©2017 K. Nakajima
シカゴ – エチオピアのティルネッシュ・ディババは素晴らしいキャリアの中で、3つのオリンピック金メダルを含む12の世界タイトルを獲得し、彼女のキャリアに新たなタイトルを加えた。彼女はシカゴマラソンの長い歴史上で2番目に速い2:18:31で、今回のシカゴマラソンで優勝し、マラソンの転向してから3戦目でマラソン初勝利を手にした。
ケニアのブリギッド・コスゲイは、2:20:22(それまでの自己記録は2:24:45)の自己新で2位に入った。4月のボストンマラソンで2:23:00の初マラソン全米最高記録でマラソンデビューを果たしたアメリカのジョーダン・ハセイは、2回目のマラソンにして2:20:57の全米歴代2位の記録で3位に入り、前回のボストンマラソンからパフォーマンスをさらに上げた。
これは、女子マラソン全米歴代2位の記録にして、アメリカの女子選手がアメリカのマラソンで記録した※最速の記録である。ハセイのこの2分03秒の大幅な自己新は、ハセイが中間地点を69:13で通過(先頭のディババは69:10で通過)したことで、その前半の貯金を生かした価値のある記録となった。
(※それまでのアメリカのマラソンでのアメリカ人女子の最高記録はジョーン・サミュエルソンが1985年のシカゴマラソンで記録した2:21:21)
レース展開
23km手前でのディババのジグザグ走法
ディババの勝利は、ハイペースのレースで価値のあるものであった。彼女は最初の5kmを16:09(2:16:09ペース)で入って、69:10で通過した中間地点までは5人の集団を形成していた。そのすぐ後、ディババはコスゲイとの一騎打ちとなったが、※ジグザグ走法に打って出た。それから2人の並走は続いたが、ディババが20マイル(32km)地点で、その1マイルを5:15で走りコスゲイを振り切り、そこから独走を築いたが、その後ディババはゴールまではペースを落とした。
ディババの勝利への見所は、中間地点を5人で通過した先頭集団の選手たちがその後、ポジティブラップになるであろう展開で“どれだけ粘れるか”ということだった。このレースの上位3人はディババが69:10 – 69:21、コスゲイが69:10 – 70:12、ハセイが69:13 – 71:44とポジティブラップのなかで粘ったが、この前半のハイペースは、前回、前々回王者で、シカゴマラソンの3連覇を狙ったフローレンス・キプラガトをその後、途中棄権に追い込んだ。2:28:05の5位に入ったバレンタイン・キプケテルにとっては69:12 – 78:53で、後半は厳しいレースとなった。
その中でハセイに関しては、後半にかけてペースを落としていたが、彼女は40kmを過ぎてから“サブ2:21が可能である”という光 – モチベーションを見出していた。
ハセイのゴール前のラストスパート
ハセイは40kmを通過した時点で2:21:05ペースで走っていたが、彼女はそこからラストスパートをかけてスピードを上げ、ボストンマラソンで記録した2:23:00の記録を大幅に更新する、サブ2:21を達成する2:20:57のゴールタイムを見て大きく喜んだ。渾身のラストスパートによるフィニッシュの直後、ハセイは地面に倒れ込んだ – 明らかに彼女はサブ2:21を手に入れるため最後の最後で頑張ったのである。
ディババは史上最高の選手の地位を固めつつある:トラックでもそうであったように彼女はマラソンで軌道に乗っている
彼女がマラソンに転向する前に、ディババはすでに12個の世界タイトルと5000mの世界記録を持っていたことから、ディババは“史上最高の女子トラック長距離選手の地位を築いた”と言える。現在、彼女はマラソンで非常に良い成績を残していることもあり、“史上最高の女子トラック長距離選手から、史上最高の女子マラソン選手”になりつつある。
ディババは現在までに3回のマラソンを経験し、2014年のロンドンマラソンで2:20:35のデビューを果たした。今年は2:17:56(ロンドン)と2:18:31(シカゴ)でマラソンを走った。それはとても印象的である。 今までに女子マラソンでは22人の選手がサブ2:20を達成した。そのうちの6人だけがサブ2:20を2回以上達成し、ディババは、ポーラ・ラドクリフが2002年のロンドンマラソンとシカゴマラソンにおいて1年で2回のサブ2:20を達成して以来、15年ぶりに1年で2回のサブ2:20を達成した。
