オリンピック1500mメダリスト、 ニック・ウィリスへのインタビューその1:ロンドン世界選手権に向けた短期間での調整、1500m / 1マイルでの戦法や自己分析について

男子1500mにおいて、長い間コンスタントに優秀な成績を残し続けている選手といえば、ケニアの※1 アスベル・キプロプ以外には、ニュージーランドのニック・ウィリスしかいないだろう。2007年以降、※2 合計8回出場した世界選手権もしくはオリンピックにおいて7回も決勝に出場しており、2008年の北京と2016年のリオのオリンピックでメダルを獲得し、2016年のポートランドでの世界室内選手権でも銅メダルを獲得した。

(※1  2018年8月現在、キプロプはドーピング疑惑の渦中にありレースに出場していない。キプロプは弁護士を雇う金銭的余裕がなく、自身の潔白を公的に証明できていない)

(※2 2007, 2008, 2011, 2012, 2013, 2015, 2016, 2017年)

2015年、彼が32歳の時に出した1500mの自己記録の3:29.66は、ファラーを除いたアフリカ系以外の選手の中では※歴代で3番目に速い記録である。最近では、シーズン途中で痛めたシンスプリントに苦戦しながらも、ロンドン世界選手権出場にこぎ着けた。

(※スペインのFermín Cachoの3:28.95、フランスのMehdi Baalaの3:28.98に次いで3番目)

シンスプリントの状態はかなり悪く、彼は通常の練習に加えてプールでのクロストレーニングを数日間しなければならなかった。5月には10日間の完全休養を経て、彼はシーズンを1からやり直さなければならない状況だった。彼はそこから、たった10週間のトレーニングと、7週間のポイント練習のボリュームだけで、ロンドン世界選手権での決勝進出を果たし、34歳にして8位入賞を成し遂げた。

 

私(レッツランのジョナサン・ガルト)は8月28日の午後に45分間、電話でウィリスと話すことが出来て、色んなトピックについて話し合った。ロンドン世界選手権に向けての短期間での準備、ジェニー・シンプソンの素晴らしさや、コンディションを維持する事の重要さ、最適なトレーニング、タウフィク・マクルフィが不在だった世界選手権、そしてアスベル・キプロプの5000mのポテンシャルについて。

インタビューはかなり長いので、3回に分けて掲載する。3回ともに読むと長くなるが、全て読むことをお勧めする。ウィリスは素晴らしい洞察力の持ち主である。それでは、楽しんで。

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―ロンドン世界選手権を走り終えたばかりですね。短いトレーニング期間だったにも関わらず決勝進出を果たしました。お伺いしたいのは、たった7週間の間で、走らないトレーニング (プールでジムでのトレーニング…etc)から、世界選手権の決勝進出に至るまで、どのようにトレーニングを変えていったのですか?

「少し早く、室内シーズンに向けた準備を整えているような感じで、今回は“短いシーズン”というように捉えていたよ。いつも通りのやり方をするだけだ。最初に正しいトレーニングを行い、そしてレースに出る。そうじゃないと、点と点が繋がらなくなる。だから、自分の身体が適度なトレーニングに耐えられるように、ゆっくりと着実に作り直していって再構築する事にした」

「その後に、いくらかロングランを取り入れて、それが出来たらある程度のペース走が出来るようになって、そしてトラックでのポイント練習に移る。いつもと違った事と言えば、通常よりも数週間早く走り出した事かな。なぜなら、ロンドン世界選手権の参加標準記録を出していなかったから、それを達成する事に集中して早めに走り出し、故障からの復帰の1レース目でそれを達成したかった」

「今振り返ってみると、7月9日の※1 ブリュッセル・グランプリか、7月16日にイタリアで行われた※2 パドバ競技会でロンドン世界選手権の参加標準記録 (3:36.00)を切っていて、モナコDLの※3 位置付けを変更出来たら、もうあと数週間は良い調整が出来たのでは、と思うよ。でも、もともとヨーロッパで3戦すれば参加標準は切れると思っていたし、結局は※4 モナコDLで出場権を得た。理想的なスケジュールではなかったが、今思い返せば、その結果には満足している」

(※1 3:37.69で優勝するも参加標準突破とならなかった)

(※2 3:36.95の4位で惜しくも参加標準突破とならなかった)

(※3 標準記録狙いのレース→欠場してトレーニングorモナコで世界選手権のリハーサル)

(※4 終始後方でレースを進め、標準切りを狙うレースぶり。3:34.74の10位で参加標準突破)

―準備期間がいつもより短いということは、精神的なストレスなど感じましたか?

「痛みが無くなったのが、すごく嬉しかった。3ヶ月間ずっと痛みと闘ってきた。それでも2日間走って、トラックでポイント練習をして、ひどい痛みを経験した。5、6日間はすぐにプールに飛び込んだよ。痛いまま走るというのは、まったく楽しい経験ではないね。今は痛みの無い健康体に戻れて嬉しいし、それを乗り越える事が出来て自信に繋がった」

「最初に標準記録の突破を狙いにいったときは、自分の中でとてもフラストレーションが溜まっていた。ブリュッセルもイタリアのパドバも、ラスト200mで自分の得意とするフィニッシュが出来なくて、レース後はとても疲労が溜まっていた。屈辱的だった。自分はもう1500mで戦える場所にいないと思い知らされたよ」

「それまでは、結構自信を持っていつもレースに臨んでいたし、だいたいの事は、うまくいっていた。普通は、準備が整うまではレースは走らないのだけど、まだ万全ではない状態で走った焦りが、裏目に出てしまった」

―ロンドン世界選手権の男子1500m決勝のレースの直後に、ミックスゾーンで※ケニア勢のチームワークについて少し話しましたね。これは、ケニア勢が何年もの間やろうとしてきたことなのか、それとも、2人のケニア人がもともとトレーニングパートナーだからこそ出来た事なのか、どう思いますか?

