(過去記事) ディエター・ホーゲンその2 – ケニア人選手と欧米の選手とのギャップをなくしていく

(※ディエター・ホーゲン翻訳記事その1)

ディエター・ホーゲンは30年近くもの間、世界クラスの才能ある選手たちを指導してきた。東ドイツ出身のホーゲンは、1970年代半ばにオリンピッククラスの中距離選手たちの指導を始めた。1986年に、彼はウタ・ピッピヒに出会い、彼女をベルリンマラソン3回優勝、ボストンマラソン3回優勝に導いた。

2004年には、トム・ラドクリフと共にキンビア・アスレティックスを立ち上げた。それ以来、彼は東アフリカの才能ある選手たちを多く指導し、シカゴマラソン、ボストンマラソン、ロンドンマラソンなどで優勝する選手を輩出してきた。また、北アメリカの主要のロードレースや、5月に開かれるライラック・ブルームズデイ・ランでは男女ともに優勝選手を輩出した。

(ホーゲンが2009年にランナーズワールドに受けたインタビューが以下である)

 

―「ヨーロッパ人もケニア人も指導してきたと思いますが、これらの全くタイプが異なる選手たちを指導する際、どんな違いがありますか?」

ホーゲン「そんなに大きな違いは無いよ。みんな同じゴールを目指しているし、タイプが違うからといって違うトレーニングはしないよ。それが、強いトレーニンググループの利点だ。グループのみんなからいいところを吸収できる。ケニア人はグループでトレーニングすることを好む。ヨーロッパ人は、グループよりは個人でトレーニングすることの方が好きだ

「これまでコーチしてきたヨーロッパ人たちは、グループではトレーニングしてこなかった。強いトレーニンググループが嫌だったわけではなく、同じレベルのグループを見つけられなかった、というのが本当のところだね」

FF9A0534

©2017 SushiMan Photography

FF9A0523
ケニアのイテンで朝のグループ練習に取り組むたくさんのケニア人選手

©2017 SushiMan Photography

「ケニア人の場合、一緒にトレーニングできるレベルの選手が20人ぐらいいる。他の国ではこれほどレベルの高い選手をたくさんは見つけられないよ。1つの場所にそんなに多くいい選手は集まっていないからね、普通は。指導してきたヨーロッパの選手たちは、自分の結果向上のために、ケニア人のトレーニングパートナーを探していたんだ」

FF9A0576
ヨーロッパ人の選手も自分に見合ったレベルの練習に加わる事もある

©2017 SushiMan Photography

「ヨーロッパの選手は、年間を通して計画をよく立てたがる傾向にある。ケニア人は、多くの点でそのような規律は無いよ。指導してきたヨーロッパの選手たちは、常に先のことを考えて、それに集中していた。アフリカの選手は、その日その日を生きている。彼らは目標を持っているが、よくその目標を見失うこともある」

 

―「ヨーロッパの選手は、トレーニングへのアプローチに関して、アフリカの選手よりも几帳面だと思いますか?」

「そうだね、それが問題になることもある。計画を長期化しすぎて、すべてがタイトに、詰め込みすぎても、それはうまくいかない。アフリカの選手が、非アフリカの選手よりも長けていることの一つがそれだ。彼らのストライドを見てごらん。彼らは計画を立てたりラップタイムをあまり考えない。彼らはもっと自然に行うんだ。でも同時に、彼らは簡単に夢中になってのめり込んでしまう」

FF9A0557

©2017 SushiMan Photography

FF9A0526
練習では競り合ってどんどん夢中になっていく

©2017 SushiMan Photography

「今日のレースを見てごらんよ(ボルダー・ボールダー10kmで、エチオピア人選手が高地 ※約1665mにも関わらず最初の1マイルを4:07=1km2:35で引っ張った)。他に誰がそんなことをする?そんなことをしたら後々大変なのに、彼らは考えずしてしまうんだ。そんなことをいちいち心配しない。それには良い点もあるし、悪い点もあるね

