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アメリカのメブ・ケフレジギの26回目のマラソンはこのニューヨークシティマラソンとなり、この日曜日をもって彼は26マイルの旅路に別れを告げることとなる。男子の招待選手のリストにはベルリンマラソンの途中棄権から6週間でこのニューヨークシティマラソンに矛先を向けてきたウィルソン・キプサング、連覇を狙うギルメイ・ゲブレスラシエ、2人のボストンマラソン王者、Breaking2以来のレースとなるレリサ・デシサ、そしてレミ・ベルハヌ、マラソンへの復帰戦となるジョフリー・カムウォロルなどのメンバーが名を連ねた。
【2017ニューヨークシティマラソン男子招待選手】
名前 | 国籍 | 自己記録 | 備考 |
ウィルソン・キプサング | ケニア | 2:03:13 | 東京マラソンを2:03:58の大会新で優勝, 6週間前のベルリンで途中棄権 |
レミ・ベルハヌ | エチオピア | 2:04:33 | 2016ボストンマラソン優勝, 2017廈門マラソン優勝 |
レリサ・デシサ | エチオピア | 2:04:45 | ボストンマラソンを2度優勝, 2014ニューヨーク2位, 2016ニューヨーク途中棄権 + Breaking2でパフォーマンスを発揮出来なかった |
ジョフリー・カムウォロル | ケニア | 2:06:12 | 世界ハーフ選手権を2度優勝, 2015ニューヨーク2位, それ以来のマラソン |
タデッセ・アブラハム | スイス | 2:06:40 | 2016ソウルマラソンで自己新, その後のリオオリンピックで7位 |
ギルメイ・ゲブレスラシエ | エリトリア | 2:07:46 | 2016ロンドンで2:07:46の自己新, 歴代3位の優勝タイムで2016ニューヨーク優勝 |
Michel Butter | オランダ | 2:09:58 | 2017年4月のロッテルダムマラソンで13位 |
Koen Naert | ベルギー | 2:10:16 | |
Musa Babo | エチオピア | 2:10:28 | 5月のピッツバーグで5位 |
Byron Piedra | エクアドル | 2:14:12 | リオオリンピックで18位 |
Harbert Okuti | ウガンダ | 2:17:30 | |
Fredrik Uhrbom | スウェーデン | 2:21:44 | |
Francesco Puppi | イタリア | デビュー | ハーフマラソン69:05 |
ベルリンマラソンとシカゴマラソンのレース展望で指摘したように、WMM(アボット・ワールド・マラソン・メジャーズ)の優勝者を見つけ出す簡単な方法がある。2013年以降のWMM6大メジャーマラソンの男子の優勝者は全員、
①自己記録が2:08よりも速い
もしくは
②世界大会でメダルを獲ったことがある
その29名のうち26名(89.7%)は
①自己記録が2:06よりも速い
もしくは
②世界大会でメダルを獲ったことがある
今回のエントリーの中で、自己記録が2:06よりも速いか、世界大会のメダルを獲得している、これに当てはまるのが、キプサング、ゲブレスラシエ、ベルハヌ、デシサ、カムウォロル、メブ・ケフレジギの6人であるが、メブは最近の成績からみて今回優勝することは考えにくい。
ニューヨークシティマラソンの王者たち
Embed from Getty Imagesギルメイ・ゲブレスラシエ — エリトリア, 21歳, 自己記録2:07:46(2016ロンドン), ハーフ60:01, 2016〜2017のマラソン成績:2016ロンドン4位(2:07:46), リオオリンピック4位 (2:11:04), 2016ニューヨーク優勝(2:07:51), 2017ロンドン6位(2:09:57), 調整レース: 無し
昨年のニューヨークシティマラソンの招待選手の顔ぶれにはあまり強い選手がいなかった。しかし、強い選手が揃った年でさえも、昨年のゲブレスラシエに勝つのは難しかったであろう。彼は、残り10kmでとてつもないスパートを見せ、ライバルの選手たちを競り落としていった。2:07:53という彼の昨年の優勝タイムは、ニューヨークシティマラソンの歴史においても3番目に速い優勝タイムであり、2011年のジョフリー・ムタイの伝説の優勝タイム2:05:06以来で見ると、1番速い優勝タイムだった。
