7月9日にイギリスのロンドンで、ミューラー・アニバーサリー・ゲーム (ダイヤモンドリーグロンドン大会)が開催された。
男子800m
ボツワナのナイジェル・アモスは2012年のロンドンオリンピックで銀メダルを獲得した時と同じロンドンの舞台で快勝した。ペーサーのソムが49.58で1周目を通過し、500mまで引っ張った。そこからは、先頭を走るアモスと、全米屋外選手権を制したドナヴァン・ブレイジャーと、ケニアのアスベル・キプロプの3人の争いとなった。
ブレイジャーは全米屋外選手権で優勝した時のように最終コーナーで良いポジションを確保していたが、最後までアモスをとらえる事が出来なかった。アモスが完全な復調を思わせる1:43.18のタイムで快勝し、ブレイジャーは1:43.95で2位、キプロプは1: 44.43で3位となった。
Embed from Getty Images
|
デイビッド・ルディシャ、あなたはまだ心配していますか?
男子800mは、ロンドン世界選手権では非常に混戦だろう。デイビッド・ルディシャは、世界最高の800mのランナーであり、世界選手権のディフェンディング・チャンピオンであるが、今年は不調である (しかし、火曜日のハンガリーのレースで1:44.90で優勝)。
一方、アモスは9日間で2度のダイヤモンドリーグで優勝した。彼は現在、彼の最近の3レースにすべて勝利し、1:45.74→1:44.24→1:43.18と調子を上げてきている。そして、オレゴン・トラック・クラブ (OTC)のヘッドコーチのマーク・ローランドのもとで、アモスはOTCに移籍してから初めてのシーズンで今、ピークに達している。
イギリス人選手の自己記録ラッシュ
5人のイギリス人選手がのうち4人が自己記録で走り、5人すべてがロンドン世界選手権の参加標準記録である1:45.90を突破した。エリオット・ジャイルズとガイ・リーマンスは先週のイギリス選手権でワンツーを決めたので、二人はこのレースでロンドン世界選手権への切符を手にした。
名前 | それまでの自己記録 | このレースのタイム |
エリオット・ジャイルズ | 1:45.54 | 1:44.99 |
ジェイク・ワイトマン | 1:45.82 | 1:45.42 |
カイル・ラングフォード | 1:45.78 | 1:45.45 |
ガイ・リーマンス | 1:46.65 | 1:45.77 |
男子1500m
Embed from Getty Imagesクリス・オヘアは好調を維持している
先週、イギリス選手権の1500mで優勝したクリス・オヘアは今週もロンドンで勝利し、イギリスで2週連続の勝利を収めた。レースはペーサーが57.49で400mを通過し、800mは1:55.24で通過。グライス、イングブリングセン、キベットとめまぐるしく順位が入れ替わる中、ラストの直線ではオヘアが外から抜け出しにかかり、最後の30mで抜け出し勝利した。
|
クリス・オヘアの隠し球
オヘアは近年、怪我の影響を抱えて(2015年にハムストリング、2016年に膝を故障)いたにもかかわらず、1500mで北京世界選手権とリオオリンピックでそれぞれ、あと一歩で決勝というところまで迫った。今年オヘアは絶好調で、最近の3レースでは勝利し、さらに今年は自身最高のタイムを2度記録(彼は5月のOxyで3:34.35、今日は3:34.75)し、素晴らしい結果を残した。
Embed from Getty Images確かなことは何もないが、オヘアがロンドン世界選手権の1500mで決勝に進む確率は高い。タルサ大学を卒業してすぐのモスクワ世界選手権を、初めて世界選手権にもかかわらず決勝進出を果たした。彼の調子はいいが、1ヶ月後には、世界のライバル達と戦うためさらに調子を上げていきたいのだろう。
「残り200m地点でもっといかないといけないと思った。自分に腹が立ち、ゴールまでまだ距離があることを願いながら力を振り絞った。これまでにないぐらい自分に力を感じた。とても追い込んだ。ラスト150mまでラストスパートをかけなかった。3:34のレースだったけど、あれだけの選手の中で自分が競り勝ったことは、大きな自信につながったよ」
男子3000m
モー・ファラーが地元ロンドンのファンの前で勝利
ファラーは同じイギリスのアンドリュー・ブッチャートとともにレースを盛り上げた。ブッチャートがラスト3周からのロングスパートに打って出たが、ラスト470mからファラーが先頭に立ち、ヨーロッパ3000m王者のスペインのアデル・ミチャールの追撃を抑えて、7:35.15の今季自己最高記録で完勝。ラスト1周は55.33。
Embed from Getty Images1000m – 2:32.65
2000m – 5:10.03 (2:37.38)
3000m – 7:35.15 (2:25.12)
3位には終盤ロングスパートをかけたブッチャートが入り、4位にはオーストラリアのパトリック・ティアナンが入った。ロンドン世界選手権男子5000mアメリカ代表の2人 -エリック・ジェンキンスとライアン・ヒル、男子10000m代表のハッサン・ミードは見せ場を作れずに惨敗した。
1 | Mohamed FARAH | ![]() |
7:35.15 | ||
2 | Adel MECHAAL | ![]() |