 

―「東アフリカの男子選手は、世界でトラックにおいてもロードにおいても独占しています。でも、女子選手は少し手こずっているようですが (2009年現在)、それはなぜですか?」

「まず最初に、才能は才能である。恐らく、科学の世界では(中長距離)ランナーの遺伝子構造を見つけることは既に可能だろう。しかし、目では見えない要素というものがある。例えば、メンタル。レース中にどれだけ強い気持ちを持てるか。でも、どれだけ酸素を運搬できるかなど、そういう遺伝的なことに関しては、綿密に計画を立てることができる」

「だから、才能は才能だと私は言っているんだ。中国にもイタリアにもアメリカにも才能ある選手はいる。事実、アメリカは最近伸びてきている。メダルをたくさん獲れるということではなく、いいレベルの選手がアメリカには増えてきている。でもまだメダルに届いていないだけ (2009年現在)」

「東アフリカの選手がなぜ独占しているかは、陸上競技という一つの競技をやっている選手がその地域に本当にたくさんいるからだ。アメリカで、もしすべでの人をケニア人と同じようにランニングスクール (ケニアでいうキャンプ)に入れたら、今より才能ある選手に100倍多く出会えるだろう」

「でも実際は、みんな走らない。パソコンをしたり、数学、美術、バスケットボールをしたり、様々な種類のスポーツがあるからね。もしくはスポーツをしないか。でも、東アフリカでは、走ることが全てなんだ。才能がある人は、ほとんどがランナーになる。それがここでの生活の仕方だ。アメリカで才能がある人は決して走らないケニアやエチオピアでは才能ある者はみんな走る」

「数字で比べてみよう。5kmのタイムがいいアメリカ人選手が数人いる、もしくはライアン・ホールのようにマラソンも走れて、ハーフは59分で走れる選手もいる。このような選手が50~100人いたとしよう。ケニアのような場所で大きなグループでトレーニングすると、どんないいことがあるか想像してごらん。西洋の世界では、才能あるほとんどの人は走らないし、自分が走れることさえ知らない」

「これは、東ドイツ時代のシステムの一番の強みでもあった。みんなが様々なスポーツのスクリーニングテストのようなものを受けて、ウェイトリフティングや自転車、陸上競技など、それは様々なスポーツだ。小さな子どもたちも、特定のスポーツテストを受ける。アメリカでは違う。違う社会だからね。これがもっとも大きい理由の一つだと思う」

「才能のあるケニア人は、もしかしたらアメリカ人よりは才能がないかもしれない。ただ、彼らは自分が持っている才能を存分に発揮している。また、彼らは先祖代々そういう状況下で生活をしてきた。健康的な食事を食べてきた。持久力のあるアスリートにはフルーツや野菜、質のいい、でんぷん質の食べ物が必要だ」

「しかし、信じようが信じまいが、ケニアの食べ物はイギリス人がやってきてから質が下がったんだ。イギリス人は今や世界で不健康な人たちだよ。イギリス人は、がんになる人も心臓発作の数も多い。イギリス人が何を食べているか見てみると、不思議はないよ。アメリカも不健康だけどね。これが大きな違いでもある」

「いい天候で、高地で、幼少期から走っていて、同時に才能を持った人たちが集まれる。才能を持った人は、すぐにその才能を試し、勝利に向けてメンタルを鍛え始める。ここにいる選手たちは、隣に常に世界クラスの選手がいる状態だ。“彼が走れれば、自分も走れる。彼が勝てれば、自分も勝てる” 彼らはよく、こう言うんだ。周りにたくさんの世界レベルの選手がいるということは、自分の自信にも繋がるということだ」

「だから、(例えば)アラスカでいい選手を見つけるのはもっと大変なんだ。あそこは一年のうち9か月は、トレーニングできる状態でない。夏はヒグマに追いかけられて、走り終わる前に車に逃げ込まなきゃいけない….っていうのは冗談だけど、的は得ている」