ゲブレスラシエは、2016年のロンドンマラソンで自己記録を出して4位(エリウド・キプチョゲ、スタンリー・ビヴォット、ケネニサ・ベケレの後ろ)に入り、リオオリンピックでは再び4位に入った。彼は前回王者であるが、今年のゲブレスラシエは優勝候補の筆頭ではない。なぜならば、2017年のロンドンマラソンでの2:09:57というタイムは、21歳の短いキャリアの中ではあるが、彼のレースの中では1番悪いタイムだった。
しかし、この結果だけで“彼は勝てない”と思っているわけではない。毎年ロンドンンマラソンでは、序盤からのハイペースによってオーバーペースになりすぎて、後半失速してしまうケースが多く、それが今回彼の身にも起こった。ロンドンマラソンのラップタイムは61:44-68:13であった。ゲブレスラシエは強い選手である。選手権タイプのレースで速く強く走れる選手であるが、(今のところ)2:04では走れない。
記録上では、もう1つ彼の悪いタイムは2014年のシカゴマラソンでのマラソンデビューの2:09:08の6位(当時18歳)という結果である。しかし、その日彼がポジティブスプリットで走る理由があった。彼は実はペーサーとして出場していて“35km地点でペースメーカーの役割を終えた後にそのままゴールする”と決めたのだ。
2015年以降、ゲブレスラシエは※選手権タイプのレースを3回走っており、2015年北京世界選手権で優勝、2016年リオオリンピックで4位、2016年ニューヨークシティマラソンで優勝の成績を残している。日曜日も、この傾向を継続してくれることを期待する。
(※ペーサーがいない、序盤から比較的ペースが落ち着くレース)
ウィルソン・キプサング — ケニア, 35歳, 自己記録2:03:13 (2016ベルリン), ハーフ58:59,
2016〜2017のマラソン成績:2016ロンドン5位(2:07:52), 2016ベルリン2位(2:03:13), 2017 東京優勝(2:03:58)2017ベルリン途中棄権, 調整レース:ベルリンマラソンの30kmまでを1:27:26 (マラソン2:02:58ペース)
キプサングは、今回の招待選手の中では最も興味深い選手の1人である。 この秋はマラソンの世界記録を目標にしていて、ベルリンマラソンでは30kmまでそのペースで走っていた。 そして、以下の出来事が起こった。
先頭とは、少ししか離れていなかった30㎞地点で給水をとった直後に、キプサングはコースから逸れて途中棄権した。このタイミングは、すごく奇妙だった。普通は、先頭集団と一緒に走っているペーサーだけが、ここで抜けるはずだ。すぐさま、ネット上で様々は憶測が飛び交い、ネットは炎上した。キプサングの途中棄権の“直後”の、キャサル・デニーのツィートが、的を得ていた。
「キプサングがニューヨークシティマラソンに出ると、賭けたい人はいるかい?30㎞ですごく変な途中棄権だった」
キプサングのマネージャーであるアリエン・ヴァーケードは公式の声明として、キプサングのベルリンマラソン棄権について
「寒さの影響でうまく走れなかった。雨のせいだ。25km地点から問題があった」
と、述べていた。しかし、我々は非公式ではあるが、彼の棄権の理由は以下のような理由にあると思う。
「今は調子が良くない。残り12kmでこのペースについていけないとわかっている。もし走れたとしても、キプチョゲには勝てない。今、途中棄権すれば、そこから立て直して6週間後のニューヨークシティマラソンで優勝できる(そして、その中で他レースの出場料も貰えるかもしれない)」
考えてみてほしい。キプサングはベルリンマラソンで3位を狙って、賞金€15,000(約$17,476=約200万円)を家に持ち帰れたかもしれない。それとも、ここで途中棄権して、ニューヨークシティマラソンに出場して、さらに高い賞金(1位で$100,000、4位でも$25,000)を手に入れ、それを足掛かりに※他の大会への出場料も手に入れられる。
(※ニューヨークシティマラソンでの彼の成績が次のレースへの出場料に影響する)
我々はここで大人しく、キプサングが優勝候補だと書くつもりはない。結局、彼はベルリンマラソンで途中棄権をしている。もし、天気のせいで身体が冷えたのだとしたら、ニューヨークの日曜日の気温も同じような気温になる予定であるし、日曜日は雨が降る可能性もある。
しかし、キプサングはベルリンマラソンの前に“世界記録を狙える仕上がり”だと感じていたし、30㎞まで2:02:58ペースで走っていた。ニューヨークシティマラソンを走るどの選手よりも1番良い“調整走”をしているといえる。
