(過去記事)ゲーレン・ラップはリオでメダルを取れるのか? – ラップとアルベルト・サラザールの15年間とリオオリンピックへの戦略

Can Galen Rupp Win an Olympic Marathon Medal? John Brant

 

“人生の半分は走っているが、まだ走り始めたばかりの気持ちになることがある。高校時代を思い返すと、アルベルトと僕は、2016年のオリンピックを長期的な目標に捉えていたんだ。それが、僕の選手としてのピークだと。2020年には34歳になる。その時も走っていたいけど、どうなっているかは不確かだ。今を逃したら、もう無いかもしれない。急がなければという想いがあるんだ”

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リオオリンピックの80日前、ゲーレン・ラップの練習を見た著者は、ラップが細く引き締まっていることに気付いた。以前は筋骨隆々のラップだったが、北京世界選手権で負けてから、上半身のトレーニングを止めた。しかし、走る際のパワーは落とさないようなトレーニング方法に変えた。

ビル・ロジャー(ボストンマラソン4勝、1976〜79年ニューヨークシティマラソン4連覇など)は、ラップについてこう語る。

フランク・ショーターや、アルベルト・サラザール、そして自分にも欠けていた、速筋によるスピード(Fast-twitch speed)を持っている。5 〜 7年間ぐらいは、マラソンで世界で勝負できるアメリカ人になるだろう」

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デイサン・リッツェンハイン (写真右)は、ラップは長距離を走っても、身体的にも精神的にも強い選手だと言っている。

「大きな故障もこれまでになく、体作りのベースをどんどん作り上げている。集中力もある。走る事ためだけに生活していて、とても真剣に取り組んでいる」

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2016年2月に開催された、マラソンのリオオリンピック全米選考会、ラップメブ・ケフレジギ (写真左)のエルボーを喰らったが、

「10000mでは、柔軟性や流動性が役に立つが、マラソンではそれは、もっと大きな違いとなって現れる」

と、サラザールは言った。

「ロサンゼルスでのリオオリンピック全米選考会はとても楽しかった。気持ちがよかった。マラソンの全米選考会では、自分の記録を心配する必要はないからね。トップ3(3位までがリオオリンピックへの切符を獲得)に入るためだけにレースするだけさ」

と、ラップは言った。

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2014年のロンドンマラソンで、大方の予想に反して2:08:21の記録で初のフルマラソンを走り終えた※チームメイトのモー・ファラーに (写真右)ついては、

「最初のマラソンで100%を出しきれるエリート選手はいない。だいたい2回目や3回目から最高のパフォーマンスができるものだ」

と、述べている。

(2016年当時。ファラーは2017年秋にオレゴンプロジェクトを離脱しイギリスに拠点を移した)

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リオオリンピックでメダルをとる為には、ラップはもっと速く走らなければならない。

今朝の練習メニューは、※ ロード用のレーシングシューズを履いて4 × 1マイル ※4:25 / マイル(1周66″ = 1km2:45)。その後、スパイクに履きかえて4 × 1マイル ※4:21 / マイル(1周65″ = 1km2:43)

(※ 2016年当時、ヴェイパーフライ4%の完成版は存在しなかった)

そして、2 × 300mを42″(10000mのトラックレースのラスト300mのスピードと同じ)で、練習を終える予定だ。1週間合計で145マイル=233.3kmを走るなかでのトレーニングの一環である。このトレーニングは、10000mとマラソンの両方に効くトレーニングだとサラザールは言う

この朝のトレーニングは、サラザールがナイキオレゴンプロジェクトの選手に指示した、あるレース後のトレーニングを思い起こさせる。2014年1月、ラップは室内5000mの全米記録を出した。それから9日後、室内2マイルの北米記録 = 全米記録を破った。そのレースの数分後、同じトラックで、ラップは5 × 1マイルを4:21, 4:20, 4:20, 4:16, 4:01で走った。

(※ 1マイル4:21 = 1周65″ = 1km2:43)

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ラップが15歳の時に初めて走ったオレゴンのトラックは、随分と景色が変わってしまった。

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アルベルトが、高校生の僕を見出してくれたのは、言葉では表せないほどラッキーだった。長距離は走るつもりはなかったんだ。たくさんのことを経験して、衝突もあったがその度に話合いをして、お互いを尊敬して深い絆で結ばれている。彼には何でも言えるし、彼も何でも言ってくれる。サラザールは時々冗談でこう言うんだ、君が子どものときの方が好きだったな。子どもの君は、僕に口答えも何もしなかったからねって」