FF9A9623
リオオリンピック男子5000m銀メダリストのポール・チェリモと練習する選手達

©2017 SushiMan Photography

FF9A0003
元男子マラソン世界記録保持者のウィルソン・キプサングと共に練習をする無名の選手達

©2017 SushiMan Photography

「才能ある選手がトレーニングするには、理想的な場所というものがあるんだ。人口のほぼ100%が才能の集まりだが、アメリカでは恐らく1%にも満たない。それが大きな違い」

 

―「男子が中長距離を独占しているのはそういう要因があると思いますが、女子はどうでしょう?女子の場合、非アフリカ人選手がアフリカ勢によく付いていっているようですが」

「素晴らしいアフリカの女性選手がたくさんいるという事があって、エチオピアの女性選手はトラックを独占しているし、ケニア人やエチオピア人はロードも強い。でも、確かに男子よりも女子の方が、アフリカ人選手たちについていける非アフリカ人選手の数が多い。それは恐らく社会的な側面が関係していると思われる。社会がどのように構成されているか」

「例えば、アラブの女性選手を見ることができないのは、彼女たちはスポーツをする事さえも許されていないからだ。顔を隠さないといけない。アフリカに目を向けると、たくさんの女性が多くの理由でスポーツをしていない。家族が早くに出来てしまったり、彼女たちは早い段階で妊娠するし、家族がスポーツ以外の何かをするように言っているのかもしれない」

「ここ10年間 (1999〜2009年)は、今までよりも多くのアフリカ人選手の女性が走り始めている。走ることでお金を稼げるから夫にサポートしてもらえるようになったからだろう。そして変化も起こる。社会的側面だけが、私が思いつくことかな。他に理由はないよ」

(※2008〜2017年でアフリカ人の女性選手が1500m, 5000m, 10000m, 3000mSC, ハーフマラソン, (マラソン=女性だけのレース)の全てで世界記録を更新している=この十数年で単純にアフリカ人の女子選手の数が増えた。一方、男子は1500m, 5000m, 10000m, 3000mSCの世界記録が十数年も更新されていない)

 

―「今レースに連続して出ていますね。選手たちはロードレースを連続で走っていますね。彼らが常にいい状態で、それぞれのレースをいいコンディションで走れるために、どのようなトレーニングを組み立てているのですか?」

「いつでもレースは走れない。だから何をするかというと、レースの固まりを作るんだ。状態が良ければ、何週間も続けてレースに出られる。カレンダーを見て、選手権に出る必要がある時、まずはトライアルに出なければならない。トライアルに出場するには、その前に調整のためのレースに出て、選手権への出場資格を獲れるように準備する必要がある」

「ロードレースでも同じような感じだ。カレンダーを見て、メジャーなロードレースを選ぶ。メインのレースに出場する同じ選手たちがいる。1月にトレーニングを開始する。練習の中で調整をしてどんどんと調子を上げていく。そして、レースに出場して4~6レース走るんだ。レースはほぼ毎週あるから、その間トレーニングはできない。だとしたら、何をするか?」

「1月から3月にかけて、どんどんと状態を上げていったり維持すること、そして4月と5月のレースでもその状態で臨むこと。そして、ケニアに戻っていく。一度家に戻ると、一週間ほど休みを取り、家族に会い、楽しい時間を過ごす。トレーニングのリズムに彼らを戻し、ハードな距離走やインターバル走に戻していく。次のアメリカのレースは8月だから、冬にやって時のように、6月と7月はそのレースに向けてどんどん状態を上げていく」

 

―「週末に選手にレースの予定がある期間、選手たちに何をさせていますか?」

「一番大きなことで、何よりも大事なことは、選手たちがちゃんと回復をしているかどうかだ。次のレースが一週間以内にある場合、レース同様のトレーニングをすることはできない。回復するための程よいランニングをするのが一番いい。もし2週間ほど開いていれば、もう少しできるだろうし、もう一回スピード練習できるだろう」

