7月21日にモナコで、ヘラクレス・モナコ(ダイヤモンドリーグ・モナコ大会)が開催された。
女子800m
今回のヘラクレス・モナコでアジ・ウィルソンのアメリカ記録更新への期待は、1:55.61という自己記録(1:57.67)を2秒も更新する快走となり、Jearl Miles-Clarkの持つアメリカ記録(1:56.40)を1999年以来破った。ウィルソンの驚異的な走りは、彼女のこのレースでの勝利や2位に届かなかったが、リオオリンピック金メダリストや銀メダリストを脅かすものだった。
リオオリンピック覇者のキャスター・セメンヤはラスト200mを28.55で走り、今シーズン世界最高記録にして自己記録 (=南アフリカ記録)の1:55.27 (リオオリンピック優勝の時のタイム=1:55.28より0.01秒だけ速い)で優勝、2位にはリオオリンピック銀メダリストで自身初の1:56切りとなる1:55.47 (それまでの自己記録1:56.24)で走ったフランシン・ニオンサバが入った。
このレースの上位7人がシーズンベストとなる走りで、上位3人だけが素晴らしいレースをしたわけではなかった。1500mで今シーズン世界最高記録を出しているシファン・ハッサンは1:56.81 (それまでの自己記録1:58.13)の快走で4位に入って、ロンドン世界選手権の1500mで彼女を打ち負かすことは難しい=好調をキープしていることを示した。
カナダのメリッサ・ビショップは、リオオリンピックで4位で走った時のタイムよりも0.01秒速い1:57.01の自己記録=カナダ記録を更新する走りで5位。6位のリンズィー・シャープ(1:58.01)と7位のブレンダ・マルティネス(1:58.43)はそれぞれシーズンベストを記録した。
POS | BIB | ATHLETE | COUNTRY | MARK | POINTS | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | Caster SEMENYA | ![]() |
1:55.27 WL, MR | 8 | ||
2 | Francine NIYONSABA | ![]() |
1:55.47, NR | 7 | ||
3 | Ajee WILSON | ![]() |
1:55.61, NR | 6 | ||
4 | Sifan HASSAN | ![]() |
1:56.81, PB | 5 | ||
5 | Melissa BISHOP | ![]() |
1:57.01, NR | 4 | ||
6 | Lynsey SHARP | ![]() |
1:58.01, SB | 3 | ||
7 | Brenda MARTINEZ | ![]() |
1:58.43, SB | 2 | ||
8 | Charlene LIPSEY | ![]() |
2:01.09 | 1 | ||
9 | Margaret Nyairera WAMBUI | ![]() |
2:02.13 | |||
Laura ROESLER | ![]() |
DNF |
400m通過:ローラ・ローズラー(55.37)ペーサー
①セメンヤ(56.7)- ②ニオンサバ(56.9)- ③ウィルソン(57.3)
セメンヤがペーサーに希望した高速ラップによって、ペーサーが55秒台前半で引っ張ったが、その速いペースにセメンヤが付くことは無かった。ペーサーが抜けてからセメンヤが先頭を引っ張ったが、最後の直線で3人の攻防となった。最後はセメンヤが内から抜け出し、800mで26連勝 (選手権やオリンピックでの予選を含む)を飾った。
セメンヤは、他の選手たちが彼女に勝負を挑み肉薄したことを驚いた。
「私は自分の強さを発揮出来ましたし、それは最後まで厳しいレースでした。56秒ぐらいで入っていきたかったけど、ちょっと技術的な部分で判断ミスをして、減速してしまいました。ニオンサバにリードを許さないように、と思っていました。 南アフリカの私のコーチのJean Versterはきっと驚くでしょう。私はもっともっと速くなれるし、それに向けてトレーニングをしています」
とセメンヤは話した。