キプサングがニューヨークシティマラソンで勝てると思ったから、出場を承諾したのだと考えれば、彼は本命候補に挙げなければならない。思い出して欲しい、彼は歴史上でも偉大なマラソン選手の1人である。しかも、サブ2:04を4回を達成した人類唯一の選手で、過去にニューヨークシティマラソンで優勝している。ベストな状態のキプサングと対等に戦える相手は、今回の出場者の中には…ほとんどいない。
ボストンマラソンの王者たち
Embed from Getty Imagesレミ・ベルハヌ — エチオピア, 23歳, 自己記録2:04:33(2016ドバイ), ハーフ61:37,
2016〜2017のマラソン成績:2016 ドバイ2位 (2:04:33), 2016ボストン優勝(2:12:45), リオオリンピック13位(2:13:29), 2017廈門マラソン優勝(2:08:27), 2017ボストン途中棄権,
調整レース: 無し
ベルハヌ(へイル・レミとしても知られている)は、過去2年間でそれぞれ同じようなパターンでマラソンを走っている。 1月のドバイでは良い成績で、4月のマラソンも素晴らしいが、8月のマラソンでは力を出し切れていない。以下をご覧になっていただきたい。
マラソン1走目 | マラソン2走目 | マラソン3走目 | |
2015年 | 2:05:28 ドバイ (優勝) | 2:07:57 ワルシャワ (優勝) | 2:17:36 北京世界選手権 (15位) |
2016年 | 2:04:33 ドバイ (2位) | 2:12:45 ボストン (優勝) | 2:13:29 リオオリンピック (13位) |
2015年と2016年と同じように、2017年は1月にレースレベルの高いマラソン(※廈門マラソンで2:08:27)でスタートしたが、ベルハヌはボストンで途中棄権して、ロンドン世界選手権には出場しなかった。
(※中国の廈門マラソン=アモイマラソンは中国のレースで1番賞金が高いことから、レースレベルがかなり高い)
ベルハヌはこの過去2年で3走目のマラソンでは良い結果を残していないが、ベルハヌが過去2年、8ヶ月間で3つのマラソンを走っていたことを考えると、今年のように11ヶ月で3レース走るという余裕を持ったスケジュールは、彼にとってはチャンスであり、強調材料である。
ベルハヌは昨年、ボストンマラソンでの優勝で、選手権タイプのレースで勝負出来ることを示した。現在の彼のトレーニンググループは、世界で最高クラスのトレーニンググループであり、コーチのゲメドゥ・デデフォは、ベルリンマラソン2位のグエ・アドラとロンドン世界選手権銀メダリストのトミラート・トラを育てた。
ベルハヌにとって、そのトレーニンググループでトレーニングを継続することは彼を成功へと導く。そのようにしてマラソンのサラブレッドとして育成されたベルハヌは、ニューヨークシティマラソンを優勝するために、稼ぎに出るために“狩りに出る”収穫の時期を迎えた。
ベルハヌについての面白い事実。それは、“彼が調整レース入れないのは当然”ということである。Tilastapajaによると、23歳の彼はキャリア全体で※11レースしか経験しておらず、そのうちマラソンが10、ハーフマラソンが1つだけである。
(※トレーニングキャンプでの調整だけで“十分”であるということ)
レリサ・デシサ — エチオピア, 27歳, 自己記録2:04:45(2013ドバイ), ハーフ59:30, 2016〜2017のマラソン成績:2016ボストン2位(2:13:32), 2016ニューヨーク途中棄権, 2017 Breaking2(2:14:10), 調整レース: 無し
デシサがニューヨークシティマラソンに出るのは4年連続である。そして彼は間違った方向に向かっている。2014年に初めてニューヨークシティマラソンを走って、優勝したウィルソン・キプサングからたった7秒後ろの2位でゴールした。2015年、彼は優勝候補であったが前年より1分遅いタイムでゴールして、順位は3位に落ちた。さらに去年、20マイル(32km)まで先頭集団で走ったのにも関わらず、そこから途中棄権をしている。
ベルハヌのように、デシサも今年のマラソンのスケジュールを少なくしている。2013年に3回のマラソンを走り、2015年に4回走った後、デシサは去年2回のマラソンしか走っていない。ニューヨークシティマラソンは2017年で2回目のマラソンである。ということは、デシサが好タイムでマラソンを走ってから久しいということを意味する。それは、19か月前の2位でゴールした2016年のボストンマラソンまで遡る。