「レースがどれだけハードかによっても変わってくる。選手のレベルが他の出場選手よりも高く、そのレースが比較的簡単なレースだったら、もう少しスピード系の練習を取り入れてもいいだろう。選手はそれで燃え尽きることはないから。回復も早いだろう。レースというより、トレーニングの一環だ」

「このやり方で、状態はどんどん良くなり、レースにピークを持ってくることができる。状態を上げていく目的で、連続でレースを入れてもいいと思う。しかし、多くの選手にとっては、連続のレースは一か八かだ。まずは回復しなければならない

 

―「基本的には週末のレースの間は、強度の高いポイント練習をさせないということですね。でも、食事を変えたりストレッチをしたりして、次のレースに備えるようにしますか?」

「食事は一緒だ。しかし、レース前よりレース後の方がマッサージは必要だ」

 

―「レースが詰まっているこの期間、これまで以上にマッサージをしてるんですか?」

「いいや、これまで以上ということはないよ。レース前に何事もやりすぎはよくない。常に少しの緊張は必要だ。リラックスしすぎると、いいレースはできない。自然に回復させるのが一番いい。だから、レース後はストレッチに焦点を当てる、ジャクジーに入ったり、マッサージもする。次のレースの2日前からは、選手を一人にさせ試合に集中させる」

“レースがありすぎる”という場合は回避するほうが得策だ。アイシングもたくさんする。身体の本質を騙してはだめだ。何をしようが、どんなに早く回復しようが、身体には限界というものがある。いい栄養と休養で身体を支えられるけど、早く回復させようとしてはいけない。回復には時間がかかるし、それを100%予想できるものでもない」

 

―「経験を積んでたくさんの選手たちと一緒に過ごしていると、多くのコーチが彼らなりの哲学というものを展開します。あなたはケニア人たちと同じようなアプローチが好きなようですが、今までそれを変えようと思ったことはありますか?」

「私が選手として走り始めたクラブには、たくさん成功した選手がいた。1950年代から1980年代にかけて、私のクラブ出身の選手は世界選手権やオリンピックでたくさんメダルを獲得していた。1960年代 (リディアード)と1950年代 (ザトペック)で彼らが何をどのようにしたかを学ぶ立ち位置に今いる」

「彼らは何を変えたのか。彼らは最初、インターバル走をやりすぎて、距離走を十分にやっていなかった。そして、強度の高い練習をないがしろにし、たくさん走りすぎてスピード練習を十分にしなくなった。その後コーチが選手に密接に関わるようになり、世界記録がどんどん良くなっていった」

「東アフリカの選手、または日本人選手が何をすればいいのか、少し極端だがいいアイディアを持っている。ウタと共にやってきたこと、今現在私がケニア人選手とやっていることは、それらのトレーニングに関係している。違ったトレーニングはそんなにしていない。ケニアの陸上競技と一緒だ。みんなイテンに行かなければならない」

「そこで金メダリストや世界記録保持者が何をしているか、自分の目で見ることができる。なぜ彼は勝ったのか?これは他のスポーツでもいえることだ。そして自分の結論を導き出す。いつ彼らはピークに持っていくのか?距離走も含め、さらに強度の高い練習をすることになる。これをできる才能に会えなければ、レースには勝てないだろう

 

原文:Coach Dieter Hogen dishes on the differences between Kenyans and Europeans, and more Duncan Larkin

http://www.runnersworld.com/rt-web-exclusive/hogens-heroes

 

〈 TOP 〉

広告

(過去記事) ディエター・ホーゲンその2 – ケニア人選手と欧米の選手とのギャップをなくしていく」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: (過去記事) ディエター・ホーゲンその1 – ドイツ人コーチによるケニアマジック – LetsRun.com Japan

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

w

%s と連携中