(過去記事)世界トップの3000mSCの選手はハードリングの練習をどのぐらいするのか?後編 – 完璧なハードリングとは、どのようなものか

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前編はコチラから

完璧なハードリングを生み出す

3000mSCにおける“障害物”とは、定義として“妨害をする物”である。選手のスピードを下げることを目的にトラックに設置されており、選手の目標は単純明快である。そこに障害があっても、できるだけスピードと維持すること。

ブリガム・ヤング大学 (BYU)の運動科学の教授であり、USATFの長距離の生物学分析の分野で活躍しているスポーツ科学者のイアン・ハンターは2つの地点で、それぞれ1m区切って、1つは障害から3~2m前地点(アプローチ速度)、2つ目は障害から2~3m後の地点(着地速度)で、それぞれ速度を計測した。

着地速度がアプローチ速度に近ければ近いほど、ハードリング効率は良いと言える。何年にも及ぶ研究で、ハンターと同僚の研究者であるジェームス・トレイシーは“理想的な”3000mSCの選手にとっての秘訣のリストに辿り着いた。そして、選手に共有するためにUSATFのポスターにそれらを掲げた。そのポスターはコチラ (必見!)で見ることができるが、その要点は以下である。

●速い速度でアプローチする

ハンターが指摘しているように、選手が障害を跳び越える時、身体は水平速度を垂直速度に変換している。跳ぶ瞬間に水平速度がたくさんあればあるほど、垂直速度に変換するのがより簡単になり、障害を跳び越えやすくなる。もちろん、エネルギーをうまく処理することも必要である。

それぞれの障害を全力疾走することにより、ハードリングはより容易になるが、それでは早い段階で体力が消耗してしまうだろう。つまり、走力がある速い選手はハードリングに関して最初からアドバンテージがあるということだ。速い選手は跳ぶ瞬間、すでに最適な速度で走っているからだ。

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●ジャンプの高さを最小限にする

垂直速度は水平速度の損失によって相殺されるので、選手が高く跳べば跳ぶほど、その速度は遅くなってしまう。目標とするのが、水平速度の損失を最小限にすることなのであれば、選手は障害を安全に跳び越えられるだけの高さで跳ぶべきである。

その時、膝を前に伸ばすこと、そして後ろ足の柔軟性も重要である(ハンターは、膝の伸張は150度か、それ以上あるべきだと述べている)。選手の利き足が、前に向かって真っ直ぐになるほど、後ろ足はより柔軟になり、高く跳ばなくてすむようになる。障害を跳び越えるのに十分で、かつちょうどいい高さを見つけるのは、難しい。

危険なぐらい、障害から近すぎてもいけない。ただ、それは練習によって改善されることである。

●障害物からあまりにも近い位置から跳ばないこと

障害を跳ぶ瞬間に、障害の近くにいればいるほど、障害を越える高さになるまでの時間も少なくなり、より多くの垂直速度が必要となる。理想的な、踏切の位置は選手によって違ってくるが

「8分23秒ペースで走る男子選手の場合、障害から1.95m手前がベストな踏切地点であり、9分30秒ペースの女子選手ならば1.65m手前がいいだろう」

とハンターは勧めている。

●できるだけ障害物から近い位置で着地すること

ハンターによると

「障害から近い位置で着地することで、着地後の重心をしっかりと保つことができ、ブレーキを最小限に収めることができる。それにより、着地後にすぐに前進するアクセルをかけることができるのである。これにも理想的な距離があるが、誰もまだ近い位置で着地できていないように思える」

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水濠は、話がちょっと違ってくるが、上記の同じことが当てはめられるだろう。速いスピードで入り、高く跳びすぎない。水濠をハードリングすることと、足をかけハードルを蹴ることに関しては、ハードリングの方がより多くのエネルギーを必要とし、リスクもかなり多いと、ハンターは説明する。

