ニック・ウィリスが3:51.3で4度目のタイトル、ジェニー・シンプソンが4:16.6で6回目のタイトルを獲得:2017年ニューバランス5番街通りマイル
2017年9月10日
男子レース動画
2017年のニューバランス5番街マイルを見ていた人の中には“デジャブ”を体験しているのではないか、と思った人もいてもおかしくない。なんといっても、ここ5年間で、ニック・ウィリスとジェニー・シンプソンが優勝したのは3度目であったからである。
2013年と2015年のレースと同様に、ウィリスとシンプソンがゴールテープを最初に切る選手となった。ウィリスは3:51.3でこのレース4度目の優勝、シンプソンは27年前にパティス・プラマーが出した大会記録と同タイムの4:16.6のタイムで、このレースにおいて5連勝 (彼女は毎年このレースに出場しているわけではない)、通算6度目の優勝を果たした。これまで男子で4勝したのはスペインのアイザック・ビシオサのみ (1995年~1998年の4連覇)、ウィリスは優勝回数でビシオサと並んだ。シンプソンの6勝目は女子での最高記録である。
©2017 Photo Run / LetsRun.com
まず最初に男子のレースが行われ、とても白熱するレースとなった。序盤の争いは、中間地点の速さを競い※“$1000のボーナス”獲得を目指し2人の選手が飛び出した。オレゴン・プロジェクトのクレイグ・エンジェルスと、800mのスペシャリストであるブルックスビースツのドリュー・ウィンドルが激しい争いをみせた。2人は後続からリードを広げ、エンジェルスがウィンドルを僅差で交わして (動画で確認すると中間地点を前にしてスパートをしているのがよくわかる)中間地点を約1:58で通過 (ウィンドルは結局レースで4:00を切れなかった)
(※中間地点でトップ通過した選手が4:00を切れば$1000のボーナス獲得となる)
©2017 Photo Run / LetsRun.com
その後、ウィンドルが遅れ出したので、エンジェルスは15mほど集団を引き離していたが、1200mぐらいで16人もの後方集団に吸収された。このレースの4日前の水曜日に開催された“ホカオネオネ・ロングアイランド・マイル”で優勝したクリス・オヘアが、残り200mほどでラストスパートをかけてリードしていたが、ロングアイランド・マイルでオヘアに競り負けて2位だったウィリスがすかさずその動きに反応した。
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「4日前のロングアイランド・マイルでクリスには離されてしまった。だから、彼の動きに付いていく以外の選択肢はなかった。クリスを逃がすわけにはいかない」
ウィリスはレース後にNBCのインタビューにそのように語った。
ウィリスはオヘアの動きに反応し、その後自分の持ち味を発揮した。ゴール直前には後方に差をつけ、そのまま先頭でフィニッシュテープを切った。オヘアは3:52.0で2位に入り、4日前のレースと順位が逆になった。木曜日に開催されたミネソタ・マイルで優勝した、ベン・ブランケンシップが3:52.3で3位だった。34歳のウィリスは“今日の優勝は自らのこれまでの経験が活かされている”と語った。
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「思ったよりもゴールまで速くたどり着いた。(クリスがスパートしたのを見てそれに対応することとなったが)前でやり合っているのを冷静に後ろからトップスピードで抜き去っていればもっといいタイムでゴール出来たと思う。とはいえ、今日は自分のこれまでの長い経験を信じて走ったよ」
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女子の部ではシンプソンも、終始先頭近くを走ってはいたものの、ラストスパートのタイミングをうかがうようなレース展開に持ち込んだ。シンプソンはイギリスの22歳のジェシカ・ジャッドと、中間地点のボーナス賞金をかけて序盤から競ったが、ジャッドが2:10のタイムで中間地点を通過し賞金を手にした。しかし、ジャッドは男子のレースのように後続に飲み込まれるわけでもなく、残り400mでもジャッドはまだ先頭をキープしていた。
©2017 Photo Run / LetsRun.com