7:36.32 | ||
3 | Andrew BUTCHART | ![]() |
7:37.56 | ||
4 | Patrick TIERNAN | ![]() |
7:37.76 | ||
5 | Davis KIPLANGAT | ![]() |
7:38.33 | ||
6 | Frank NGELEL | ![]() |
7:38.50 | ||
7 | Hassan MEAD | ![]() |
7:38.51 | ||
8 | Andrew BAYER | ![]() |
7:38.90 | ||
9 | Eric JENKINS | ![]() |
7:40.36 | ||
10 | Sam MCENTEE | ![]() |
7:41.03 | ||
11 | Nick GOOLAB | ![]() |
7:42.22 | ||
12 | Marc SCOTT | ![]() |
7:43.37 | ||
13 | Ryan HILL | ![]() |
7:43.81 | ||
14 | Antonio ABADÍA | ![]() |
7:48.14 | ||
15 | Riley MASTERS | ![]() |
7:48.79 | ||
16 | Rob MULLETT | ![]() |
8:19.24 | ||
Reuben BETT | ![]() |
DNF | |||
Adam CLARKE | ![]() |
DNF |
ファラーがこのレースで、戦いを挑まれていると思っていたのなら、それは違うと証明しよう
「ファラーはレースが終わる前から勝利を確実にしていた」
と、ブッチャートはレース後のインタビューで答えている。ファラーは負けそうだったどころか、ブッチャートに対してレース中に指導していたという。ブッチャートのレース後のインタビューは、
「今日のレース結果はすごく嬉しい。スタジアムの雰囲気も最高だった。モーはレース中に指導してくれて何をすべきかアドバイスしてくれた。すごく良かったよ。イギリス選手権は自分にとっては楽なレースで、足の調子も良かった。今日はとても楽しめたよ。ロンドン世界選手権のリハーサルみたいな感じだった」
「この後、ロンドン世界選手権前の調整合宿でFont Romeu (フォン=ロムー)に行き、8月の決勝に残れるように頑張るよ。今日のレースでかなり自信はついた。ロンドン世界選手権ではいいレースが出来るという自信がついたよ」
Embed from Getty Imagesファラーに関して言えば、彼に関して何も悪い点は見当たらなかった。すごく良かったが、不満があるとすれば彼のレース後のインタビューだ。ファラーは、ファンをがっかりさせた。レースが終わった後、彼はモナコの1500mに出場しないことを明かした。
Embed from Getty Images「準備はうまくいっている。本来は(毎年そうしている)モナコDLの1500mに出て調整し、世界選手権の流れだったが、今日がロンドン世界選手権前の最後のレースだ。明日、Font Romeu (フォン=ロムー:標高1850mのピレネー山脈:フランスとスペインの間にある合宿地)に行く。このスタジアムは僕のホームだ。僕の人生が変わり、有名にしてくれた場所。ここの人々のおかげだ」
Embed from Getty Imagesモナコ出場をとりやめて、トレーニングをするというのは理にかなてっいると思う。ファラーは10000mでケニアのジョフリー・カムウォロルから一番マークされる対象になるからだ。5000mのケニア勢は今回とても弱く、ファラーは素晴らしいラストスパートがあるので、5000mでファラーが負けることはないだろう。(10000mですでにファラーが負けていなければ)
パトリック・ティアナンは輝き続ける
Embed from Getty Imagesオーストラリアの22歳のパトリック・ティアナンは、昨年11月に全米大学クロスカントリー選手権個人総合でオレゴン大学のエドワード・チェセレクを下して優勝して以来、8ヶ月もの間、高いレベルでレースを続けており、その度に改善を続けている。 3月の世界クロカンでは(非アフリカ系のランナーで1番目となる)13位になり、2017年の5つのトラックレースでは、全て自己記録を更新して走っている。
(※パトリック・ティアナンの今季5つのトラックレース。全て自己新。日本記録に近い。)
5月5日 | ペイトンジョーダン招待 | 10,000m | アメリカ – パロアルト | E | F | 1位 | 27:29.81 | 1179 | |
5月27日 | プレフォンティンクラシック | 5000m | アメリカ – ユージーン | ダイヤモンドリーグ | F | 11位 | 13:13.44 | 1161 | |
6月10日 | レイサーズグランプリ | 3000m | ジャマイカ – キンストン | C | F | 2位 | 7:41.62 | 1166 | |
7月1日 | パリミーティング | 3000m | フランス – パリ | ダイヤモンドリーグ | F | 7位 | 7:39.28 | 1181 | |
7月9日 | ミューラーアニバーサリーゲーム | 3000m | イギリス – ロンドン | ダイヤモンドリーグ | F | 4位 | 7:37.76 | 1190 |