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ラップサラザールとの15年間の軌跡の間に、ラップは17個の全米タイトル(2016年当時)を手にし、全米学生選手権でも勝った。4回の全米新記録を立て、ロンドンオリンピックでは10000mで銀メダルも獲得した。

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「人生の半分は走っているが、まだ走り始めたばかりの気持ちになることがある。高校時代を思い返すと、アルベルトと僕は、2016年のオリンピックを長期的な目標に捉えていたんだ。それが、僕の選手としてのピークだと。2020年には34歳になる。その時も走っていたいけど、どうなっているかは不確かだ。今を逃したら、もう無いかもしれない。急がなければという想いがあるんだ」

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2015年の北京世界選手権でいい結果が残せなかったラップに、上半身の筋肉を減らすことと、さらにマラソンへ向けてトレーニングを始める時期であることを、サラザールは提案した。ラップは、

「マラソンに目標を変えるまでに、心の準備に少し時間を要した」

と言った。

「マラソンは全く違ったものだと思っていた。怖い。自分で対処できるのかわからなかった。でもアルベルトが、この15年間のトレーニングで、マラソンの準備はできていると、自信を取り戻してくれた

「だんだんと走行距離を増やし、長くてきついロングインターバル走を中心とした練習をした。この練習は自然にこなせるようになった。実際にそれを楽しんでいる。マラソンの苦しさは、トラックの5000mや10000mの苦しさとは全然違う。マラソンは苦しいけど、対処できるようになる」

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元ナイキオレゴンプロジェクトのアシスタントコーチのスティーブ・マグネスと元ナイキオレゴンプロジェクトのスター選手だった、カラ・ガウチャーによって明るみになったドーピング疑惑は、ラップとサラザールとの15年間の関係性と対照をなしていた

サラザールは、ドーピングに関して“グレー”だと報道された。ラップは、PEDの検査を、どの選手よりも多く受けさせられたが、彼は一貫してクリーンである事を主張した。

(Performance-Enhancing Drugs, 能力向上薬物筋肉増強系、興奮剤、持久力増加・血液ドーピングなど)

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「自分に近しい人間が、真実でなはい事を言うのは、とても辛いことだ。答えられることは全部答えた。あとは時間が解決してくれる事だ。去年の夏にこの疑惑が持ち上がったときは、本当に辛かったが、自分が真実を知っていて、自分の周りも真実を知っている。そうすれば、厳しい試練も少しは和らぐはずだ」

(※カラ・ガウチャーは、これについてコメントを拒んだが、“ラップが全米代表としていい成績が収められることを祈っている”とだけ、メールに書いた。)

サラザールは、この疑惑に対して、ナイキオレゴンプロジェクトのウェブサイトに11736字の抗議文を掲載した。処方箋のコピー、メールの文面、医師の書面は医療記録も掲載した。
調査は現在も引き続き行われているが、6月にはラップを“甲状腺機能低下症”と診断した内分泌科医のジェフリー・ブラウンが罷免されている。

サラザールは長い間、自分を告発する人間にやり返す機会を待っていたのかもしれない。ポートランドの高校のクロスカントリーチームのコーチであるデイブ・フランクは、サラザールについてこのように語る。

「彼は熱心なコーチさ。ルールを変えてまでズルをするようなことを、決して考えるような人ではない」

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ラップのストライドは、完全に自然なものであって、彼の母親のジェイミーから受け継がれたもののようだ。彼女はオレゴン州の1マイル王者だった。サラザールは、ラップの生体力を調整するのに時間をかけた。ラップは、メブ・ケフレジギのように激しい動きで走るわけでもなく、ライアン・ホールのようにリズミカルに走る訳でもない。ラップは、自然にスムーズな動きで、消耗しない動きで走るのである。

彼は今、ピークの状態にある。

「これまで多くの事をずっとやってきたが、サラザール“急ぐな、もっと休め”と言ってくれる。そして、悪いレースや調子の悪いシーズン、負ける事、その全てを受け入れなければならないことを、彼は知っていた」

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そして今、終わりがないように思えた計画も、終焉を迎えようとしている。2001年、高校生として初めてナイキオレゴンプロジェクトに入ったラップが、26.2マイル=マラソンに挑戦しようとしている。

