2017年ロンドン世界選手権、男子5000m決勝の準備は整った。レースの筋書きは、過去5年間のレースと、ほぼ同じになるだろう。ファラーの5000m / 10000mの2冠達成を阻止できる者はいるのか?ファラーは、すでに2012年のロンドンオリンピック、2013年のモスクワ世界選手権、2015年の北京世界選手権、そして2016年のリオオリンピックで2冠を達成しており、先週金曜日の10000m優勝に続き、5000m優勝での2冠達成を狙っている。
もしこの5000mでファラーが優勝すれば、5大会連続の2冠達成、そして5000mにおいては、2011年の大邱世界選手権からの6連勝を成し遂げることになる。どちらも、今までの世界の長距離選手では前例の無い偉業である。そして、このロンドン世界選手権はファラーのライバル選手たちにとっても、トラックで彼を倒すことのできる、最後のチャンスとなる。なぜなら、彼は今シーズンが終わればマラソンに転向するからだ。
2016年リオオリンピック 1. モー・ファラー, イギリス 13:03.30 2. ポール・チェリモ, アメリカ 13:03.90 4. モー・アーメド, カナダ 13:05.94 今シーズンランキング (今大会にエントリーされている選手の中で) |
スタートリスト
レーン | ゼッケン | 選手 | 国籍 | 今季ベスト | 自己記録 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 950 | アンドリュー・ブッチャート | ![]() |
13:11.45 | 13:08.61 |
2 | 852 | アロン・キフレ | ![]() |
13:13.31 | 13:13.31 |
3 | 734 | ビラニ・バレウ | ![]() |
13:09.93 | 13:09.26 |
4 | 954 | モハメド・ファラー | ![]() |
13:00.70 | 12:53.11 |
5 | 1402 | ライアン・ヒル | ![]() |
13:07.61i | 13:05.69 |
6 | 896 | マクター・エドリス | ![]() |
12:55.23 | 12:54.83 |
7 | 899 | ヨミフ・ケジェルチャ | ![]() |
13:01.21 | 12:53.98 |
8 | 1076 | ケモイ・キャンベル | ![]() |
13:14.45i | 13:14.45i |
9 | 655 | パトリック・ティアナン | ![]() |
13:13.44 | 13:13.44 |
10 | 1382 | ポール・キプケモイ・チェリモ | ![]() |
13:08.62 | 13:03.90 |
11 | 758 | ジャスティン・ナイト | ![]() |
13:17.51 | 13:17.51 |
12 | 850 | アウェット・ハブト | ![]() |
13:16.09 | 13:16.09 |
13 | 893 | セレモン・バレガ | ![]() |
12:55.58 | 12:55.58 |
14 | 1147 | サイラス・ルット | ![]() |
13:03.44 | 13:03.44 |
15 | 749 | モハメド・アーメド | ![]() |
13:04.60i | 13:01.74 |
※ i=室内競技5000mでの記録
誰がファラーを敗れるか?
過去6年間の世界選手権かオリンピックを見ているのなら、なぜファラーが優勝候補なのかはお分かりになるだろう。彼はハーフマラソン59:32の走力と、1500mは3:28のスピードを兼ね備え、かつこの6年間の世界選手権とオリンピックの5000m決勝と10000m決勝で10連勝している。
ロンドン世界選手権の10000mを26:49で優勝した後の記者会見で、ファラーは足に包帯を巻き少し負傷しているように見えた。しかし、5000m予選が終わった後に話を聞くと、彼が一番懸念しているのは疲労だと言っていた。5000mは予選と決勝が3日間空くため、疲労はそんなに問題にはならないはずだ。ファラーを倒すのに特に秘策というものがない。ファラー自身も戦略家だし、最後のラストスパートと強い持続力を持っている。
Embed from Getty Images(ファラー崩しのために)ペースメーカーがいない5000mのレースの途中でスパートして引き離すのは、ほぼ望みのない作戦に思える。そのためには、他の選手より飛び抜けて調子が良くなければならない。アルマズ・アヤナでさえ、去年のリオオリンピックの10000mでセンセーショナルな世界記録を打ち立てた後の、5000mではうまくいかなかった(アヤナは3位に終わった)。