「今は、ロンドン世界選手権の出場種目を800mと400mなのか、800mと1500mなのかを決める必要があります。そして、体調をキープして、最高の結果に繋げたいです」
ウィルソンについて、彼女は世界選手権に向けての準備で数週間アメリカに戻ると話した。
「アメリカ新記録!?ワーオ!そんなタイム聞いたこと無いです!私はまだまだ (彼女たちと)競り合えると感じました。すごく良かったです!これからフィラデルフィアに戻ってロンドン世界選手権に向けて準備をします」
Embed from Getty Imagesセメンヤの連勝は続くが、近走では僅差の勝負に持ち込まれている
女子800mは、ロンドン世界選手権では非常に興味深い種目となるだろう。 セメンヤは予選を含めて26連勝を記録したが、最近の3勝のうちの2勝は非常に厳しいレースであった。 5月のプレフォンティン・クラシック (ユージーンDL)では2位のワンブイと0.10秒差、今日のレースでは2位のニオンサバと0.20秒差である。
セメンヤは2016年のシーズンは完勝続きであったが、リオオリンピックの後、彼女はチューリッヒDLで0.32秒差でニオンサバにに競り勝ったが、リオオリンピック前は0.88秒差と0.91秒差で勝った。
歴史は繰り返す
今日のウィルソンの記録と1999年にMiles-Clarkが記録したアメリカ記録には多くの類似点がある。両方のレースはヨーロッパでのレースだった(Miles-Clarkの記録はチューリッヒでのレース)、ともにアメリカ人選手が3位で、それぞれの上位4人が1:57を切った。 Miles-Clarkは1位と0.36秒差で、ウィルソンは1位と0.34秒差だった。アメリカのファンは、歴史が世界で繰り返されることを願っていない。 1999年の世界選手権では、Miles-Clarkは4位に終わったからだ。
1999チューリッヒDL 女子800m トップ4
1. Maria Mutola モザンビーク 1:56.04
2. Svetlana Masterkova ロシア 1:56.37
3. Jearl Miles-Clark アメリカ 1:56.40
4. Ludmila Formanova チェコ 1:56.50
アジ・ウィルソンの良かった部分と悪かった部分
良かった部分:今夜、彼女は素晴らしい走りをして、アメリカ新記録を樹立した(この記録をさらに更新出来るのは彼女だけだろう)。
悪かった部分:彼女が3位をとるには十分な走りだった。しかし、2015年にスポーツ仲裁裁判所が※アンドロゲン過剰症の選手に対するガイドラインを覆がえさなかったために、ウィルソンこの順位になったとも言える。それでも、ウィルソンは世界選手権の金メダル候補であり、800mの選手として才能ある一人であるということがわかった。
(※アンドロゲン:ステロイドの一種で、生体内で働いているステロイドホルモンのひとつ。雄性ホルモン、男性ホルモンとも呼ばれる。アンドロゲンの95%もの比率を占めているのがテストステロンといわれている)
(※女子800mをめぐるアンドロゲン過剰症についての参考記事:「男に似た選手と競うのは難しい」キャスター・セメンヤを批判した女子選手に非難集中 ハフィントンポストより)
事実、2016年のシーズン開幕から今まで、マーガレット・ワンブイ以外の選手は、ニオンサバやセメンヤを破ったことはなかった。それでも、今夜のウィルソンのレースは素晴らしかった。ニオンサバとセメンヤを追い越すことで、ロンドンではメダル獲得だけでなく、金メダルも可能であるという希望を持っている。
ワンブイ9位に破れる – 新たな時代の始まり
今夜ワンブイが2:02.13の9位に終わったことで、2016年の屋外シーズン開幕から続いた、女子800mでのセメンヤ、ニオンサバ、ワンブイの3人による独占状態が終わりを告げた。
レッツラン記事
ピンバック: ヘラクレス・モナコ (モナコDL) – ウサイン・ボルト (9.95), エマニュエル・コリル (1:43.10 800m) & エライジャ・マナンゴイ (3:28.80 1500m)はケモイらを葬り去った – LetsRun.com Japan