ニューヨーク — 世界クロスカントリー選手権と、世界ハーフマラソン選手権でともに2回優勝している24歳のジョフリー・カムウォロルは、それまでの短いキャリアで成功を収めていたが、マラソンに限っては今日まで勝利を手中に収めていなかった。しかし、 25マイル(40km)からのラストスパートで後続を引き離し、2:10:53(前半66:09+後半64:44)でニューヨークシティマラソンを優勝し、マラソン初優勝を果たした。
Embed from Getty Images元マラソン世界記録保持者で2014年のこのレースの覇者のウィルソン・キプサングは、ラスト300mの猛スパートをみせたが一歩及ばず、2:10:56の2位に終わった。2年連続出場となった40歳のアブディ・アブディラマンは、アメリカ人トップの2:12:48で7位、シャドラック・ビウォットが2:14:57でアメリカ人としてもう1人のトップ10入りを果たす10位に入った。
Embed from Getty Images2009年のこのレースの覇者で、2014年のボストンマラソンの覇者である42歳のメブ・ケフレジギは、26回目のマラソンを2:15:29の11位で、彼の引退レースを締めくくった。アメリカ人でリオオリンピック6位のジャレード・ワードは2:18:39で12位、昨年、大会史上最年少の20歳で優勝を果たした前回王者のエリトリアのギルメイ・ゲブレスラシエは22マイル(35km過ぎ)で先頭集団から離れて、その後途中棄権に終わった。
男子のレースでは、ジョン・カグウェが1997年と1998年に連覇して以来、誰も連覇を達成していない。
カムウォロルは初タイトルを狙って、23マイル(36.8km)からペースアップして、その1マイルを4:44でカバーした。カムウォロルとキプサングのケニアのトップ2が、エチオピアのボストンマラソン王者の2人 – レミ・ベルハヌ(2016年の王者)、レリサ・デシサ(2013年と2015年の王者)を迎え撃つ形となった。24マイル(38.4km)からは15mほどの勾配があったので、その1マイルは4:55にペースが落ちたが、その4人はラスト2kmからの勝負所に備えた。
Embed from Getty Images25マイル(40km)を通過してから、優勝の栄冠を目指して仕掛けたのはカムウォロルだった。 カムウォロルはその1マイルを4:31(1km2:49ペース)でスパートし、キプサングに7秒差をつけ、その時点でデシサ(31秒差)とべルハヌ(52秒差)は優勝争いから脱落していた。
ラスト500mでキプサングが猛スパート
そこからカムウォロルとキプサングの差は広がらず、 26マイル(ラスト600m)のところで、カムウォロルはまだ6秒をリードし、勝利を手中に収めるかにみえた。しかし、キプサングがそこから猛スパートをかけて差を詰めてきたが、ゴール前の大きな声援の影響で、カムウォロルはキプサングのスパートを気づいていないようにも見えたが、そのまま逃げ切った。
Embed from Getty Images【ニューヨークシティマラソン男子:結果】
順位 | 名前 | 国籍 | 記録 | 1マイル平均 |
1 | Geoffrey Kamworor | ケニア | 2:10:53 | 5:00 |
2 | Wilson Kipsang | ケニア | 2:10:56 | 5:00 |
3 | Lelisa Desisa | エチオピア | 2:11:32 | 5:01 |
4 | Lemi Berhanu | エチオピア | 2:11:52 | 5:02 |
5 | Tadesse Abraham | スイス | 2:12:01 | 5:03 |
6 | Michel Butter | オランダ | 2:12:39 | 5:04 |
7 | Abdi Abdirahman | アメリカ | 2:12:48 | 5:04 |
8 | Koen Naert | ベルギー | 2:13:21 | 5:06 |
9 | Fikadu Girma Teferi | エチオピア | 2:13:58 | 5:07 |
10 | Shadrack Biwott | アメリカ | 2:14:57 | 5:09 |
11 | Meb Keflezighi | アメリカ | 2:15:29 | 5:11 |
12 | Jared Ward | アメリカ | 2:18:39 | 5:18 |
13 | Senbeto Geneti Guteta | エチオピア | 2:20:29 | 5:22 |
14 | Birhanu Dare Kemal | エチオピア | 2:21:30 | 5:24 |
15 | Brendan Martin | アメリカ | 2:22:36 | 5:27 |
16 | Harbert Okuti | ウガンダ | 2:22:46 | 5:27 |
17 | Francesco Puppi | イタリア | 2:25:35 | 5:34 |
18 | Abu Kebede Diriba | エチオピア | 2:27:25 | 5:38 |
19 | Alberto Mosca | イタリア | 2:28:07 | 5:39 |
20 | Matt Lenehan | アメリカ | 2:28:26 | 5:40 |
21 | Fredrik Uhrbom | スウェーデン | 2:28:42 | 5:41 |
22 | Benjamin Mears | アメリカ | 2:29:12 | 5:42 |
23 | Asier Cuevas | スペイン | 2:30:00 | 5:44 |
24 | Suleman Abrar Shifa | エチオピア | 2:30:26 | 5:45 |
25 | Rafael Oliveira | ポルトガル | 2:31:03 | 5:46 |
カムウォロルは最も価値のあるチャンピオンである
カムウォロルは、おそらく世界で最もマルチな長距離ランナーである。世界クロスカントリー選手権での2度の優勝、世界ハーフマラソン選手権でも2度の優勝(レッツランジャパン記事)、北京世界選手権10000mでは銀メダルとその多彩さをみせていたが、マラソンにおいては今日まで勝利が無かった。しかし、彼はマラソンで決して悪い結果であったわけではない。