選手は (普通の障害とは違って)跳ぶ瞬間にどこに着地するのか分からないし、足をかけて跳ぶ時より足にかかる負担が大きい。しかし、速いスピードのポテンシャルを引き出すことができる。

「例えば、ハードリングが上手くて速いスピードで走れれば、ラスト1周で60秒を切るペースで走れて、さらに障害も上手くこなせるとなると、ハードリングは考慮するに値することなのだ」

しかし、水濠においてもハードリングすることを考えるならば、実際のレースでそれを実行する前に必ず、そのトレーニングを練習の中でしなければいけないと、ハンターは付け加えた。ハンターのデータによると、アメリカで一番の3000mSCの選手であるエヴァン・ジェイガーエマ・コバーンは、もっとも効率的に跳ぶ選手である。

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「他の選手を見ると、障害を越える際に10%ほどスピードが減速している。ハードリングの際に5~15%の減速することは普通のことだ。エマとジェイガーは障害を越える際に減速していない。水濠では5~20%の減速が一般的だ。エマとジェイガーは5%、あるいはそれ以下の減速に抑えられている」

ジェイガーとコバーンのフォームは教科書に載っているような跳び方に近い。しかし、ハードリングの目標は、できるだけスピードを維持することだ。トップのケニア人選手のハードルのフォームはアメリカ人選手と比べると上手ではない。後ろ足が障害を越える際にバタついているが、それは決して効率的な跳び方ではない。

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「ここで述べるのは、あくまで一般論であるが、私が戦ってきた大多数のケニア人選手は、西洋の選手とは全く違う跳び方をしているのにも関わらず、良い成績で走っている。それが非効率であっても、スピードを失わないのであれば、どんな方法でも障害は跳び越えられる」

と、ドン・キャブラルは話した。

ケニア人は、その独特のハードリングのフォームのおかげで、ある程度の効率性は失っているものの、失った部分を他の部分で補える。それゆえ、彼らは速く、跳ぶ瞬間の速度は、どんな技術的欠陥をも補えることができる。

ハンターはこう話す。

「レースペースがすごく速い場合、技術の重要性というのは少なくなる。そういうところがケニア人選手は上手いんだ」

ジェイガーのハードリングのコーチであるバウワーマン・トラック・クラブ (BTC)フィジカルコーチパスカル・ドバートも続けてこう言った。

「彼らは (3000mSCでなくても)いつでも素晴らしい走力を持っている。もしアメリカ人選手がハードリングした時に、技術的にケニア人と同じぐらいハードルが上手くないのであれば、良い3000mSCの選手にはならないだろう。しかし、ケニア人は障害を跳ぶことに関して、非ケニア人やアメリカ人選手と比べると、エネルギー消費がすごく少ない」

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「彼らのレースを見ると、障害を跳ぶ時に加速したり止まったりすることが基本的にはない。彼らはかなり流動的だ。障害を跳ぶ時、足の使い方は下手だが、走りのリズムを崩すことはない。ケニア人にはバネがある。彼らはエネルギーを使うことなく障害をピョンと跳ぶことができる。それが、足首の柔軟性や筋力の賜物なのか分からないが、アメリカ人やヨーロッパ人選手と比べると、素早く、少ないエネルギーで跳ぶことができるのだ」

 

ほんの少しのアドバンテージ

アメリカ人選手はどれだけハードリングの練習をすればいいのだろうか。それは、人それぞれである。ハードリングは3000mSCという競技においては一つの側面にすぎない。良い選手は障害の間を速いスピードで走らなければならないし、7.5周の間にある28個の障害と7回の水濠を上手に対応しなければならない。

エヴァン・ジェイガーは23歳の時にこの種目に初めて挑戦し、すぐに頭角を現した。障害のテクニックの向上というよりは、心地よくリラックスして走れるようになることで、成長できたと信じている。しかし、より良い3000mSCの選手になる方法は簡単である。より良いランナーになることである。