今回のレースにはメダル候補の選手が多くいるが、ファラーの金メダルを阻止できる可能性のある選手は4人だ。3人のエチオピア勢、マクター・エドリス、ヨミフ・ケジェルチャ、セレモン・バレガと、アメリカ代表ポール・チェリモだ。エチオピア勢は2017年ダイヤモンドリーグでの速いレース展開で、それぞれいい成績を残している。
エドリス
ドーハDL 3000m 6位 (7:40)
パリDL 3000m 優勝 (7:32)
ローザンヌDL 5000m 優勝 (12:55 今シーズン世界最高)
ケジェルチャ
ドーハDL 3000m 3位 (7:32)
ユージンDL 5000m 2位 (13:01)
パリDL 3000m 3位 (7:33)
バレガ
ローザンヌDL 5000m 2位 (12:55)
去年のリオオリンピックでは、エチオピア代表のデジェン・ゲブレメスケルとハゴス・ゲブリウェトが組んでペースを引き上げた。今回のレースでは、この2人は出場しないが、同じエチオピア勢がその作戦に出る可能性がある。
エドリス、ケジェルチャ 、そしてバレガの3選手は、それぞれが速いペースのレースが得意であり、ペースが速くなると他のライバルを蹴落とせる。リオオリンピックでは、エドリスは、ゲブレメスケルとゲブリウェトのペースアップに付かなかったが、そのレースでエドリスが最終的に4着でフィニッシュしたことを考えると(その後失格になるのだが)、今年は彼も気持ちを変えるだろう。なぜ、これらの選手がファラーを破る可能性があると考えるのか、これから説明しよう。
マクター・エドリスがファラーに勝てる可能性がある理由:
エドリスは現在5000mの今シーズン世界最高記録を持っている。しかも、パリDLの3000mでロナルド・ケモイに勝利している。
マクター・エドリスがファラーに勝てそうにない理由:
彼は23歳で出場するエチオピア勢の中では一番年上であり、過去の世界選手権やオリンピックでファラーにもう少しのところまで迫っている。しかし、2013年、2015年、2016年の世界選手権もしくはオリンピックでファラーと勝負しているが、(ファラーに勝利するどころか)いずれもメダルには手が届いていない。なぜそんな彼を候補に入れたのか?通常、世界選手権でのメダルは、4回目の挑戦で獲得できる場合が多いのである (モー・ファラーはそうでなかったが)。
ヨミフ・ケジェルチャがファラーに勝てる可能性がある理由:
ここ数年間、この20歳の選手は、次なるエチオピアの長距離界のスター選手になると目されてきた。2013年の世界ユース選手権で優勝、2014年には世界ジュニア選手権のタイトルを、2015年に初めて出場した北京世界選手権では5000mで4位に入賞している。去年は、アメリカでの世界室内選手権の3000mで優勝しており、リオオリンピック前には5000mを13:03で2回走っている。しかし、オリンピック代表からは、なぜか漏れてしまったのだ。
しかし、すぐあとのパリDLで3000mを7:28.19 (世界ジュニア記録)で走り、彼をオリンピック代表に選ばなかったのが間違いだということを証明してみせた。このタイムはファラーの持ち記録(7:32.62)よりも速いタイムとなる。今年、彼は1500mを3:32というタイムで走り、スピードがあることを見せつけた。彼は2015年ほどは多くレースを走っていない。2015年世界選手権の5000mでは5位。今回は2回目の世界選手権になる。
ケジェルチャがファラーに勝てそうにない理由:
今回のロンドン世界選手権5000m予選を除いては、彼は今年どのレースでも優勝していない。ユージンDLの5000mでは2位、ドーハDLとパリDLの3000mでは3位に終わっている。
セレモン・バレガがファラーに勝てる可能性がある理由:
バレガは最も将来性がある選手である。去年は世界ジュニア選手権のチャンピオン、今年は世界ユース選手権のチャンピオンに輝いている。バレガは公式には17歳として登録されている (ミックスゾーンで他のジャーナリストが彼は本当は21歳だと言っていたが、それは疑わしい)。
いずれにせよ、年齢に関わらず、彼は才能を持った選手であり、今シーズン5000mを12:55で走っている。彼はファラーに勝つ可能性が一番あると言えるだろう。なぜなら、エドリスとケジェルチャとは違い、彼は過去数年間でファラーに継続的に負けた経験がないからだ(エドリスはファラーに5敗、ケジェルチャは4敗を喫している)。
若いというのは時に大きなアドバンテージになる、彼はまだファラーと対決したことがないので変な先入観を持っていないと考えられる。
セレモン・バレガがファラーに勝てそうにない理由:
彼はプロレベルでの経験が無い。彼が次世代のゲブレセラシエ / ベケレと言われていても、今年の夏に世界ユース選手権を走ったばかりの若者が、ファラーのホームで彼を倒すことが本当にできるだろうか?しかも、バレガは、エドリスにも今シーズン負けている。
アメリカ勢