2012年に当時19歳でベルリンマラソンでマラソンデビューを果たし3位だった(2:06:12)。2013年には春のロッテルダムマラソンで4位(2:09:12)、秋のベルリンマラソンで3位(2:06:26)、2014年は東京マラソンで6位(2:07:37)、ベルリンマラソンで4位(2:06:39)、2015年にはニューヨークシティマラソンで2:10:48で2位に入った。そして、最終的に今日優勝出来たことは、カムウォロルにとってマラソンでの素晴らしい感触を残した。
Embed from Getty Imagesニューヨークに駆けつけた練習パートナーのキプチョゲとゴール後に抱き合う
「本当に良かった。私はマラソンに勝って心から喜んでいる。だから、その瞬間は素晴らしい瞬間だね。初マラソンからずっとこの瞬間のためにマラソンを走ってきて、それを達成出来てとても嬉しい。私の※6回目のマラソンで初勝利を挙げることが出来た」
(※正確には彼にとって7回目のマラソン)
2015年のニューヨークシティマラソンとのラストスパートの比較
Embed from Getty Imagesカムウォロルの今日までの最後のマラソンは2015年のニューヨークシティマラソンだった。その時はカムウォロルが惜敗した(彼はスタンリー・ビウォットに14秒差で破れて2位)がラスト10kmの走りは素晴らしいものであった、以下を見て比較してみる価値がある。
2015年と2017年の比較 | 2015年のレース | 2017年のレース |
前半のハーフ | 66:49 | 66:09 |
後半のハーフ | 63:59 | 64:44 |
ラスト6.2マイル(約10km) | 28:49 | 30:17 |
ゴールタイム | 2:10:48 | 2:10:53 |
ギルメイ・ゲブレスラシエ連覇ならず
ジョン・カグウェが1997年と1998年に連覇をして以来、ニューヨークシティマラソンで連覇を成し遂げた選手はいない。前回王者のギルメイ・ゲブレスラシエは、13マイル(20.8km)手前のプラスキ橋の上りで、早めのスパートに打って出た。しかし、結局はその代償を喰らって、22マイル(35km過ぎ)で先頭集団から離れて、その後途中棄権に追い込まれた。
ゲブレスラシエは、昨年のニューヨークシティマラソンでは成功したものの、彼にはまだそこまでのマラソン経験がないために、今日のレースで“途中棄権”という結果になってしまったのだろう。ニューヨークシティマラソンでは1番調子の良い選手が勝つとは限らない。ベテラン選手のメブ・ケフレジギが、ゲブレスラシエの途中棄権について語った。
Embed from Getty Images「ギルメイは強かった。レースのほとんどを引っ張っていて、自分でコントロールしようとしていた。彼には自信があっただろうから、彼が途中棄権したときはビックリしたよ。自分も何回か止まって、彼に“ゴールしよう”と励ましたんだ。彼は“故障している”と言っていたよ。止まって彼にハグをしてから、自分は走り続けたよ」
「でも、そうだね。自分の得意ではないような戦略的なスピードの上げ下げがたくさんあったね。それが、セントラルパークの丘に入ると、一気に身体にこたえてくる。ファルトレクのような、スピードの上げ下げが、彼を消耗させたのだろう。ジョフリー(カムウォロル)は本当にスマートに走ったよ。彼は序盤では先頭に立たなかったからね」
アメリカのレジェンドに“さよなら”を告げる
我々は来週の時間がある時にメブに捧げる記事を書く予定であるが、今はこれを言っておきたい。どんなスポーツにおいてもメブのように“才能”と“強さ”と“品格”を兼ね備えた選手は少ない。メブのこれまでの“物語”と“偉業”の数々は、アメリカのいかなる世代のランナーたちに影響を与え、いまだにメブについて、悪いことを言う人に会ったことが無い。
彼は今までに※数々の成功を収めてきたが、今日の彼の走りは、彼のキャリアの中でも“ベストな走り”とはいえなかった。レースの終盤では腹痛にも襲われて(最近のマラソンでもメブは腹痛に悩まされている)、その腹痛によって彼は吐いてしまった。しかし、アメリカ人選手としては3番目の11位に入り、2:15:29という記録は“42歳の選手”としては堅実な走りだったといえる。
(※今週このことを“何万回”も言ってきたが、オリンピックでのメダルに加えて、ニューヨークシティマラソンとボストンマラソンでの優勝(レッツランジャパン記事)
メブは自分自身を恥じることは何もない。42歳のメブが19マイル(30.4km)まで先頭集団で走ったということは“偉大なる偉業”である。その地点で“優勝する確率は少ない”ということを悟っていたことを彼は認めたが、それでも彼は、ほんの少しの勝つ可能性に賭けていた。
「もし、先頭集団に24マイル(38.4km)まで付いていけていれば、あとは観客が後押しをしてくれていただろう。22マイル(35.2km)あたりで、自分と他の3選手も足が止まってしまった。勝つ可能性は1%以下だった」
「完璧に走りたかったけど、そうはいかなかった。レース前の目標は10位以内で、出来れば表彰台というところだったけど、レースは自分の感覚で走った。フィニッシュラインは自分にとってはとても大切な場所であり、そこに辿り着けたことを誇りに思っている」
Embed from Getty Imagesメブにとって、競技者としての、マラソン選手としての日々は今日で終わった。しかし、この競技においてはいまだに重要な存在である。彼のエージェントで、彼の兄弟である、ハウィ・ケフレジギは、メブは2018年は家族と一緒に過ごす予定であることを明かした。2014年のボストンマラソンの優勝以降、休み無く練習と海外遠征や合宿を繰り返していたからだ。
Embed from Getty Imagesしかし、メブはこれからもレースには出るだろうし(ファンランとして)、メブ財団の活動も続け、指導者としてのキャリアを今後考えている。
レッツラン記事
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