しかし、シンプソンも虎視眈々とスパートのタイミングをうかがっており、残り200mでスパートを仕掛けた。ジャッドと、イギリスのローラ・ウェイトマンとエイリッシュ・マッコーガンがシンプソンのすぐ後ろに付いた。アメリカのブレンダ・マルティネスが差を詰めようと、少し遅れてスパートするも、残り100mでは誰もシンプソンには追いつけず、彼女は自らの優勝を喜ぶ様子も無く、あっさりと1位でゴールテープを切った。しかし、シンプソンの記録は、大会記録と同タイムだった。ウェイトマンが2位を死守し、ジャッドが3位に入り、6人の選手が※4:20を切った。
(※コースは約9mの下り)。
©2017 Photo Run / LetsRun.com
「あまり早い段階からのスパートはしないけど、ゴールが見えた段階でギアを入れ替えたら後はゴールに向かって進むだけ」
シンプソンはレース後、NBCのインタビューにそう話した。
編集後記:元々は、この記事でシンプソンが大会記録を更新したと書いていたが、シンプソンのゴールタイムは4:16.65で、これまでの大会記録がプラマーの4:16.68だった。しかし、NYRRのプロフェッショナル・アスリート・コンサルタントのデイビット・モンティが連絡をくれて、シンプソンの公式記録が4:16.6に訂正され、プラマーの大会記録とのタイ記録になったと教えてくれた (ここ何年間でコースが微妙に変更されている)。他の選手のタイムも、NBCで放送されたタイムから調整されている。
男子結果
©2017 David Monti (Race Results Weekly)
女子結果
©2017 David Monti (Race Results Weekly)
“経験”も大切であるが“才能”も重要である
ウィリスとシンプソンは、過去にこのレースで何度も優勝をしている。よって、この2人はこのコースの事を誰よりも熟知しているだろうし、スパートのタイミングについてもよく知っている。しかし、そのような経験の他に、大切なものは何か?何よりも、他の選手よりも速い選手であるか、ということである。シンプソンは1500mという種目において、誰から見ても明らかに優秀な選手である。
この5番街マイルのレースでは通常アフリカ勢は出場しないので、アフリカ勢の選手がレースに出てこなければ、シンプソンが出場する1500m / 1マイルのレースでは本命の選手となるだろう。シンプソンが1500mの国際大会で※4つのメダルを獲得している事や、それ以外の種目 (3000mSCや5000m)でメダルが1つも獲得していない事を考慮すると、シンプソンは記録だけみてもこのレースの優勝候補で、仮にシンプソンが過去にこのレースを走ったことが無かったとしても、今回優勝していたと思う。
(※2011年大邱世界選手権金メダル、2013年モスクワ世界選手権銀メダル、2016年リオオリンピック銅メダル、2017年ロンドン世界選手権銀メダル)
男子のレースではウィリス、オヘア、フィリップ・インゲブリクトセン、アデル・ミチャール、そしてジョニー・グレコリックという、ロンドン世界選手権のファイナリストが揃った (インゲブリクトセンとミチャールは、ロンドン世界選手権の1500m決勝で3位と4位にそれぞれ入った)。
さらにジェイク・ワイトマンは今年ダイヤモンドリーグで優勝している。しかし、この中ではウィリスのキャリアが突出しているし、彼はスネの故障をしてから今年の7月までレベルの高いレースには出場していなかったので、故障明けからの期間を考えると今シーズンで今の状態が一番良い。今回の場合、彼がこのコースを熟知しているという事も有利に働くが、彼がそもそも素晴らしい選手だという事も、勝利の重要な要素となる。
©2017 Photo Run / LetsRun.com
ウィリスとシンプソンは、今回のレースでは1番戦略的かつ無駄の無い安定した走りをみせた。事実、最近レッツランがしたインタビューで、ウィリスはシンプソンの戦略性の高さを賞賛しており、シンプソンはこのレース前の公式インタビューでウィリスに感謝の意を述べていた。
「ニックは本当に尊敬している選手です。私のレースについて、彼から褒めてもらえるなんて、これ以上の事はないわ。彼は、レースに勝つのに必要な事を、誰よりも知っているわ」