ポール・チェリモも番狂わせの選手だろう。彼はリオオリンピックのホームストレッチで、勇敢にもファラーに挑戦した選手だ。アメリカ軍のWCAPのチームメイトと同様にチェリモは今、スコット・シモンズコーチの元、コロラド・スプリングスを拠点としている。
シモンズコーチの指導の下でシャドラック・キプチルチル (ロンドン世界選手権で10000mの自己記録を27:32から27:07までタイムを縮めた)とスタンレー・ケベネイ(3000mSCで今シーズン8:18から8:08までタイムを縮めた)がそれぞれ自己記録を伸ばしてきたように、チェリモも同じような進化と遂げることができるだろうと、コーチは信じているようだ。
彼らとの唯一の違いといえるのは、オリンピック銀メダリストのチェリモが、自身のレベルがだいぶ上がった時点から、シモンズの指導を受けているという点だろう。
Embed from Getty Images「彼は今までにないぐらい強くなっているよ。(10000mだったら)27:00で走れるぐらいの調子だ。しかし、以前よりもスピードと、ラストスパートを磨いてきている。チェリモは今、ちょうどファラーがサラザールとトレーニングを始めたあたりと同じレベルにいるだろう。全てがうまくいけば、もう1つ上のレベルで走れる段階だ」
シモンズは、チェリモについてこう語った。
決勝でのチェリモの走りが楽しみである。木曜日の予選では少し粗さが見られたが、それは残り3周で転倒してしまい、前に追いつこうとがむしゃらに走ったからだろう。チェリモの言葉を信じるならば、彼は決勝に向けての準備はできていて、何個か作戦がある。去年したことは今年もできるし、2017年の彼のパワーは銀メダルと金メダルの違いを生み出すだろう。
もしくは、全米室内選手権(アルバカーキでの高地での2マイルを8:28)や全米屋外選手権(32℃の5000mレースでスタートから単独走で13:08)の時のように、レースの速い段階から前に出て、埋められない差を作り出すか。
しかし、この作戦は世界選手権の決勝では非常にリスキーな戦略だ。第1に、全米選手権を走っている選手より、世界選手権の選手たちのほうが圧倒的に走力が高いからだ。第2に、モー・ファラーは馬鹿ではない。チェリモは早い段階から差をつくるつもりであることを知り、すぐさまそれに反応するだろう。
しかし、シモンズとチェリモは、公表していないが、確実にファラー崩しのプランを持っているようだ。
数週間前に、シモンズはレッツ・ランにこう語った。
「2つのことに集中してトレーニングをしている。1つはゲーレン・ラップを破ること(全米選手権10000mで)で、ラップの前に3選手を配置して。ラップはボストンマラソンから復活してくると考えられていたが、彼がいい結果を出すつもりのないレースではいいタイムは出ないだろうと踏んでいた。我々は、レースをコントロールし流れを作り出すことができた(=シモンズが指導するキプチルチル、コリル、シンバサの3人が全米選手権の10000mでラップ崩しに成功した)」
「そしてこれこそが、5000mと10000mでモーに対して我々が準備してきたことだ。彼を倒す方法はいくつかあり、そのためにトレーニングしてきた」
その他のメダル候補
上に記載した選手たちは、昨年のリオオリンピック5000m決勝でのチェリモのような、ファラーに挑戦する=金メダルに挑戦できる選手たちである。しかし、その他にも表彰台に乗ることが可能な選手が数人いる。
リオオリンピックの5000m4位のモー・アーメドは、メダル獲得の候補として考える必要があり、先週の10000m決勝では、27:02のカナダ新記録を樹立する走りで、明らかに調子が良い。
サイラス・ルットは今年のケニア選手権のチャンピオンであるが、他のケニア代表選手が5000m予選でどれほど苦戦したかを考えれば、ケニア選手権の5000mのレベルは高くなかった。しかし、彼はメダルを獲得できるレベルにある13:03のタイムを持つ (リオ銀メダルのチェリモと同じぐらいの持ちタイム)選手である。
しかし、もしエチオピア人選手やチェリモが勝負に加わることができなければ、イギリスのアンディ・ブッチャート(リオオリンピック6位)やバーレーンのビラニ・バレウ(リオオリンピック9位、7月のナイト・オブ・アスレチックの5000mの勝者)などがメダルをもぎ取るのは全く驚きでない。
(チェリモに次いで)2番目のアメリカ人、ライアン・ヒルは、彼がそのラストスパートが発揮できるポジションにいれば、ラスト200mのラストスパートに期待できる(昨年の世界室内3000mで彼の銀メダルを目の当たりにした)が、スローペースの展開になれば、彼の出番はあるかもしれない。
レッツランの予想: ファラーの敗北を予想するのは馬鹿げている。特に5000mでは、2011年にアルベルト・サラザールの指導に移ってから=オレゴン・プロジェクトに移籍してからは、5000mの23回のレースのうち1回しか負けていない (2013年のユージンDL、彼が病気にかかっていた時)。
レッツラン記事