女子800m
Embed from Getty Images非ダイヤモンドレースである女子800mでは、アメリカのチャリーン・リプシーがローザンヌDLに続いての連勝を飾った。
|
女子1マイル
ヘレン・オビリが4:16.56の大会記録&ケニア記録でローラ・ミューアを破った
このレースはローラ・ミューアが1マイルのイギリス記録(ゾラ・バッドの4:17.57)を破ることを見るためのレースであった。800mを2:07.27で通過し、ミューアはイギリス記録に向かって良いペースを維持していた。
ラスト1周を63.7で回ればイギリス新記録という状況の中、記録にチャレンジするミューアの背中をオビリが追い続ける。イギリスの選手=ミューアを応援する大声援の中、オビリはラスト100mでミューアを引き離し、大会記録にしてケニア記録の4:16.56で優勝を果たした。
Embed from Getty Images1 | Hellen Onsando OBIRI | ![]() |
4:16.56 | 8 | ||
2 | Laura MUIR | ![]() |
4:18.03 | 7 | ||
3 | Winny CHEBET | ![]() |
4:19.55 | 6 | ||
4 | Angelika CICHOCKA | ![]() |
4:19.58 | 5 | ||
5 | Jennifer SIMPSON | ![]() |
4:19.98 | 4 | ||
6 | Laura WEIGHTMAN | ![]() |
4:20.88 | 3 | ||
7 | Ciara MAGEEAN | ![]() |
4:22.40 | 2 | ||
8 | Melissa COURTNEY | ![]() |
4:23.15 | 1 | ||
9 | Linden HALL | ![]() |
4:23.96 | |||
10 | Kate GRACE | ![]() |
4:24.01 | |||
11 | Stephanie GARCIA | ![]() |
4:24.68 | |||
12 | Stephanie TWELL | ![]() |
4:25.39 | |||
13 | Katie SNOWDEN | ![]() |
4:25.89 | |||
14 | Jessica JUDD | ![]() |
4:28.59 | |||
15 | Axumawit EMBAYE | ![]() |
4:35.54 |
ヘレン・オビリはロンドン世界選手権の5000mに向けて視界良好
私たちは、オビリが今日のレースでミューアに唯一挑戦出来る選手と予想していたがそれは正しかった。オビリの走りは素晴らしかった。オビリの強さとスピードの組み合わせ(5000m:14:18)は彼女を圧倒的な王者へと導き、ミューアはロンドン世界選手権で2種目(1500m / 5000m)への出場を予定しているが、ミューアは5000mではオビリに付け込むこともなさそうである。
5000mでオビリの快進撃を止めるチャンスを持つのはエチオピアのアルマズ・アヤナ (女子10000mリオオリンピック金&世界記録保持者)だが、アヤナの故障が長引き、アヤナは今年のレースに1度も出場していない。
アヤナの代理人であるグローバル・スポーツのヨス・ヘルメンスは、アヤナのモナコDLへの出場を我々に教えてくれたが、彼女はオビリに勝つためには得策を打つしか無い。忘れることなかれ、オビリはリオオリンピックの5000m決勝でアヤナに勝っている(オビリは銀メダル)のだ。
ローラ・ミューアの頑張りに敬意を表す
ミューアは積極的にレースを進めたが、今日は1マイルのイギリス記録をわずかに下回ってしまった (0.46秒ほど)。ミューアは1周目を少し速く走ったが(下のラップを参照)良いポジションにいた。彼女は、最後の100mでオビリに引き離されてしまったが、今日の彼女の走りを見る限り、ミューアはロンドン世界選手権のメダル候補だろう。
「今日は自己記録を出せたので良かったです」
とミューアは語った。
「とても嬉しいです。本当に頑張りました。トレーニングもうまくいっていて、足にも何も違和感などはなかったです。今日も調子が良くて、ロンドン世界選手権まで持ってくれればいいなと思います」
Embed from Getty Images「ヘレンの調子がすごく良いのは知っていました。彼女の走りの様子もわかっていたけど、ここで勝って記録を狙おうと思いました。ロンドン世界選手権までまだ1か月ありますが、今日の結果で自信がつきました。もっと調子を上げて、速く走れるようになって、またロンドンに戻ってきます」
1つの疑問としては、ミューアがリオオリンピックで金メダルを狙ったように、今回のロンドン世界選手権で再び金メダルを狙って走るのか、それともメダルのために走るのか、ということだ。私達は、彼女が地の利を活かす=ロンドンでの金メダルを獲る事を期待しているが、女子1500mは混戦模様であるために、イチかバチかの作戦はリスクが伴う – ミューアもその事を良く理解しているように。
ミューアのラップタイム:64.1(409m)- 65.0 – 64.7 – 64.2=4:18.03
レッツラン記事