シンプソンはこう語っていた。2017年のニューバランス5番街マイルの優勝者という事以上に、2人には共通点がたくさんあるということだ。
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モハメド・ファラーが4連覇を達成:グレートノースラン
2017年9月10日
男子結果
MO FARAH | 1 | 1:00:06 |
JAKE ROBERTSON | 2 | 1:00:12 |
FEYISA LILESA | 3 | 1:01:32 |
ZANE ROBERTSON | 4 | 1:01:42 |
HIROYUKI YAMAMOTO | 5 | 1:02:03 |
DATHAN RITZENHEIN | 6 | 1:02:49 |
DEWI GRIFFITHS | 7 | 1:02:53 |
BERNARD LAGAT | 8 | 1:03:02 |
TSEGAI TEWELDE | 9 | 1:03:14 |
KOEN NAERT | 10 | 1:03:29 |
女子結果
MARY KEITANY | 1 | 1:05:59 |
VIVIAN CHERUIYOT | 2 | 1:07:44 |
CAROLINE CHEPKOECH KIPKIRUI | 3 | 1:09:52 |
MAGDALYNE MASAI | 4 | 1:10:39 |
BETSY SAINA | 5 | 1:11:25 |
GEMMA STEEL | 6 | 1:11:32 |
LILY PARTRIDGE | 7 | 1:12:10 |
ALYSON DIXON | 8 | 1:12:29 |
CARYL JONES | 9 | 1:14:22 |
REBECCA MURRAY | 10 | 1:15:49 |
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ビレル・プラハ・グランプリ10km:ケニアのジョイシリン・ジェプコスゲイが女性で人類初の10kmロード30:00切り – 素晴らしい29:43の世界記録が誕生
2017年9月09日
レッツラン・ジャパン記事
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ジョイシリン・ジェプコスゲイがプラハで大活躍
2017年9月12日
先週、誰もが疑う余地の無い素晴らしいパフォーマンスを、ケニアの23歳のジョイシリン・ジェプコスゲイが見せて、プラハで2度目の世界記録を打ち立てた。チェコの首都で10km、15km、20km、ハーフマラソンの世界記録を更新してから5か月後に、今度は女性で人類初のロード10km30:00切りとなる29:43で走り、5km、10kmの世界記録をこの第22回プラハ・ビレルグランプリで更新してみせた。
ジェプコスゲイはトラックの10000mでは“ほとんどのその名を聞かない”と言われていたが、それは真実ではない。ジェプコスゲイは今年6月9日の、ケニア・チャンプス (その2週間後に行われるケニア選手権前の別のレース)に出場し32:47.0で3位に入った。31:50.5で優勝したのはアリス・アプロットだった。その後、アプロットはケニア代表に選出され、ロンドン世界選手権の10000mで4位に入った。
そうは言っても、ジェプコスゲイがもしトラックでもっと走っていたなら“ロンドン世界選手権で少なくとも銀メダル獲れただろう”とも考えられる。トラックでは今まで4人の選手:アルマズ・アヤナ、王軍霞、ヴィヴィアン・チェリヨット、ティルネッシュ・ディババだけが10000mにおいて29:43よりも速い記録で走っている。
さらに、ジェプコスゲイは、昨年のアフリカ選手権で31:28.28の3位、5000mはケニアで数回走っていてる (自己記録は15:40.0)。今回のレースで2位に入ったファンシー・チェムタイ (30:06)と、3位に入ったビオラ・ジェプチュンバ (30:25)はトラックでのキャリアがない。22歳のチェムタイは、今年4月にプラハでジェプコスゲイが世界記録を出したレースで、66:58で走っている。26歳のジェプチュンバは同じレースで65:22で走って世界歴代5位にランクインした。
