モー・ファラーの世界選手権 / オリンピックの5000m / 10000m決勝での10連勝の夢は、土曜日の夜、彼の最後の世界選手権でエチオピアのムクター・エドリスによって阻止された。エドリスの優勝記録は13:32.79、ファラーは13:33.22であった。世界選手権の決勝でどうやったらファラーを破れるか、この問いは2012年のロンドンオリンピックの時からずっとあった。そして、このレースまで誰にもその答えはわからなかった。しかし、今夜エドリスがついてやってのけたのだ。ファラーの地元で。
エドリスは、どのようにしてファラーを破ったのか?
特にこのような戦略的なレースで、どのように?
Embed from Getty Images答えはいたってシンプルだ。エドリスの走りが素晴らしかったからだ。
世界選手権の男子10000mのレースレビューで、人々は戦略や作戦について話すのが好きだが、長距離のレースにおいて勝つ選手というのは、単純に調子が良くて、優秀な選手なのだ。アルベルト・サラザールの指導のもとで走った世界選手権で彼が唯一負けたレースは、(今夜のレース以外では)2011年の大邱世界選手権の10000mだった。
ファラーがそのレースで負けたのは、“彼のレース戦略が間違っていたから”だと言われていた。“彼が早く前に出過ぎた”という人もいた。しかし、ファラーが敗れたのは、エチオピアのイブラヒム・ジェイランがラスト1周を52.8で走ったからであり、この時のファラーの作戦が間違っていたわけではない。この時、ファラーのラスト1周は53.3だった。
それは、ファラーがこれまで優勝してきた世界選手権 / オリンピックでの10000mのレースで1番速いラップタイムだった。
今夜のファラーの敗北を、イギリス国民やファラーでさえも、“あの時ああしていれば”と後悔したりチームの戦略のせいにしたりしていた。人は誰しも、物事の言い訳を探したがる。“彼が負けたのは、エドリスのパフォーマンスの方がよかったからだ”という理由は、多くの人のとっては単純すぎて理解できないのかもしれない。
エドリスはラスト1周の鐘が鳴った時点では、先頭にいなかったので、彼のラスト1周のラップタイムは52.3。BBCが報じたところによると、ファラーの世界選手権でのこれまでの勝利の中で、ここまで速いラップタイムはなかった。
ゴールタイムが近いレースと比べてみると、2013年モスクワ世界選手権での優勝タイムは13:26.98(エドリスの今夜の優勝タイムは13:32.79)。この2つのレースで、ファラーとエドリスの最後の4周のラップを見てみよう。非常によく似ているが、エドリスのラップタイムの方がはるかに速い。
5000m決勝 | ロンドン世界選手権 – エドリス | モスクワ世界選手権 – ファラー |
ラスト1600m | 3:57.6 | 3:57.7 |
3400~3800mのラップ | 63.7 | 63.18 |
3800~4200mのラップ | 62.4 | 63.82 |
4200~4600mのラップ | 58.1 | 57.31 |
ラスト1周 | 52.3(26.0 + 26.3) | 53.44 |
エドリスは、誰も予想していなかったことを成し遂げた。それは、ファラーを破るということ。それも、みんなが“ファラーが勝つだろう”と信じてやまない、駆け引きの多いレースで、彼はファラーに勝ったのだ。ファラーの自己記録は出場選手の中で誰よりも速いので、(エチオピアの選手が)速いペースに持ち込むことは実際には機能しなかったかもしれない。
ファラーは中盤にペースを落とすだろうと予想されたが、今日のエドリスは2013年のファラーより調子がいいように見えた。ファラーの調子も連覇に向けて上がってくると思われたが、34歳という年齢と10000mからの疲労により、ファラーはうまく対応できなかった。
エチオピアのチーム戦略が、ファラーの敗因?