しかし、彼は大きな才能が秘められた選手であるし、5月のBreaking2での失敗をどのように活かしてくるか、というのが、望みである。デシサはBreaking2で2:14:10のタイムでしか走れなかった。しかし、たくさんの要素が抜けてしまっている。まず第1に、デシサは決してサブ2:00に近づけることは(今のところ)出来ない選手である。キプチョゲだけが、その少ない可能性が残された選手だった。
第2に、デシサはBreaking2に向けての調整が上手く出来ていなかった。2月に故障して、本番2か月前のハーフマラソンの実験でも、62:55のタイムしか残せなかった。第3に、本調子にないにも関わらず、スタートしてからサブ2:00ペースで走らされた。それで、このようなひどいポジティブスプリットになっていて2:14:10のタイムだった。デシサはBreaking2のスタートラインにも立つべきではなかったのだ。だから、彼が明らかに調子が悪い日に、しっかり最後まで諦めずに完走したことを評価したい。
希望の光は、ナイキの優秀なチームがデシサのトレーニングを間近で見れたことによって、彼らがデシサに、マラソンの準備に対する全く新しい価値観を与え、彼がそれを将来のマラソンに活かせるか、ということである。そして、それはこのニューヨークシティマラソンから始まるのである。
「マラソンのペース設定についてもよく知らなかった。スピード練習をどんな風にするかも知らなかった。どれだけ休養が必要かも知らなかった。それに加えて、栄養に関しても、炭水化物やタンパク質みたいなことも知らなかった。彼らは、施設や走る時のユニフォームや靴も、私が使えるようにしてくれた。結果、まるで自分は初心者の選手のように感じたよ」
デシサはRunBlogRunのサブリナ・ヨハネスに対して、このように語った。これ以上は深堀しないが、この男はマラソンを2:04で走って、ボストンマラソンを2回優勝している。だから、彼は明らかに今まで正しい練習をしてきた。しかし我々は、アフリカの選手たちは、西洋のイノベーションから恩恵を受けられると長い間信じている。彼のニューヨークシティマラソンでの走りは、この理論の興味深い実験ともなるだろう。
万能の才能を秘めた大器
Embed from Getty Imagesジョフリー・カムウォロル — ケニア, 24歳, 自己記録2:06:12(2012ベルリン※19歳での初マラソン), ハーフ58:54, この2回のマラソン成績:2014ベルリン4位(2:06:39), 2015ニューヨーク2位(2:10:48)
ジョフリー・カムウォロルの世代で、彼のように様々な種目で成功を収めている選手はいない。彼は、過去2回の世界ハーフマラソン選手権で優勝し、過去2回の世界クロスカントリー選手権でも優勝、世界選手権ではトラックで銀メダル(10000m自己記録26:52)、マラソンも2:06で走る。加えて、2年前のニューヨークシティマラソンで2位にも入っている。
カムウォロルの2017年は、とてもいい1年だった。そして、世界でも屈指のマラソンコーチ、パトリック・サングのもとで練習をしている。彼は3月の世界クロスカントリー選手権で優勝し、強豪揃いだった5月のプレフォンテン・クラシック(ユージンDL)の5000mを13:01で走って3位に入った。
そして、8月のロンドン世界選手権の10000mで26:57の6位。彼の2015年シーズン(世界クロスカントリー選手権で優勝、北京世界選手権10000mを26:52で銀メダル)に比べれば、そこまでは良くないが、引けを取らない成績である。2015年はスタンリー・ビウォットのとてつもないスパート(ラスト10kmが28:35)によって、カムウォロルのニューヨークシティマラソンの優勝は阻止された。
この時点でカムウォロルは、ロードレース主体で全てをマラソンに注いでいるマラソン選手ではない。なので、このプレビューでも述べた他の選手に比べると劣ってしまう点もあるかもしれない。しかし、彼は本当に素晴らしく突出したハーフマラソンの選手である。去年の世界ハーフマラソン選手権での勝利は、我々が見たレースの中でも指折りのレースであった。彼は、偉大なマラソン選手になるための素質をすべて持ち合わせている。