ジェプコスゲイはたまにトラックレースに出場するが、今年の4月に彼女が世界記録を出すまでの間、彼女は世界であまり知られていなかった (彼女は去年はハーフを69:07で走っているが)。ジェプコスゲイは彼女の夫で、800m1:46の記録を持つニコラス・コエチを信じて (夫に練習を見てもらっている)、彼女の飛躍的な活躍のために日々練習を重ねた。なぜ、彼女は今まで良いランナーでなかったのか?と彼に聞いたところ、彼は多くを語らずGLOBERUNNERのパット・ブッチャーにこう言った。
「彼女は太っていて大きかった」
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不思議に思えるかもしれないが、男子の上位に入った選手のトラックでのキャリアを見ると、ケニア人とエチオピア人とで大きく対比しており、特筆すべきは、ロンドン世界選手権の10000mで26:56の5位に入っているエチオピアのメコネンが27:54で6位だった、ということである。
ちなみに、このレースの男子トップ5に入ったケニア人選手のトラックのキャリアは以下である。
- ベナード・キメリ:優勝, 27:10 – 22歳。今年の6月28日にオストラヴァで行われた10000m (ファラーが27:12優勝)で28:09.46の5位。
- マシュー・キメリ:2位, 27:11 – 19歳。オストラヴァでの10000mで27:14.43と、ファラーに競り負けて2位。 今年のケニア選手権10000mは6位 (28:23)、ケニア・チャンプス10000m優勝 (27:53)。5000mではケニアで今年13:33で走っている。
- ロネックス・キプルト:3位, 27:13 – 18歳。セントパトリック高校の高校生。ケニアジュニア選手権10000m王者 (29:05)、ケニアのエルドレッドでは5月に28:56で走っている。
- ジャストゥス・カンゴゴ:4位, 27:51 – 21歳。ハーフマラソンを今年59:31で走っており、トラックでは唯一データとして残っているのが、ナイロビで2015年に10000mを28:30.0で走った記録のみ。
- アモス・カーガット:5位, 27:53 – 25歳。トラックでは唯一データとして残っているのが、7月のイタリアでの3000mの8:08.70のみ。
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先週のベストツイート (9月7日)
「この勝利を天国のデイビッド・トーレンスに捧げる」 クリス・オヘア
ホカオネオネ・ロングアイランドマイル (デイビッド・トーレンスマイル)優勝
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先週のおさらい / ゲーレン・ラップは全力を出し切っていない
30:40 / 28:24:前半の10kmと後半の10km – ゲーレン・ラップは、先週の全米20kmロード選手権 (ファクソンロー・ニューヘイブンロードレース)でレオナルド・コリルとのスプリント勝負を制して優勝し、自身2つ目のの全米ロード選手権のタイトルを獲得した。
20kmで59:04という優勝タイムが、ハーフマラソンで62:18のペースだったという事実は、前半の10kmで様子を見ながらレースを進めたということが影響したのであ、まり気にしなくていいだろう。後半の10kmが28:24 (10km28:26がハーフ60:00ペース)というタイムで走破していることからわかるように、62分そこそこのハーフマラソンのペースでは、彼はまだまだ全力を出し切っていないと言えるだろう。
しかしながらラップのチームメイトで、オレゴンプロジェクトのジョーダン・ハセイは、後半の10kmのほうがタイムがかかっている (33:15 – 33:30)。後半の10kmのほうがやや上りであったことを考慮すると、彼女はイーブンペースで走っていたと言えるだろう。
このレースがシカゴマラソンへの調整レースであるとしたら、ハセイにとっては良くないレースであった。彼女は今回、ハーフマラソンで70:14のペースで走っていたが、ボストンマラソンでのマラソンデビューに向けて、その前に2回のハーフマラソンを走っていた時の方が調子は良かった (最初のハーフは68:40、その後のハーフで67:55)。
レッツラン記事
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