「良い3000mSCの選手になるということは、良いランナーになるということよ」

コバーンもそう語っている。彼女は高校時代に3000mSCを始めて以来、彼女の上達の秘訣の90%は身体の状態が良かったこと、8%はレース戦略、残り2%がいいフォームで走ること、だと信じている。

この競技を始めたばかりの時のコバーンは、コンセスラス・キプルトの状態と、とても似ている。高校時代に初めて3000mSCをやる前に、彼女はたった一回しか障害の練習をしなかったという。

レース前に、地元のトラックで一周だけ練習をしたらしい。それ以降、彼女は3000mSCが得意種目になった。今となってはコバーンはいいハードリングのフォームを身につけたが、彼女はそもそもハードリングのフォームに執着していたわけではない。

彼女は、自分の技術を改善するためにレース映像を見直したりはしない。もしコバーンがこの夏のロンドン世界選手権で、表彰台に上り金メダルを獲得すれば、彼女はどうやってそれを成し遂げたかを彼女自身は知っているだろう。

「どうやってルース・ジェベットとの差を埋めるか考えるの。それはただ、身体の調子だと思う。私のハードリングのフォームをもっと上手くするとかではなく。私のハードリングのフォームはB+ぐらいだと思う。でも、それをA+にしようなんて思わないわ。それなら、もっと身体の調子や適性を上げるために、死ぬほど練習するわ」

 

キャブラルは、大学卒業後の彼の身体の調子が、一番大きな役割を果たしていると考えている。

「2012年から2015年の間に、タイムを8分19秒から8分13秒まで縮めた。それは100%、僕の身体がこの競技に合った適正を手に入れたからだと思っている。それは可能なことだよ。8分13秒のレースを見れば、その違いは簡単に比較できると思うよ」

キャブラルは技術を磨くために今でもトレーニングをしている。

今年の初めに、キャブラルはアメリカのサンディエゴで開かれた、USATFスポーツパフォーマンスクリニックに参加し、ハンターと共にビデオを見ながら研究をした。ビデオを見ると、彼は障害から近すぎる位置で踏み切っており、この部分を今シーズンに改善しようと試みている。ジェイガーとコバーンが模範となる技術を持っているが、彼らはさらに研究を進めている。

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陸上競技では、全ての動きが大事になる。ブリミン・キプルトは、最高の3000mSCの選手だ。彼はオリンピックで金メダルを1つ獲得し、世界選手権でも1つの金メダル、そして主要の世界大会でも4つのメダルを獲得している。そして、彼は7分53秒64という世界歴代2位の記録を持っている。世界記録は7分53秒63である。

ジェイガーは最後にこう話した。

「みんな僕のハードリングについていつも聞いてくるし、ハードリングは大事なトレーニングの一部だけど(非アフリカ人が)最終的に同じところに行きつくのは面白いね。でも、ブリミンは障害の練習は決してしないけど金メダルを獲得した。しかも、世界記録に迫る記録で。コンセスラス・キプルトは障害の練習はするけど、いいフォームとは言えない。でも金メダルを獲っている」

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「僕の方が明らかにハードリングの技術は高くて、いつもそれを磨く為に練習をしているけど、リオオリンピックで獲ったのは銀メダルだ。自分がやりやすい方法であれば、違った方法で練習できるし、レースでもそうだ。レースでメンタルに影響したりはしない」

「いいフォームでハードリングをする方がいいと思うけど、それはそんなに大事じゃないかもしれないね。でも、そんなこと誰にも分からないよ。ブリミンは恐らく、障害を跳ぶことについて天性の才能があるんだと思う。障害を心配する必要もない。最初に跳んだときに、“跳べた!最初で跳べたのなら、練習は必要ないだろう!” みたいな感じだったんだと思う」

「…でも、彼がハードリングの練習をすれば、きっと彼は世界記録保持者になれるよ」

 

レッツラン記事

http://www.letsrun.com/news/2017/05/much-worlds-top-steeplechasers-practice-hurdle-form-2008-olympic-champ-brimin-kipruto-answer-never/

 

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