カムウォロルに関しての1つの議論は、彼はまだマラソンでの優勝経験が無いということである(6戦0勝)。しかし、ほとんどのマラソンのレースを若い時に走っており(彼はまだ24歳なのだが)、それらは強豪選手も多いレベルの高いレースだった(5つのメジャー大会=世界記録が出た大会2つを含む+それに加えて高速レースのロッテルダムマラソンも含む)。彼の最近のマラソンはキャリアの中でも1番のレースだった。もし彼がそこから進化しているのであれば、日曜日に優勝する可能性もある。
レッツラン記事
【2017ニューヨークシティマラソン男子アメリカ人招待選手】
名前 | 自己記録 | 備考 |
メブ・ケフレジギ | 2:08:37 | 2009年のこのレースの王者、42歳でマラソン現役引退 |
アブディ・アブディラマン | 2:08:56 | 39歳にして2016ニューヨーク3位 |
ジャレード・ワード | 2:11:30 | リオオリンピック6位、2017ボストン10位 |
シャドラック・ビウォット | 2:12:01 | 2016ニューヨーク5位、2017ボストン4位 |
ブレンダン・マーティン | 2:15:30 | 2016ニューヨーク14位 |
マイケル・ワーディアン | 2:17:49 | ウルトラランナー、42歳で2016ニューヨーク45位 |
メブ・ケフレジギ — アメリカ, スケッチャーズ, 42歳, 自己記録2:08:37(2014 ボストン), ハーフ61:00, 2016〜2017年のマラソン成績:リオオリンピックアメリカ選考会2位(2:12:20), リオオリンピック33位(2:16:46), 2017ボストンマラソン13位(2:17:00)
Embed from Getty Imagesメブから何を学び取れるか、あなたは本当にはわかっていない。彼は、誰も予期もしない瞬間を今までたくさん与えてくれた。骨盤の疲労骨折により2008年の北京オリンピックの全米代表入りを逃したものの、その翌年の2009年のニューヨークシティマラソンで優勝し、我々の期待に応えてくれた。
2011年、彼が35歳の時、不名誉にもボストンマラソンと、そのメインスポンサーである“ジョンハンコック社”からボストンマラソンに出場できないことを告げられる。しかし、その翌年のロンドンオリンピックで見事に4位に入り、我々の期待に応えてくれた。2014年のボストンマラソンでは、メブを優勝候補にあげる者はほとんどいなかった。日曜日のメブは、どんなことでもやりかねない。
(※彼は下馬評を覆して優勝を果たし、31年ぶりに男子のアメリカ人選手がボストンマラソンを制覇)
そうは言っても、現実的になる必要もある。メブのここ最近2回のマラソンは、成績はあまり良くなかった。リオオリンピックでは腹痛の影響で33位に終わっている。今年の春は、踵とアキレス腱の故障から、マラソンへ向けた調整がうまくできず、ボストンマラソンでは2:17:00で13位という、彼の中では最も悪いレースの1つとなってしまった。
メブは現在42歳である。かつてほど練習で身体を追い込めなくなっている。10年前に比べれば、身体の回復にも時間と労力(ストレッチやアイシングなど)を必要としている。もし彼の調子が良ければ、彼は先頭集団と共に走り勝負をするだろう。そして、あなたが予想しているよりも1つか2つは、上の順位でフィニッシュするだろう。もし厳しいレース展開になったとしても、我々を鼓舞して楽しませてくれる何かを、メブは見つけ出してくれるだろう。
「最後までアスリートでいたい」
メブは最近、ティム・レイデンのインタビューでこのように語っていた(もしまだその記事を読んでいないのであれば、メブのファンなら必読なので読んでほしい)。
「たぶん10位以内かな。表彰台に登るのはすごいことだ。もしついていけなかったり、遅れをとってしまっても、観客とハイタッチはするよ。レースを走っている時、その瞬間にいるのが好きなんだ。エモーショナルな瞬間になると思うよ」
メブがレース後までハイタッチを温存できるぐらいに、メブには勝負をしてほしいというのが我々の望みだ。3週間前にメブに会った際、身体の調子も良かった。日曜日もそうであれば、アメリカ人選手の英雄として、ミックスゾーンで彼に会いたいと思う。
思い出してほしい。メブがリオオリンピック全米選考会で2位になってから、たった20か月しか経っていない。しかし、彼は今、アメリカ人トップの候補ではない。アブディラマン、ワード、そしてビウォット、彼らはここ1年半でメブよりも調子を上げているし、今年のボストンマラソンでもメブに勝っている面々である。彼を優勝候補にあえて入れない、きっとそれがメブ・ケフレジギが好むことだろう。
