Solinsky Stuns With USA 10000m Record At Stanford
ソリンスキーがスタンフォード大学で10000mの全米記録を樹立
By David Monti ©2010 Race Results Weekly, all rights reserved
2010年5月01日
©2010 FloTrack / FloSports
パロ・アルト ― メブ・ケフレジギの持つ10000mの全米記録27:13.98を破るために、ゲーレン・ラップはここペイトン・ジョーダン・カーディナル招待にやってきた。ケフレジギの記録は9年間誰にも破るられていなかったが、2人のケニア人ペーサーと強力なライバル選手がラップを駆り立てたこともあり、ラップはこのレースで27:10.74の自己新記録を記録することができた。
しかし、予想もしていなかった展開が。ラップは新しい全米記録保持者になることが出来なかったのだ。しかも、ラップはこのレースを4位に終わった。2人のケニア人、ダニエル・サレルとサム・チェランガに破れてしまい、そして、これまで1回も10000mを走ったことがなかった1人のアメリカ人選手に破れた。その選手の名前は、クリス・ソリンスキーである。
ソリンスキーは25歳(当時)。2008年の北京オリンピック全米選考会の5000mで5位に終わり、オリンピック代表入りを逃して落胆していた彼は、ここで素晴らしい10000mのデビューを果たした。26:59.60を記録し、アメリカ人としては初めて27:00を切った選手となり、非アフリカ系の選手として※歴代で1番速い選手となった。
(※この翌年、ゲーレン・ラップがソリンスキーの全米記録を更新することとなる)
「ジョークのつもりで、コーチのジェリー・シューマッカーに“26:55〜28:00の間でゴールするよ”って話していたんだ。10000mは1度も走ったことがなかったから、僕にとってはこれは初めてのレースだった」
レース後のインタビューでソリンスキーはこのように語った。しかし、ソリンスキーは前半5000mを13:32.2で通過した6人の先頭集団で走っており、64秒前後でラップタイムを刻んでいた。ラップのコーチであるアルベルト・サラザールからペースに関する指示を受けていた2人のペーサー(マシュー・キソリオと※サイモン・ディラング)に引っ張られ、集団は5人で形成された。
(※日本大学に在籍していたサイモン・ディラングとは別人)
ラップ、ソリンスキー、サレル、チェランガ、そしてカナダ人のサイモン・バイル。最後のペーサーが抜けた後、ラップが先頭を走り、ケフレジギの全米記録からはかすかに遅れたペースで走っていた。
©2010 Photo Run
「数秒遅れているだけだ!」
と、サラザールがラップに叫んでいた。
残り1000mを切ったところで、ソリンスキーが先頭に出た。白い膝丈の靴下を履き、リラックスしているようなフォームで走っていたソリンスキーは、ラスト800〜400mまでを60.1で走り、2番手とのリードを広げる。
「残り1000mから900mぐらいで、シューマッカーを見たら“行け!”という合図をしていた」
ソリンスキーは、こう続けた。
「彼がそういう合図をくれたので、調子も良かったし自分の力を試したくなった。27:00切りが出来るかどうか、試そうと思った」
©2010 Photo Run
観客が見守る中、ソリンスキーは最後の1周を57.1秒で走った。27:00切りをするには十分な速さである。若干19歳の※サレルもまた、このレースが10000mのデビュー戦だったが、彼も27:07.85で2位という素晴らしい結果を残した。
(※ダニエル・サレルは近年はロードに活路を見出し、アメリカのB.A.Aハーフを2015〜2017年にかけて3連覇するなどしている。2017年のB.A.Aハーフの2位はオレゴンプロジェクトの大迫傑)
チェランガは27:08.39のタイムで、自らが持つ全米大学記録を更新した。4位だったラップの後ろは、サイモン・バイルが5位で27:23.63のカナダ新記録を樹立。11人の選手が28:00切りを達成し、上位8人の選手全てが自己記録を更新した。多くの選手の顔には笑顔が見られたが、ソリンスキーは自分が何をやり遂げたのかを理解するのにしばらく時間がかかっている様子だった。
「言葉に出来ないよ。わからない。自分がどんな走りをしたかまだ理解できない。だって、“ゲーレンが記録を更新するだろう”と聞かされながら、このレースにやってきたんだ。レースに参加して、速いペースで走ってみたかった、それだけなんだ」
この偉業にも関わらず、ソリンスキーは、
「10000mへの転向は考えていない」
と語った。
「チームメイトには“27:20で走れればもう10000mの選手だ”と言われた。もし走れなければ、まだ5000mの選手だ。ただ少し試しただけなんだ」
ソリンスキーと抱き合うサイモン・バイル ©2010 Photo Run
ソリンスキーと一緒に練習をしているバイルは、カナダ新記録を出したことに関して満足の様子だった。元々のカナダ記録は、2001年のジェフ・シーブラーの27:36.01だった。ケフレジギが全米新記録を出した時と同じレースだった。