【女子マラソン選手のサブ2:20達成回数のランキング】
①ポーラ・ラドクリフ(イギリス、4回)
②キャサリン・ヌデレバ(ケニア、3回)
②メアリー・ケイタニー(ケニア、3回)
④ティルネッシュ・ディババ(エチオピア、2回)
④リタ・ジェプトゥー(ケニア、2回)
④マレ・ディババ(エチオピア、2回)
ディババのゴール前、圧倒的な勝利を収める
レースの序盤からディババは明らかにハイペースでレースを進めていて、レース後にそのことについて説明した。
「今日のレースでは私の相手がいなくて、誰とも競り合っていない」
ディババは、通訳のサブリナ・ヨハネスにそう話した。
「私は自己新記録を目指すだけだった」
彼女はまた、“マラソンを楽しんでいる”と言った。マラソンは彼女のこれからのメインイベントになるであろう。そして、
「マラソンを経験してみたところ、私にとっては5000mや10000mよりもイージーかもしれない」
と、ディババは通訳を通じて話した。
ディババの次はレースはどこになるだろうか? 彼女は、自己記録をさらに更新したいし、そして幸いにもそうなる事ならば、
「ペーサーを使って世界記録に挑戦する」
と、話した。 それは、来年のロンドンマラソンで実現する可能性がある。 我々は、ディババとメアリー・ケイタニーがポーラ・ラドクリフの世界記録の2:15:25に挑戦すれば、かなり興味深いレースになると思う。
ジョーダン・ハセイの実力は本物:私たちが知る限りでアメリカナンバーワンのマラソン選手
ジョーダン・ハセイはこれまで2回マラソンを走り、2:23:00よりも良い記録を残し、WMMのマラソンで2回もトップ3に入っている。2017年の始めに、ハセイが“フラットコースのマラソンを2:23で走り、WMMのマラソンでトップ3に入るだろう”と言ったら、それはタイムについても順位についても、かなり大胆な予想にしか思えなかった。なぜなら、ハセイが高校と大学のスター選手だった時でさえも、彼女は1度もアメリカ代表のユニフォームを着たことがなかったからだ。
ハセイにとって1番の種目は“マラソン”だというのは明らかだろう。色んな意味で、ハセイはアメリカのポーラ・ラドクリフのような存在だ。学生時代に素晴らしい成績を残したものの、その後それよりも良い成績を残せずにいた。しかし、彼女はマラソンに自分の居場所を見つけた。トラックよりもいいパフォーマンスができる種目が、マラソンだった。
Embed from Getty Imagesハセイは、“今年マラソンに転向した時には、こんなにも早くに結果が出ることは予想もしていなかった”と、いう。しかし、彼女が自分に適性のある種目を見つけたのは明らかだ。
「“マラソンでいい選手になりたい”とずっと思ってきた。だから、若くしてマラソンに転向できたのは嬉しい。“マラソンが単純に好き”、そう自分に言い聞かせてきた。“私は素晴らしいマラソン選手、マラソンは私のための競技、これが私の好きなこと”ってね。マラソンに向けての練習も大好きだし、これは私のための種目。人間というのは、何かしらの才能が与えられているものよ」
ロンドン世界選手権で銅メダルを獲得したエイミー・クラッグには悪いが、ハセイが今のところアメリカでナンバーワンのマラソン選手である。クラッグの自己記録は2:27:03(信じられないかもしれないが、彼女のマラソンデビュー戦での記録)で、ロンドン世界選手権での銅メダル以外でのメジャーな大会での1番良い成績は、2014年のシカゴマラソンの4位である。
今日のハイペースのレースを走るのには勇気が必要だったが、ハイペースで走った事が最終的に報われた
ディババがレース序盤でペースを上げたとき、ハセイは、とっさの選択を強いられた。
“先頭集団についていくか、自分のペースと同じ男子の準エリート選手がいることを願って自分のペースで走り続けるか”
彼女はディババについていくと決めた。
「先導車のゴール予測タイムの表示が2:16〜2:18の間を表示している(ハセイにとってはかなりのハイペース)のを見るのが怖かったけど、でも今日は調子も良かったから、自分の可能性にかけたくなった」
と、ハセイは語った。また、サラザールは次のように語った。
「先頭集団に早い段階からついていったのを見てとても心配した。元々は、第2集団で走って、3位狙いで走る。前の2人がやりあって、どちらかが下がってきたところで、それを吸収して2位を狙う、これが私の考えだった」