レッツラン記事
(※以下、ニューヨークシティマラソンの共同記者会見後の談話について)
レミ・ベルハヌは“2:06か2:07”の快走を望んでいる
この4月のボストンマラソンに前回王者として臨んだベルハヌは途中棄権に終わり、彼のコーチのゲメドゥ・デデフォによると“高温多湿のコンディションに苦しんだ”という。もし、そうだとすれば、ベルハヌはヴェラザノ・ナローズ橋でレースが始まる日曜日にレースを楽しむことができないかもしれない。しかし、ボストンマラソンは今年も去年(ベルハヌは優勝)もスタート時の気温は22℃前後だったので、彼は気温に関しては問題は無いだろう。
それはなぜか? 今日ベルハヌは、彼が日曜日に
「”2:06または2:07″で走りたい」
と、強気に発言した。それは、どれくらいのタイムか?以下が歴代5傑である。
【ニューヨークシティマラソン男子歴代記録トップ5】
- 2:05:06 ジョフリー・ムタイ (2011年)
- 2:06:28 エマニュエル・ムタイ (2011年)
- 2:07:14 ツェガエ・ケベデ (2011年)
- 2:07:43 テスフェイ・ジファール (2001年)
- 2:07:51 ギルメイ・ゲブレスラシエ (2016年)
だから、2:06はかなり速い。 ベルハヌが本当にそのペースで走れるように頑張れば、レースはとても面白くなるだろう。最初の1マイルのヴェラザノ・ナローズ橋のアップダウンを除けば、前半はそこまでアップダウンが無い(コースの高低差の図を参照)ので、63:00で中間地点を通過することは可能である。
しかし、ニューヨークシティマラソンのコースの最も難しい部分の1つは、終盤のセントラルパークの丘の部分である。 彼らが2:06ペースで走り続ければ、ベルハヌ(そして彼に続く選手)は、彼らがその丘に差し掛かる時に、それまでの積極的な走りを、もしかしたら後悔するかもしれない。
ウィルソン・キプサングはベルリンマラソンから十分に回復しており“2014年にニューヨークで優勝した時よりも”強くなっていると話した
キプサングは6週間前のベルリンマラソンで世界記録を狙ったが、30km途中棄権をして、そこからの復活戦ということもあって1番の注目選手である。キプサングは
「今回の調整は全て上手くいっている。ベルリンでは、特に故障はなかった」
と語った。キプサングは途中棄権の原因に、“レース当日の雨”を挙げ、それによって先頭集団のペースに対応することができくて、かつ、“27km地点では腹痛もあった”という。しばらく腹痛がおさまるのを待ったが、それ以後、改善はされなかった。
「大丈夫かなと思ったけど、30kmで“無理だな”と思った」
と、キプサングは言った。
「ベルリンの後に1週間の休みをとって、その後に5週間ほど※ヒルトレーニングを追加した。ベルリンで棄権してから身体にはそんなにダメージはないと感じていた。それ以来、身体の調子を維持できている」
(※フラットコースのベルリンマラソンの前には行わなかった、アップダウンのあるニューヨークでの実戦を想定したトレーニング)
「リカバリーはそんなに難しくなかった。速いレースを走る下地はできていたし、ベルリンマラソンでは世界記録で走る準備も出来ていた。調子は下がっていなくて調子は同じぐらいだ。2014年のニューヨークで優勝した時よりも強くなってると思う」
しかし、言うのは簡単である。マラソンのメジャー大会の記者会見に出席する選手たちは、ほとんど誰もが“100%調子が良い”と言うだろう。“練習も全てこなしてきた”と。レースが終わった後に初めて“真実がわかる”だろう。
マラソンファンとしては、日曜日にキプサングが素晴らしい走りをするのを見たい、と願っている。しかし、前回キプサングが同じような事をしようとした時、2015年の北京世界選手権で途中棄権した10週間後に、ニューヨークシティマラソンを走った時は、彼は4位に終わっている。
ジョフリー・カムウォロルはトラックに別れを告げた訳ではない。エリウド・キプチョゲの練習もこなせると彼は言う
2015年の北京世界選手権10000mでモー・ファラーの後ろの2位でゴールした後、カムウォロルは“ファラーの後継者”と言われてきた。しかし、その後のリオオリンピックの10000mは11位、ロンドン世界選手権の10000mでは6位に破れてしまって“彼のトラックキャリアは終わったのではないか?”という人もいた。カムウォロルは、