「“残り10周で力尽きてしまうだろう”と考えた。でも予定では、いけるところまで耐えてついていくことだった。自分に残されたのは“カナダ記録を出したい”という強い想いだけだった」
バイルは、ソリンスキーは10000mの選手であるかとうかということにすいて、冗談っぽく否定した。
「ソリンスキーはここ2週間ずっと、10000mの選手ということからは目を背けたいって言っていたよ」
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1 Chris Solinsky Nike/Kimbia 26:59.60 全米新記録 2 Daniel Salel Kenya 27:07.85 自己新記録 3 Sam Chelanga Liberty 27:08.39 全米学生新 4 Galen Rupp Nike 27:10.74 自己新記録 5 Simon Bairu Nike/Kimbia 27:23.63 カナダ新記録 6 Chris Thompson Otc 27:29.61 自己新記録 7 Tim Nelson Nike/Kimbia 27:31.56 自己新記録 8 Robert Curtis Reebok 27:33.38 自己新記録 9 竹澤 健介 ヱスビー食品 27:55.02 10 Carlos Romero Mexico 27:57.52 11 真壁 剛 カネボウ 27:57.53 12 Scott Bauhs Adidas 28:03.99 13 Brent Vaughn Nike/Kimbia 28:05.33 14 Boaz Cheboiywo Kimbia 28:06.60 15 Brett Gotcher Adidas 28:09.21 16 Chris Barnicle New Mexico 28:10.59 17 Andy Vernon Adidas 28:11.43 18 Shawn Forrest Nike 28:12.48 19 Jason Hartmann Nike/Kimbia 28:25.99 20 Patrick Smyth Nike 28:33.14 21 David Jankowski Zap Fitness 28:34.27 22 Jeremy Johnson Brooks Team 28:37.84 23 Brian Medigovich Unattached 28:40.54 24 Josh Moen Team Usa Mn/Strands 28:43.27 -- Simon Ndarangu Kenya DNF -- Anthony Famiglietti Saucony DNF -- Mathew Kisorio Kenya DNF -- Alistair Cragg adidas DNF -- Sean Quigley Puma/Kimbia DNF -- Mark Kenneally Unattached DNF
【先頭のラップ】
① 62.8 ② 2:12(69.5)③ 3:19(66.5)④ 4:24(65.6)
⑤ 2000m:5:30(65.3)
⑥ 6:35(66.4)⑦ 7:41(65.9)
⑧ 8:45(63.9)⑨ 9:49(64.5)
⑩ 4000m:10:55(65.4)
⑪ 11:58(63.1)⑫ 13:02(63.9)
⑬ 5000m:13:36(65.0)
⑭ 15:11(65.3)
⑮ 6000m:16:17(66.0)
⑯ 17:24(66.6)⑰ 18:28(63.8)
⑱ 19:33(65.0)⑲ 20:39(65.9)
⑳ 8000m:21:44(65.6)
21 22:50(66.0)22 23:56(65.6)
23 25:02(65.4、ラスト900mからソリンスキーが先頭に立つ)
24 26:02(60.1)25 26:59.60(57.1)
ラスト1000m2:29、後半5000m13:23
(補足:ソリンスキーは現役時代の後半から選手の指導に携わるようになり、2012〜14年にはオレゴン州のポートランド大学でボランティアコーチとして、2014年の8月からバージニア州のウィリアム・アンド・メアリー大学で中長距離部門のアシスタントコーチとして指導を始めた。その時、ソリンスキーは長らくハムストリングスやアキレス腱の故障に悩まされおり、2016年の春に現役引退を決めた。
その後2016年の9月に、正式にウィリアム・アンド・メアリー大学で中長距離部門のヘッドコーチに就任したが、2017年の7月よりフロリダ大学の長距離部門のアシスタントコーチに就任した。フロリダ大学は、2016年、2017年と全米大学屋外選手権 (NCAA DI Outdoor Track & Field Championships)の男子総合優勝を達成しており、各種目にレベルの高い選手を揃える。(フロリダ大には日本のサニブラウン・アブデル・ハキームが在籍していた)
レッツラン記事
http://www.letsrun.com/2010/solinsky0502.php
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