(※優勝したマナンゴイと、2位のチェリヨットが300mを通過したあたりから2人で果敢にハイペースで先頭を引っ張り、そのままワンツーフィニッシュをした)

「2人がトレーニングパートナーだから、あの戦法が出来た、という事ではないと思っていて、まれなケースだと考えている。今シーズンは、マナンゴイチェリヨットの2人と、他の選手の間には明らかな差があった」

「リオオリンピックの1500m決勝(レース動画)を見てみると、出場した選手全員が3:30を切れる状態だったし、メダル獲得に向けてみんな同じぐらい調子が良かった。もし誰かが犠牲になって、ペースメーカーとして前に出てたとすると、自らのメダル獲得のチャンスを危うくしていただろう」

「ロンドン世界選手権のように序盤からとばして、中盤で、ある程度の差を付ける事に成功していれば、有効な戦略だとは思う。今年はその戦略が機能したけど、それが去年だったら機能していなかっただろう。マクルフィ、セントロウィッツ、キプロプ、自分、イギデール、ケモイという※最高の状態の選手が揃っていたからね」

(※今年は男子1500mのレベルがあまり高くなかった)

―男子1500m決勝は、ロンドン世界選手権の最終日でしたが、他のレースは見ることができましたか?どのレースが面白かったですか?

「他のレースは見たり見なかったりかな。自分のレースに集中しなければならないからね。女子1500m決勝が始まる前はかなり興奮していて、実際レースも良いレースだった。800mが本職のキャスター・セメンヤが1500mに参戦して、世界記録保持者のゲンゼベ・ディババは本調子でなかったから、レースは誰が勝ってもおかしくない展開になった。だから、すごく興奮するレース展開になったよね」

「1500mに取り組んでいる競技者として、今回自分が走ったロンドン世界選手権のレースはハイライトとなった。色んな人から、何故あそこで他の選手の動きに対応しなかったのか?ってよく聞かれるんだ」

「でも、ジェニー・シンプソンレースを見れば、彼女も残り250mで対応できなかった。何故かというと、彼女は自分の限界を知っているからね。だから、彼女はそこ(残り250m)で無理をせずにゴールまで安定したペースを保って、ラストスパートを決めて彼女はメダルを獲得できた」

「だから私は、スパートのタイミングや、最後までそれをどう持続されられるかをレースで瞬時に判断できる。適切でないタイミングにスパートしたって、自分の能力以上の事は出来ない。だから、彼女の日頃の努力には拍手を送るよ」

「その一方で、オランダのシファン・ハッサンは、痺れを切らして残り600mから前に出たが、最後の50mで失速してしまった。彼女の今シーズンを見れば、800mを1:56で走ったが、彼女はロンドン世界選手権では5000mで銅メダルを獲った」

「彼女のそのスピードと筋持久力を持ち合わせれば、彼女は1500mでもメダルを獲れたはずだが、それが出来なかった。特に1500mのレースでは、自分のエネルギー消費について、自分でコントロールしなければならないという事さ。1500mのどの地点でエネルギーを出す=出力するかというのを、自分で判断するんだ」

―もしあなたがジェニーだったら、キピエゴンとハッサンが2人前に出てスパートしたのが残り300m。ここですぐに、この2人の動きに対応しないという選択は、アスリートとしては難しい判断ですか?この2人に付いていかなかったら、この2人にメダルを獲られてしまう!と思っていても、その後冷静に自分のペースで走れますか?

「僕にとっては全然難しくないよ。実際には、いきなりギアを変えてトップスピードに持っていく技術は私にはない。私が言った、スピードをコントロールするというのは、頭の中で意識して決められる事ではなく、自分の中で反復して染み付いた感覚の事をいう。自分の身体は、突然ペースを上げられる身体ではない」

「いつも練習では、若い選手にペースメーカーをしてもらうが、彼らは最初から遅いペースでいきたくない思って勢いよくスタートをする。でも、実際には私は、スタート直後の急なスピードアップに反応できないんだ。自分の身体は、徐々にスピードを上げるように作り上げられているから」

「その感覚が自然に自分の中に築かれている。そういうスピード感覚が、レースで良く機能する時もあれば、あまり機能しない時もある。時にはペースに反応できず、※ポケットされてしまうこともあるからね。でもジェニーを見ていると、彼女はそのような戦法で急なスパートには対応できないけど、最後の最後で巻き返して、それで成功している」

(※レース中に集団の内側に閉じ込められて、外に出れない状況になる事)

「私がレースで、そういうレースが出来ると、自分のキャリアの中で築いてきた感覚が証明された感じだし、個人的に満足感を感じている」

 

インタビューその2その3に続く。

 

レッツラン記事

http://www.letsrun.com/news/2017/09/nick-willis-qa-part-abbreviated-buildup-worlds-key-longevity-brilliance-jenny-simpson/

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