しかし、前にいたのはサラザールが予想した2人の選手、ディババとフローレンス・キプラガトだけではなかった。ブリギット・コスゲイとバレンタイン・キプテケルもいた。この人数の集団で、ハセイは難しい選択を迫られた。
「もしハセイが、後ろに下がれば、前に人を置いて走る事での“風よけ”の効果を失ってしまい、ペースを落としたのに、むしろ苦しむ事になりかねない」
サラザールはそう言った。
「それは本当に“紙一重”の判断だ」
しかし、ハセイは今日のレースで、マラソン選手としての才能をみせた。(最初から)ハイペースでも(途中から)マイペースで走れる、ということに関しても。
中間地点手前の女子の先頭集団。ディババがペースを上げてハセイはマイペースで走る事を選択した
「ハセイが中間地点の手前で、先頭の2人についていけなくて順位を下げた時、“もっと粘れ!”と思った。でも差はそこまで開いてなかった(まだ余裕はあったようにみえた)から、“ハセイの調子は良い、でも前が速すぎるから彼女はマイペースで走ると決めたんだ”、と思ったよ。だから、これ以上の心配をすることを私はやめたんだ」
【シカゴマラソン女子上位30位までの結果】
1 Dibaba, Tirunesh (ETH) 2:18:31
2 Kosgei, Brigid (KEN) 2:20:22
3 Hasay, Jordan (USA) Beaverton, OR 2:20:57 自己新、全米歴代2位
4 Perez, Madai (MEX) 2:24:44
5 Kipketer, Valentine (KEN) 2:28:05
6 Weightman, Lisa (AUS) 2:28:45
7 Krifchin, Maegan (USA) Atlanta, GA 2:33:46
8 Gray, Alia (USA) Boulder, CO 2:34:25
9 Ward, Taylor (USA) Ogden, UT 2:35:27
10 Wade, Becky (USA) Denver, CO 2:35:46
11 McMahan, Dot (USA) Rochester Hills, MI 2:37:08
12 Reed, Kimi (USA) Springfield, MO 2:38:19
13 Crouch, Sarah (USA) Phoenix, AZ 2:38:27
14 Draskau Petersson, Jessica (DEN) 2:38:31
15 Vergara-Aleshire, Christina (USA) Henderson, NV 2:38:33
16 Heckert, Kristen (USA) Bolingbrook, IL 2:38:54
17 Kohnen, Julia (USA) Florissant, MO 2:39:11
18 Njeim, Chirine (LIB) Chicago, IL 2:39:21
19 Herrick, Danna (USA) Rochester Hills, MI 2:40:02
20 Spencer, Emma (USA) Cambridge, MA 2:40:48
21 Andre, Stephanie (USA) Bixby, OK 2:41:50
22 Moran, Brittany (CAN) Etobicoke, ON 2:41:58
23 De Hueck, Jennifer (USA) Rapid City, SD 2:42:33
24 Schneider, Alyssa (USA) Bartlett, IL 2:42:50
25 Foster, Megan (USA) New York, NY 2:43:44
26 Chrisman, Caitlin (USA) Mountain View, CA 2:43:57
27 Perez, Anita (USA) San Antonio, TX 2:44:04
28 Lilienthal, Michelle (USA) Portland, ME 2:44:05
29 Enman, Kasie (USA) Huntington, VT 2:44:16
30 Weitz, Erica (USA) Orlando, FL 2:45:24
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