「そうではない。この2年間に、世界クロスカントリー選手権で優勝をして、ドーハ世界選手権でトラックを走るつもりだ」
と、話した。
「マラソンも走れるが、まだトラックもクロスカントリーも走れる」
まだ24歳のカムウォロルは、多才な選手の1人である。2個の世界ハーフマラソン選手権のタイトルを持ち、2015年のニューヨークシティマラソンでは2位に入り、マラソンでは2:06:12の自己記録を持っている。
「どんな距離やどんな路面で走るのも得意だ」
カムウォロルは、まだ“マラソン初心者”とみなされている。しかし、彼のマラソンの自己記録は5年前のベルリンでの“初マラソン”の記録(2:06:12=当時19歳)である。2年前のニューヨークシティマラソンで2位になって以来2年ぶりのマラソンとなる。
カムウォロルはパトリック・サングのもとで、マラソンレジェンドのエリウド・キプチョゲと共に練習をしている。キプチョゲは今、地球上でも最も強いマラソン選手である。しかし、カムウォロルは、
「キプチョゲに出来て、自分に出来ない練習はない」
と語った。もしカムウォロルがニューヨークシティマラソンでの優勝を達成すれば、彼のトラックキャリアは過去のものになるのだろうか。
ボストンマラソンを2勝しているレリサ・デシサ“日曜日も優勝する”と約束する
レリサ・デシサはボストンマラソンで2度の優勝を経験している。ボストンマラソンを優勝した時よりも、
「今回の方が調子が良い」
と語った。そして、日曜日の優勝を約束した。“自信はあるか?”と聞くと、
「はい」
と、答えた。デシサの最後のマラソンは、ナイキのBreaking2のレースで、2:14:10で走った。しかし、Breaking2のプロジェクトチームから多くの事を学び、レースに向けての準備の仕方を、
「ほとんど何も知らなかった」
と、言った。ボストンで2回の優勝経験があり、Breaking2を経験しても、彼は若い初心者のジュニア選手のように練習に取り組んだ。
「どのようにレースの準備をすればいいか、知らなかった」
彼はマラソンでの正しいペースも、水分補給も、練習前後にするべきことなど、※何も知らなかった。
(※それでも、厳しい練習を積み重ねればマラソンで2:04:45のタイムを出せるということ=彼にはその才能がある)
Breaking2を迎えるにあたってのデシサの調子はあまりよくなかった。Breaking2本番の2か月前に行われたハーフマラソンの実験でも、62:55というタイムに終わっている。彼がBreaking2で得た知識が、日曜日のレースでどのように結果として出るか、楽しみである。Breaking2のプロジェクトチームが彼をメンバーに選んだということは、ナイキの科学者達はデシサには“素晴らしい才能がある”と、信じているからであろう。
前回王者のギルメイ・ゲブレスラシエは連覇に向けて視界良好
前回王者のギルメイ・ゲブレスラシエは、彼が昨年優勝した時と同じように、良い調整が出来たようだ。ゲブレスラシエは、彼のマラソンのキャリアでサブ2:08を3回達成しただけであるが、2017年のシーズンは4月のロンドンマラソンを2:09:57で走り、その結果は、“今後の自分のパフォーマンスには影響は無い”と考えているようだ。ロンドンマラソン前の調整も上手くいっていたが、唯一の問題は“ロンドンマラソンで世界記録を狙うハイペースに付いていって、それが結局最後の5〜7kmに影響してしまったこと”である。
「ロンドンマラソンに向けては良い調整が出来たけど、ロンドンマラソンで上手く走れなかったのはベケレと一緒に、世界記録ペースで走るペーサーに付いていって、15kmまでは※2時間切りのペースで走っていた」
と、ゲブレスラシエは話した。
(※正確には2:02:50ペース=2:54.6 / kmで15kmを通過した)
今回のレースに向けての彼の調整はとてもうまくいっている。私たちはゲブレスラシエにエヌエヌ・ランニングチームのことについて聞いてみたが、彼はエヌエヌ・ランニングチームのメンバーとは一緒に練習しておらず、エヌエヌ・ランニングチームとは、※同じエージェントのもとに形成されたチームであることを話した。
(※主にグローバル・スポーツのヨス・ヘルメンス)
レッツラン記事
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