Embed from Getty Imagesファラーはサラザールのトレーニングに参加して以来、特に5000mのレースにおいて、そんなに多くは負けていない。今回のレースまでで、彼は23回の5000mのレースで22回勝っている。彼が唯一負けた2013年プリクラシック(ユージンDL)でさえも、ファラーを破るヒントとういものを見つけ出すことができなかった。この時ファラーは体調が悪く、いつものような最終ラップでのスパートがなかった。
しかし、再考に値するレースが2015年のドーハDLの3000mだ。このレースは、今日の決勝と似ている。ケジェルチャが仕掛け、ファラーを追い越そうとした残り600m地点、ファラーは先頭を走っていた。(ケジェルチャに仕掛けられた)ファラーはケジェルチャをかわし再び先頭に立ったが、ケジェルチャのこの動きはファラーを疲労させ、ラスト1周の鐘が鳴りケジェルチャが再度仕掛けると、ファラーはこれに対応できずケジェルチャに抜かされてしまう。
ケジェルチャはこのペースを維持できず、最後に後退してしまうが、ファラーを疲労させるという点では十分な動きをしたし、同じエチオピアのハゴス・ゲブリウェトがそこからペースを上げ、残り75mでファラーを引き離して、ファラーを2位に降したのだ。
今夜のレースでも似たような展開があった。ケジェルチャがエドリスからリードする(エドリスは、2015年のドーハDLの時のゲブリウェトと同じ役回り)。この作戦は何年もの間議論されてきている。ケジェルチャがエチオピアのチームの戦略として仕掛けたのか、それとも自分が勝つための最良な方法として前に出たのか、それは定かではないが(我々は、ケジェルチャは自身の勝利のために走ったと考えている)、ファラーはエチオピア勢がチーム戦で自分を倒しに来ていると感じたいたことは確かだ。
「最後は3対1の勝負だった。彼ら(エチオピアの3人)は誰かを犠牲にしなければならない。ケジェルチャが犠牲になりメダルを逃し、エドリスは後ろについて、できるだけ力を使わずにいて、そしてラスト1周で自分を倒しにくる、それが彼らのプランだったんだ」
「アスリートとして、彼らのような存在がレースにいる時には、すべての動きに対して察知しなければならない。何度も振り返ったりしながら、彼らの動きに対して1つ1つを見るのに、たくさんエネルギーを使って、自分が正しい位置取りをしているか確かめる必要があった。そうしているうちに、ラスト1周で彼らに少し囲まれてしまった」
レース後に、ファラーはこのように語った。
ケジェルチャが終盤において、自分を犠牲にしたわけではないと考える理由は、彼は2016年ポートランド世界室内選手権の3000mのチャンピオンであり、その年には5000mを12:55で走っている。今夜、ファラーの後方、たった0.29後の4位でゴールしている。彼は優勝を狙っていたが、少しばかり判断を誤ってしまったのだ(彼は最後の200mでペースを落としてしまっている)。
ファラーは、ケジェルチャが“自分を犠牲”にするというプランがあると確信をしていた。なぜならば、ウォームアップエリアで、ケジェルチャとエドリスが話しているのを見たからだ。
「ウォームアップエリアで、彼らが話しているのを見て、何か計画していることがあるんだなって思ったんだ。でも、今夜のレースがそのプランだったのかはわからないけどね」
このように、ファラーはレース後に述べている。
ファラーは、“ラスト1周の鐘が鳴った時、ケジェルチャが、かなりスピードアップしたので前に出ることができなかった”と述べた。
「リードしようとしたけど、できなかった。十分に自分の力を出し切っていた。必要以上のことはしたくないと考えた」
周回 | ファラーのラップタイム |
1 | 62.25 |
2 | 70.58 |
3 | 71.52 |
4 | 70.90 |
5 | 72.80 |
6 | 64.82 |
7 | 66.26 |
8 | 64.32 |
9 | 62.85 |
10 | 63.34 |
11 | 62.57 |
12 | 54.24 |
ラスト1周
|
52.62 (26.28+26.34) エドリス=52.3 |
エドリスは通訳を通して、次のように語った。
エドリスとケジェルチャは、チームとしてのプランがあり、元々の計画は“ファラーの後ろで銀メダルと銅メダルを獲る”というものだった。つまり、“ファラーの最後のレースで、彼の地元のロンドンで、彼を破るのは、相当厳しいと考えていた”と。お互いのために、どちらか一方を犠牲にするプランを変えて、一緒にチームを組んで走ろうと決めた。
エドリスは通訳を通して、こう話した。
「一緒にゴールをしたら、金メダルを獲るのに苦労するだろう」
しかし、それをどのように考えればいいのか正確には分からない。通訳を通しているため、エドリスの回答は明確ではなかったからだ。
彼らのプランがどのうようなものであっても、ファラーをラストの100mで打ち負かしたということは、2011年の大邱世界選手権でのエチオピアのイブラヒム・ジェイラン以来、世界選手権 / オリンピックの5000m / 10000mの決勝では誰もできなかったことである。
“チーム戦略”についてはいくらでも語れるが、覚えておかなければならないことは、エドリスがラスト1周をラップを52.3で走ったという事実だ。それは並外れた速さのラストスパートであるし、もしエドリスが、今夜のケジェルチャのように、ラスト1周の鐘の以前で先頭を引っ張っていたら、彼はきっと勝ててなかっただろう。
【ラスト700mからのレース動画】
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