーフマラソンの進化は目を見張るものがある。モーエンは2011年に初のハーフを64:05で走り、2012年には62:48までタイムを縮め、そこから確実に力を伸ばし続けている。2012~2016年にかけての彼のハーフマラソン自己記録は以下の通りだ。
2012年: 62:48
2013年: 記録無し
2014年: 62:59
2015年: 62:32
2016年: 62:19
2017年の前半の彼の記録は、これまでの実績を考えれば予想できるぐらいのものであった。2017年2月に、RAKハーフマラソンを62:25で走り、7月にベルギーのヒューズデンでのナイト・オブ・アスレチックのB組で5000mの記録を13:30から13:20に縮めた。ロンドン世界選手権は5000mに出場したが、予選14位で決勝に進むことはできなかった。
彼が飛躍し始めたのは、ロンドン世界選手権が終わった直後からだ。9月にプラハでの10kmのロードレースを27:55で走り、トラックの10000mの自己記録よりも20秒速いタイムを出した。そして、10月のバレンシア・ハーフマラソンで大いなる進化を遂げた。59:48のタイムを出し、欧州歴代2位の記録を出した。
モーエンは、コーチをレナート・カノーバに変えてから飛躍的進化を遂げた。この記事で記載されてるように、2016年9月からモーエンはカノーバの指導を仰いでいる。2017年のマラソンの準備のために、モーエンはケニアでトレーニングを積んだ。
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福岡では、モーエンは最初の30kmを2:06:45ペースで走り、最後の12.195kmを2:03:24ペースで走った。10年前の彼とは、全く違う長距離選手に生まれ変わったと言っていいだろう。
2017年のモーエンの進化は驚くべきものであるが、モーエンには才能がなかったと言うわけではない。ライアン・ホールと同じように、彼は若い頃から才能ある選手だったが、ロードに転向するまではその芽を見られなかったということだけだ。モーエンは、17歳の時に3000mのユース記録を出し (8:12)、5000mのノルウェージュニア記録も出している (14:02)。20歳の時には、5000mで13:30の記録も出した。
(※それらのノルウェーのユースやジュニア記録は今年ヤコブ・インゲブリクトセンによって塗り替えられた)
モーエンとライアン・ホールの類似点
30km手前で、モーエンが先頭に躍り出た時、我々は10年前にタイムスリップしたような感覚になった。そうだ、2007年のロンドンマラソン、マラソンデビュー戦となったこの大会で大胆にも35kmで先頭に立ったライアン・ホールを思い出したのだ。
2007年のロンドンマラソンの35km地点で、ホールは先頭を走っていた。彼は35kmまで先頭で引っ張ったが、結局はホールは2:08:24でゴールした。しかし、翌年のロンドンで2:06:17の公認コースでの生涯記録を記録した。
福岡でのモーエンは2:05:48のタイムを出し、しかも優勝したのだ。今回のレースが彼にとって初めてのマラソンではなかったが、モーエンとホールの関連性は、ただ単に白人でアフリカ生まれではないということだけではない。
マラソンの自己記録を出した時の5000mの自己記録
ホール 13:16、モーエン 13:20
マラソンの自己記録を出した時の10000mの自己記録
ホール 28:07、モーエン 28:15 (ロードは27:55)
マラソンの自己記録を出した時のハーフマラソン自己記録
ホール 59:47、モーエン 59:48
マラソンの自己記録を出したときの年齢
ホール 25歳、モーエン 26歳
しかし、ハーフマラソンより短い距離の彼らの自己記録は、世界クラス基準で見ると平凡なものではある。
大迫傑はオレゴン・プロジェクト最高記録を樹立
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ナイキ・オレゴン・プロジェクトの大迫傑は、2:07:19で3位に入り、素晴らしい走りを見せてくれた。ゴール地点ではコーチのピート・ジュリアンが待っており熱い抱擁をかわした。
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【オレゴンプロジェクトの歴代のマラソン記録】
大迫傑 2:07:19
モー・ファラー 2:08:21
ゲーレン・ラップ 2:09:20
(※元NOPのデイサン・リッツェンハインが2012年に2:07:47で走っている)
※ファラーはナイキ・オレゴン・プロジェクトを離れたので、マラソンで一番実績があり成功しているゲーレン・ラップが1番遅い持ちタイム(2017年12月当時)ということになる。つまり、マラソンでは、タイムだけが全てではないということを表している。
自己記録という観点で話すと、コーチのアルベルト・サラザールは2:08:13でニューヨーク・シティ・マラソンを優勝しているが、その後コースが短かったことが判明している。
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◎参考:ソンドレ・モーエンのトレーニングその④【バレンシアハーフ(59:48)後から福岡国際マラソン(2:05:48)までの6週間のトレーニングメニュー】
◎参考:コーチ・カノーバ:福岡国際マラソンのソンドレ・モーエンに関するコメントについて
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