「北京で失敗したのが、逆に良かったと思う。もし北京世界選手権でメダルを獲っていたら、自分の筋力トレーニングも変えなかっただろうし、マラソンも走らなかったかもしれない。高校時代に戻ると、自分の目標は世界で一番の長距離ランナーになることだった。それは、
オリンピックで金メダルを獲る事を意味している。今年は、それを達成するための年なんだ」

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1マイルを4回走り終わった後、ラップはロード用のレーシングシューズから新しいスパイクに履き替えた。彼のためにオリジナルで設計されたシューズである。

ラップは、サラザールが達成してきたことを、既に越えている。サラザールはそのことについてとても満足している。ラップはロンドンオリンピックで銀メダルを獲得しているが、それは、サラザールがなし得なかったこと(オリンピックでのメダル)の1つだ。2人にとって、マラソンでのメダル獲得は、さらに喜ぶでべきものである。

更なるモチベーションが彼らを駆り立てている。アスリートとしてのサラザールは、負ける事をとても恐れていた。コーチとして、ラップには“逆境から学ぶ”ということを伝えている

「そのことについてはたくさん話すよ。サラザールからは、“恐れや怒りに駆り立てられてはならない”と言われるよ。悪いレースの後は落ち込んでもいい。でも、感情的になって自分の判断力を鈍らす事はしてはいけない」

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3分間ほどウォークを交えたジョグでリカバリーをとり、次の1マイル走に入っていった – それはラップにとって大事な“リカバリー”なのである。サラザールは、新しいことをラップの練習に常に取り入れて来た。そのお陰で、ラップはケガとは無縁である。

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しかし、サラザールの独創的な練習方法が、常にドーピングに繋がっているのでは?と非難されてきた。ラップが長年の練習で積み上げてきたリカバリー力が、PED(能力向上薬物)を摂取したときと同じなのである。サラザールラップは、無実であることを証明する手だてが無い事を知っていた。世論を覆すことが難しい事も知っていた。

「人々は信じたいと思う事を、信じる」

そう、サラザールは言った。

「自分たちに出来る事は、真実を言い続ける事、そうすれば真実が全てを物語ってくれる」

と、ラップは言った。

「真実が勝つと信じている」

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これまでにわかっている事実によると、サラザールの疑惑は、ロシアのそれと近しいものは何もなかった。

しかし、どんなにラップが検査を受けたとしても、ラップや、また他のアスリートの完全なシロを証明することは決してできないだろう。誰も確実に知る事はできないのだ。ロシアの選手やマリオン・ジョーンズランス・アームストロングのように、ヒーローと思われていた人物がクロになる、誰もわからないことなのである。

ラップはそのような世界に人生の半分を捧げているのは、悲しい事実なのだ。

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サラザールが、ラップと妻のキーラは“10月に子どもを授かる”ということを教えてくれた。ラップは、フランク・ショーター以来初めて、2つの競技(10000mとマラソン)でメダルが期待されて、リオに向かうのだ。

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(※ その後ラップは、2016年8月13日のリオオリンピック男子10000mにおいて27:08:92で5位入賞、続く8月21日の男子マラソンでは、2:10:05で銅メダルを獲得し、男子マラソンにおいて12年ぶりにアメリカにメダルをもたらした)

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(※ またラップは2017年4月のボストンマラソンで2位に入り、10月のシカゴマラソンでは35年ぶりのアメリカ生まれのアメリカ人選手としての優勝を果たした, レッツラン記事。2018年4月にはボストンマラソンを途中棄権したが、その20日後の5月にはプラハマラソンで2:06:07=全米歴代4位の記録で優勝, レッツラン記事

ゲーレン・ラップは2020年東京オリンピックで金メダルを獲得できるか?

プラハマラソンのレース前にラップは今後の1番の目標について、“東京オリンピックで金メダルを獲ることだ”と語った。

「東京オリンピックで金メダルを獲りたい。それは、走り始めてからずっと僕の目標となってる。今やっていることはすべてそこにつながっている。すごく大きな挑戦になることはわかっているけど、それに向かってやっているよ」

 

関連記事:ゲーレン・ラップ、2010年シーズンについて振り返る

シカゴマラソン男子:ゲーレン・ラップが自己新の2:09:20で優勝 – 男子で35年ぶりにアメリカ生まれのアメリカ人がシカゴマラソンの頂点に立つ

2018年プラハマラソン:ゲーレン・ラップが2:06:07の自己新で優勝

 

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